お前の鏡達に出会ってきたのか?
自分達の明日はここで止まったから、お前にも「この辺りで止まれ」と説得しながら縋り付いただろう
でもお前は…彼らと残った昨日を放棄して…
ついに今日、ここで会えたな
ここまで迷いなく来れたってことは、お前も悟ったということだろうな
俺はな、ずっと昔から知っていたんだ
俺達全員が心を喪ったということを
ただ知っているというだけで、顔を背けていた
きっと俺以外にも多くの人がそうしただろう
それが…俺達とカルメンの違いだ
顔を背ける代わりに、彼らを救い、喪った魂を取り返そうとしたんだ
人類の救済に対し、崇高な決心をしたのは彼女だったが…そんな正義感なんてない俺が跡を継いだのさ
皮肉だよな
俺はきっと、こんな仕事に適した人間じゃなかったのかもしれない
俺すらひとつの翼になり、同じことをしでかしてるじゃないか
職員達は数千、数万回の死を繰り返し
仲間達は人生を奪われ、苦痛を反復した
俺は志を成すという理由だけで、全てを傍観していた
この罪が赦されることは、決して無いだろう
それでもなお…俺達はやり遂げなければならない
この数多の悪行を通じて、一度でも軛を絶つことができるなら…俺はいくらでも、全てを背負っていくつもりだ
俺達の役割は、人々に種を植えることだけだ
人々は、誰であれ自分の光を抱いている
それぞれがその場所で、物語を作り、願いを叶えながら…存在に対する根を下ろすということ
俺達の役割は、植えることだけ
それぞれがどうやって咲かせるかは、本人次第だ
俺達はどうなるかって?
残念ながら、どんな森になるか、直接見ることはできないだろう
そして、まだやるべきことがひとつ残ってるじゃないか
今まで俺達が数え切れないほどやってきたことだ
……幻想体達を管理しに行かないとな
お前なら、そつなくやり遂げられるだろう
さぁ……管理人として、最後の出勤だ
たったの50日
それを何度も繰り返し、繰り返し、繰り返してきた管理人は
いつしか複雑化した時間軸の中で分離した
会社の経営維持を優先した者、目的を見失い自暴自棄に陥った者、神への反逆を執行し世界を崩壊を招いた者…
過去と向き合い、見捨てた者達の試練を乗り越え、やがて悟りを得たただひとり
この物語を見ている君達も、きっとそうだ
共に苦しみ、悩み、それでも諦めなかった誰か…君達なら、識っているはずだ
真っ直ぐ立てる意志
分別できる理性
もっといい存在になれるという希望
生き続けるという勇気
存在意味に対する期待
守り抜く勇気
快く信じ任せられる相手
鎖を断ち切り、恐怖に向き合う眼
過去を受けいれ、未来を創り出す瞳
識っているだろうからこそ、多くを語ることはしない
「さあ、いつもどおりの仕事をしよう」
…管理人は、アインは、50日目を迎える
いつも通りの仕事、いつも通りの作業
幻想体達からエネルギーを生み出し、溜めていく
その過程の中で、会社が傾き始める
「少しめまいがするはずだ
だけど、それだけの価値はある
耐えてくれ」
業務の中で、当然収容違反を起こす者もいるだろう
しかし、この日は
この日だけは…
「今日だけは誰も苦しまず、 誰も死なないで欲しい」
的確に職員達へと鎮圧指示をする
何万通りも繰り返してきた管理人なら、間違えることがないことだ
「最後までこんな管理をさせてすまない
だが、それもあと少しで終わる」
思い返せば一万年という時は気が狂う方が当然なのだ
心が折れ、砕け散り、見失うことこそ当然の結果なのだろう
「耐えられない事がたくさんあった…数多くの試練たちを克服し続けていたら、いつの間にか今日が来ていた」
それを耐え、本当の終わりを迎えようとしていることは…この上なく、気狂いとも言える
しかしその先に得た悟りを、彼らも君達も解っているはずだ
「この瞬間まで辿り着いたお前ならやり遂げられるはずだ
粛々と今日を迎えよう」
試練は終わり、仲間と共に最終日の時を進める
あともう少しだろう
「俺たちが霧を抜けて光を見たのはいつぶりだろうか」
逆さまになったL社が、次第に加速し上昇する
悪しきクリフォトから、正しいセフィロトへ
「気が遠くなるような時の間、俺たちはこの地下に埋もれていた」
結末を見届けられず事切れた時間軸だってあったはずだ
それでも、分裂しても、酷く脆く
「本当に久しぶりの外だ、思ったより多くが変わってなかった
いつも見てきた輝かしい灰色の墓場のような光景だ」
L社が地上へと飛び出した
巨大な建造物の周囲に広がるのは、暗雲の街並み
「ここを暖かく包み込むんだ
あの光り輝く星空のように、全ての人間が光るように…」
そして…集められたエネルギーは光となり、光は柱となり、L社から空へと放出される
「人間が人間らしく生きられるようにするんだ
そして、その後は見守ろう…」
やがて空へと放たれた光の柱は雲を突き破り、光の種が空から都市へと降り注がれる
「50日間集めてきたエネルギーは、すべてこの時のためだ
世界を照らすこの時のため」
「永劫の時をさまよい、探し求めてた答えを皆に伝えよう」
「そろそろ舞台から降りる時間だ
お前と俺が光で散っていこうと、忘れられることはない…」
アインは、管理人は、光の中でどこかを見つめた
それは都市に向けたものなのか、仲間達に向けたものなのか、定かではない
光は彼らを飲み込み、強く輝く
光の柱はその輝きをもって都市を照らした
雪のように舞い降りる光の種は、都市の住人達に宿っていく
…これが、光の種シナリオ
カルメンが生み出し、アインが成し遂げた人間達への治療法
七日間もの間都市を照らし、都市に生きる全ての人間へ希望の種を植える計画
十年…否、社内の時間換算において一万年もの間繰り返し集め続けた大量の希望は、今多くの者達へと分け与えられる
都市中の人々へと降り注がれる光の種は喪われた心を取り戻し、より良い未来への期待を抱き、停滞していた足を前へと進めることだろう
カルメンの言う心の病はきっとこれで治ると
アインも、管理人も、セフィラ達も…そう信じている
その光の柱を、誰もが見ていた
それは、都市に生きる彼の子供にも…
「…」
白銀の髪を靡かせ、片側のスミレ色の瞳を照らし、少女は光の柱を見ていた
「ローラン、アンジェリカ…あれ…」
共に歩く新たな家族達に呼び掛け、光の柱を指差す
「……光の、種…」
呟く言葉に生気はなく
ただただ呆然と眺め、そして…
「……ようやく…終わったんだ…」
静かに涙を流していた