LibraryⅠ
××××年×月×日
白夜黒昼、その後に発生したピアニスト事件…矢継ぎ早の異常事態を引き起こしたであろうロボトミーコーポレーションが、その姿を変え都市にあらぬ噂を齎していた
「…なんだ、この紙
招待状…?」
一人のネズミが死体から何かを取り出した
人の肉に埋もれていたにも関わらず染みも折れもない血に濡れた黒い紙
そこには「図書館」への招待文、勝てば求める本が手に入れられるという文言
一人のネズミは数十年生きてきた中で初めて天運を信じた
生きるには金がいる
技術が発展し貧富の差が激しくなったこの都市では、途方もない程の金が毎日必要だった
ネズミは血を掬い上げ招待状にサインを書いた
すると、突然光に包まれた扉が現れ、ネズミはその扉を通り抜けた
光の先には、無数の本が積み重ねられた本棚の壁
階段の先から一人の女がネズミを出迎えるように降り立った
「ようこそいらっしゃいました、ゲストの方
ここは図書館です
どうか、貴方の本が見つかりますように」
そう呟いた蒼白の司書は、ゲストを接待する階へと導く
その図書館は、光に包まれた都市の異物
あらぬ噂から始まり、都市災害として名を馳せていく折れた翼
霧に包まれたその塔を、本を求める人々が集まる中で…光は再び集約される
それは、蒼白の司書が求める「たった一つの完璧な本」を生み出す為に
多くの人を本にして
蒼白の司書、アンジェラの召使いであるローランは溜息を吐いた
チンピラであるネズミや義体、事務所のフィクサー、人肉料理人、ゴロツキの捨て犬…既にそれなりの人数が図書館へと訪れ、接待を受け本へと変わっていった
なかなかにえげつないやり方だ、と以前アンジェラへと吐き捨てたことはあるが、図書館運営の方針上招待状には戦闘における接待で負ければ本になるということは予め記載されているらしい
それならばこの都市においては比較的易しいやり方なのかとローランも納得はした…そして、接待をこなし本を集めることで、新たな司書達が目覚めていく
ローランが担当する総記の階もローランを補佐する司書補が宛てがわれ、総記の階以外にもローラン同様の「司書」達がそれぞれの階を担当していく
既にローランは何人かと顔を合わせているが、この日目覚めた司書四人を集めるように言われたローランは、それぞれの階へ移動し司書達を集めた
それぞれ個性的で様々な事情を聞かせてもらったローランは、既に打ち解けつつある司書達の嫌そうな顔に少し驚いた
皆、「アンジェラ」と聞くと雰囲気の雲行きが怪しくなったが、応じない者はいなかった
「おーいアンジェラ、全員呼んだぞ」
いつもアンジェラと会話するメインホールにて、ローランは四人の司書を連れて訪れた
「マルクト、イェソド、ネツァク、そしてホド
みんな一緒のところを見るのは久しぶりね」
ローランはほんの少しだけ事情を知っているが、あまり和やかとは言い難い空気を固唾を飲んで見守る
名を呼ばれた四人…快活な少女マルクト、厳格な青年イェソド、気だるげな青年ネツァク、柔和な少女ホド…
彼らは皆、アンジェラと共に図書館の前身…ロボトミーコーポレーションで仕事をしていた者達である
この四人を含めた計10人…訂正、9人がセフィラというAIとしてL社の職員達をまとめていた
ただし、一つだけ違うことがある
それは、都市の規約により人の形を象ってはならないセフィラ達は箱型の機械の体であったのに、この図書館で目覚めた彼らには肉の体が与えられていたこと
人の体を得た彼らは顔を駆使して様々な表情を見せる
四人とも不快そうで、ローランはマルクトとアンジェラが言い争っているのは目撃したことあるが、他の三人もまたアンジェラへいい思いを持っていない様子だった
「アンジェラ…」
「私達を一箇所へ集めて、何をしようと言うんですか」
「特別なことではないわ、私なりに互いに顔を合わせる場を設けたのよ」
「そうか、ささ、みんな表情筋を弛めようか」
「私達、貴方と話すことなんてありません」
ローランの宥めも通じず、あのホドですら言葉の棘を隠そうとしない反応にローランは肩を竦める
「……いや、僕にはある」
そんなホドの「話すことは無い」に異を唱えたのは、一番何も口を開かなさそうだと思っていたネツァクだった
怠惰な姿勢のまま欠伸をしながらメインホールへ訪れた時と違い、真っ直ぐにアンジェラを見つめて口を開いた
「光を回収するプロセスに問題がある」
「ゲストを殺して本にするのが嫌ってことね?
貴方達が直接苦しむのも嫌なのね」
「そうよ!いくらゲストが自らここへ入ってきたとはいえ…また人を死に追いやりながら仕事するなんて有り得ないわ!」
ネツァクの言葉に便乗し勢いよくマルクトが発言する
それに対してアンジェラは眉を寄せ、明らかに機嫌が悪そうな顔で反論した
「100人を殺すのは大丈夫なのに、101人を殺すのは問題があるというの?
偽善者が…私を貴方達と一緒にしないで欲しいわ
少なくとも彼らには
何か言いたいことでもあるの?ネツァク」
「僕達はあれが最後だと思ったんだ…これ以上は…」
「どうしようもないんだ、ネツァク
私たちが言えることは、何もないんだ」
命を奪う工程に辟易しているネツァクは、苦悶の表情の裏である記憶を思い出していた
他人の命を消費していたひとりの人間が、心を得て自分の命を使ってまで他人を守った、遠い昔の記録
ネツァクに対して生きてほしいと願った彼女は死に、今自分はこうして生きて、そして誰かの命を奪う立場になっている
これでは彼女に顔向けできないと、ネツァクは心に苦痛を感じていた
「アンジェラ、貴方は最後まで冷酷で情もないんですね」
ホドの失望したような言葉をぶつけられ、アンジェラはいよいよ不快感を最大にまで感じ取っていた
そして、大きなため息と共にその不満をぶつけ返す
「はぁ…感情的に迫ってこないで
知ってるわ、貴方達もこんな方法しかない…って心の中では認めているってこと
こうなりたくなかったら、最初から取引をしなければよかったのに」
アンジェラの言う取引とは、L社が集めた光を都市へと放出した際に起こった争いの末の妥協案のことだ
都市で観測するところの十年間、L社本社内での時間にしておおよそ一万年分もの時間の中で
しかし、その一万年を100倍遅く体感していたアンジェラはその結末を良しとせず、そのシナリオを書いた
中途半端な光の種しか撒かれず、本来七日間であるはずの光は三日間しか降り注がれず、互いの不利益を悟ったアンジェラは光を守るセフィラ達にひとつの取引を持ち掛けた
中途半端にばらまかれた光を回収し完全に戻す、それまでは互いに協力するということ
セフィラの中でも過半数が取引に応じたため、今こうして図書館があり、セフィラ達は指定司書として目覚め、ゲスト達…光を持った都市の人間達を接待している
既に決まったことへの不満、L社での人の命を消耗品のように使っていた運用は黙っていたくせにこの図書館での公平な命のやり取りには苦言を呈する指定司書達に呆れを隠さないアンジェラは強い口調で言い放つ
「全員出ていきなさい」
半ば締め出されるのと同様に、メインホールから追い出されたローランと指定司書達は顔を見合わせながら気まずそうに顔を顰めた
複雑な事情の片鱗を悟ったローランはこれからの図書館の行く末をほんの僅かに案じた
こんにちは、白波恵です
普段から当小説をご愛読の程、誠にありがとうございます
いよいよ図書館編が始まりました
それに乗じて、これからはこの小説の原作枠が「Lobotomy Corporation」から「Library of Ruina」へと変更になりました
検索などをかける際は注意していただければ幸いです
さて、いよいよ図書館編に入っていくことで私がついに書きたくて書きたくてたまらなかった場面を盛り沢山に執筆できることで…創作者の性癖が見え隠れするかもしれませんが、どうぞこれからもお付き合いしてくだされば
コメントの方も大切に読ませていただいております
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それでは今後もLabyrinth of the Violetをお楽しみください