ツヴァイ協会の接待を終えた図書館はいよいよ都市疾病にまで災害ランクを上げるに至った
そんな中、ローランは今後来るであろう組織達に備え密かに考える
この図書館、アンジェラの目的はゲストを本にしたった一つの完璧な本を作ること、指定司書達は都市に中途半端に撒かれた光を回収し完全な光を再び振り撒くこと
どうやらその「光」がとてつもないエネルギーを持ち、アンジェラや指定司書達にも必要なのか…とローランは情報を整理する
現にこの図書館内部の構造や機械だったと言う指定司書達に肉体を与えたのも、更には死んだL社の職員を生き返らせたのもその光の力なのだと言う
死者蘇生なんて、K社が見たらどう思うだろうか
特異点なんてレベルを超えた代物を集めているのなら…その先に、本当に「たった一つの完璧な本」が得られるのなら…
きっとアンジェラはこれまでに無い程に喜ぶだろう
念願叶えて満足するだろう
ローランはその時を待つ、その瞬間を目指す
既にローランはアンジェラが「ねじれ」の原因なのだろうと目星をつけていた
現に白夜黒昼、ねじれ、L社が図書館に関係していることはアンジェラが認めていた
確信はないが予測はできる、そう言っている時点で何か重要なことを知っているはず
今後も信用を得て情報を聞き出せれば真実が見えてくるだろうが…その「光」が中途半端にバラ撒かれたのが原因で「ねじれ」が発生したと考えるのが自然だった
なら、「光」を奪おうとしたその誰かは…
そう考えていると、薄暗い本棚の隅へ入り込む人影を見つけた
ローランはその影を追うと、煙草を咥え火を付ける男を見つけた
「あっ…あー……ども、す」
本を取り扱う場所で煙草を吸うという罪悪感からか、ローランに見つけられた男は気まずそうに会釈する
「アンタは確か…芸術の階、ネツァクんとこの」
青い髪と光のない漆黒の目を持つ男は最近目覚めた指定司書を補佐する人間…司書補の役割を負う、L社の職員の一人だった
「ロイドっす…まぁ話は聞いてると思うんすけど、元L社のエージェントっす
あの、どうかこのことはアンジェラ様には内密に…あ煙草一本要ります?これでどうか手打ちとして…」
「おっ、なら有難く貰おうかな」
自己紹介をしたロイドは口封じのために懐から煙草を取り出しローランへと差し出した
ローランはその一本を摘み、火も分けてもらいその煙を肺いっぱいに吸い込む
「…はぁ〜…久々だなこの感じ」
「禁煙してたんすか?確かローランさんは図書館の外から来た人っすよね」
「あぁ、まぁな…家内が身篭ったからその機に辞めてたんだけど…ちょっといろいろあってな」
「そ、すか
まぁ都市なんていろいろありますしね」
「ロイドもL社の社員だったとはいえ、その前は都市で暮らしてたんだろ?やっぱ巣か?」
「いえ、俺は裏路地出身す
あんたと同じフィクサーで、4級フィクサーっした」
「へぇ4級、それなりの実力者じゃねぇか」
「まぁぼちぼちに暮らしてましたよ、けど新しい翼であるロボトミー社の人員募集の張り紙を見て、同僚だった3級の野郎と就活したんす
まぁそんなこんなで無事羽の一員になり、地獄のようなL社で毎日働いてたっす」
「はぁ〜…やっぱアレか、お前もあの幻想体っつー奴らを管理してたんだ?」
ローランは各階に現れる幻想体を思い出す
アンジェラが切り捨てずに哀れんだ人を殺す怪物達、L社ではアレらを管理してエネルギーを生み出していた…とローランはここに来てから始めて聞いていたのだが
「まさか今まで使ってたエネルギーがあんなバケモンから作られてたなんてな…」
「しかも数え切れねぇくらいの人が死んでそれよりも多くの人が生きられるエネルギーが生まれてるんすよね
アンジェラ様の話は難しくて俺にはよくわかんねーんすけど…死んだっつっても、俺達の肉体データを維持?だか保管?だかしてて…死んでも蘇ってリスタートとか、どんだけ〜って感じっすよね」
「まぁ、そう考えりゃ実質誰も死んでないことになる…のか?」
「そう上手い話じゃないと思うっすけどね〜…ま、今まで何度も死んだなんて話信じられもしねーんすけど…断片的に記憶を貰ってるので、信じるしかねーなぁって感じっす」
残り僅かの煙草を吸いきり、ロイドは携帯灰皿に吸殻を投げ入れた
「お前は何も思わないのか?人を殺して本にすることに対して」
ローランがそう質問すると、ロイドは光のない目を宙へ向け…少し悩んだ末に口を開く
「んー…まぁ、お互い様というか
俺は元々そういう世界に生きてたので…むしろここのやり方は平等なんで優しいなって思うくらいっすよ
ただ…まぁ、いつかの誰かみたいに、他人を守れるようにはなりたかったっすね」
最後の呟きは小さく消えてしまいあまり聞き取れなかったが、ロイドはそのまま担当階へと姿を消してしまった
指定司書が
秘密の喫煙所から出てアンジェラに頼まれた仕分けをする為、書庫へと向かう
ゲストから抽出された本は様々なジャンルに分類され、各階に分配される
また、本を燃やすことでゲストの力を纏うことができる「コアページ」や、その戦闘方法を模倣できるページを取得することもできる
上手く出来てるなぁ、なんて考えながら書庫の扉を開くと、勢いよくぶつかる音と「いた!」という悲鳴が書庫の向こう側から聞こえてきた
ローランが覗き込むと、額を抑え蹲っている金髪の少女が見えた
「あ…わ、悪いココ!不注意だったな…」
ココ、と呼ばれた少女もまた司書補であり、技術科学の階担当であるイェソドの司書補だった
「もーローランさん!もっと向こう側に人がいるかもとか考えて開けてくれない!?
やだもー、イェソド様に渡す本に傷でも出来たらどうしてくれるの!」
活発に怒りながら本を拾い上げるココに戸惑いながらもローランも本を集めるのを手伝う
「いや本当に悪かった、仕分けもしてくれてて助かったよ
これ技術科学の階まで持っていくのか?手伝うよ」
「あらホント?ありがとう!なら半分お願いするわ」
「いや、もう少し持つよ、これでも力はある方だし」
ココが抱えた本の倍を持ちながら二人は技術科学の階へと向かう
先程のダウナーな雰囲気のロイドとは違い、ココは快活というような性格をしている
そのせいか、ローランは脳裏に置き去りにしてきた少女の姿を思い出す
「はぁ…」
「どうしたのよ、溜息吐いてたら幸せが逃げるって言うでしょ?ほら背筋も伸ばす!」
「いやぁ…娘を置いてこんなところに来ちまったから、ちょっと心配でな」
図書館に訪れたのは偶然だとここでは通しているが、本当は故意的である
そして娘を置いてきたのも故意なのだが
自分の復讐に巻き込まない為に突き放し置いてきてしまった…今更ながらに心配をする資格もないかもしれないが、それでもやはりローランにとって彼女は自分の娘同然なんだと改めて痛感させられる
「ローランさんって娘さんがいたのね、幾つ?」
「養子で年齢がわからないんだが、10年くらい一緒に暮らしたよ
背丈は君より少しだけ小さいかな」
「そう、それは仲良くなれそうね!私人と仲良くなることだけは得意なのよ!」
「いやいや謙遜するなって、君にはもっと多くの魅力があるだろうよ」
「あら、ナンパ?ごめんなさい、私は心に決めた相手一筋って決めてるの」
「いや俺だって妻一筋だが!?」
他愛のない話をしながら技術科学の階へと辿り着くと、真剣な面持ちで本を読むイェソドが待っていた
「遅かったですね…おや、貴方もいましたか」
「はい、本をお届けに参りました〜」
「イェソド様!こちらが今回の本になります!
他の皆と一緒に仕分けておきますね!」
「はい、よろしくお願いします
終わったら一息ついて自由時間とします」
ローランとココが机の上に置いた本を控えていた他の司書補達も共に仕分けていく
「ありがとうローランさん、ここからは私達の仕事だから大丈夫よ」
「おう、頑張れよ〜」
仕分けた数冊の本を抱え、ココや他の司書補は奥の棚へと消えていった
取り残されたローランはまた小言を言われる前に退散しようか、と思っていたが、既に眉間に皺を作っているイェソドに止められてしまう
「貴方、ヤニ臭くありませんか?」
「えっ…い、いやぁ、そうかな?」
「ここは図書館ですよ、まさか煙草なんて吸ってないでしょうね…?
全く、ネツァクといい貴方といい…怠慢が過ぎます」
「まぁまぁまぁ少しくらい、な?イェソドもわかるって、娯楽がなきゃ人はすぐ潰れちまうんだから」
「それは…まぁ、否定しませんが」
ローランの弁明になにか思うところがあったのか、イェソドは表情を曇らせ視線を逸らす
「…?」
「ですが、やはり書物を扱う図書館での火器の使用は不適切です
喫煙所の設置を申請してから喫煙するように」
「あ、はーい、アンジェラに頼み込みまーす…通るかわかんないけど」
イェソドの苦言もほどほどに、ローランは技術科学の階を後にする
指定司書や司書補達とも親しくなり、信頼を勝ち取る
そうして懐に潜り込むことで、ローランの復讐は達成しやすくなる
仮面のない仮面は、ローランの心を隠し…いつか訪れるその日まで、誰も彼もを騙し続けることだろう