Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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Rainy blueⅤ

XXXX年6月10日 午後10時40分

 

レストランでの悶着の後二人(と一体)はホテルに戻った

 

イナは帰路終始沈黙したままホテルに戻ってはパジャマを抱えて浴室に行き、入浴後は寝室へ直行した

 

それから一時間後、アルガリアはリビングで本を読んでいたが不意にそれを閉じ、イナの寝室を覗きに行く

 

扉を開くと、常夜灯の淡い光に照らされた室内が薄暗いながらも見渡せる

 

上等なベッドの上で、イナは寝息も聞き取れないほど静かに眠っていた

 

まるで死んでいるかのような様子を眺めた後、アルガリアはイナに布団を掛け直した

 

アルガリアにとって、イナという一人の子供に対する特別な感情は無い

 

自分と似た子供、被検体、愛する妹の頼まれ物

 

多少気にかけることもあったから、三年前は助けてやった

 

それが巡り巡って妹と出会い、妹を仲介し自分の元へやってきた

 

アルガリアは考えた、目に見えない流れが世界に存在しているのなら、今この瞬間が正にそれの証明になるだろうと

 

アルガリアは知らなかった、自身に妄執の火種が生まれつつあることを

 

「…おやすみ、イナ」

 

三年前より伸びた白銀の髪をひと撫でし、アルガリアはイナの寝室を後にした

 

そのままリビングに足を運べば、再び青い外套を身に纏う

 

そして、玄関から部屋を出ようと扉に手をかけた時

 

「あるがりあ、とやら」

 

背後から呼び止められる

 

振り向けばそれは黒い蛇の姿をしている

 

頭部に浮かぶ赤い瞳は一つしか無く、それは見定めるようにアルガリアに向けられていた

 

「…無二、だっけ」

 

「貴様、何故童を護る?

貴様の利益はなんだ」

 

「何を聞いてくるかと思ったら…そんなこと?

案外面白くないね、君」

 

「貴様は童に好意を持っておるわけでもなかろう

貴様が童を助ける動機には…いつも、誰かが介入しておる、そうではないか?」

 

無二の言うことは正しかった

 

三年前アルガリアがイナを助けたのは、単純に妹に似ていたから

 

今回イナを守ったのは、妹がイナを頼んだから

 

どちらも根底にはアルガリアの妹…アンジェリカが存在している

 

アルガリアの行動理念はアンジェリカが基盤となっているのだ

 

「そうだね…アンジェリカがイナを預けたんだ、だから俺はイナを守らないと

死なせてしまえば、きっとアンジェリカが悲しんでしまうだろうから」

 

「魔女との契約より肉親との信頼関係を優先か…まぁ、まだ人間らしい部分はあるようだな

しかし、貴様の妹が童を殺すように願えば、貴様はそうするのであろう?」

 

「それは勿論、俺個人の感情で助けるのは三年前のあれきりだ

見逃すのは一度だけ、と言っているからね」

 

「やはり信用できんな…良いか、妾は童に生き延びてもらわねば困る

童が生き延びるために、もし貴様が危害を及ぼす素振りを見せたら…貴様のそっ首、喰ろうてやる」

 

来たばかりの時と同じように、無二はアルガリアに対し威嚇する

 

無二はアルガリアが危険な男だと以前から感じ取っていた

 

「…君はそんなことできやしないだろう?」

 

アルガリアは静かに微笑み、無二を見つめた

 

「……何故、そう言いきれる?」

 

訝しむように睨む無二に、アルガリアは告げた

 

「だって君は

 

いや、貴方は……」

 

 

 

昔のことだ

 

五年か六年か、それくらい前のこと

 

アルガリアはヴィオラ直属のフィクサーをしていた

 

当時はまだ6級ほどだったか、巡り巡って自分を拾った魔女の下に戻ってくるとは思っていなかったアルガリアは、アンジェリカと共にスミレの魔女の下で働いていた

 

その時、とある先輩がいたのだ

 

夜空のような髪、深海のような瞳、都市の人間とは思えないお人好しな女

 

一級フィクサーだったその女性は、同じくヴィオラの部下といった立場の男と結婚した

 

アルガリアとアンジェリカが来た頃には恋人同士だったのだが、見ていてもどかしい二人だったと記憶している

 

なんにせよ、その女性にしろ伴侶の男にしろ、二人の世話になった相手には変わりない

 

「二人とも、そんなに険しい顔してないで

せっかく綺麗な顔しているんだから、笑って見せて」

 

そう言われてから、アルガリアは常に微笑みを浮かべるようにした

 

ある時、男は外郭に派遣されることになった

 

しばらくしてから、子を宿した先輩もヴィオラもそこへ向かうことになった

 

ヴィオラは度々戻ってきていたが、それっきり先輩も伴侶の男も帰っては来なかった

 

……派遣される前、伴侶の男はアルガリアに声をかけていた

 

「ねぇ、アルガリア

ちょっといいかな?」

 

「どうしたの、_____…君の方から俺に声をかけるなんて」

 

「いや、ね…君になら安心して頼める気がしたんだ」

 

伴侶の男は、本当に美しいヒトだった

 

女に見紛うほどに整った造形だとアルガリアも理解していた

 

「…もし、僕達の子が産まれたら…よろしくね」

 

「…なんで?」

 

「ほら、彼女…萌恵って君達を自分の弟や妹のように感じているみたいだから」

 

「その場合俺は叔父さんってこと?勘弁してほしいんだけどなぁ…」

 

「頼んだよ、僕は君達を信頼している

……彼女と子どもに何かあれば、連れて逃げてほしい

 

僕はもう、出来ないから」

 

 

 

懐かしい記憶だった

 

まだ若かりし頃の記憶、親しい誰かの記憶

 

そんな誰かもそれっきり会うことはなかったし、頼まれ事をこなすにしても先輩もその子どもすら戻ってくることはなかった

 

ヴィオラは派遣先の研修所での出来事は話してくれたが、嘘と本当が混ざった捏造も込みだろう

 

ヴィオラが作った「レイン」という商品を見た時に戦慄したのを記憶している

 

先輩とヴィオラは顔の造形が似ているが、そのレイン達もまたよく顔が似ていた

 

機械的な言動、紫の瞳、まさに魔女の子としての理想形なのだろう

 

…しかし、三年前、逃げ出した一人の魔女の子を見て更なる衝撃を受けたのは今にも新鮮な記憶だった

 

左目に宿した深い水底のような瞳は、月に照らされ水面のように染まり美しかった

 

まるでかつて見たあの慈愛の眼差しのように

 

「…うん、彼女は美しかった

ああいう人が聖女って呼ぶのかな?それなら…聖女の子どもはどう育つのだろう」

 

暗闇の中足を踏み締める

 

ガラスが砕ける音、呻き声、鉄の香り

 

何とも容易い殺戮の間に思い出を想起していた

 

「あ…ぐ…どう、して…青い残響が……ここに…」

 

アルガリアは見た、自身の鎌の傍らに蠢く虫を

 

「どうして?君達が最初に襲ってきたんだよ?なら仕返しされたって文句は言えないはずだろう」

 

ここは扉事務所本部、アルガリアとイナを襲撃してきたフィクサー達の所属事務所

 

しかし今や息をしている人物など一人か二人程なのだが

 

「情報提供元は既に押さえてあるから、あとは君を殺したら終わりだ…」

 

「ま、待て!気が違えたのか!?スミレの魔女の命令に背くのか!?」

 

「俺は君達と違ってあの気持ちの悪い触手に洗脳されていないし…ヴィオラは自由にやっているんだ、俺も自由にさせてもらうだけ…」

 

次の返答はなかった

 

もう答えられる者など、どこにもいないからだ

 

「…」

 

血溜まりの中心で、アルガリアは口ずさむ

 

かつて聞いた、静かな音楽を

 

「きらきら光る、お空の星よ…瞬きしては…みんなを見てる…」

 

今日の都市の夜空に、星は見えない

 

それでも、遠い星に祈りを捧げるように

 

誰かを追悼するように

 

「…酷い有様」

 

その歌を割くように、声が響く

 

暗闇に溶けるように這い出てきた黒い蛇を見て、アルガリアはニコリと笑う

 

「貴方が望む方法ではないだろうけど、これが一番手っ取り早いからね」

 

「…この都市は、どこまでも手遅れなの」

 

赤い一つ目がアルガリアを見つめる

 

それはイナの傍らにいる蛇、無の世界蛇…無二の姿

 

そのはずなのに、声も口調も、雰囲気さえも違っている

 

「それが都市だからね

…さぁ、帰ろう、あの子の元に

 

 

 

モエさん」

 

 




〜ちょこっとどうでもいい話コーナー〜

ポケモンレジェンズアルセウス、メイン任務26までクリアしました

クリア、してしまいました

いやあの本当は準オープンワールドなレジェンズアルセウスの世界をポケモン捕獲しまくって堪能するはずだったのですがいやその実堪能していたんですが最近のポケモンのストーリーってかなり闇深になって濃密になってきていますよね?レジェンズプレイする前はサンムーンのシナリオが大変好きだったのですが今作をプレイしてしまって私は超ド級の衝撃を受けてしまいここ数日間それしか頭にないというかまともに思考回路が働かなくなったというかただ一人あのどうしようもなく哀れで愛しい彼を傲慢にも救いたいという感情が湧き上がっていて別ジャンルでは推しがメガネかけたり超次元少年サッカーの敵役になるしで一周まわってしんどいと言うか笑ってしまってテンションが大変おかしくなってしまったわけでレジェンズの話に戻しますと今あの人を幸せにしたくて泣きそうになりながらも幸福計画を立案中でしてまとまり次第もう小説連載しちゃおっカナ!?という段階まで頭がキておりますまたレジェンズの小説が始まりそうな見立てが出来ればご報告させていただきますのでその時はまたよろしくお願いします、もちろんこちらのLabyrinth of the Violetの方もしっかり書いていきたいので応援のほどいただけると嬉しいです、これからも今作品を何卒ご愛読していただきますようよろしくお願いします
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