xxxx年xx月xx日
外郭・研究所
清潔さが伺える白い空間が広がり、せわしなく人々が行き交っている
多くの者達は白衣に身を包んだ研究員のようないでたちをしており、中には今ではもう見かける事のない患者服を着た者、果てには子供まで見受けられる
「皆働き者だな、よほどこの研究がどれほどの期待を背負っているか目に見えるね
そうは思わないか?」
彼女の隣に、灰色の髪を靡かせる女性が現れる
紫色の瞳が彼女を捉えている
「…スミレの魔女」
「その呼び名はやめてくれよ、僕はただのヴァイオレット
ヴィオラって呼んでと、何年も前から言い続けているだろ?」
年若い娘のような見た目をしているヴィオラと名乗る女性は、数年前に彼女を雇った張本人
別名、スミレの魔女
都市でもその名を語ることすら憚られ、協会からは都市の星と指定されている
ヴィオラは彼女の伴侶を機械体から人間へと変え、都市に移動し様々な「仕事」をしているらしい
一日経つごとに膨大な金がヴィオラの元に集められていることから、「スミレの魔女の財産」の噂まで人々の間で飛び交う
そんなヴィオラは、今とある研究に協力していた
「あ、ヴィオラ!もう、来てたんなら言ってよ!お茶くらい出したのに」
「や、カルメン、相変わらず元気そうで何より
アレ、使えそう?」
「まだ実用化には厳しいわね…とりあえず並の精神力じゃ直視さえ厳しいから、まずはその解決を…」
「そうか…掘り出し物だし、僕には必要ないから、君達がうまく活用してくれよ」
ヴィオラの元に一人の女性が駆け寄ってきた
カルメン、と呼ばれた女性は、彼女を見るや否や飛び切り明るい笑顔で声をかけてきた
「初めまして!私がカルメン、貴方が_____さんの奥さんの…」
「奥さっ…は、はい、そうです…」
奥さん、と呼ばれた彼女は顔を赤くし、小さく頷いた
「カルメン、彼女をアイツの部屋に案内してやって
一ヶ月も旦那に会えず仕舞いで寂しかったろうから
僕はアイン達にも挨拶してくるよ」
「わかったわ、さぁ!こっちよ」
ヴィオラはその場を立ち去り、カルメンは彼女をロビーから奥の職員寮棟へと案内する
「何ヶ月ですか?」
廊下を歩きながら、カルメンは彼女に問いかけた
「…七ヶ月です」
大きくなったお腹を撫でながら、彼女は答えた
時折、腹の内側から蹴り上げるような力が感じられる
「そっか~!あと三ヶ月くらいですかね!
生まれたら抱かせてくださいね!」
朗らかな笑顔でそう言うカルメンに、彼女は控えめに笑い返した
しばらく談笑を交えながら歩き続けると、後方から駆けてくる足音が聞こえてくる
その音に振り返ると、彼女の伴侶である美しいヒトが少し息を切らしながら駆けつけてきていた
「…!来るなら連絡を…」
「スミレの魔女…ヴィオラが、どうせならあの涼しい顔を驚かせようって」
いたずらっぽく笑う彼女を見て、安心したように顔を歪ませた美しいヒトは、そのまま彼女を優しく抱きしめた
「一ヶ月、お疲れ様
まだ研究は始まったばかりでしょう?」
「うん、まだスタートラインに立ったばかりだ
…君の方こそ、体は大丈夫?検査は…」
「母子ともに良好だよ
ここは医療設備も整ってるから、私もここに住まわせてもらうから」
抱き合ったまま会話を続けている中、隣からほんの少しだけ咳払いが聞こえた
「じゃあ私は研究室の方に行くから…ごゆっくり~」
そう言い残して、カルメンはその場から立ち去った
彼女は途端に恥ずかしくなり、真っ赤な顔のまま手を引かれ、愛しいヒトの部屋へと連れられた
私達の父と母のもとに、星が宿ったのだ