文明監視員・ウルトラマンナイスのナ、ナ、ナ、ナイスな奮闘記   作:Sashimi4lyfe

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とある女子高生の日常

ここはT地区中央病院。

 

B病棟の一室で、宮田優香は目を覚ました。

 

口には呼吸器がはめられており、両腕に無数の点滴の針が刺さっている。

 

頭がまだぼーっとした感覚に包まれており、体もうまく動かせなかった。

 

ふと横を見ると、看護婦が何か機械で作業をしている。口だけならうまく動かせるだろうと思った優香は、震える声で看護婦に挨拶をした。

 

「お…お疲れ様です…」

 

看護婦の体がピタリと止まり、ゆっくりと優香の方を振り向く。彼女と優香の目が合った瞬間、叫びながら彼女は病室を出ていった。

 

「田中先生!!田中先生!!宮田さんが!!!」

 

とろんとした目つきで優香はその様子を見ながら、いったい何が起こっているのかと混乱していた。まもなくして、白衣姿の男が急ぎ足で優香の病室に入ってきた。この人が優香の担当医らしい。眉間にしわを寄せながらその医者は優香の目を親指と人差し指で軽く開き、小型のライトで照らし、瞳孔の収縮を確認する。

 

「宮田さん、私が分かりますか?」

 

見た目と反した落ち着いた声で彼は優香に問いかける。

 

「はい…」

「何ということだ…信じられん。宮田さん、体は動かせますか?」

 

優香は両手に力を込め、何とか持ち上げようとした。彼女はゆっくりと両手を持ち上げ、両手を閉じて開ける動作を何度か繰り返えすことができた。

 

「ありがとうございます。今度は足を少し動かしてもらえませんか?」

 

優香は足に力を込めると、わずかだが両足を左右に振ることができた。

 

「ほぼ神経に異常もなさそうだ…これは奇跡としか言いようがない。目黒さん、宮田さんのご親族に連絡を。」

 

看護婦が軽くうなずくと、急ぎ足で病室から出ていった。優香の家族に連絡を入れるのだろう。

 

「宮田さん、いいですか。落ち着いて聞いてください。あなたは三日前にこの病院に運び込まれたんです…」

 

田中という医者は淡々とこれまでの出来事を優香に話し始めた。優香はあの神獣が現れた際にある少年を助けるために重傷を負い、この病院に運び込まれたという。医師たちの必死の治療のおかげでなんとか一命を取り止めたが植物状態に陥り、回復のめどがほぼない状態にあったという。

 

さっきその事実を優香の家族に説明し、そのショックのあまり優香の母は泣き崩れ、今は別の看護婦が付き添っているのだという。

 

優香は医者の言葉をただ聞くだけしかできなかった。彼女には少年をかばった直後の記憶がほぼなかったのだ。思い出せることと言えば…そう、何か温かいものが体を満たしていく感覚ぐらいだった。

 

薄れ行く意識の中、優香は自分の中に違う誰かが入ってくるのをなぜか覚えていた。他の記憶は曖昧なのに、そのことだけは鮮明に記憶しているのだ。

 

(きっと走馬灯的なアレなんじゃないかな…死を目前にすると人って不思議な体験をするって言うし…)

 

そう適当にあしらい、優香は医者の話に再び耳を傾けた。

 

「…ですから、あなたがこうやって私と会話していることだけでも、すごいことなんですよ!」

「は、はぁ…」

「…なんだか微妙なリアクションですね…まぁいいでしょう。もうすぐご親族の方が来られると思うので、機密検査はその後にしましょう。」

「機密検査…ですか?」

「意識が戻ったとはいえ、あなたの体はついさっきまで植物状態にあった。何か異常がないかどうか、しっかり検査しないといけません。」

「ふ、ふぇぇ…血液検査とかですか…?」

「そのほかにもMRI検査とNBI検査も行わなくてはいけません。大丈夫。これで異常がなければ体の機能が回復し次第退院できますよ。それでは、私はこれで。」

 

そう言い残すと彼は病室から去っていった。優香は医者の言葉を頭の中で整理しながら天井をぼーっと見つめた。

 

そして、病室のドアが勢いよく開いたかと思うと、優香の母、藍羽と妹の友恵が優香のもとに走り寄ってくる。

 

「優香!!」

「お姉ちゃん!!」

 

二人は布団の上から優香に抱き着くと、安堵の涙を流した。

 

「母さん…友恵…心配かけちゃってごめんね…」

 

優香には父親がいなかった。いや、今はいない、と言ったほうが正しいだろう。優香の父親、純一は妹の友恵が生まれる前に失踪してしまったのだ。彼の行方については、優香は何も知らなかった。しかし、彼女は頑なに父はまだ生きており、必ず帰ってくると信じている。

 

それまで私が友恵を守らなければいけない。優香はそう心に決め、これまで生きてきたのだ。

 

今も彼女は涙をこらえ、ただ二人を見つめながら微笑んでいるだけだった。

 

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精密検査の結果、体に異常はないとみなされ、一週間後には優香は晴れて退院し、前のように学校に行くことができた。

 

彼女が通うのはT地区みのり高等学校。名門といわれるほどでもないが、決して格下の高校でもない。並より少し上、といったところである。優香はこの高校の二年生だった。今日も彼女のいつもと変わらない学校での一日が始まろうとしていた。

 

最寄りの駅で電車に乗り、T地区の都心の駅で別の電車に乗り継いでから、みのり町の駅で降りる。通いなれた通学路である。

 

ヤプロイドが破壊した町は、政府の復興プロジェクトによってほぼ元通りになっていた。HTDFの支援を受けたプロジェクトのため、復興のスピードがすさまじく速いのだ、と優香は社会の授業で習った。

 

しかし、街並みは元通りになっても、人々はどことなく暗い表情で街を行き来しているようだった。それもそのはず、昨今この周辺は地球外生命体や異星人たちの襲来が絶えないのだ。しかし、それは日本のT地区に限ったことではなかった。世界各地で同じように古代生物や異星人たちによる災害が勃発し始めてきている。

 

ウルトラマンナイスがこれらの脅威を退けてくれるとはいえ、侵略の爪痕は街から消え去ることはないのだった。

 

(なんで今になってこんなに酷いことが起こり始めているんだろう…私がまだ小っちゃかった頃は平和だったのに…)

 

学校に向かって歩きながら優香は思った。

 

これからこの周辺はどうなってしまうのか、またあのような化け物が襲ってくるのだろうか…そんなことを考えていると、いつの間にか優香は校門の近くまで来ていた。

 

優香のクラスは二年D組。校舎の階段を上がって、右から4つ目の教室だ。ドアを開けるなり、優香はクラスメイトたちに大きく挨拶をした。

 

「おはようございます!」

「あっ、優香ちゃん、おっはよー。もう退院なんだ。」

 

クラスの窓側に座っている女子が優香に尋ねる。その子の周りには他の女子生徒が二人集まり、談笑していたようだった。

 

「はい!おかげさまで。」

 

優香は家族以外の人と敬語で話す癖がある。たとえどんなに仲がいい親友とでもだ。

 

「ねぇねぇ、一時は生死の境を彷徨ってたってマジ?」

「そう…みたいですね。でも、今はこの通り!元気百倍です!」

「あはっ、まるでアンパンマンじゃん。」

 

優香の席はその女子たちがたむろしている席のすぐ横にある。優香は席に着くと、カバンを下ろし、一限目の準備を始めた。ノートと参考書を机の上に出し、前に配られたプリントに目を通す。

 

「あっ、そういえばさ。大西先生の宿題、やってきた?」

「げぇっ、そんなのあったっけ?」

「嘘ぉ~!アンタの写そうと思ってたのに!」

「そういえばあったような…ねぇ優香ちゃん、大西先生の宿題…やってきてたり…する?」

「あっ、はい。MINEで担任の前田先生から知らされてたので…」

 

MINEとは誰もが利用するメッセージアプリのことである。大西先生が教えている教科は歴史。今日の一限目の科目である。

 

「ラッキー!!さすが優香ちゃん、真面目ぇ~!ねぇ、その…悪いけど写させてくんないかな?」

「う、うぅ…しょうがありませんね….」

「やったー!!優香ちゃん最高!サンキューね!」

 

そう言うなりその女子は優香のノートをひょいと拝借し、宿題のページを写し始めた。他の二人もノートを自分たちの机から出し、急いで写し始める。

 

間もなくして一限目のベルが鳴り、時間ギリギリまで宿題を写し終わると、三人はノートをぶっきらぼうに優香に返した。

 

「はい!ありがとね~!」

「どう…いたしまして…」

 

そして大西先生が教室に入り、一限目が始まったのだった。

 

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六限目の授業が終わり、優香のクラスメイトが部活動の準備を始める中、優香はせかせかと参考書やノートをカバンにしまい、都内の予備校へと急ぐのだった。

 

優香の通う予備校はビデオ授業がメインとなっており、好きな時間に予備校に通い、そこに設置されてあるモニターから自分の好きなペースで授業映像を視聴し、勉強できるというものであった。

 

約一時間ほど予備校で勉強したら、今度は急いで帰宅し、妹の友恵の世話をしなければならない。藍羽は仕事で8時半ごろまで帰ってこないので、代わりに優香が夕飯の支度や明日の弁当作りをしなければならないのだ。

 

他の基本的な家事は家に搭載されている清潔度管理システムでなんとかなっているが、料理などの人間がやらなければいけない家事は基本的に全部優香が受け持っていた。

 

一通り家事を終えると今度は学校の宿題と戦わなくてはならない。高校生の勉強は学校が終わってから始まる、と言っても過言ではないのである。

 

そしてやっと一日が終わり、やっと一息つける時間がやってくる。優香にとっての至高の時間である。

 

優香はスマホを開き、小説投稿サイトにアクセスすると、お気に入りの二次創作の小説の新作が投稿されていないか確認する。彼女が特に好きなのは大人気のアニメ、「進撃の亜人」の同人小説だ。といっても、彼女が求めているのはボーイズラブ、いわゆるBLジャンルの同人作品なのだが…

 

「あっ、更新されてる!あの後二人はどうなっちゃうんだろう…」

 

早速更新された作品を見つけ、ものすごいスピードで読み進めていく。自分の好みのシチュエーションが書かれていたのか、顔を赤らめながら優香は絶句する。

 

「くぅ~…!!尊すぎるぅ~…!!」

 

挙句の果てに顔を机にうずめ、机をどんどんと叩く始末。しかしその時、

 

ドンッ!!

 

鈍い音が優香の部屋に鳴り響いた。よく見ると優香が叩いていた机の箇所がへこんでいる。木製の頑丈な勉強机に、優香の手の形がくっきりと押し付けられていた。

 

「え、えぇっ?」

 

机を叩いていた手を見てみると別にけがはなかった。

 

「まさか…これを…私が…?」

 

部屋の外からはすたすたと誰かが部屋に歩み寄ってくる足音が聞こえる。恐らく藍羽が突然の物音に気付き、優香の安否を確認しに来たのだろう。

 

「優香!大丈夫!?開けるわよ!」

 

(や、やばい!隠さないと…)

 

優香は慌ててスマホの画面を閉じ、ノートで机のへこみを隠すと、勉強しているふりをした。

 

ガチャリとドアが開き、藍羽が部屋を見渡すと参考書を読んでいる優香の姿があった。

 

「ゆ、優香?」

「なぁに?お母さん。」

「今なんか大きな音がしたような気がしたんだけど…気のせいかしら。」

「そ、そうじゃない?きっとそうよ!」

「そう…じゃあいいわ。あなた病み上がりなんだから、無理しちゃだめよ。そろそろ寝なさい。」

「う、うん。お休み、お母さん。」

「お休み。」

 

藍羽はそういうと優香の部屋を後にした。ドアが半開きのままだったため、優香はしぶしぶ席を立ってドアを閉めた。

 

「それにしても…」

 

優香はノートをどかし、机のへこみを見ながら思った。

 

「私が眠っている間に…何かあったのかな…?実は私、魔法少女になっちゃってたりして!…んなわけないか。もう寝よう。」

 

一日の疲れから、優香にはさっき起こったことについて考える余裕はなかった。優香は部屋の電気を消すとベッドに寝ころび、スマホのアラームをセットすると布団を胸までかぶり、すやすやと眠りにつくのだった。

 




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