Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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The right mission,The fate of the only mistakeⅪ

22日目

 

「こんにゃろぉ!何度収容違反すりゃ気が済むんすか!」

 

教育チームの廊下にて脱走したアブノーマリティの鎮圧を行うロイドが叫ぶ

 

鎮圧対象はT-01-68、死んだ蝶の葬式

 

少々ややこしい管理方法の為か、何度も管理人が指示ミスを行っているのもあれば、職員の育成が行き届いていない理由もあり、頻繁にクリフォトカウンターが減少してしまい収容違反を起こす

 

「しかもようやく抽出できたE.G.Oはどこの誰に着せたんすか管理人!」

 

半ば半ギレで管理人への不満を零しながら鎮圧を行うロイド

 

所持しているE.G.O武器はPALE属性のライフル、高威力かつ追加攻撃が付与される効果を放つ

 

アブノーマリティの大半がPALE属性の攻撃に対し耐性が低いため、非常に強力なのだが

 

(やべぇ、次攻撃食らったら死んじまう…!)

 

E.G.O防護服はPALE属性、RED属性に強い耐性を持つ黒いコートとスーツなのだが、BLACK属性には弱く、何よりWHITE属性に対して脆弱なのである

 

死んだ蝶の葬式はWHITE属性の攻撃を放ち、ロイドの精神を侵していく

 

相性が悪いことこの上なく、どちらが先に落ちるかの拮抗した勝負を日頃繰り返している

 

「ロイドチーフ!加勢します!」

 

反対側の廊下の入り口から教育チームのエージェント達が駆け寄ってくる

 

その時、死んだ蝶の葬式が抱えていた棺を駆けつけたエージェント達に向けた

 

「…!まずい、引き返せ!」

 

ロイドはその攻撃にいち早く察知し、喚起を呼び掛ける

 

突然の大声に驚いたエージェント達は立ち止まってしまう

 

そうしている一瞬に、棺の蓋が開いていく

 

ロイドは早く死んだ蝶の葬式から部下たちを庇おうと駆け出すも、間に合わない

 

その時、ロイドの横を何かが通り過ぎる

 

白と黒のシルエット

 

飛び跳ねたモノクロは蝶の頭上から二丁の拳銃を撃ち放つ

 

「おやすみなさい、偽善者」

 

死んだ蝶の葬式はその銃撃を直撃した

 

死んだ蝶の葬式は開いた棺を横に倒しては浮かび上がり、自らその棺の中に入っていく

 

モノクロは地に降り立ち、ゆっくりと立ち上がる

 

「…対象鎮圧完了、皆さん無事ですね」

 

ロイドの方を振り向いたその紫の瞳は、冷ややかさの中に小さなハイライトを帯びている

 

「レイン…」

 

その人物は、新たなE.G.Oに身を包んだレインだった

 

「この新しいE.G.Oはなかなかですね、二属性の攻撃が繰り出せます

教育チームの皆さんもお疲れ様です、どうぞ管理作業にお戻りください

ロイド、精神汚染度が高いですのでメインルームにて回復なさってください」

 

黒を基調としたシンプルなスーツ、白と黒の二丁拳銃、灰色の髪と合わさり退廃的な色合いになりながらもアメジストのような瞳がより一層際立っている

 

そんなレイン575が、死んだ蝶の葬式にトドメを刺したことでロイドの窮地を救ったのだ

 

それだけでなく、レインはロイドの身を案じ回復に努めるよう言いつける始末

 

今までとは違う様子に、ロイドは固まっていた

 

「あー…えと…助けてくれたのはありがたいんすけど…なんでわざわざ教育チームにまで…」

 

「中央本部にヘルプに行っていたのですが、その帰りについでに…というのは建前で、単に貴方が危なそうだったので助けようかと」

 

「…俺をまだ利用してないから勿体ない、とかじゃなく…?」

 

「ああ、そのことですか

はい、それについてですが…やめました、他の職員を肉壁にするの」

 

「…は、はぁ…

 

………えっ!?」

 

普段と変わらない様子に見えるレインだが、言動が明らかに以前とは違っている

 

他の職員を肉壁にし自分は生き残ろうとする、機械的でありながら薄汚い人間と同じことをしていたレインは今やどこにも見当たらない

 

冷淡な瞳は、人間に似た光を宿している

 

「なんて言えばいいんでしょうか…これが俗に言うトラウマ、でしょうか

もう、馴染みの人を目の前で失うのは嫌なので」

 

「…アンタがそんなこと言うなんて…」

 

「変ですか?…まぁ、私も不思議な感覚です

私にも変化は訪れるものなんですね」

 

目を伏せながらそう語るレインは、昨日の事を思い出す

 

親しかった部下を失い、大きな傷を得た

 

その傷は、彼女に人間としての成長を促した

 

それがいいものなのか悪いものなのか、彼女自身には計り知れない

 

しかし、レインはその傷を受け入れた

 

受け入れ、自身を変えた

 

「母様のいいつけも、他の誰かの命も守る…そう決めたのです」

 

「かあさ…お、おう…?」

 

「ですから勿論、貴方の命も可能な限りは助けます

貴方は特に、この会社の中で親しい方なので」

 

レインは力強く語り、ロイドを見据える

 

ロイドは呆然としたまま口を開く

 

「…俺とアンタが…親しい…?

 

…それ、何かのジョークっすか…?」

 

「…ジョークではありません、本気ですが」

 

レインは真面目な面持ちでそう返すも、ロイドは信じられないといった様子で可笑しそうに絶妙な顔をした

 

「…………はああぁっ!?俺とアンタが!?いやいやいやあり得ねえっすわ!ほんとどうしたんすか!?へっ…ええぇ!?うっそでしょアンタ…ふっ、へ、はぁ、はははは!

ないないないっすわ!アンタみたいな変人と仲良しとかありえねー!ひぃ、腹痛ぇ…くっくっくっ…

せめてボンキュッボンなら喜んで仲良くしたんすけどねぇ!アンジェラ様ならともかく、アンタみたいなちんちくりんは…ふっ」

 

ロイドは馬鹿にしたように笑いながらレインの認識を否定する

 

更にはレインの平坦に近い体を値踏みし比較した

 

レインは再び凍てついた視線をロイドに向けた

 

「そうですか、では貴方は肉壁に活用してもいいんですね、わかりました」

 

「はっ?…あ、ちょ、すんませんすんませんマジ悪かったっすから!」

 

「貴方の寮室にあるいかがわしい本も他職員に公開します」

 

「本当に申し訳ございませんでした!!」

 

怒ったレインの容赦のない言葉にロイドは顔を青ざめ、立ち去ろうとするレインを必死に引き留める

 

レインは聞く耳持たず安全チームへ戻ろうと肩を掴むロイドの手を握りつぶす勢いで引き剝がそうとする

 

その攻防は、管理作業を行おうとした他職員に止められるまで続いていた

 

 

 

「そんなことがあったんだ」

 

「マジで参ったっすよ…あの人容赦ないんすから…」

 

「でも、デリカシーの無いことを言った君も悪いと思うな」

 

「……なんも言い返せねぇ」

 

その日の終わり、ロイドは無の世界蛇の抑圧作業を行っていた

 

一日のうちに起きたことを語り合う、無の世界蛇とロイドはいつからかそんな関係になっていた

 

「その同期さんも、誰かが死ぬのは嫌だって気が付けたんだね」

 

「まぁ…でも、誰かの死に気を参らせるのは都市ではあんまりいいことではないっすけどね

確実に生きにくくなるっすよ」

 

「ここではそうかもしれない

でも…いつか死が来るのは誰もが同じだからこそ、満足のいく人生、胸を張れる人生を歩むのが何より大切だと思うの」

 

「…胸を張れる人生、か…俺にはそんなのないっすね」

 

ロイドは無の世界蛇の内的情報をモニタリングするタブレットを操作しながら呟く

 

都市の汚い生き方を何度もしてきたロイドにとっては、レインの行いなど優しいものであり、今変わろうとしている彼女の状況がどれほど命取りになりかねないかも理解している

 

都市で生きるには、道徳は足枷になる

 

そんな足枷を自ら嵌めにいっているようなものなのだ

 

「早死にしてでも、自分を誇れるようになることって…そんなに大事っすかね」

 

「いいことをした人ほど早く死んじゃうのは世の中の摂理だよね

悲しいけど、そうなるってことは私も嫌というほど見てきた

…でも何が悲しいのかは、死ぬことじゃない

 

後悔を抱えたまま満足できずに未練に囚われることだよ」

 

「…」

 

無の世界蛇は水槽の底でゆくり転がり、ロイドに近づく

 

その宝石のようなターコイズブルーは、この世の善性を敷き詰めたように優しく輝いている

 

「都市ではそんな生き方はすごく難しいよね

でも、そうあろうとする努力や過程はかけがえのないものになるよ

…ロイド、君はいい人だから…私のようになってほしくないな」

 

タブレットの情報整理が終了する

 

抑圧作業が終了する

 

『本日の業務を終了します

皆さん、お疲れさまでした』

 

アンジェラの放送が響き、ロイドは仕事から上がろうと収容室を後にする

 

「さっきの話だけど…ロイド、本当はその同期ちゃんのこと好きなんじゃないの?」

 

去り際に無の世界蛇にそう聞かれ、ロイドは躓き扉に頭をぶつけた

 

「っ…てぇ」

 

「………もしかして、本当に?

あ…しかも、そっちの意味かな…?

あ、だ、だとしたらごめんね!私他の人には言わないから!最近作業しに来る新しい子に口を滑らせたりしないから!」

 

「ちょっと黙っててくれねぇっすか!?ちげーっすから!俺の好みのタイプはボンキュッボンの年上なんで!」

 

「え、それはちょっと…人を見た目で判断するような人だったなんて…」

 

「引くなよ!っだー調子狂うな!!」

 

アブノーマリティと他愛ないような会話を繰り広げた後、ロイドは今度こそ収容室の扉を開いて戻ろうとする

 

「あ、ねぇ…最後に、その同期ちゃんの名前教えてくれない?」

 

その質問にロイドは数秒停止した後、ゆっくり口を開いた

 

「…レインっつー可愛げのない女っすよ」

 

それだけ言い残し、ロイドは収容室から出て行った

 

その後、収容室内に起きた変化に気が付かないまま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…れい…ん………レイン…?

…まさ、か…いや…でも…

rain…雨…

 

…雨……?」

 

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