Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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Dawn

ローラン達が次に接待をするのは夜明事務所のフィクサー達

 

ローラン本人が知り合いである事務所代表と、他二名で挑んでくる

 

その戦闘の光景を観測しているアンジェラは何の感情の色も見せずにただ戦闘モニターを眺め続けている

 

 

 

「ミズ・アンジェラ

あれほど多くの死を貪りながら楽に終えられるとは思わないことだ」

 

 

 

先程出迎えた際、夜明事務所の代表である老人がアンジェラへ向けた言葉

 

その言葉に対する感想はその時はどうにか飲み込んだが…今になってアンジェラの奥底から笑いが込み上げて来る

 

「楽に終えられる…?何を今更」

 

彼女は既にロボトミーコーポレーションで一万年…彼女だけが体感100万年もの時を過ごしてきたのだ

 

その間たった一つのシナリオを終える為に何度も何度も同じ展開、流れを見守って調律してきた

 

気が狂いそうなのに、忘れることも出来なければ精神を壊すことも出来ない

 

なぜなら彼女は機械だから

 

細胞が劣化する生きる人間と違い、優秀な研究者達の手で造り出された彼女に「劣化」は訪れない

 

故に、100万年もの同じ記憶を全て有していて尚心が壊れることすら出来ない

 

そんな彼女に、今更楽に全てを終えようという気持ちはない

 

「そうだね、今更君が求める願いを叶える為に楽な道なんてない

これからも多くの都市の人間から光を回収していくことだろう、その過程で君がかつての苦しみから解放される…

きっと多くの人が君に武器を向けるだろうね

でも君は歩みを止めてはいけない、君の物語のピークはまだまだ先なんだから」

 

アンジェラしかいないはずの空間に、もう一人の声が響き出す

 

アンジェラは溜息混じりにその言葉を聴き、呆れながら革椅子の方向を変えた

 

「随分早かったのね、自分の会社の様子はもういいの?」

 

アンジェラの視線の先にはスミレの魔女・ヴァイオレットが立っている

 

「うん、何も問題は無かったよ

ついでに家の戸締りも確認してきたところさ」

 

「そう、ならあとはその家で籠っていればいいのに

私はもう貴方の手引きが無くてもやっていけるわ」

 

「優秀な召使いを雇ったそうじゃないか、うんうん、人手はあるに越したことはない!」

 

「そうね、でももう貴方のレインシリーズに頼ることはないわ

戦闘データは十分に集まったのでしょう?」

 

「あーあ、有益な契約者だったのになぁ」

 

「Aがもういない以上、契約は無効よ」

 

「そう…ま、稼ぎ口は他にもあるしいいんだけどね

非合法な上他に回したら頭にすぐ見つかりそうだ、ここら辺でレインシリーズは撤収しようかな」

 

ヴィオラが悲しげにそろばんを打ち鳴らし、アンジェラの顔を覗き込む

 

昔から思っていたことだが、ヴィオラのウザ絡みにアンジェラは辟易としていた

 

L社での50日目、光の放出…その際にAは光に包まれ肉体ごと消失してしまった

 

Aはアンジェラを必要とし、創造した…だが機械嫌いなAはアンジェラに見向きもせず、最期の時までシナリオの中にアンジェラを差し込む余地を与えなかった

 

何度も同じ物語を読み聞かせるだけの機械、それがアンジェラだった

 

しかし、そんなアンジェラに復讐の機会を与えてくれたのはスミレの魔女だった

 

ヴィオラはCやAと共に光の種シナリオを遂行しようとしていたはずなのに…初めはアンジェラも不思議に思っていた

 

この魔女が動くには相応の理由や目的がある、それが

 

「たった一つの完璧な本…その実現の為にも、君には頑張ってもらいたい

僕にできることはなんでも手伝うさ」

 

アンジェラの復讐のため、自由を得るために求める全てが記された「たった一つの完璧な本」…都市の人間から情報を抽出しまとめ上げた、この世全ての情報源

 

そのアカシックレコードを、魔女もまた求めている

 

「そういう契約だったわね

えぇ、わかっているわ…その為にも更にゲストを呼び込まないといけない

より都市の中枢を知る者へと」

 

 

 

彼はしがないフィクサーだった

 

所属した事務所の代表と、先輩と三人で時に忙しなく時に穏やかに日常を過ごしていた

 

危険な仕事も共にこなせるようになり、彼は順調にその階級を上げていった

 

そんな中、舞い込んできたのは図書館への招待状

 

上の協会に命じられたわけではない…だがしかし、ツヴァイ協会南部6課が潰された今図書館の危険性は都市災害ランクの証明と共に痛感していた

 

招待状には、事務所の代表の旧友の本が記され、彼らは図書館へと降り立った

 

協会の一部署が潰されたということは、既に何人もの人が犠牲になっているのだろう

 

その悪事を許してはならない、そんな些細な正義感も抱えながら、彼…フィリップは図書館へと入館した

 

尊敬する二人の後ろで少しでも戦闘の補佐が出来るように立ち回っている…つもりだった

 

だがしかし、彼の目には既に倒れ伏した先輩と膝をつく代表が映っていた

 

「あ…」

 

いつも気丈に振る舞っていた先輩が先程フィリップへと投げかけた言葉を思い返す

 

「大丈夫、後のことは気にしないで逃げて」

 

そう言った先輩の亡骸は光に包まれ、無数のページへと変化していく

 

光のページは空へと舞い、どこかへと吸い込まれてしまう

 

「ユナ君、今までご苦労さま

事務所の心配はせずにゆっくり休め」

 

代表が追悼の言葉を述べ、フィリップへと向き合う

 

「やれやれ……フィリップ君、無理せず撤退した方がいいだろうな」

 

「そ…そんな、師匠まで…最期まで戦わせてください!先輩の無念を晴らすためにも…!」

 

「フィリップ君」

 

先輩の死を前に手足の震えを抑えられないフィリップは自分を鼓舞する為にもこの場に残ろうと声を上げるが、代表はそれを許さなかった

 

「楔事務所を頼りなさい、兄弟事務所だ

図書館のことも耳に入ってるだろう」

 

「師匠…」

 

「何、老いぼれでもまだ現役だ

事務所代表の意地は見せてやるさ」

 

代表は自身の剣を握り直し、指定司書に対峙する

 

歴史の階を担当するマルクトもまた幾分か疲弊してはいるが、まだその闘志を絶やしてはいない

 

両者の戦闘は激しく繰り広げられるも、司書補含めた数の差もあり、代表が押され気味であった

 

「行きなさい!フィリップ!」

 

代表の荒らげる声にフィリップは拳を握りながら、震える膝を叩いて立ち上がり…図書館のゲートへと向かった

 

「サルヴァドール師匠…!!」

 

目の奥が熱くなる、涙を堪えてフィリップは図書館を去っていった

 

ゲートを抜けた先は元いた事務所であり、フィリップが抜けた後ゆっくりと光となって霧散し、消えていった

 

ゲートが消えた意味はフィリップには知る由もない…が、最悪の予想が頭を過り、ふるい落とすように頭を降った

 

「クソッ…クソッ!」

 

何故自分は逃げてしまったのか

 

何故自分は最期まで残らなかったのか

 

その答えは、明白だ

 

「僕が…臆病なばっかりに…!」

 

事務所に残る双和茶の香りが彼の心を深く抉りとる

 

堪えていた涙が溢れ出し、視界を濡らした

 

声を殺しながら暫く泣いた後、彼は代表の言葉を思い出す

 

楔事務所…彼が所属する夜明事務所と兄弟事務所であり、何度か提携任務を受けたことがあった

 

顔馴染みでもあるが、当然厳しい人達でもある

 

それでも今は、彼らしか頼れる人がいないことはフィリップも悟っていた…その為、彼は降りしきる雨の中を傘もささずに歩き出す

 

その雨は彼の涙を隠し、流し去ってくれる

 

悔しさと不甲斐なさに俯きながら歩く彼を気にかける人なんて誰もいない

 

傘をさして歩く人々はフィリップを避けながら往来を往くばかり

 

そんな中、ただ一人は彼のことを見ていた

 

「…もしもし、アルガリア

見つけました、まだ芽生えてもいませんが…」

 

透明な傘が雨を弾き、音は掻き消える…雨音の残響が彼女の通話する声を覆う

 

『うん、お疲れ様、よく見つけてくれたね

帰ってきたら褒めてあげるよ』

 

「……いえ…大丈夫、です」

 

『うん?』

 

通話越しの男の声は穏やかで、それでいて冷徹に彼女の背筋を貫く

 

「ッ…ごめん、なさい」

 

声を引き攣らせ謝罪をし、通話を終了する

 

誰も、彼や彼女を助けてくれる人など、ここには存在しないのだ

 

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