Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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Lobotomy Corporation
in dubio pro reoⅠ


 

xxxx年xx月xx日

 

都市の朝は早い

 

朝日が差せば人は目覚め、食事を取りながら今朝のニュース番組を見る者、新聞を読む者、仕事へ向かう者…それぞれのルーティーンは様々であるが、皆が同じ一日を始めようとしていた

 

しかし、巣の一角にある小さなアパートメントに、新たな生活を迎えようとする者がいた

 

「晴れ渡った空のいい朝!ハムハムパンパンの特性サンドイッチ!記念すべき出勤一日目!

今日はいい日に違いなーい!」

 

赤い髪を二つに下げた女性が、窓を開けては一日の始まりを祝福している

 

彼女の名はカレン

 

この日から大企業の翼の一つ、L社ことロボトミー社に勤務することが決まっていた

 

「採用通知が届いたときは驚いたけど…お父さんもお母さんも喜んでいてくれたし、万々歳だよね

もう今日でこの家ともおさらばかぁ~…長かったような短かったような…」

 

カレンが勤務するのは、多くの支社を抱えるL社のなかでも、心臓ともいえる本社である

 

本社では職員は寮に入ることが定められており、今カレンが住んでいるアパートの一室も、本日限りで出払うことになっている

 

そのせいか、アパート内は人が生活するような痕跡は残っておらず、必要最低限の物しか置かれていない、殺風景な空間と化していた

 

「…感傷に浸っている場合じゃないぞ、私

さて、ここは今朝のニュースを見ながらブレイクファストと洒落こみますか

ふふふ、優雅なキャリアウーマンみたい…

 

…?」

 

カレンは携帯端末を取り出し、画面に電源をいれる

 

するとそこに書かれていた数字を見て、しばらく静止する

 

携帯端末に表示されている数字は、8:12

 

これは現在時刻を表すものである

 

カレンは訝しむ顔で布団横の目覚まし時計を見やる

 

そこに表示されていたのは、7:12

 

携帯端末の時刻は、都市の時間として完全管理されているはずなので、正確性としては携帯端末の方が正しいはずである

 

つまり、カレンの目覚まし時計は一時間遅れていることである

 

彼女はもう一度考えた

 

L社の出勤時間は、午前八時半厳守だったはずだ

 

「………出勤一日目から遅刻はダメだよね」

 

彼女は慌てて身支度をした

 

パジャマからスーツに着替え、ハムハムパンパンのサンドイッチを片手に飛び出す

 

アパートの玄関フロアの受付に鍵を置き、「おばちゃん今までありがとう!」と半ば叫ぶようにお礼の言葉を告げ、アパートを飛び出した

 

アパートからL社本社までバスで10分、しかしバス停に着いたところで朝の通勤ラッシュに時間通りバスが運行するとも限らない

 

カレンは近道を駆使して走る

 

幸運だったのは、カレンのアパートがL社の巣内であったこと

 

お陰で裏路地を行かずに本社へ向かうことが出来る

 

走り続けること、10分

 

カレンは汗だくになりながらも、L社に着くことができた

 

「はぁ…はぁ…ぎ、ギリギリセーフ…」

 

カレンはおぼつく足取りでL社内に入り、エレベーターへと向かう

 

勤務する場所は地下にあるため、エレベーターで地下へ降り、タイムカードを押す必要がある

 

そこそこ広いエレベーター内に足を踏み入れたその瞬間、カレンの脳裏が突然フラッシュバックする

 

瞬く間に視界の点滅が収まると、次に襲い掛かってくるのは膨大な疲労感だった

 

「っ…え、なに…」

 

彼女がエレベーターの壁に寄りかかると、間もなくエレベーターが停止し、その扉が開く

 

扉の向こうには、一人の人影が立っていた

 

「…?」

 

「貴方が新入社員のカレンさんですね

情報は共有済みです、まずはタイムカードを押してエージェント控え室へ

更衣室があるのでそこで指定されたE.G.Oを装備なさってください」

 

灰色の髪をショートカットにし、紫の眼光を鋭く向けている女性

 

黒と紫のハイセンスなコートに身を包み、同じカラーリングの大きな槍を背負っている

 

何より、その衣装に着られることなく着こなせるその凛々しい顔つきは、女性でも見惚れそうなほど整っていた

 

「…」

 

「…聞いていますか?」

 

「あっ、は、はい!すみません、今すぐ!」

 

カレンは慌ててエレベーターを降りるも、少しふらついてしまう

 

「あ…」

 

一度壁に手をつき、頭を振る

 

意識がはっきりし、体の倦怠感も次第におさまっていく

 

「大丈夫ですか?

エレベーターで上がってくるとなると比較的長い時間エレベーター内にいましたでしょうし、無理なさらず…」

 

「あ、いえいえ!大丈夫です!ありがとうございます!」

 

カレンは朗らかな笑顔を女性の方へと向けた後、エレベーターから続いていく廊下を駆け足で進んでいった

 

出勤時間に間に合うよう慌てていたせいで、その違和感に気が付かないまま

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