Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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Love TownⅡ

 

「そんなことをわざわざ聞きに来たの」

 

ロイド、カウレス、ココ…三人の司書補達はかつて共にL社で働いた派遣社員への疑問を払拭できないまま、アンジェラへと質問をしに行った

 

アンジェラは管理人Xの補佐としてL社の運営にも携わっていた上級AIであり、この図書館でも頂点に立つ館長としてあの者のことを知っているはず

 

そしてその期待通りにアンジェラはその疑問への答えを持っていた

 

「アレは契約満期を迎えたわ、だからもう職員としてこの図書館に訪れることはないの」

 

「そうなんですね、ありがとうございますアンジェラ様!

ほら良かったわねカウレス、ロイドは残念だけど」

 

「うっせぇっすよ」

 

「…」

 

カウレスは嫌っていた彼女ともう共に働くことがないと言うのに、どこか不満そうな顔をしている

 

「お言葉ですがアンジェラ様、何故契約を継続しなかったのでしょう

アイツは…レインはその実力は確かです、ALEPHクラスの幻想体や試練も単独で鎮圧できた程の」

 

「どうして強力な職員だったのに切ったのか、そう聞きたいわけ」

 

「…はい」

 

アンジェラは読んでいた本を閉じ、カウレス達へと向き合う

 

機械的な瞳のはずなのに、どこか人間らしい眼差しだった

 

「確かにアレは強力な戦力よ

けれどそれと同時に悪質的な害悪因子でもあるの

貴方達、あの強さを直接見ていたはずよね、どう思ったのかしら」

 

アンジェラからの質問に三人は少し狼狽えながらも回答をしていく

 

「俺は…頼もしいと感じ…ました

一騎当千の武力、他人の協力を必要としない圧倒的な強さは他の職員の生存率も上げてくれた…ので」

 

「俺は悔しかったです

アイツは確かに強く、その強さで単騎戦において幻想体を鎮圧してきました

けど、わざと他の職員を幻想体に殺させて肉壁にしたり、エネルギーを生産させたり…自分以外を何とも思ってないのが許せない

実際、俺も何度かアイツに殺されましたから」

 

「私は羨ましかったな〜

私にもあんな強さがあったらたくさんの人を助けられるじゃない?確かにあの子に何度も使い捨てられたけど…私にはその自覚はないし、あの会社でなら仕方の無いことじゃないかしら」

 

「皆、アレを有力だと認めているのね

それがアレを図書館へ連れてこなかった理由よ

特に危険な状態に近いのは…ココ、貴方の羨望よ」

 

突然名指しされ、しかも「危険」と言われたことにココは驚愕する

 

「え…どうしてなのか、聞いてもいいですか?」

 

「羨み、「私もそうなりたい」と願うこと

その願いは利用される絶好の隙間なの」

 

アンジェラはそれだけ言い残して三人を追い出した

 

どうやらそろそろ次のゲストを迎えなければいけないらしい

 

「え…えぇー!どうしてカウレスじゃなくて私が危ないの!?」

 

「知るかよ

とにかく…まぁ、アンジェラ様がああ言ってたし今後は二度とアイツと仕事しないで済むんなら清々するぜ」

 

「だとしても、ネツァク様には一度謝った方がいいんじゃないすか

あの人にもいろいろ思うところあったみたいすから」

 

ロイドの言葉にカウレスはただ鼻を鳴らすだけ

 

ココは技術科学の階の為一度別れ、二人は芸術の階へ戻って行った

 

「あ!お二人共ようやく帰ってきた!たた、助けてくださいぃ!あの二人をどうにかしてください!」

 

芸術の階で出迎えたのは赤毛を二つに結んだ女性司書補…カレン

 

泣きべそをかきながら帰ってきたロイドとカウレスに必死に懇願してる

 

その視線の先には、酒の空き缶や空き瓶に囲まれ謎の踊りをするネツァクとローランの姿があった

 

「そこでぼくはこう指示したんれす、中央本部の木こりを鎮圧するよぉにって

そうしたらレインは安全チームから目にも止まらぬはやさで中央本部まで駆け抜けて…」

 

「わはは!ネツァク〜それ三回目だぞぉ〜!」

 

目も当てられない泥酔っぷりは割と珍しくはないんだが、目覚めたばかりのカレンには少々困惑せざるを得ない光景だった

 

ロイドの溜息とカウレスの血管が切れそうな音、そしてアンジェラが芸術の階へ訪れたのはほぼ同時だった

 

「こんなところにいたのね

全く…仕置は後で考えるとしましょう」

 

アンジェラが指を鳴らすとローランの腕の関節が有り得ない方向へと曲がる

 

カレンの悲鳴とローランの絶叫に乗じてロイドはネツァクを背後から羽交い締めにし、失神させる

 

「ああああアンジェラ…様…ご、ご機嫌麗しゅう…」

 

「新たなゲストが来るわ、直ぐに酔いを醒まして支度しなさい」

 

「君のお陰で痛みで目が覚めたよ…だからこのぶら下がった左腕を治してくれな…くれませんか…?」

 

情けない声で悶え懇願するローランに、アンジェラは冷たく言い放つ

 

「暫くそのままでいなさい、次のゲストは芸術の階に接待してもらうから」

 

アンジェラの言葉に芸術の階一同は顔を見合せ、「指定司書の頭を冷水に漬ける」か「ひたすら氷を指定司書の口の中に突っ込むか」で悩み始めた

 

 

 

芸術の階の司書達が接待するステージへと並び立つと、その先には見るも恐ろしい怪物が立っていた

 

「あなたたちがおかあさんのいっていた、「ししょ」さんですか?

はじめまして!トマリーっていいます!よろしくおねがい、します!」

 

肉と肉を継ぎ接ぎ合わせたような巨大な体に、二人の男女の顔が浮かんでいる

 

「うっ…!?」

 

ただでさえその周辺にも目や口が歪に合わさった肉の塊が並んでいるため、カレンは吐き気を催す

 

それはかつてL社にいた幻想体、「何もない」を連想させる

 

「なんすかあれ…あれが、都市の人間だって…?」

 

「…」

 

ネツァクは億劫そうにトマリーを見た後、武器を握り直す

 

「全員気をつけてください」

 

今まで接待してきたゲストとは明らかに違う

 

今までのゲストは義体や被り物をしているゲストだっていた、それでも人シルエットは保っていた

 

ここまで人として逸脱している存在は、もはや幻想体を相手していると思った方が良いだろう

 

「カレンはあまり無茶しないように、俺らのサポートをしてくださいっす」

 

「は、はいぃ…」

 

臆病なカレンは震え、涙目になりつつも武器を握り直した

 

接待が、始まる

 

突然、庇いきれない程の集中攻撃がカレンに向けられた

 

三体程は攻撃の矛先を変えることは出来たものの、肝心のトマリーの強力な攻撃がカレンの頭を殴打する

 

「カレン!」

 

頭を打ったカレンは意識が朧気で混乱状態に陥っている

 

少し休ませないと動けないだろう

 

「幻想体の力で回復させます、カレンはひとまず後ろへ下がらせてください」

 

銀河の子の幻想体ページを獲得し、ネツァクはそれをカレンへと付与する

 

次の攻撃は標的が分散しているおかげでカレンは守られた

 

それでも、他の肉塊を少しづつ削りながら…最大の敵トマリーに苦戦していた

 

「しかくにしようかな、さんかくにしようかな」

 

そんなことを呟きながらトマリーの重い拳をカウレスが受け止める

 

「クッ…ソが…!」

 

なんとか致命傷は免れつつ、反撃しても攻撃ページの火力がイマイチ足りていないのか、トマリーを倒すには至らない

 

「どうするっすか?アレ、もはや殺人兵器っすよ」

 

「異界のエコーも使ったんですけどね…」

 

「おいカレン!まだ立てるか!」

 

「ひゃいぃ…でも…私もそろそろ限界で…」

 

全員、ゲストの本から抽出した攻撃を繰り出すのに必要な光も足りなければ体力も危うい

 

接待を始めて一時間は経つだろうか、そんな中再びトマリーがカレンを狙う

 

素早い動きで詰め寄り、誰も庇うことが出来なかった

 

「あ……」

 

カレンはなんとか応戦するも、トマリーの圧力により首をへし折られてしまう

 

「カレン!」

 

「このっ…」

 

カレンを殺し動きを止めたトマリーを集中的に攻撃する

 

しかし、体力値はまだ三分の一も残っている

 

次のトマリーの攻撃を受ければ全員死んでしまう…だがもう為す術がない、諦めかけて攻撃重視で攻め込んだ

 

トマリーの拳がカウレスに直撃する

 

吹き飛ばされたカウレスは恐らく死んでしまっただろう、それに意識を割くことなくロイドが剣を突き立てる

 

「いたいです!いたい!いたいのはいやです!」

 

振り払われた腕により、ロイドも骨をいくつか折られ倒れる

 

「カウレス…ロイド…!」

 

慌てたネツァクがトマリーの攻撃を回避し、斬りかかる

 

それでもあと一歩足りない

 

「ここまでですか…!」

 

トマリーが再び立ち上がった時、トマリーは背後からその肉体の中央を貫かれる

 

「い…いいぃぃいいいぃぃい!!」

 

剣を貫いたのはカウレスで、虫の息ではあるもののなんとか生き延びている

 

「カウレス、死んでなかったんですか…!」

 

「カレンが保護を付けてくれるページを使ってくれたおかげでな」

 

カレンは死ぬ直前、先日夜明事務所から抽出した防御ページを使っていたようで、そのおかげで辛うじて死は免れていた

 

「相手が混乱した今しかねぇぞ指定司書!!」

 

カウレスはもう動けないのか膝をつき、代わりのトドメをネツァクに譲る

 

声に焚き付けられたネツァクは最後の一手、剣を振り上げトマリーを斬る

 

縦に横断されたトマリーは、その二つの頭も切り離されてしまう

 

そのうちの片方…女の顔が、小さく呟く

 

「あぁ…いたい…さみしいわ…どこなの…トミー……トミー……」

 

その言葉を最期に、トマリーは光に包まれ本へとなった

 

絶対が完全に終わったのを実感し、ネツァクは大きく息を切らし、溢れ出る汗を拭うこともせずにへたりこんだ

 

「…もう…勘弁してくれよ……」

 

隣人への愛で築き上げられた愛の町

 

小さな箱庭の愛もまた、本として図書館に並べられることとなった

 

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