Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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Continuation of stardustⅢ

xxxx年1月5日 午後6時12分

 

「寒いです」

 

「だろうな」

 

三時間近く歩き続けるも、雨は止まなければ目的地には到達できもしない

 

「本当にこの道なんですか?」

 

「まぁ、多分」

 

「多分?」

 

「第一、裏路地とやらの区域が違うのじゃよ」

 

「区域をまたがないといけないんですか」

 

一人と一体の奇妙な旅は、グダグダな様子で続いている

 

空も次第に暗くなり、夜の影が忍び寄っている

 

「夜出歩くのは危険じゃろう」

 

「私強いですし大丈夫です」

 

「子供な体でよく言いおる

冷えて体力も消耗しておろう、どこか雨風を凌げ侵入しやすい建築物でも…」

 

無二の提案により、彼女は寝泊まりできる場所を探した

 

そして、良物件を発見した

 

「ここです」

 

そこは、薄緑の鉄でできたゴミ袋を入れるコンテナだった

 

「ごみ箱ではないか!」

 

「でも雨風を凌げますし、もしかしたら何かいいものが見つかるかもしれません、入りましょう」

 

「貴様…生存に関しては逞しいな…」

 

少女はコンテナの蓋を開け、中に侵入する

 

コンテナ内は埃臭かったが、食べ物類が少ないためか腐敗臭は少なかった

 

「毛布があります、ラッキーですね」

 

「うぅむ…そう、じゃな…」

 

ナイロンのゴミ袋からはみ出ている古い毛布を引き出し、自身の体に巻き付ける

 

冷え切った体ではすぐに熱は生まれないが、無いよりはマシだった

 

「…落ち着いたところで、無二にはいろいろ聞きたいことがあります」

 

「ほほう、なんじゃ」

 

無二は少女の腹に収まりながら応える

 

少女は頭の中で山ほどある疑問を整理し、一つずつ聞いていく

 

「まず、私がこうなったことについて、でしょうか」

 

「子供の体になった理由についてか、よかろう」

 

無二は一呼吸おいて語り出す

 

「死体の貴様は片腕もなければ腹も裂かれていたからの、蘇生したはいいがそこから生きるのは体力が足りんのじゃ

そこで、体が大きくて体力が不足するならいっそのこと体を小さくすれば良いと思い至ったわけじゃ!いやぁ妾って頭いいのぉ!」

 

「なるほど、かなりの馬鹿というのがわかりました」

 

「しかし体の細胞を整理したおかげで腕もまたできたし、腹の傷も跡形もなく治ったのじゃぞ?血も何とか足りたしの

あぶのーまりてぃを移植し生命力はなんとか繋ぎ止められたのだから、これからちゃんと食って寝れば肉体は正常に成長するさ」

 

「ここから再スタート、みたいな感じですか…これぞ第二の人生…」

 

「妾知ってる!こんてにゅーというやつじゃ!」

 

「貴方出会って三時間で威厳マイナスですよ」

 

無二は一度少女の傍を離れ、ゴミ袋を漁り出す

 

「次に、貴方の事です

無二は、無の世界蛇とは違うんですよね…?」

 

「そのことか、まぁ確実に違っているのではなく…親鳥と雛鳥のようなものかの」

 

無二は袋からまだ腐っていない缶詰を引っ張り出し、その牙で蓋に切れ込みを入れていく

 

「妾と小娘の事を語るには、まずヨルムンガンドについて知らねばなるまい

そこから小娘…萌恵についてじゃ」

 

「貴方が先程から言っている…その萌恵さんという方が、無の世界蛇に」

 

「その通り、まぁ飯でも食らいながら聞くがいい」

 

無二は開けた缶詰を少女に差し出しながら語り始め、少女はその缶詰を摘まみだす

 

 

 

遠い昔、果ての無い多重世界線の向こう側

 

この都市よりも幸福な世界は存在し、その世界には数々の歴史があった

 

その歴史の物語の一つに、北欧神話なるものが存在していた

 

一つの世界樹・ユグドラシルを柱に九つの世界が存在し、世界蛇ヨルムンガンドは神により人間界の海の底へ捨てられた魔物である

 

ヨルムンガンドは北欧神話の終末・ラグナロクにて最強神トールと相打ちになった

 

死後ヨルムンガンドは「死」の概念へと変貌し、多くの死の運命を運んできた

 

ただの事象と化した世界蛇は形も名前もないままに何千年も生命の終末としてあり続けた

 

ある時、一人の赤子が産まれた

 

その赤子は、その事象を「黒い蛇」の形として認識した

 

赤子は死を蛇として認識することで、その事象に名前と形を与えてしまう

 

名と形を得た「死の蛇」は、赤子を愛した

 

()()()()()()()()()()()()()

 

赤子の周りには、死が広がっていた

 

動植物に人間、不自然な数の生命はごく自然に寿命を迎えていった

 

赤子は美しい少女に成長していったが、そんな少女にも死は訪れる

 

ある日、少女は殺された

 

死んだ少女に嘆いた死の蛇は、自身の形と名前を返還することで少女を蘇生させた

 

少女の肉体は人間のまま魂は蛇となり、精神は人間の彼女と死の蛇のものに分化された

 

死の蛇となった世界蛇は少女に宿り混ざったことで変貌、転生した

 

 

 

 

「…それが妾、無二というわけじゃ!どうだ、よぅくわかったか!」

 

「…そうれすね」

 

「おい、おい半分寝ておらんか貴様」

 

語り終えた無二に対し、少女はうつらうつらと船を漕ぎながら答える

 

「半分寝ていたのではありません…完全に寝ていました

その北欧神話?の話だけで六時間…本題の貴方や無の世界蛇の話で二時間…眠くもなります、ただでさえ疲れているんですから

要するに、ヨルムンガンドが変生を繰り返しながら無二となり、そのおかげで萌恵さんは人間から無の世界蛇になったという事でしょう」

 

要約した話に頷きながら無二は付け足す

 

「いや、小娘は今でも人間じゃ

あぶのーまりてぃと呼ばれていても、中身が蛇でも、小娘は人間…ずっと、ずっとな」

 

感傷的な無二の様子に少女は首を傾げる

 

無二は二度首を振り、改めるように顔を上げる

 

「まぁ、小娘を化け物に仕立て上げたのは妾の前身…ヨルムンガンドも同然

本来ならそんな傲慢により生き返らせられるものではなかったからな

ならば、その責任を取るのは当然であろう」

 

無二は少女の膝の上でとぐろを巻きながら休む体勢を取る

 

「小娘…萌恵の人生から普通の幸福を奪ったのは妾達、多くの元凶は妾達…ならその後始末をするのも妾である

腹は決まっておる」

 

「…その、原点の話は理解できました

では、この都市…ここでは萌恵さんや無二はどのような過程でL社に来たのですか?」

 

「知りたがりな童じゃのう…まぁ良い、ここからは妾の目的にも繋がる故、もうしばらく語ってやろう」

 

無二はそのまま、都市での生涯を語り出す

 

 

 

この世界において、無の世界蛇というのは都市に隣接する大湖の底に住まう怪物として生まれた

 

その時は無二の精神が主軸に据えられていたが少なからず萌恵の精神も存在していた

 

萌恵は願った、「愛するあのヒトを探したい」と

 

無二はそんなことはここでは不可能だと制していた

 

しかし、萌恵の心を直に感じ取れる無二には、その気持ちがどれほど大きいのかは理解していた

 

 

 

「…あのヒト?」

 

「小娘が原点の世界にて出会った運命の相手じゃよ、いやぁ愛とはええのう…」

 

 

 

そんな時、湖に光が差した

 

光と共に、誰かの声が水の中でこだました

 

「君の記憶を封印する代わりに、君の体を人間にしてあげよう」

 

その声は萌恵の返答も無二の静止も聞かずにその力を振るった

 

次に目覚めた時には、萌恵は人間の肉体を手に入れ、無二は古い記憶と共に萌恵の奥底に封じられた

 

人間として生まれ変わった萌恵は何も覚えていないまま、都市にて生き続けた

 

苦しみながら願っていたことも忘れ、都市の空に浮かぶ星を眺めることのみを生き甲斐にしていた

 

そんな時、そのヒトは現れた

 

雨の降る夜、美しいヒトは萌恵の前に現れた

 

願いを忘れた萌恵でも、心の奥底でその出会いに感じ入っていた

 

やがて二人は恋人となり、夫婦となり、子を儲けた

 

しかし、()()()()()幸福は不幸の為の舞台準備に過ぎない

 

 

 

「…幸福の絶頂にいた小娘を不幸に陥れようとした者がいた

その者こそが、人形兵器だったあやつと蛇の怪物だった小娘に人間の体を与え…わざと小娘を幸福にさせそれを奪うことで絶望に貶める、復讐のシナリオを綴った張本人

 

原点にて幸福すら得られなかった哀れな魂…確か、ここではヴァイオレット、とか言ったかのう」

 

 

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