なんとか出勤時間ギリギリにタイムカードを通し、更衣室まで辿り着いたカレンは、自分のネームプレートが差し込まれているロッカーを開く
そこには、どこか個性的なコスチュームと武器が収納されており、カレンはそれをまじまじと見つめる
「懺悔…この装備達の名前?なんだかマニアック…私に何を懺悔しろって?
床に着いた傷をそのままにして出てきちゃったこととか?」
「独り言もいいですが、早くなさってください
新入社員に向けてのブリーフィングがあるんです
アンジェラ様からの社内放送までに終わらせないといけませんので」
のんびりと独り言を呟くカレンに声をかけたのは、先程エレベーター前にてカレンを出迎えていた女性だった
「ひゃっ!?す、すすすすみません!」
カレンはただでさえ新入社員の身でありながら初日から遅刻ギリギリの出勤をしたのだ、そこで更に遅れて他に迷惑をかけ続けるのは社会人としてカレンも危機感を覚えた
女性は更衣室の外でカレンを待っている
カレンは一分以内に着替えを済ませ、最後にロッカーの扉に設置されている鏡を見て身だしなみをチェックし、更衣室を出る
「終わりましたか、それでは所属チームのメインルームへ行きます
ついてきてください」
カレンが更衣室から出てくるのを確認すると、女性は速やかに移動を始めた
カレンはその後に続き歩き出す
目的地に向かう最中、カレンは静かな空気に耐えきれず、女性に質問を繰り出す
「あの…貴方は?私の上司さん…なんでしょうか」
その質問に数秒の間を作った後、女性は返答した
「私はレイン、安全チーム所属のエージェント兼チーフです
貴方の上司であり先輩…そういう認識で差支えありません」
レインと名乗った女性はカレンの方を見ることもなく淡々と告げる
「レインさん、ですね
私は…」
「カレン、26歳、158㎝、51㎏
R社巣内の一般家庭出身、父母の三人家族で兄弟はいない
父は不動産会社の経営社長、母は秘書
年収670…巣の不動産ならまぁまぁですね」
レインは抑揚のない声でサラサラとカレンの個人情報を口頭で述べていく
カレンはそれに対し驚愕し、一旦足を止めてしまう
「な、なんでそんなこと…!?」
「全て履歴書に記載されていますよ、自分で書いたことを覚えていないのですか?」
それを聞いてカレンは一度安堵したと共に、別の疑問を浮かべる
「それって…レインさんは私の履歴書を全部把握している、ということですか?」
「はい」
その疑問に対し、レインは短く肯定の返答をする
そんな話をしているうちに、廊下から広い空間へ辿り着く
そこは緑に統一された空間であり、バラのオブジェクトが飾られている
「ここが安全チームのメインルームです
皆さん、お待たせしました、ブリーフィングを始めましょう」
案内されたメインルームにはカレンやレインのように風変わりな服を装備し、武器を持っている職員が二人ほどと、スーツのみの職員が二人いた
「こちらはカレン、新入社員です
カレン、二人は出勤三日目のロイドとカウレスです」
紹介されたのは装備をしている二人の男性
青い髪の長身がロイド、茶髪で体格がいいのがカウレスだった
「そして…ロイド、ネツァクさんは?」
「来てません、またさぼってるか二日酔いじゃないすか」
「…」
ネツァク、という人名にカレンは首を傾げる
レインは無表情は変わりないが、どこか呆れ返ったような冷たい眼差しをしているようだった
「はぁ…構いません、なんだかんだ始業には来ますから
本日は新しいアブノーマリティが来ます、個別番号はF-01-87
この作業にはカレン、貴方に行ってもらいます」
名指しで初の仕事を言い渡され、カレンはびくりと肩を振るわせる
しかし、意気込むように拳を握り締めては、明るい声色で返答する
「はい!頑張ります!」
アブノーマリティ、という存在については新入社員研修時に資料から知識を得ている
彼らは人ではない化け物達であり、L社はそんなアブノーマリティ達を管理し、彼らからエネルギーを生み出しているのだ
彼らアブノーマリティに行う管理作業は四つ
本能、洞察、愛着、抑圧である
「始業には管理人から作業内容が通達されるでしょう
他ロイドとカウレスはいつものようにO-03-60とT-01-54の管理を
これでブリーフィングを終わります」
レインがそう言い渡した時、メインルームに設置されているスピーカーから音声が流れる
『社員の皆さん、おはようございます
今日も皆さんの働きに期待しています』
放送はそれだけ告げ、終了する
優しそうな女性の声だった
「今のがこの会社のほとんどを管轄する上級AI、アンジェラ様です
さぁ皆さん、これから管理人からの指示があるので聞き逃さず業務に集中するように」
レインの鶴の一声を境に、職員達は己の業務に取り掛かり始めた
「レインさんレインさん」
そんなとき、カレンがレインに小さく声をかける
「なんですか」
「あのスーツの人達は…?」
カレンは紹介されていないスーツ姿の職員を指す
「彼らはオフィサー、アブノーマリティの管理作業に割り振られていない雑務係のようなものです
深くはお気になさらず」
「はぁ…」
オフィサー、と呼ばれた職員も、メインルームを出たり入ったり忙しなく働いている
『カレン、F-01-87の洞察作業を』
スピーカーからは、先程と同じ女性の声が響く
「あ、呼ばれましたね
行ってきます!」
カレンはレインにそう言い、メインルームを出た
薄暗く生臭い廊下に顔を顰めながら、収容室に到達し…その扉に手をかけた