if Christmas 作:天元の花
「……お前は強いよ、ホント」
年末のクリスマスシーズン真っ只中のデステニーランドにて我が校の生徒会長である一色いろはは告白をして振られた──。
「──先輩」
電車で最寄りの駅まで送っていくつもりでいた俺は聞いていた駅で降りようとしたのだが、袖口を掴まれながら一色に呼ばれたことで止まり振り返ると……見上げて来た彼女の口から思わぬ言葉が紡がれたのだった。
"慰めてください。"
「一色……」
縋り付く濡れた瞳で俺を見つめながら更に紡がれる言葉は俺を揺さぶる。
「"責任を取ってくれなんて言いません"」
"これ以上言わせたら駄目だ"一色を止めなければと──俺は俺が普段思っていても絶対に口にしない秘めた真実を口にした。
「俺には好きな奴がいる──雪ノ下雪乃だ」
だから──
「──先輩が雪ノ下先輩を好きで良いんです、見て知っていますから。先輩が雪ノ下先輩と上手く行ったのなら……そこで私は、終わりでいいですから」
──駄目だ言わせちゃいけない。
「だから、"私を抱いてください"」
「い、一色……」
「私を、女にしてください。先輩への恋が叶わなくていいですから……だけれど、先輩の手で"大人の女に"」
「……お前」
「私はこれから先輩を相手に男の人を学びます、先輩は私から女の人のことを学んで、お互いに此れから失敗しない様に色々と覚えて行きましょうよ」
これ以上ないと言う程の都合のいい関係を口にして求める一色いろは。
「後悔しかしないぞ」
「いいえ、私は後悔なんて絶対にしません。先輩が私の初めての男の人になってくれるのなら──絶対に」
時間も時間故に、俺達の乗っている車両には他の乗客は居ない。それを分かってなのか、その発言は……。
「此処の駅で降ります、先輩」
袖を引かれ一色と共に降り立ったその駅は、お互いの家に一番近い駅ではない。こんな場面だと言うのに冷静に動き続け思考する頭が答えを導き出している。
「先輩」
大した力で引いているわけでもない、ましてや相手は女子であり本気で振り解こうと思えばいくらでも出来る筈なのに……それを、ついぞしなかった。
──そうして。
一色に連れ立って辿り着いた場所はやはりと言うべき場所だった。彼女の歩みに迷いは無く、始めから此処を目指していたことは疑う余地などない……痛い程思い知る、"一色いろはは本気なのだ。"
光り輝くパネルの中からサッと選び排出された鍵を手に、無言の一色に再び手を引かれエレベーターに乗り目的の部屋のある階へ。止まらず歩き出す彼女は一つの部屋の前に着き――二人で入る。
「シャワー……浴びて来ますね」
「ああ……」
何時も自身が寝ているベッドと違う分厚いマットによる反発力の高いそこに座りながら、何をするでもなくぼーっとしている。部屋の奥、ガラス張りの壁がある其処は多分バスルームなのだろう。今居る場所に対しての現実味が湧いてくる。音を発する物が無い為に離れている風呂場の水の音が聞こえてくる……。考えるのが面倒くさくなり、そのまま後ろに倒れ込み寝転ぶと中々に寝心地が良かった。このまま眠れたのなら……きっと、楽なのだろう。だが、それが許される場でも状況でも無い……。
「お待たせしました、先輩……──」
「俺もシャワーを」
「いいです、先輩はそのままで」
そう言いながら起き上がろうとした俺の胸に手を添えて、行動を止めて来た。俺の服越しに伝わって来る手の暖かさ、そのまま横になっている俺へ覆い被さって来る。
「先輩……キス、したいです」
「一色……」
そう言いながら近付いて来る一色、朱色の形の良い唇がどんどん距離を詰めて来て──ついに触れ、合わさる。
「その、わ、私……は、初めてなので……」
「こっちもだ」
「んっ……」
「大丈夫か?」
「大丈夫です、から……その、まま……」
──それから、どれ程の間まぐわいあったのだろうか……お互いに精も根も果て、抱き合ったまま何時の間にか眠りについてしまっていた。気付いた時には、くもりガラス越しに白み始めた空が見えはじめ現実に引き戻される。
「……ここ、は……」
そうか、俺は──。
「おはようございます──せんぱい」
昨日何を自分がしたのか思い出していた時に、隣からそう声が掛けられそちらを見れば微笑んでいる後輩の姿があった。
「すまない一色、寝てしまって。お前の両親は怒っているだろうな……」
俺の発言に一色は更に微笑みを深くして、口を開き始める。
「心配しないでください、せんぱい。私の両親は昨日から今日の夜まで出掛けていますから……いわゆる、夫婦水入らずでのラブラブデートってやつです。まあ……子供からしたら気まずくてアレなので」
一色家両親の現状が知れて、思わずホッとしてベッドに身を沈めると──彼女は途端に覆い被さって来て……。
「ね、せんぱい、しましょ?」
「一色……」
「私の身体のコトなら大丈夫ですよ。それとも……もう、飽きちゃいましたか?」
それは断じて無い。体験して分かった事は……今まで本やネットで見た、初体験を経験した男がその行為に夢中になる訳が真に理解出来た。心にちゃんと自身が恋をしている相手が居る──それであっても、自分に迫って来る一色の行為を止める気がまるで起きない。
「せん、ぱい……」
切っ掛けがどうであれ、俺と一色は二人でする行為に完全にハマっていたのだった。
それから。部屋を出たのはお昼になったくらいでだった……それも、空腹感からだ。二人揃って、何度目かも覚えていない状態で……お腹の音が鳴ったのである。流石に笑ってしまって──時間もアレだからと、二人でシャワーを浴び……最新の注意をはらって道を行き。
何時も選ぶファミレスとは違うチェーン店に入り、食事を開始。
「せんぱい、そのハンバーグ美味しいですか?」
「ああ、美味いぞ」
このやり取りは家で散々体験していて覚えている為に、ハンバーグがのっているプレートを一色の方にやると……俺に微笑んでから切り分けて口に入れると。
「んー! 美味しいですね、あ、私の方のパスタ……せんぱい食べますか?」
本来なら絶対に受けないであろう"ソレ"を俺はすんなり受けて、コチラに近付けられたお皿から一巻きして口に放り込む……。
「美味いな……丁度良い味だ」
俺の返しに更に笑顔を浮かべる一色。やがて食べ終わり、お茶を口にしながら一息。
「んで、これからどうするんだ? 何処か寄るのか?」
「──少し、歩いてから帰りませんか?」
「了解」
支払いを済ませ、外を歩き始める。通行する人の数は多い……引っ掛りそうになった時に上腕辺りの服が引っ張られる。
「あ……あの」
「逸れないように捕まっとけ」
「…………はい」
人の波を越えて人通りが途切れた辺りで、お馴染みの露天でアクセサリー売りをしているのが目に入った。何となく歩くのがゆっくりとなっていき、袖を掴む手の力も上がった気がする。
隣の視線をそのまま追っていると、とあるネックレスと指輪を行ったり来たりしていた……値段を見ると変に安い訳ではないが十分買えるレベルの価格だった──ので。
「すいません、"コレ"と"コレ"ください」
「コチラとコチラですね、合計──円です。はい、丁度お預かりしました、ありがとうございました!」
隣からの視線が顔に当ってる……そんなに見なくてもいいだろうにと思いつつ、歩いていると丁度人が周りからいなくなったところまで来たので──一色に包装されたソレを差し出す。
「──え」
「クリスマスプレゼント、やってないから。いらな──」
「ありがとうございます……!」
──いようなら捨ててくれ、と言い終わる前に被せて来て素早く受け取った一色。その目はキラキラとしていた……どうやら選び間違いではなく済んで、ホッとする。
「…………ズルいですよ、本当に……せんぱい、は……」
いくら真横に居ても、小声過ぎて一色の呟きはちゃんと拾い切ることは出来なかったが……マイナス意見ではないみたいで、それだけで贈って良かったと思う。
再び電車に乗り込んで、一色を家まで送ることに。元々昨日、手荷物が重いと言う発言からそう言う展開になったのだから。
「いいんですか、せんぱい」
「昨日約束しただろ」
「……はい」
そのやり取りから、一色家に着くまで終始無言で、上腕辺りの服を握り続けていた。
「あの、送ってくださって……ありがとうございます」
「気にするな、んじゃ……」
「……はい」
家の中に入って、自室のベッドへ倒れ込み、顔を上げて渡されたクリスマスプレゼントを見やる……別に、クリスマスプレゼントが欲しかったわけではなくて──せんぱいと私……その記念になる物が欲しかっただけで。
それでも、やっぱり……何時でも身につけていられる物はとてもとても嬉しくてたまらない。
「男の人って、こうなのかなー……多分、違うよね」
仰向けになり、天井をボーッと見ながら……。
「──また、一緒に過ごしたいです……せんぱい」
(続く)
クリスマスと言うことで書いて見ました。内容的に分類は一般でいいと思うのですが……どうなのかな?
感想をいただけたら嬉しいです。