Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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Fault and CurseⅢ

一体どこから間違えてしまったのだろう

 

住める程度に建て直した家は、以前のような見る影もない

 

愛する妻と、生まれてくるはずだった新しい子供

 

その二人を喪って、俺は喪失感に囚われていた

 

青い残響が持って行ってしまった妻の亡骸の行方もわからず、妻を失った苦しみを晴らすように俺は酒と殺戮に溺れていた

 

あの怪物が現れた原因は、調べても全く不明

 

だから、怪しいと思われる場所は全て潰した

 

裏路地の闇市、外郭の研究所、途中指のひとつも半壊させたが、大した情報は得られなかった

 

ピアニスト、あれは一体なんだったんだ

 

30万もの人間を殺し、その死体で音楽を奏でた怪物

 

あの光景を思い出す度体の内臓全てを掻き出したくなるような怒りと憎しみが溢れ出す

 

…今日も今日とて、変わらず俺は人を殺している

 

昔の同僚が呈した苦言も忠告も、今の俺には何も響かない

 

戻れなくなってもいい

 

それでも、この復讐を諦めきれないのだから

 

血塗れの掌を見て嘆く

 

彼女の形見の手袋、俺があの日これを借りてしまったから、彼女は満足に戦えなかったんじゃないか

 

彼女程の実力者なら、きっともっと上手くやれたはずだ

 

それでも彼女は死んでしまった

 

腹の子と共に

 

虚しさと共に家の扉を開けリビングへ入ると、見慣れた白髪が見えた

 

「……イナ」

 

振り返ればいつもは輝いているスミレ色が、酷く濁っている

 

十年、共に暮らしている血の繋がってない娘

 

この子もまた、ピアニストと戦い…生き残った

 

しかし精神崩壊してしまったのか、暫く事務所経由で精神病院へ入院していたはず

 

「帰って、きたのか」

 

「ローラン…わ、わた……私…謝ら…なくては…」

 

以前のような快活なイナとは比べ物にならないほどの、覇気のない声

 

震える声と手で俺に向き合おうとするイナの肩を掴み、俺は懇願した

 

「…頼む…それ以上、言わないでくれ」

 

イナの言葉を遮り、留める

 

だってそうしなければ、俺はこの子を憎んでしまう

 

イナが謝れば、あの日の過ちを認めてしまえば、俺は彼女が死んだ原因としてしかこの子を見れなくなってしまう

 

どれほど無関係の人間を殺めても、十年共に時間を過ごした家族のことは憎みたくなかった

 

「で…でも…私…私が…」

 

「言うな、頼む!もうそれ以上何も言わないでくれ!」

 

肩を掴む手に力が篭もる

 

肩を掴んでいて良かった、と心底安堵した

 

もし今この手が何も掴んでいなかったら、イナの首を握っていたかもしれない

 

吐き出した強い言葉はイナの表情をより一層険しくさせ、今にも泣き出しそうだった

 

いや、散々泣いたのだろうか…目の下には深いクマが現れていた

 

「…ローラン……アストルフォ、から、ききました

…ピアニストが発生した原因を調べて、手当り次第に殺していると…」

 

俺の体中を染めている返り血を見て、イナは瞳を揺らす

 

掴んでいた肩から手を離せば、掌についていた血が彼女の服を汚していた

 

「……」

 

「や…やめましょう…?そんなことをしては…いつかローランに返ってきます…ローランが、これ以上苦しむようなことになってほしくありません…!」

 

「これは俺の問題だ、お前は口を出すんじゃない」

 

冷たく言い放つ

 

巻き込みたくない、その一心で関係ないと突き放す

 

俺はイナを憎みたくないし、巻き込みたくない

 

俺はもう復讐に生きる道を選んでしまった

 

けどこの子は、まだ正しい道を生きられるはずだ

 

十年繋いだ手を離すのは苦しいが…イナの幸福の為、俺と同じように汚れてしまうのはあまりにも酷だから

 

「…帰ったばかりだろ、今日はもう休め」

 

「……」

 

イナは悲痛な顔を俯かせ、自室へと帰っていく

 

ごめん、ごめんな、イナ

 

お前が俺を見放さないように、手を繋ぎ止めておこうとしてくれたのに

 

俺はそれを振り払う

 

こうしなければ、きっとイナのことも今以上に苦しめてしまう

 

…今より不幸になるのは、俺だけでいい

 

 

 

家を出て都市の中を転々とする

 

殺しを重ね、情報を得ようと必死になった

 

協会からの通達を無視し続け、仕舞いには1級から9級まで落とされていた

 

もうそんな階級すらどうでもよかった

 

ただ復讐が叶うことだけを目標に生きて殺している

 

そんなある日、ある女が俺の目の前に現れた

 

特色フィクサー…紫の涙

 

俺の事を聞き付けてか、向こうから接触してきた

 

「亡くした妻の復讐を果たそうとしているんだろう?

…それなら、交渉しないか」

 

紫の涙の話によると、ピアニストのような怪物を扱っていたロボトミーコーポレーションが何らかの関係があるのではないかという

 

しかしL社は折れた翼、支部も軒並み陥没してしまっている

 

だか、本社だけは違う

 

本社があった巣や裏路地は未だ深い霧に包まれており、その中には「図書館」なる建物があるのだと言う

 

それがきっと元L社なのだろう、そこに潜入し調査すれば、俺の求める復讐もきっと果たせるのだと

 

寝耳に水だった

 

今までかすりもしない噂程度で関連性も何も無い施設ばかり潰してきた中で、一番有力な情報

 

紫の涙も自分の目的の為、図書館に興味があるそうだった

 

お互いの目的、利益の為…俺達は協力することになった

 

そして…俺は紫の涙の力により、図書館へと潜入することとなった

 

 

 

自由落下から態勢を直せないまま地面に叩きつけられる

 

ぶつけた体の個所を手でさすり、鈍い痛みに顔を顰める

 

「畜生…紫の涙…こんなやり方で片付けるとかないだろ…

何がどうなってんだよ、なんだよこの煙は」

 

目を覚ますと仄かな照明の橙色の灯りと、高そうな彫刻を施された壁…いや、棚が見える

 

棚に並べられているのは数えきれないほどの本達

 

まさしく図書館と呼ぶに相応しい内観だった

 

ひとまず、入ることは出来たのだろうか

 

「はぁ…信じるしかないか」

 

今の俺にはここしか手掛かりがない

 

大切な家族を置いてまで追い求めてきた復讐の対象

 

あの事件の真相がこの図書館にあると、信じるしかない

 

溜息を吐いていると、背後に気配を感じた

 

「一回だけ言うわ」

 

透き通るような、それでいて冷たく凍てつくような声

 

振り返れば、そこには高い秋の空のような蒼いショートヘアに黄金の瞳、烏を彷彿とさせる漆黒のドレス…謎の美女が立っていた

 

厳かな雰囲気に見下ろされ、思わず後に退きそうになる

 

「私は回りくどい言い回しが本当に嫌いなの

…だから口数を増やさないで、聞かれたことにだけ答えて

もちろん質問もしないで」

 

威圧的、高圧的、そんな言葉通りの氷の声

 

恐らく、こいつがこの図書館の支配者なのだろう

 

…なら、俺が取るべき選択肢は一つ

 

気取られぬように、悟られぬように、本当の目的を知られないように

 

自分自身すら欺き、全てを隠し通す

 

「あなたはどこから、そしてどんな目的を持って、ここにどうやって入ってきたの?」

 

一息で投げかけられる三つの質問に、俺は再度溜息を吐いてこう答えた

 

「はぁ、誰だよお前…」

 

何も知らない一般人を装え

 

意味の分からない厄介事に巻き込まれた不運な男を装え

 

こんなところに突然迷い込んで、早く帰りたいと面倒くさがる人間を装え

 

そうして内側に転がり込んで、復讐対象を見つけ出せ

 

あのピアニストを引き起こした原因を探し出せ

 

…そうして、復讐を果たせ

 

全てを捨ててきた俺にできるのは、それだけなのだから

 

それが、俺の罪

 

そして、その罰は…

 

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