Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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The right mission,The fate of the only mistakeⅫ

24日目

 

レイン575はより一層努力した

 

持ち前の足の速さを活かし、あらゆる部署でも鎮圧作業に駆け付けた

 

22日、23日、24日…彼女の働きのお陰か、この三日間は死者が一人も出なかった

 

しかし、彼女はひそかに実感していた

 

自分の体が正常に機能しなくなってきている

 

食堂で食事を取ろうとしても、箸はうまく使えない

 

どうしても箸を落としてしまう

 

なので彼女はスプーン、あるいはフォークを用いて食事をする

 

それでも、握るには果実を潰すぐらいの力を籠めないとどうしても落としてしまうのだ

 

他にも、僅かな段差で躓くようになったり、机の角や椅子の足にぶつかったりする

 

レイン575、彼女の体は限界に近かった

 

メンテナンスを要する体で無理に動いていることもあり、想定よりも早い段階で全身の筋肉や関節、内臓機能が衰えてきていた

 

何度も母にメンテナンス及び修正申請を申し込んでいるも、返答が来ない

 

そのままレイン575は、24日目も業務を終えた

 

「カウレス、お疲れ様です」

 

「おう、お疲れさん」

 

レイン575の劇的な変化からか、あの日の惨状のこともあってか、レイン575を毛嫌いしていたカウレスも今やそれなりに会話するようになっている

 

「お疲れさん、なんとか今日も生き延びたか」

 

アルコールの匂いを撒き散らしながら労いの言葉をかけるのはネツァクだった

 

「ネツァクさん、お疲れ様です

しかし業務中に飲酒とはいただけません」

 

「あー悪い悪い」

 

「悪いと思ってませんよね」

 

レイン575の変化により、安全チームは僅かに雰囲気が良くなってきている

 

それを一番に理解していたのはレイン575でもネツァクでもなく…L社総管理AI、アンジェラだった

 

「…」

 

アンジェラは管理人のいないメインモニタールームで、監視カメラに映された光景を眺める

 

そこには、ネツァクに叱咤するレイン575が映っている

 

「…きっとこれでも、ダメなんでしょうか」

 

哀愁を浮かべた表情をしたアンジェラは、静かに視線を下ろす

 

手に握られているのは、白い封筒

 

封筒の隅には、紫の花が描かれている

 

 

 

「お前もだいぶ変わったな、レイン」

 

「誰かさんに吞み潰されたせいでしょうか」

 

「おいおい、俺のせいだっていうのか?お前が飲むっつったんだろ」

 

業務が終わり、管理棟と社員寮の間の廊下で会話するのがネツァクとレイン575の習慣となっていた

 

いつでも一杯のビールから二人の談話は始まる

 

「今度の新人はどうだ?」

 

「筋はいいです、成長速度も早いですし

カウレスと協力して育成に専念すれば強力なエージェントになるでしょう」

 

「そうか」

 

その日の仕事の話も、他職員から聞いた面白い話も、なんだって酒の肴になる

 

凄惨な日々を乗り越えるためのひととき、それは一人の声により遮られる

 

「レイン」

 

その場に現れたのは麗しい機械、アンジェラだった

 

「アンジェラ…お疲れ様です」

 

「お疲れ様、調子はどう?」

 

「良好です

…とは言い難いですが、問題ありません

どうかしましたか?」

 

古い友人と話すような調子で二人は会話するも、アンジェラの表情は憂いている

 

アンジェラは白衣のポケットから一通の封筒をレイン575に差し出す

 

「…私に?」

 

「ええ

 

貴方の…お母様から」

 

その言葉を聞いた途端、レイン575の目の色が変わる

 

慌てた様子で封筒を受け取っては、封筒に刻まれた紫の花の絵を見て歓喜の表情を浮かべる

 

「母様!母様からのお返事!…でもわざわざお手紙でなんて、どうして」

 

「母様…っていうと」

 

「…スミレの魔女、ヴァイオレット

L社と…Aと契約している女性ね」

 

ヴァイオレットのシルエットを脳裏に浮かべたネツァクは、拭い切れない不安に襲われる

 

「な、なぁレイン…それ」

 

「ネツァクさん、本日はお疲れさまでした

ではまた明日、よろしくお願いします!

アンジェラも、失礼します!」

 

今までにないほど浮足立った声色でそう言ったレイン575は、ネツァクとアンジェラに向け頭を下げて駆け足で立ち去っていく

 

その後ろ姿を止めることが出来ず、ネツァクはまた見送るだけとなった

 

 

 

レイン575は自身の寮室に戻るや否や、机の引き出しからハサミを取り出し、封筒の端を切り中から手紙を取り出す

 

高鳴る胸を鎮めるように深呼吸を繰り返しながら、期待の眼差しで母からの手紙を開いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[初期型・レインvol.1.0-575へ

 

日々我が子としての務めを果たしているようで何よりです

 

本題から言いますと、貴方を廃棄処分と認定します]

 

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