Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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The right mission,The fate of the only mistakeⅦ

 

「よっす、世界蛇

今日もよろしくっす」

 

L社に勤めてから十日

 

ロイドは教育チームのチーフとして日々働き続けていた

 

その日もALEPHクラスのアブノーマリティ、無の世界蛇の管理作業を始めようとしていた

 

「ロイド、いらっしゃい」

 

無の世界蛇は檻に入れられた水槽の中に沈む目玉のアブノーマリティ

 

他のアブノーマリティとは違い理性的な人格を持ち、そのお陰か職員には警戒心をあまり与えない

 

しかし仮にもALEPHクラス、何が起こるかはわからない

 

その為ロイドはいつも警戒しながら管理作業を行っていた

 

「本当はお茶でも淹れられたらいいんだけど…ごめんなさい、手も何もないから…」

 

「いや、別に構わないっすけど」

 

数日間無の世界蛇の管理作業をしてわかったこと

 

性格は温厚で能動的、しかし受動的な部分が多いかもしれない

 

話を聞く限り、アブノーマリティになる以前は都市のしがない一人の人間だったのだとか

 

愛し合った伴侶との間に子を儲けたが、とある魔女に伴侶を殺され自身にも薬を盛られた上に産んだ赤子も奪われたという話だ

 

(魔女というと…都市にスミレの魔女という女が住み着いてるという噂があったな…)

 

その魔女が原因なのかはわからないが、それに絶望し再び意識がハッキリした時にはこの収容室にいたという

 

そしてもう一つ、無の世界蛇が何故その名、その形であるかの由来も作業を進めるごとに明確化していった

 

「私の魂は、大昔の神話の怪物の生まれ変わり…みたいなものなの

大根源、世界蛇…ミズガルズの大蛇、別名ヨルムンガンド

人類の世界、人間が住む島を囲ってもなお長く巨大な蛇の体、神さえ殺す毒の息…普段は海の底で眠っている大蛇

その魂が私の「目」に宿ったの」

 

「目…?」

 

「この世界に生まれるよりずっと前…前世、みたいなものかな

その影響で、私の目はいつも世界の流れを見ていた

因果律というのは知ってる?」

 

「原因と結果、っすよね」

 

「世界は因果律で成り立ってるし、切っても切り離せないものなの

私の目は、その因果律を切り取るものだった

左目は過程を消して未来を引き寄せるし、右目は過去の原因を取り除いて今を変えるものだった」

 

「…それ、やばいもんっすね

特異点に匹敵する代物っすよ」

 

「でも本来それを得る前に私は死ぬはずだった

命を、魂を挽き繋いでくれた…だから私は死なずにその力を得た

私には有り余る力なの、だから…この世界で生まれてからは、その能力は眠り続けていたの

 

でも、魔女の仕業で…魔女が私を怪物にするために、眠ってた蛇が目を覚ましたの

分かたれた魂、もう一人の私であり、ヨルムンガンドそのもの…

 

だからね、気を付けて

 

私を…信じないで」

 

無の世界蛇はロイドにそう忠告する

 

抑圧作業を好むのは、怪物である自分を抑える為だろう

 

そのほかにも、多くの管理方法が判明した

 

まず、本能作業を行うと高確率でクリフォトカウンターが減少する

 

次に、レベルⅡ以上の非常事態が発生するとクリフォトカウンターが減少する

 

更に施設全体の職員が五人以上短時間にパニック、または死亡するとクリフォトカウンターが減少する

 

クリフォトカウンターが0になった無の世界蛇は最後に作業を行った職員に「寄生」し、第三の目になって施設内を徘徊する

 

その際にアブノーマリティや試練に遭遇すると無の世界蛇は鎮圧の補助を行ってくれる

 

しかし、寄生中の職員は素早くなる代わりに精神力が低下し、パニックに陥りやすくなり、もし寄生された職員が死亡すれば無の世界蛇は攻撃形態に移行し、誰かれ構わず攻撃することとなる

 

最後に、自制ランクⅢ以上または正義ランクⅢ以上の職員が作業を終えると、クリフォトカウンターが増加するというものだった

 

クリフォトカウンターは最大5、ロイドは条件が揃っているため無の世界蛇のクリフォトカウンターはいつも5状態にキープされている

 

「…思ったんすけど、この「5」って数字はなんか関係あるんすか?」

 

「え、どうして?」

 

「いや…アブノーマリティのナンバーもF-03-05って、最後が5だし…管理方法も5つ

なんか、「5」ばっかり揃ってるもんなんで…」

 

「…多分、最初の私がそうだったように、私の魂がその数字だと定められてたりして

カバラ神秘術…運命数…ソウルナンバーって言った方が分かり易いかな

…そういえば、彼と出会ったのも五日だったな…」

 

「5の運命数…」

 

ロイドはなんとなくそんなことを覚えながら、変わらない管理作業を続けた

 

 

 

一方、安全チームでは

 

「…」

 

「…なんだ」

 

昼休憩に酒を持ち込んできたネツァクに対しひとしきり説教した後なぜか箱の正面を見つめ続けるレイン575がいた

 

「…やっぱりただの箱ですね」

 

「なんなんだ一体…俺が他の何に見えるんだ」

 

「あえて言うなら酔っ払いダメ上司かと」

 

「お、その通りだな」

 

「あ!昼飯はピザですか!」

 

安全チームの名の通り、これでもかという風に安全そうな空気が流れていた

 

 

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