招待状で訪れるゲストの訪れる直前の様子を見れる光のスクリーンがある
黄金に輝くメインホールで、普段ならローランとアンジェラがゲストの経緯を確認するわけだが…
「同席してもいいか…なんて、珍しいことを言いだすのねネツァク」
普段なら接待に指名されるまで担当の階で寝ているか絵をかいて自由に過ごしているネツァクが、アンジェラに交渉していた
特段、一緒に見るのが禁止されているわけでもなければ、事前にゲストを知るという意味でも勉強熱心なマルクトやイェソド、ティファレト辺りや司書補達も見に来ることはそう少なくない
「ええ…なんでか今回は…こう…胸騒ぎがして」
「…別に構わないわ、自由にしたらいいわよ」
アンジェラの許可をとったネツァクは、普段あまり訪れないスクリーン前に近づいてみる
今回は総記の階が接待するようで、総記の司書補達が既に集まっている
そこには当然、ローランもいた
「あれ、ネツァクが来るなんて珍しいこともあるもんだな」
「そうでしょうね、僕も何故かわからないんですけど…今日は、来なきゃいけない、そんな気がして」
「ふーん…嫌な予感か?それともいい方?」
「どっちかとは言えませんが…嫌な方だと思います」
そんなことを話しているうちに、アンジェラが全員の前に立つ
すると騒がしかった一同は静まり、アンジェラが一度指を鳴らすとスクリーンに今回訪れるゲストの様子が映し出される
スクリーンに映ったのは…
「…マジかよ」
ローランが苦い顔をした相手は、青い残響…アルガリア
ローランは今までのゲストの映像でも度々映るアルガリアのことを知っていたし、アンジェラにも彼のことは共有済みだった
今までのゲストの中で、アルガリアに誘導され訪れた者もそれなりにいる
図書館絡みで何かを企んでいることは予想していたが、とうとう訪問することを知ると彼の中で様々な感情が渦巻き始める
(いずれ来るだろうとは思っていたが…面倒だな
あいつは一筋縄じゃいかねぇ…どうにか対策…を……)
ローランがアルガリアに警戒していると、もう一人の人物が映る
今まで、アルガリアの周囲には様々な人間がいた
しかし、その中で唯一…まるで、図書館がゲストの周辺を観測しているのを知っているかのように、画角に移されない誰かがいた
終止符事務所を狙撃誘導した誰か
尋問を受けるセルマに過去の会話を証言した誰か
その際に、彼が呼んでいた名前は…
「…イナ…どうして…」
スクリーンに映る、血により赤く染まったローランの養子…イナ
彼女もまた、今回図書館に訪れるゲストのひとりだった
「知り合いかしら」
アンジェラはローランの様子の変化を見逃さない
「…一緒に暮らしてた女の子の話はしたよな」
「ええ」
「その子だよ
青いキチガイ…妹を喪ったショックでそのままイカれたあの男の弟子でもあった」
「そう…だから行動を共にしているのね」
「同名の別人だと信じたかったが…あの野郎…どうやってあの子をあんな状態にしやがった…!」
イナがどれほど優しい子か、長年共に暮らしてきたローランには痛いほどわかっている
だから、そんな彼女が大量虐殺をしていることが受け入れられない
必ずと言っていいほどに、アルガリアがイナを悪用しているのだろうと確信しているローランは、噴火しそうな怒りの感情を残った理性で何とか僅かに抑え込んだ
「けれど、妙ね
どうして貴方が、
あれは一般普及していないはずだけれど」
「…は?
レイン…なんだって…?」
「是は是は
随分と、愉快な
混沌とする状況の中、更に現れたのは…下層セフィラであり哲学の階の指定司書であるビナーだった
「…何か知っているの?」
「あの
正に、奇跡…と云う他あるまいよ」
ビナーは優雅に用意した紅茶を飲みながら、スクリーンを眺めている
過去を懐かしむように、追憶に思い馳せるように…
「レインシリーズの一人が…あの閉じたL社から脱出していたというの…?
ヴィオラ…ヴィオラ!どういうことなの?」
予想外の新事実を前に慌てるアンジェラはヴィオラを呼ぶも、ヴィオラは姿を現さない
本当にいないのか…はたまた、この状況を見て愉しんでいるのか
「…なぁ…ビナー…さん
その…L社から脱出したっていう…のは…何回目の頃の話なんだ…?」
それまでずっと沈黙していたネツァクが、口を開いた
彼にとってビナーは接点もなければ基本話すこともない、なんならL社で長く一緒に働いていたはずなのに、初めて話しかけたかもしれない
それでも、彼には確認しなければいけないことがあった
ネツァクの質問に対し、ビナーは紅茶を一口飲んでからゆっくりと返答する
「…確か、あれは未だ500回を超えたばかりの頃だったか…
あの人形の本質は「生存本能」…だが、其れを超え他者を命を賭して救い出した異物が居たのだよ
自身を守るE.G.Oすら他者へ施し…愚かにも果敢に怪物へ挑んだ勇者
結局は片腕と片目を失い、死体と成ったのだがね」
その話を聞いて、ネツァクの中で何かが崩れた
「…ネツァクさん
貴方は生きてください
絶対、ですよ」
俺の脳裏に残る、穏やかなのに切ない笑顔
誰かの命を使って生き残るという術を手放し、自分の命に代えても誰かを守った…俺にとって、誇りだった彼女
死んだと思っていた
あんなにボロボロになって、出血量も多くて、助からないと思っていた
もう一度会いたかった
もう一度話をしたかった
君に言いたいことがたくさんあるから
だから…いつか、いつか来る終わりの先でまた会えるんだと思っていた
けれど、君は生きていた
L社の外に逃げ延びて、今まで生きていたんだ
それを知れただけで…俺は、今までの苦しみも痛みも報われたような気がしたんだ
でも…手放しに喜べない状況だった
今の彼女は、あの頃以上に深刻そうだったからだ
姿は少し異なるが…それでも面影は残ったままなのに、今見える彼女は機械のような無機質さとは違う…あれを、俺は知っている
全てに絶望した人間の目だ
あらゆる希望、光を失った…底なしの暗闇の目
そして…あの彼女が、多くの人間に手をかけてしまっている
そうなるに至った経緯は、なんなのか
ローランは、養子だって言っていた、何か知っているのだろうか
そもそも、スミレの魔女は彼女が生きていたのを知っていたのか?知っていたとしたら、何のために黙っていたんだ?
まさか…
いや…いや、違う、それよりももっと重要なこと
彼女が、ここにくる
図書館に来る
彼女と戦うことになってしまう
また彼女が傷付いてしまう
また、あんな惨状を迎えてしまう…
それは絶対に回避したかった
…笑えるよな、もう二度と傷付く君を見たくない、だなんて
あの時…あの惨劇で
君を信じて送り出したのは俺なのに
自分ではない他の誰かを守るために戦う君を止められなかった
生きた証を俺だけでも覚えていなければ
…生き続けるという勇気を、君の願いを背負って生きていく責任が、俺にはある
その先が______
その先が
この 結果だっていうのか