Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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Rainy blueⅥ

XXXX年6月11日 午後1時23分

 

「ほらイナ見てよ、虹色の綿あめ」

 

「見目ばかりでお腹の足しにならなさそうな雲ですね……甘!うま!」

 

晴れた休日の昼下がり

 

イナとアルガリアは裏路地でも有数のテーマパークに来ていた

 

実際には昨晩泊まったホテルとは別のホテルへとチェックインした後、アルガリアの誘いで近くのテーマパークへと足を運んだのだった

 

少し古びたテーマパークだが、危険な裏路地に必要な娯楽施設として住民には愛されているらしい

 

休日ということもあり、子連れやカップルの客が多く訪れている

 

アルガリアとイナも、傍らから見れば親子に見えるかもしれない

 

「童!童!わ、妾にもその砂糖菓子一口…いや二口、いや三口!」

 

「大きいので何口でもいいですけど、人に見られないように食べてくださいね」

 

イナの髪の隙間から無二は顔を出して綿あめを食べる

 

特徴的な耳のカチューシャを着けたアルガリアは、パンフレットを見ながら次のアトラクションを決めていた

 

「よし、次はモンスターハウスに行こう」

 

「脅かし屋敷ですか?ふん…アブノーマリティをぎったんばったんしてきた私にかかれば、そのようなお遊戯施設どうってことありません」

 

 

 

「……ぐすっ…」

 

「ほらよしよし、もう出たからねイナ」

 

モンスターハウスから出たイナとアルガリアだが、イナはすすり泣きながらアルガリアに背負われていた

 

小刻みに震えながらアルガリアの首を締めんばかりにしがみつくイナの様子に、無二は溜息をつく

 

「細胞整理の際に身体に連られて精神も幼くなったのかもな

感性が年相応、というわけじゃ」

 

「そんなの知りませんっ…ひぐっ……」

 

「ごめんよ、イナ

俺があそこを選んだばかりに…お詫びに次は楽しいところに行こう」

 

アルガリアはイナを背負ったまま足を進める

 

軽快な音が流れる遊具場から少し離れ、閑静な道へと進む

 

その先には、立ち入り禁止の看板が置かれた大きな赤いテントがあった

 

周りには動物を閉じ込めた檻が並んでおり、皆が二人へと視線を向ける

 

「…立ち入り禁止、とありますけど」

 

「そうだね」

 

笑顔を崩さないまま肯定の返答をするも、わかった上でやって来たようなアルガリアにイナは眉を顰める

 

程なくしてテントの入口の布が翻り、中から人影が現れる

 

「おやおや、立ち入り禁止のサーカスに踏み入る生臭くも芳しい香り…お客様でしょうか?」

 

赤いピエロのような格好をした男が、アルガリアとイナの方を見やる

 

3秒ほど値踏みするように見つめた後、ピエロの男は満面の笑みで拍手をする

 

「ようこそようこそ!迷える子羊と狼様!我ら八時のサーカス、お二人を歓迎致しますとも!」

 

立ち入り禁止の看板を持ち上げては端に寄せ、ピエロの男はニコニコと笑いながら二人に歩み寄る

 

「へぇ、八時のサーカスって言うんだ」

 

「えぇえぇそうですとも!最近客足が途絶え皆様を笑顔に出来ず私も苦心しておりましたが、悲しげな幼い少女を見れば笑顔にしてみせるのが道化というものです!

顔を顰めるほど苦い香りを得たのなら、次は甘くも刺激的な香りを貴方にお届けすることをお約束いたしましょう!」

 

男は何も無い片手から一輪の花を取り出し、イナへと差し出す

 

イナは独特な言い回しをするピエロの男に困惑しながらも、その花を受け取る

 

「さぁさぁさぁ!お客様!ご入場はこちらから!お席はどこでも自由ですよー!」

 

ピエロの男はテントの入口へと潜り込み、手招きをする

 

アルガリアはそのままついて行き、イナは貰った花を無二に食べられた

 

 

 

照らされたステージ、その周りを囲む観客席

 

観客は中央席に座るイナとアルガリアのみ

 

まずはライオンの火の輪くぐり、猿達のパーカッションに合わせ猫はナイフジャグリング

 

二頭の象の玉乗りの上で魚達の空中ブランコ

 

物理学や生物学では説明できない演出のパレードの最後は、会場を埋め尽くすほどの花弁で締めくくられた

 

「観客様方!この度は私達の公演を見て下さり誠にありがとうございました!

またのご来場、お待ちしております〜!」

 

見たことも無いパフォーマンスの数々の余韻に浸っていたイナは、気がつけば夕暮れのテーマパーク内をアルガリアに手を引かれて歩いていた

 

「どうだった?」

 

アルガリアはこちらを一瞥し問いかけてくる

 

その言葉にイナは胸の内の高揚を伝えようと口を開いた

 

「…楽しかった、です!」

 

未だ高鳴る心臓を抑えながら、頬に集まる熱量を再現するように大きく声を上げる

 

それを聞いたアルガリアもまた、満足そうに微笑んだ

 

 

 

というのが、一か月前の話である

 

XXXX年7月13日 7時53分

 

「時の流れは早いもの、先週の引越しからもう一週間経ちましたね」

 

「青い気違いの元に来てから二度も引越しするとはのう」

 

アルガリアの元へ預けられ一ヶ月、その間に引越しは二回

 

同じところに根を張らない分、逃げるには最適なのだろうが

 

「そんな顔しないで、今日はアンジェリカが来るんだから」

 

アルガリアがテレビの報道を眺めながらコーヒーを啜る

 

イナはつくづく呆れていた

 

普段からテレビを頻繁に見るような人間ではないのだが、イナは知っている

 

朝のテレビでは、画面端に現在の時間が表記される

 

テレビの時間は正確だ、しかもこのチャンネルは秒単位で教えてくれる

 

アルガリアは報道より秒単位で進む時間の方を見ている

 

イナはつくづく呆れていた

 

この男の妹溺愛ぶりに

 

「妹の到着を待つのにてれびの時計(秒単位)を眺めるとは気色が悪いのぅ」

 

「来たばかりの頃もなんだかそんな感じでしたけどね」

 

朝食を済ませたイナは洗い物を終わらせ、次に洗濯物を干そうと脱衣場へ向かう

 

30分後、洗濯物を干し終える頃にリビングに備え付けられている内線電話が着信音を響かせる

 

ワンコールでアルガリアはスピーカーボタンを押す

 

「なに?」

 

『アルガリア様、妹様がお見えになりました』

 

フロントからの通達に、アルガリアはスピーカーをすぐ切り玄関前へ移動した

 

「一階から最上階まではエレベーターで約34秒、階段ではアンジェリカの足なら8分5秒が妥当かな…そこから部屋までの歩行距離は10秒もない、フロントからの伝達のラグを考えると……」

 

ブツブツと呟きながら玄関前で壁に寄りかかるアルガリアを見て、遠くから覗き込んだイナと無二は鳥肌を立てた

 

「妾知ってる……鬼門じゃ、鬼門」

 

「キモいって言いたいのでしょうか

うん…まぁ…わかります」

 

イナはつくづく呆れていた

 

大事なことなので、三回述べる

 

間もなく、このスイートルームのインターホンが鳴らされる

 

アルガリアは間髪入れず玄関扉を開いた

 

「アンジェリカ!待ってたよ」

 

「イナ〜!お久しぶりです!」

 

扉の向こうから見えたアンジェリカは、両手を広げるアルガリアの脇を通り抜けイナの元まで駆け寄ってくる

 

「え、あ、アンジェリカ…お久しぶりです!」

 

「元気にしてました?兄さんに何か変なことされてませんか?

何かあればすぐ相談してくださいね、何発でも殴ってあげます」

 

「アンジェリカ…俺、涙が出そうだよ…」

 

アルガリアを見事にスルーしたアンジェリカにもまた、イナは困惑した

 

それでも一ヶ月ぶりに会えたアンジェリカに対し喜びの色を隠せずにいた

 

「今日は私だけですが、ローランもアストルフォもオリヴィアも、皆貴方に会いたがっていましたよ」

 

懐かしいチャールズ事務所の面々を思い浮かべる

 

今頃、都市の星について調査を続けているのだろう

 

裏路地を徘徊する血管のない動く死体達を相手取りながら

 

「今日はお土産を持ってきました

近くのケーキ屋のアップルパイ、好きだと聞きましたから」

 

「ほ、ほんとですか!」

 

「兄さんも、イナがお世話になっているお礼に食べてください」

 

「アンジェリカ…気遣いができるいい子で俺は嬉しいよ」

 

アルガリアが紅茶をいれている間、イナとアンジェリカはリビングで話をしていた

 

「都市の星の全貌はまだ見えません

死体達の痕跡は無いに等しく、雲を掴むようです…この案件が終わるのも、年を跨ぐことになりそうです」

 

「…そうですか」

 

切り分けられたアップルパイを頬張りながら、イナは視線を下げる

 

都市の星、血染めの夜

 

それはイナの友も奪い去ってしまった

 

その悲しみ、悔しさを忘れたことは無い

 

可能なことなら仇を討ってやりたいが、今のイナにそんなことはできないのだ

 

「今全力で調査に当たってます、良い報せを待っていてください」

 

アンジェリカはイナの頭を撫で、そう言葉をかける

 

アルガリアが紅茶を運んできて、その日は昼頃まで三人で話をした

 




スランプ、入りました













レジェンズアルセウスの内容を考えていたらこっちに手がつかなくなり、「あヤッベ、話の続きどう書こう」というスランプに入り二週間も更新が停滞してしまいました
日々ご愛読していただいている読者の皆様、大変申し訳ありませんでした
一度書ければきっともしかしたら多分大丈夫なので、また更新していきたいです
(尚私は今いろいろ多忙なのでやっぱり少しだけ更新ペース落ちるかもです、南無三)
これからも何卒よろしくお願いします
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