Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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The right mission,The fate of the only mistakeⅢ

翌日

 

「異動になったんす」

 

ロイドはそれだけ言い、安全チームから教育チームの方へ向かう

 

既に報告は受けているだろうが、一応の礼儀としてロイドはレインに挨拶をした

 

「…」

 

しかし、いつもなら「そうですか、頑張ってください」といった淡々とした返事が返ってくるはずなのに、この時のレインはいつもと違いどこか遠くを眺めるように意識が集中していなかった

 

「…どうしたんすか、チーフ」

 

「知らね」

 

カウレスに聞いてみるも、カウレスは心底どうでもいいように冷たい返答をする

 

ロイドは深く追求せず、ブリーフィングに間に合うために急ぎ足で教育チームのメインルームへと向かう

 

 

 

「ロイドさん、ですね

はじめまして、私は教育チームのセフィラ、ホドです

貴方以外のエージェント達は皆新入社員だから、早速だけどリーダーをお願いしますね」

 

教育チームのセフィラは、女の声をした茶色の箱のロボットだった

 

頭についているアンテナのようなものを眺めながらロイドはぼんやりと返事をする

 

「はぁ…いっすけど」

 

「ホド」

 

数名のエージェントとセフィラがいる教育チームメインルームに、美しい女性が現れる

 

背が高く、タイトスカートのスーツの上に白衣を着ており、そのスタイルの良さは一目見ただけで誰もが息を吞んだ

 

顔の造形も、切れ長の瞳や困り眉、どのパーツをとっても崩れることなく秀麗であった

 

長い空色の髪も、一本一本が絹のように細やかで、まるで人間離れしているようだった

 

「アンジェラ!いらっしゃい」

 

ホドが嬉しそうに彼女の名前を呼ぶ

 

アンジェラ

 

セフィラよりも高位な、この会社の総管轄AIの名であった

 

「皆さん、こうやって対面するのは初めてですね

入社試験や研修説明会では立体通信でしたから

改めまして、私はロボトミー社を管理する管理人の補佐AI、アンジェラです」

 

アンジェラは柔らかい微笑みを向け、金色の瞳をエージェント達に向ける

 

「本日からここも管理人の指示により運用が始まります

搬入されてきた新たなアブノーマリティの管理、頑張ってください

ホド、皆さんのバイタルチェックや精神汚染度の管理、お願いしますね」

 

「はい!

それでは皆さん、業務を開始しましょう」

 

アンジェラはエージェント達に激励を送り、そのままメインルームから立ち去っていく

 

(人工知能の倫理改正案ガン無視じゃないか…)

 

ロイドは都市の規律事項の一つを思い浮かべながらも、会社とはそういうもんだと割り切った

 

(いつか爪…最悪調律者に襲撃されたら諦めるしかねぇな…)

 

無気力そうな姿勢のまま、ロイドは後輩エージェント達に適当な仕事の説明を行う

 

そこで、メインルームのスピーカーからアンジェラの声が響き出す

 

『ロイド、F-03-05の本能作業を』

 

ロイドを指名した管理作業の通達だ

 

「新しいアブノーマリティっすか…

んじゃ、行ってくるっす」

 

ロイドはメインルームを出、エレベーターに乗り込んでアブノーマリティの収容室を目指す

 

新たに収容されたアブノーマリティの収容室…その扉の窓をロイドは覗き込む

 

しかし、そこには何もない

 

文字通り、何にもないのだ

 

収容室の内装もなく、アブノーマリティの姿も見えない

 

窓の向こうから黒い塗料でも塗りたくられたかのように、窓は真っ黒に染まっていた

 

「…ここで死んだら、社員寮に隠してるエロ本燃やしてほしいっすね…」

 

ロイドは覚悟を決め、扉を開錠する

 

収容室の中に入ると、そこは普通の収容室であった

 

先程の窓から覗いた光景とは違い、何ら変わりのない空間

 

そこに、それは存在していた

 

黒い水槽

 

鉄格子に囲まれた水槽の中に、黒い液体がいっぱいになって置いてある

 

「…これが、新しいアブノーマリティっすか…」

 

ロイドが観察していると、小さな声が聞こえる

 

「…い……のぉ…」

 

その声は、下の方から聞こえる

 

ロイドが視線を下げると、水槽内に小さな球が沈んでいる

 

「…本体はこっちっすか?」

 

ロイドは膝を曲げ、しゃがみこんでそれを注視する

 

それは、美しいターコイズブルーの瞳の眼球だった

 

「あ、はじめまして、そうです、私がそのアブノーマリティです」

 

「あ、これはご丁寧にどうもっす

 

…じゃないんすよ!普通に会話して挨拶できるアブノーマリティなんているんすか!しかも目玉が!」

 

「ま、まぁ世の中いろんなアブノーマリティがいるから…」

 

ロイドは驚いて仰け反り、眼球を見つめる

 

眼球は水槽の中を転がりながら、ロイドに話しかける

 

「私の情報はいずれ解放されるでしょう

あ、まずは作業ですよね」

 

あまりにも慣れすぎているそのアブノーマリティの言動にロイドは拍子抜けするも…仕事を思い出し、本能作業を開始する

 

作業結果は…

 

「…PEが五つ…当然悪いっすね…

本能作業は好かないっすか」

 

「あんまり…あ、でもそんなに気に病むことじゃないですよ、大丈夫です

私、ここの職員さんを害するつもりは全然なくて…むしろ、何もしないことが一番職員さんにとって安全なの、わかってますから」

 

職員に対し気に掛けるアブノーマリティ

 

異様な存在に訝しみながら、ロイドは退室する

 

(…なんだったんだ、あのアブノーマリティ)

 

あまりにも友好的過ぎるアブノーマリティ

 

作業は悪かったのに、ロイドにはあまりダメージが入らなかった

 

攻撃属性はPALE、今の装備じゃまともに耐えきれない希少な属性であったのにも関わらず、だ

 

メインルームに戻り、しばらく回復に専念していると、再びロイドに通達が届く

 

『ロイド、F-03-05の洞察作業を』

 

「…馬車馬のように働けと」

 

しかし、この判断は正しいこともロイドは理解している

 

情報の少ないアブノーマリティの情報を集めるのには、繰り返し作業を行うしかない

 

しかし、攻撃属性がPALEであるのは判明している以上、体力や耐久力のない新入社員にさせては簡単に死んでしまうだろう

 

ロイドは重い腰を上げ、再び収容室へと向かう

 

「あれ、おかえりなさい」

 

「えと…ただいまっす」

 

ロイドはF-03-05の作業を行う

 

「根源分類はF、童話…伝承や神話といった部類っすか

タイプ03の宗教から見ても、そういう物語といったところから発生したんすか」

 

「うん、まぁ…私の大元からするとそうなのかな

如何せん、辛くて苦しくて悲しくて…次に目を覚ましたら、こんな形になってたから」

 

「信仰されている存在なんすかね」

 

「どうだろう、もしかしたら恐れられているものかも」

 

「自分の事なのに、なんか他人事見たいっすね」

 

「ははは…なんで私がこんな形なのかは、私も知らないから…」

 

洞察作業、次いでは愛着作業も完了する

 

洞察作業は普通結果、愛着作業はギリギリ普通結果となっていた

 

「残るは抑圧作業をして…その結果から良い管理方法を模索するんすかね」

 

ロイドがメインルームに帰ってくると、ホドから資料を手渡される

 

「PEが31貯まったので、管理人が基本情報を開放してくれました」

 

「あ…どもっす」

 

ロイドは資料を受け取り、一通り目を通す

 

「F-03-05、無の世界蛇

クリフォトカウンターは5

攻撃タイプはPALEの5~7

E-Boxeの容量は35

気分範囲はともかく…

 

危険レベル…ALEPHって…」

 

ALEPH

 

それは、L社が規定したアブノーマリティの危険度ランクの最高位である

 

危険レベルはZAYIN、TETH、HE、WAW、ALEPHの順で高くなっていく

 

F-03-05…無の世界蛇は、その最高位の危険度であるのだ

 

「…一見すると危険そうに見えないが、注意が必要ってことっすね」

 

ロイドに管理指示が通達される

 

無の世界蛇に、抑圧作業

 

ロイドは腰を上げ、収容室へ向かう

 

相変わらず扉の窓は真っ黒だが、ロイドは構うことなく開錠する

 

「今日だけで四回目ね

何か私の事がわかった?」

 

目が、ロイドを出迎える

 

鉄の折に閉じ込められた眼球が

 

ロイドは壁に凭れ掛かりながら語り掛ける

 

「アンタの名がわかったっす

無の世界蛇…それがアンタの名前っすね」

 

それを聞いた無の世界蛇は、その美しい瞳に影を宿す

 

「…世界蛇…ああ…そっか…

私…空の星になれなかったんだ」

 

不可思議なことを呟いては、時折そのターコイズブルーの瞳を赤く変色させている

 

暫くの沈黙の後、無の世界蛇は先程と変わらない様子に戻る

 

「作業をしようか」

 

ロイドを促すように話しかける無の世界蛇に、ロイドは複雑な気持ちになりながら作業に取り掛かる

 

(…なんか…コイツ…

……人間、みたいだな…)

 

その違和感に囚われつつ、ロイドは私情を割り切り、仕事に取り掛かった

 




どうも皆さん、いつも拝読してくださりありがとうございます

作者の白波恵です

連載を開始してもうすぐ一ヶ月が経過します

いつも皆さんが読んでくれたり、栞やお気に入りをつけてくれたり、コメントを下さるお陰で三週間以上継続することができました

その甲斐あり、この度当小説Labyrinth of the Violetが累計1000UAを突破できました!誠にありがとうございます!

普段はかなりの飽き性で三日坊主の私ですが、この度ライブラリーオブルイナのシナリオを視聴しきったその熱に浮かされたことで、以前から考えていたこの作品を今回このハーメルンにて連載する決心をした次第です

プロジェクトムーン様の作品は私の性癖を貫通する数少ないジャンルでして、この二次創作小説もいつか完結まで書けるように頑張りたいと思っています

今はまだ序盤で、謎も伏線も多く読者様にご理解されない部分も多いかと思いますが、いずれ機を以て解明回収していくので、首を長くしてお待ちして頂けると大変嬉しいです

読者の皆さんの存在が私の励みになるので、今後ともお付き合いしていただけるとありがたいです

コメントや高評価をもらえると俄然やる気になります

勿論強制ではありませんので、気が向いたらお願いします

また、私は絵も嗜んでいるので、そのうちここに挿絵を挟められるよう尽力します

今はまだ扱い方がわかりません

Twitterの方にて今後上げようとも思うので、良ければTwitterもよろしくお願いします

長くなりましたが、ここまでお目通しして下さりありがとうございます

今後もLabyrinth of the Violetをよろしくお願いします

遺伝子操作品種改良米より天然米派な作者、白波恵より
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