重い扉は、エージェントの社員証を電子ロックキーボードのカメラに翳し、各アブノーマリティの識別番号を入力することで開錠する
カレンはその開錠手順を踏み、扉を開く
その厚い扉の向こうにいたのは、大きな案山子
肘関節から先は垂れ下がり、顔は傘で見えやしない
ただ佇んでいる、それだけで異様な雰囲気を感じ取れる
「…」
初めてアブノーマリティと対峙するカレンにとっては、緊張感で収容室が満たされているように錯覚した
ただでさえこのアブノーマリティは人より大きく、圧倒的な存在感を放っているのだ
カレンは唾を飲み込みながら、作業手順の資料を確認し、洞察作業を開始した
収容室の清潔管理、音響確認、照明点検…収容室の環境整備を行うにあたり、カレンは黙々と作業を進める
しかし、作業中に視線を感じる
視線の主は、言わずもがなわかりきっていた
案山子
それが、見えない目でカレンを見ている
目なんてないかもしれない、しかし視線はカレンを突き刺している
彼女が視線を逸らす度、案山子はカレンの方を真正面に向き直している
カレンの中に恐怖が芽生える
早く作業を終わらせようと、カレンは残りの確認作業を手早く進めた
「どうでしたか、初めてのアブノーマリティは」
一日が終わり、カレンはぐったりとした様子で更衣室に入る
初日だけであの案山子の管理を五回も指示され、カレンは消沈している
そんな時、レインが更衣室に入ってきてカレンに話を振りかけた
「お、おつかれさまです!
そうですね…あの案山子、ずっと私を見てる気がして…怖かったです
初めての事ばかりなのもあって過去一疲れました…」
「そうですか、明日も仕事はあります、今日は早く休むことを推奨します」
レインはカレンの二つ隣のロッカーを開き、装備を脱いでいく
カレンがシャツのボタンを締めた時、ちらりと見えた
上がキャミソールだけになったレインの右上腕に、何かが刻まれている
五枚の花弁の小さな花のロゴの入れ墨と、その上に「vol.1.0-575」と文字が書かれている
「…それ、なんですか?」
カレンは気になってしまい、気が付けば口から質問が零れた
レインはそれを聞き、ちらりと右上腕を見てから、シャツを着ながら答える
「ただの識別番号です
お気になさらず」
デリケートな質問かもしれなかったのに質問してしまった後悔と、返答してもらえたことの小さな喜びがカレンの心の中に入り混じる
しかし、カレンはそのを聞き、脳内にさらに疑問を浮かべる
(識別番号って…なんの?)
カレンは思う、まるで商品番号のようだ…と
しかし今目の前にいるレインは正真正銘の人間だった
人の技術が発展した世界で、人の形をしているのは人間だけのはずだ
都市には頭が定めたルール、規律があり、都市の人々はそれを守ることで都市は社会を築けている
いくつもある規律のうち、「人工知能の倫理改正案」というものがあり、それは「人工知能は人間を模した外見にしてはいけない」というものである
レインの脈打つ肌は機械の物とは思えないし、人間より機械的な物言いをしているのは、単に堅苦しい性分なのかもしれない
だからこそ、カレンはレインの腕に刻まれた番号が気になって仕方がなかった
しかし、社員寮に帰ってきたときには、カレンは疲労からかそのままベッドになだれ込むように横になった後、深い眠りについてしまった