21日目
「レインさん!おはようございます!」
レイン575が出勤し控え室や更衣室の清掃をしていると、オーウェンが出勤してくる
「おはようございますオーウェン」
「いやぁいつも早いっすね!レインさんより先に出勤しようとしても必ず誰よりも早くいるんですもん」
「早寝早起きが健康の秘訣、正確な睡眠時間の確保は生命維持にも関係しますから」
「さすがです!あ、俺も着替えて掃除手伝います!」
「助かります」
オーウェンが更衣を終え掃除を手伝い始め数分後、数人の職員の出勤と共にカウレスが出勤する
「おはようございますカウレス先輩!」
「おはようございます」
「はよ、オーウェン」
カウレスはレイン575を無視し更衣室に向かう
大半の職員がメインルームに移動したころ、ロイドが出勤する
「ふぁ…ねみ…」
これがいつもの朝だった
最近では管理人の的確な指示からか、職員の犠牲も少なく仕事が進んでいる
しかし、馴染み始めたこの日々も、いずれは崩れ去るのだ
その日も、エネルギーは順調に溜まっていった
アブノーマリティの管理作業も滞りなく、しかし職員も管理人も一切気を抜かず業務に励んでいた
「今日も何もなく終われそうですね」
「気を抜くなオーウェン、業務終了アナウンスが放送されるまでは油断できないからな」
カウレスが警戒心を促し、オーウェンは気を引き締める
「…」
二人は管理作業に向かうが、レイン575は待機しながら予想する
(今日の最大試練は白昼…同期された情報からすれば、深紅、緑、琥珀、紫…
戦力的な問題でいえば緑が厄介ですが、面倒なのが…)
そう思考していたタイミングを見計らってか、施設内にアラートが鳴り響く
『白昼、深紅の試練です
手の空いている者たちは鎮圧を行ってください』
「…私の予測能力が優秀なのか、単に嫌な予感が当たってしまったのか…」
レイン575はメインルームを駆け出し、試練が現れた教育チーム管轄の廊下へ走る
その廊下には、肉を繋がれたような四足獣がエージェントの一人を襲っていた
レイン575はそのまま走り、職員の背後で跳躍しては試練の背に槍を突き刺した
「レインさん…!」
「そのまま攻撃を続けて下さい、幸いこの一体のみのようですから」
レイン575は暴れる試練背に乗ったまま槍を深く刺していく
「レイン!加勢する!」
管理作業を終えたロイドが駆けつけ、手に持つライフル型E.G.Oで試練を攻撃する
他の職員も次々集まり、試練は雄叫びをあげ倒れた
「よし、これでいっちょ上がりっすね
なんだ、ラクショー…」
「まだです!」
鎮圧完了と思っていたロイド達にレイン575は注意を呼び掛ける
この周期で白昼の試練を体験するのは初めてであり、職員も管理人も知らずにいた
知っていたとすれば…アンジェラと、共有しているレイン達のみ
ブザーが鳴り響く
『知恵を欲する案山子が脱走した』
施設全体に告げられる、ネツァクの音声
施設内のアブノーマリティが、脱走しているのだ
「な、なんでっすか…」
「白昼の深紅の試練は、鎮圧と同時に黎明の小さなピエロを生み出します
ピエロの能力はご存知ですよね、アブノーマリティのクリフォトカウンターを減少させるんです
アブノーマリティは避け、早くピエロの鎮圧を!」
レイン575の鶴の一声によりエージェント達はピエロの鎮圧にあたる
(ピエロ自体はそれほど耐久力はないですが、少しばかりすばしっこいですから…皆さんで袋叩きにすれば大丈夫でしょう)
レイン575は来た道を引き返し安全チームの廊下に辿り着く
その先に、案山子がオフィサーの脳を吸い出している光景が広がっていた
「…大人しくしていればいいものを」
レイン575は槍を構えながら案山子に歩み寄っていく
案山子はレイン575を視認すると、ゆらりと歩み寄ってくる
レイン575は姿勢を低くし案山子の横をすり抜ける
鍬の爪が振るわれ、槍でそれを受け流しては壁を走り背後を取る
「取った」
槍を突き出し、案山子の胴体に突き刺す
案山子は口元から触手を出し、レイン575の脳を吸い出そうと伸ばしてくる
その傘が届くよりも先に、レイン575は槍を横に振り、案山子の胴体は真っ二つに分かれる
そのまま案山子は倒れ、消えていく
「…はぁっ…」
レイン575は息を吐き、その場に膝をつく
安全チームから教育チームまで走って往復し、瞬発的なスピードで案山子を鎮圧したはいいものの、メンテナンスが必要な今の彼女には少しばかり負荷の多い動きだった
その為、スタミナが切れかけているのだ
その時、イヤホン型の無線通信機から内線が入る
「…どうですか、ピエロ達は鎮圧…」
『やられた』
通信機からは、ロイドの声が響く
『ポーキュバスの収容室のクリフォトカウンターが減らされた
もうクリフォトカウンターは0だ』
そうロイドが告げた時、施設内のスピーカーからも放送が流れる
『ポーキュバスが脱走しました』
『ロイド、レイン、カウレス、ココ、ポーキュバスに鎮圧作業を行ってください』
情報チームのセフィラ、イェソドの声が流れ、次いでアンジェラが通達する
状況を把握したレイン575はため息を堪え、無線に応答する
「わかりました、とりあえずロイド、合流しましょう
貴方の持っているE.G.O、PALE属性ですよね?ポーキュバスに有効ですから貴方を中心に…」
ポーキュバスを鎮圧する作戦を伝え、自身も移動しようと重い脚を動かし立ち上がる
その瞬間、背後に気配を感じた
「………」
ゆっくり振り返ると、赤い顔に緑の長い胴体…ポーキュバスがそこにいた
「キュ」
「…っ」
一瞬で現状を理解したレイン575は震える手先で槍を構えるが、ポーキュバスの尾が先にレイン575の体を払う
そのままレイン575は廊下奥まで吹き飛び、レイン575は体勢を立て直そうとするも体に力が入らず起き上がれることが出来なかった
「はぁっ…はぁっ…」
レイン575が着ているE.G.Oはwhiteダメージに弱く、ポーキュバスの攻撃属性はwhite属性…相性が悪いことも相まって、レイン575は相当のダメージが蓄積してしまっていた
「キュッ」
ポーキュバスは嬉しそうに尾を振り、レイン575に近づいていく
レイン575は過去一番、命の危険を感じた
しかし、今状況を打破できる策もなければ盾もない
体がまだ動かないため、逃げることもままならない
(ここまで…でしょうか…)
レイン575は過去を振り返る
カプセル内で生まれ育ち、他の自分たちの記憶を同期し続ける日々
母こそすべてであり、母に日々教育を施される日々
生まれてくる自分達を育て記憶共有する日々
この会社、575回目の周期に入り他人の命を使い生き延びる日々
多くの記憶があったと思う
そこに何の感情もなければ、悲しさもない
死に対して、何の感情もない
生きることに執着していただけ
ポーキュバスの尾が目前まで迫る
レイン575は静かに目を閉じた