私はかつて都市で歌と踊りを披露する仕事をしていたわ
カメラの前で可愛い顔を見せて、多くのファンに会いに来てもらう
握手や写真撮影、ボイスメッセージ…たくさんの繋がりを大切に活動してきた私は、ある日からそのキラキラとした生活が一変する
マネージャーが大きな仕事を持ってきてくれて、他のチームメンバーよりも一躍名前を売れると社長も喜んでくれた
私はその仕事先…ドラマのプロデューサーと一度会って会食をしていたの
人と仲良くするのは得意だし、愛嬌と話術でディナーは成功しプロデューサーも私を気に入ってくれた
これで安泰だな、って思ったのよ
でもその男は、私の腰を抱いて、
あとは…言わなくてもわかるでしょ?
枕を重ねて私は名を売った
私のファン達は何も知らずに純真な私という偶像を見て楽しんで
でも私は大人の欲に汚されてしまって
その外と内の違いは私の自己を歪ませ、溝を深く大きくしていった
汚いと思う私は綺麗な自分を演じ続け、いつしか心が壊れてしまいそうになった時…もう、どうにでもなれって思ったの
自分という心を守るため、仕事がなくなっても命がなくなってもどうなってもいいやって
私は会社の人達や取引先の人達の都合なんて全部無視して…私の肉体交渉を求めてきた男を殴った
それまで従順だった私が初めて反抗してきて、その人は驚いて動けなかったんでしょうね
反撃されるのが怖くて、私は追い討ちをかけるように殴り続けた
歯が全部折れて、顔は腫れ上がり、片目は潰れ…その時になったようやく私は意識を取り戻した
気がつけば私のランジェリーは返り血でダメになっちゃって、手はとても痛くて皮が捲れてた
咄嗟に逃げ出した私は残ったお金で引っ越して、会社にも退職のメールを送って…連日テレビでニュースになってたと思う、よく覚えてないけど
……それから、生活費を稼ぐ為にバイトを転々として…
ある日、新しい翼の入職者希望の広告を見かけたわ
地位も経歴も年齢も問わない…条件としては申し分なかった
翼の企業なだけあってお金も十二分に貰える、だから私は就活した
無事に翼…ロボトミーコーポレーションに入社してからは大変な日々だった
人殺しの化け物達を管理してエネルギーを作る
少しのミスが多大な被害を生む、とても神経が摩耗するような仕事
でも、そこで出会った他の職員達とも仲良く出来たし、割と性に合ってるのかもなー?って思ってたの
L社が墜ちて図書館になり目覚めた後も、懐かしい顔ぶれや知らない人の形をしたセフィラの方達と過ごす日々は、以前よりも柔らかい空気で楽しくやれてる
変わったのは、戦う相手は幻想体…もだけど、主に人間ということ
都市の人達が本を求めてやってくる、それを接待する
ゲストの本を得て図書館はどんどん知識を取り入れてくんでしょうね
貪欲に、肥え太っていく
「ココ、準備はよろしいですか」
私の上司であるイェソド様が声を掛けてくれる
L社の時は包帯ぐるぐる巻きのロボットだったのに、人の肉体を得たイェソド様は濃い紫色の凛々しい男性になった
正直なところ、L社の時からその厳格たる性格は好ましかったんだけど…人の体になるとより可愛らしさも出てきちゃって私としてはより一層好みなの!
…っと、いけないいけない、もうすぐ新たなゲストの接待が始まるんだった
久々にあの時の感触を思い出してボーッとしちゃってたわ
「お待たせしましたイェソド様!いつでもいけます」
「貴方が僕らの中で一番強いんです、頼りにしてますよ」
イェソド様からの期待に更にやる気を滾らせ、接待の舞台へ私は歩み出した
静かに深呼吸を繰り返し、精神統一を図る
油断ならない強敵だというユジン部長からの忠告を真に受け止め、戦いの場へ踏み入った
「警戒を怠るなよゲルダ、お前も疲れてるだろうがユジン部長の足を引っ張ることだけはするんじゃないぞ」
「勿論ですヴァレンティン先輩、皆さんの足でまといにだけはなりませんよ」
「ゲルダだってもう新人じゃなくて期待のエースなんだよ
敬語を使えなかったあの頃とは違うんだから、いつまでも心配するのもどうかと思う」
「いえ、テンマ先輩…皆さんの真剣な指導のおかげで今のあたしはここにいます
心配していただけるお気持ち、痛み入ります」
今回ゲストとして訪れたのは、ゲルダが所属するシ協会南部2課のフィクサー達
連日回される膨大な業務に続く、図書館への潜入
指定されたのはブレーメンの音楽隊の本
南部2課を率いるユジンとその部下達が図書館へ入館し、相対するのは技術科学の階
一面の紫は煌々としているようで薄暗さを感じさせ…
ゲルダはその色に、表情を歪ませる
「どうかしたか、ゲルダ」
「ユジン部長…いえ…なんでもありません」
先日、尊敬する人物であるイナと再会したにも関わらず、彼女はゲルダを襲い逃走した
命を奪われることも無く、また裏路地の夜に巻き込まれないように廃屋へ放り込まれた状況からイナも不本意なのだろうということは、ゲルダには痛いほどわかってしまった
だからこそ、彼女を助けたいという気持ちが逸る
「懸念することがあるのなら進言しろ、戦いの最中集中力が切れる要因は減らしておくことだ」
「…本当に些細なことです、知り合いを思い出して…
でも、問題ありません
この仕事を終わらせ、ユジン部長が支部長になった暁には、その知り合いを助け出したいという覚悟が定まっただけです」
「…なるほど、気概に繋がったのならそれで良い」
ユジン達は敵対する司書を見据える
立ち姿や装備は多種多様だが、どこか「借り物」のように見受けられるそれは、情報にあった「ゲストの力を使う」というものだろう
フィクサーや裏路地の組織達が図書館に入っては帰ってくることは無かったことから、多くの人々が本になり、司書達に使われているのだろう
可能ならば討伐対象として制圧したいところだが、今のユジン達のコンディションは最悪に等しい
欲張らず、与えられた仕事だけを遂行するよう改めて確認したところで…接待が始まった
シ協会は暗殺任務を主とする
故に単騎の仕事も多く、フィクサー一人一人が高い戦闘能力を有している
団体戦は不得意とするところだが、団体戦術が出来ないわけではない
「ヴァレンティンは左翼へ、テンマは後方から回り込め!」
ユジンの的確な指示の元、圧倒的な戦闘力と共に司書達は押されていた
「決して踏み込み過ぎないように、攻撃を防ぎつつ各個撃破を意識してください」
司書達の方もイェソドの言葉を聞き入れ固まって応戦する
一見ゲストの方が優勢のように見えるが、彼らは本調子ではない
蓄積された疲労により長期戦になればなるほどその刃の光は鈍くなる
「…!」
「テンマ!」
ゲストの一人が倒され、本になる
その仇を取らんばかりに、今度は司書補の一人が倒される
「先輩!下がってください!一度回復して…」
「いや、このままじゃジリ貧だ…ゲルダ、ユジン部長のサポートを頼んだぞ」
ヴァレンティンは残る体力を使い司書補の一人に猛攻撃を繰り出す
残るユジン達が少しでも楽になるように、少しでも相手の戦力を削れるようにと刀を振るい、司書補一人を討ち取る
光に包まれながらヴァレンティンが力尽き、膝をついた時…背後から迫る気配に背筋を凍らせた
(…なんだ…この気配は…これは、これはまるで…)
ヴァレンティンが背後を振り向くよりも先に、眩い桃色の刀が彼の背中を貫いた
「ごめんなさいね…でもこっちも必死なの!」
朗らかな笑顔と輝く金髪
抽出したばかりのブレーメンの音楽隊の装備を着た、技術科学の階の戦闘力の要…
司書補ココが、ヴァレンティンの血をものともせず彼を貫いた刀をそのまま振り上げる
半分両断された彼の遺体は光となり、本となる
返り血を浴びても尚輝く笑顔は…まさに
「さぁ!ゲストの皆さん!
お互い心苦しいと思うけれど…お互いの想いをぶつけ合い、高め合っていきましょうね!」