Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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Love TownⅠ

 

俺は翼の傘下である中小企業の平社員だった

 

日々鳴り響く電話、減らない書類の山、怒鳴る上司の声は毎日俺に悪夢を見せる程

 

生きるために仕事をしているのか仕事をするために生きているのかわからなくなった頃、俺は一大プロジェクトのメンバーに選出された

 

成功すれば出世が約束されたプロジェクト、俺もこんな死んでるような毎日を抜け出せる希望を見出し、今までよりも意欲的に業務に励んだ

 

その日は離れた巣の契約会社との会合があった

 

今後の事業を左右する、絶対に失敗できない仕事

 

出張の為に俺が乗り込んだのは、W社が運営するワープ列車

 

10秒で目的地へと到着出来るその列車の乗車賃は決して安くはないが、会社も経費を落としてくれる為俺はそれを利用した

 

座席に座り、シートベルトを付け、発車のアナウンスと共に目を閉じた

 

次に目を開けた時は目的地に着いているはずだ、そう期待しながら…

 

 

……

 

………俺が再び目を開けたのは、30秒が経った頃

 

まだ停車のアナウンスもしなければ、他の乗客も微かに狼狽えている様子で周囲を見渡している

 

「何か事故でも起きたのだろうか?」、そんな不安を抱えながら俺は再び目を閉じた

 

普段からの仕事の疲労も蓄積していたのか、俺は二度目の閉眼と共に眠りの底へと落ちてしまう

 

 

 

俺が再び目を覚ましたのは周囲の喧騒によるものだった

 

瞼を開けるも、未だワープ列車は停車した様子ではない

 

その事に混乱したであろう乗客達がパニックを起こしているようだった

 

大人しく聞き耳を立てていると、どうやら発車してから三日経ったらしい

 

丸三日も寝ていたことへの衝撃と、会合に遅刻してしまったという焦燥から心臓が痛い程に脈動する

 

しかし俺には、どうすることも出来ない

 

目的地に辿り着かなければどうすることも出来ないのだから

 

 

 

凡そ十日が経った

 

何かおかしい、そう自覚したのは五日経った時だった

 

腹が減らない、排泄の気配もない、風呂に入ってもいなければ体に痒みや垢が溜まる様子もない

 

生理現象が一向に訪れない、水も飲まなくても生きている

 

普段の疲労感から最初は寝て過ごしたが、さすがにもう眠気も失いつつある

 

ワープ列車が故障したのであれば、どうにか助けを呼ばなければならない…そう思い携帯電話を見れば当然のように圏外だった

 

少しでも打開策を講じようと周囲の人と話し合ったりもした

 

けれど、何も進展はない

 

 

 

二週間経った頃、来るかもわからない助けを期待し精神を病んだ乗客の何人かが半狂乱し自傷行為を行った

 

その時に流れた血は滴り落ちることはなく、その人の体から離れることは無かった

 

いつまでこの時を待ち続ければいいのだろう

 

はやく、はやく、誰か助けてくれないか

 

そう期待を持つ程度には、俺の心はまだ壊れていないのだろう

 

 

 

一ヶ月経った

 

俺はもう会社に行かなくていいということに気がつき、有頂天となって泣き喜んだ

 

どうせ助けが来るかもわからないのだから、死ぬまでここで自由な時間を過ごしてやろうと考えた

 

退屈を持て余した他の乗客は自傷行為だけじゃ飽き足らず自殺行為にまで及んだ

 

それでも不思議なことに人が死ぬことは無い

 

首を切っても血で繋がって離れない、心臓を貫いても鼓動は続き、身体の部位を叩き潰しても動き続ける

 

傷が治ることは無いが、生命活動が止まることも無い

 

痛みはあるようで、何も無い時間を何とか過ごす為の娯楽へと変じてしまっている

 

なんて勿体ない、痛みも苦しみも嫌じゃないのか

 

そんな無為な行為をする必要なんて俺にはなかった

 

俺はただ、ようやく得た自由を満喫するのに精一杯だった

 

 

 

三ヶ月経った

 

自分や他人の肉体を痛めつけ、傷つけ、潰し折り削り千切り捻る奴らが溢れ返っていた

 

流石に俺も恐怖した、自殺行為までは俺に害が及ばないだろうから見逃していたが、さすがに他人まで傷つけ合うのは看過ならん

 

俺に被害が及ぶ前に、俺は前の車両へと逃げ延びた

 

7両には冷静に乗客を導く医者と看護師がいると聞き、彼らに助けてもらえるように懇願した

 

俺は嫌だ、痛いのは嫌だ、苦しいのは嫌だ

 

でももう暇な時間も飽きてしまった、今はただ終わりの見えない時間と背後に迫る殺人者達への恐怖に板挟みになってしまい、俺まで気が触れてしまいそうだった

 

泣きついた先の医者と看護師…ゼホン様とエレナ様は、深刻な顔をしながらも力強く俺達を説得した

 

他人を傷つける悪者を許してはならないと

 

悪者は懲らしめてやらねばならないと

 

 

 

四ヶ月経った

 

俺はこの列車で得た仲間と共にひとつになった

 

一人だった今までの俺と違い、共に戦う仲間がいる

 

そのおかげで俺とは思えない程の力を得た

 

力強い拳は座席をひしゃげさせ、悪人をひたすら潰して潰して潰して回った

 

それでも死なない悪人どもめ、正義の拳でだまらせてやる

 

 

 

ごかげつたった

 

ぜほんさまとえれなさまのおきにいりがめをさました

 

とてもおおきくて、つよそうな、とみーとめありー

 

さいきん、あくにんどももきょうぼうになってきた、おれたちだけじゃまえにいるみんなをまもりきれない

 

たすけをよぼう、きっととみーとめありーがなんとかしてくれるさ

 

 

 

じゅうねん

 

とみー と めありー が あくにんを たお たおしてくれる

 

つよい かっこいい ぼくらの あいのまちの ひーろー

 

 

 

ぼくらのおかあさま が しょう しょうたいじょ? を もってきた

 

とまりーと いっしょ に としょ かん に いくようにに て

 

ごほ ごほうび ぼくらも ほし ほし いい な

 

がん がんばるから み みてて みててね おかあさま おとうさま

 

そそ それじゃ あ

 

いって きます

 

 

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