文明監視員・ウルトラマンナイスのナ、ナ、ナ、ナイスな奮闘記 作:Sashimi4lyfe
「しっかり、気をしっかり!」
HTDFの人命救助隊員、米田誠司はシェルター付近で倒れた男の人命救助に当たっていた。
HTDFとはHumanity’s Terrestrial Defence Force(人類による地球防衛軍)の略称で、異星人や地球外生命体から地球を守ってきた軍事組織である。
周りには他にも爆撃の巻き添えを食らった人たちがいたが、ほとんど皆即死だった。彼だけがかろうじて虫の息でもまだ生きていたのである。
「頼む、生き返ってくれ!あの子には父親が必要なんだ!」
誠司はその男の勇気ある行動をその目ではっきりと見ていた。娘をかばって重傷を負った父親を彼は放ってはおけなかった。
両手を倒れた男の胸に当てがり、強くリズミカルに押し込む。それでも男はぴくりとも動かない。
今度は男の鼻をつまみ、口移し人口呼吸法を試みる。粋を口に吹き込んだ次の瞬間だった。
「ん…んんん!!!?????」
男がいきなりじたばたと動き出し、誠司を突き放した。
「げっ、おえぇ…何してんだアンタ!?」
急な出来事に誠司はぽかんとしてしまった。
(さっきまでこの人瀕死状態だったよな…?)
「それよりすいちゃんは…娘はどこに!?」
「あ、あぁ、娘さんなら、我々がシェルターに…」
「そうだ、シェルターだ!あそこに早くいかないと…」
そういったかと思うと男はむくりと起き上がり、シェルターに向かって走っていった。
「まだケガをしてるんですから安静に…」
そう言う間も与えないまま彼は一目散に走っていった。
「なんだったんだ、あれは…」
その男こそ、この物語の主人公、夢星輝である。
なぜ自分が目を覚ませたのか輝ははっきりと覚えていなかったが、まずはシェルターに向かい彗星と合流することだけを考えていた。
近道をしようと裏路地に入ったその時だった。左胸のポケット辺りがうずき始める。
「ぐっ…なんなんだ今度は?」
思わずポケットを探ると、いつもポケットに入れているサインペンがあった。妻の月子が誕生日に買ってくれた、貴重な鉱石のビクトリウムが使われている彼のお気に入りのペンである。
「あれ、色が…」
ビクトリウム特有の綺麗な透き通るような青色のペンがいつの間にか赤とシルバーのカラーリングになっている。
「なんでだろう…このキャップを引き抜かなきゃいけない気がする…」
謎の使命感に駆られ、輝はキャップを勢いよく引き抜く。するとペンの先端から目がくらむようなまばゆい光が発せられた。
「うわぁぁぁ!!!!!」
光は輝を包んでいく。彼の意識が内なる誰か別の意識と入れ替わっていくのを感じた。意識が遠くなっていき、目の前が真っ白になっていく―
『ウルトラマン、ナーイスッ!!!!』
輝の体がナイスの体へと変化していき、ビルの合間から腕のN字に広げながらウルトラマンの姿になって現れる。
「待たせたな、悪党ども!このウルトラマンナイスが成敗してくれる!」
宇宙戦艦たちはナイスの存在に気づき、すぐさま集中攻撃を仕掛けた。
「させるか!」
エネルギーを両手に集中させ、バリアを展開させる。ウルトラマンタロウのストリウム光線を耐えれるほど磨きをかけた彼のバリアは、敵艦隊の集中砲撃をもろともしなかった。
敵の砲撃がいったん収まり、一瞬の隙ができた時だった。ナイスは腕をN字に広げ、光エネルギーを両手に集める。
急激に集まった光の粒子が虹色に輝き、一度ピカリと瞬いた時だった。
「ベリーナイス光線!!!」
腕をクロスさせ、くいっと頭を傾げると渾身の光線技が腕から発射される。
一隻、また一隻と次々と宇宙戦艦が撃ち堕とされていく。
反撃の間も与えず、宇宙船艦隊は壊滅していった。さすがにエネルギーの消耗が激しいのか、ナイスのカラータイマーが点滅を始める。
それでもナイスは光線を撃つ手を緩めなかった。もう誰も死なせはしない、そのためにも一隻残らず敵を倒す。その想いのままに彼は敵を撃墜していく。
「ヌァァァッ!!!!!!」
しかしさすがに限界が来たのか、光線は徐々に途切れていき、最後にはよろりとナイスが膝をついてしまった。
だがもうダメージは十分すぎるほどに入っていた。彼が光線を放つ手を緩めた次の瞬間、すさまじい爆音とともに敵艦隊が爆散した。
その爆風波は凄まじく、空を覆っていた黒雲を吹き飛ばしてしまうほどだった。
沈もうとしている太陽がまぶしく街を照らし、彼の勝利を称えているようだった。
ふとナイスが下を見ると、シェルターから避難していた人たちが出てきて彼の姿を見上げている。
彼らは未知の存在に戸惑っているようだった。それも無理はない。この宇宙にウルトラマンは存在しないのだから。
無人戦闘機が彼の周りを旋回し、陸上戦車が彼の方向に巨砲を向ける。
彼はあくまでこの地球では「未確認生命体」なのだ。
不気味なエンジン音とキャタピラ音がとどろく街の中、一人の子供の声がナイスの耳に届く。
「ありがとう!」
それに続き、何人もの子供たちが彼に感謝の念を伝える。
彼らとともにナイスに感謝を伝える大人もいれば、やめなさいと止める大人もいた。
しかし、そんなことはナイスにはどうでもよかった。
彼らがまだ生きて、そこにいてくれるだけで彼は満足だった。
子供たちの声援の中、ナイスは人々に親指ポーズをして見せると、光と化して消えていった。
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輝が目を開けると、そこはベッドの上だった。
右腕に違和感を感じ、ふと腕を見ると点滴の針が刺さっている。
その横には、妻の月子が娘の彗星と一緒にテレビを見ていた。
「月子…」
乾いた口を動かしながら妻の名前を呼ぶ。
「あ、あっくん!やっと目を覚ましてくれた!ほらすいちゃん、あっくんが起きたよ!」
「おはよう、あっくん!あっくんずーっと寝てたんだよ!」
「おいおい、病院であっくん呼びはよしてくれよ…ってなんで僕ここに寝てんだ?」
彼にはあのペンのキャップを抜いた後の記憶が一切なかった。自分がウルトラマンと同化していることも。
「あら、衝撃で記憶も飛んじゃったのかしら。あなた、すいちゃんを守ろうとしてすごいけがを負ったみたいなのに、けろっと治ってシェルターに行く途中の道で気を失っちゃってたんですって。本当に悪運強いのね。」
「あたし、すっごい怖かったんだからね!あっくん死んじゃったんじゃないかと思って…う、うぇぇ~ん」
あの時を思い出したのか、彗星は泣き出してしまった。それをなだめるように輝は頭をやさしく撫でてやり、その様子を涙ぐみながら月子は見ていた。
「あぁもう、よしよし。もうパパは大丈夫だから。だからせめて外にいる時ぐらいパパって呼んでくれ。」
その時、ふとテレビに輝の目が移った。
銀色の巨人が、巨大な宇宙戦艦の群れに向かって光線を放っている姿がニュースで流れている。
「なぁ、月子、あれって?」
「あぁ、あれ?まだよくわかってないらしいのよ。なんか急に街にあの巨人が現れたかと思ったら、宇宙人たちをやっつけてそのままどこかに消えちゃったんですって。」
その巨人の名前を輝ははっきりと覚えていた。今まで見たこともない光景のはずなのに、巨人の名前と姿だけは鮮明に覚えている。
「まだ名前も分かってないから、HTDFの人たちは彼をEO-04とまず呼ぶそうよ。でも巨人に名前なんてあるのかしらね。」
「ウルトラマン…ナイス。」
「えっ?」
「たぶん…彼の名前は、ウルトラマンナイスっていうんだと思う。」
「ウルトラ…なんて?ねぇ、頭大丈夫?検査してもらったほうがいいんじゃない?」
からかい半分で月子が茶化す。
「いや、たぶん適当に思いついた名前だよ!忘れてくれ。」
「あっくん、なんか変だよ。」
「だから外ではパパって呼んでくれよ~」
笑いが立ち込める病室の外で、何者かが輝の様子をじっと見ていた。
「ヤツが…あの巨人…」
そうぼそりとつぶやくとその男は病室を後にした。
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