Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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White noiseⅡ

悲鳴が響き渡る

 

血が吹き飛ぶ

 

わかりやすい地獄のような光景に、一人、ため息を吐く

 

(……また、死んだか)

 

モニターの向こうに映る職員達だった残骸を、一通り眺めていく

 

殺した怪物達は愉快そうに笑い、収容室へと帰っていく

 

その日も、生産エネルギー量は順調であった

 

人を殺すことでより多くのエネルギーを得られる

 

一体何がどうなってこんな仕組みになったのか、そんなことは誰にもわからない

 

ただ、ため息を吐いた張本人の僅かな望みも叶わず、人の命とは簡単に潰えていく

 

それも仕方ない、この会社を取り仕切る上級AI様は人命より効率をお望みなのだから

 

「や、ネツァク

調子はどうだい?」

 

サブモニタールームの出入口から、声が聞こえる

 

ネツァクは機械の体を動かし、背後へと視線を向けた

 

高い背と長い灰色の髪、薄ら闇でも輝く紫の瞳

 

黒い森のスミレの魔女、ヴァイオレットその人だった

 

「…単純な気分の話をしているなら、最悪って答えてやるよ」

 

「だろうね!君はなかなか異色だよ、セフィラの中ではね

皆機械として機械らしく仕事に勤めてるのに、ネツァクは…

…いや、セフィラ達皆人間らしいね、それを隠しているだけで」

 

「何をしに来た」

 

ネツァクはこの上なく冷たい声で言い放ち、ヴィオラを睨む

 

そんなネツァクの反応が愉快極まりない様子で、ヴィオラは頬を吊り上げる

 

「まぁそんなにツンツンしないで

……お前の秘密、黙ってやってるんだから」

 

ネツァクはその言葉に、機械の体の芯奥が凍り付くような錯覚を覚えた

 

すぐさまヴィオラは人懐っこい笑顔に切り替え、ネツァクから距離をとる

 

「何をしに来たも何も、簡単なことだよ

準備が整った、僕も腰を下ろしてこのロボトミー社に協力しようって思ってね」

 

「……それは」

 

「というわけで、これから()()よろしくね

と言っても頻繁に会うことはないだろうけど」

 

ヴィオラはそれだけ言い残し、サブモニタールームを後にした

 

怪訝そうなネツァクは、モニターの方へ視線を移す

 

モニターの向こうでは、ヴィオラと同じ髪色、瞳の色の女職員が怪物達を切り捨てていっている

 

 

 

「もう何回目になるんだ?」

 

「…反復数、12834回目よ」

 

「そっか、だいぶ来ているね」

 

その日の業務終了後、ヴィオラはメインモニタールームにてシャンパンを片手にこの会社の上級AI・アンジェラと対話をしていた

 

アンジェラは瞳を閉じ、無機質な顔をしてモニターを眺めている

 

今やもう初めの頃の人間的な表情など伺い知れない

 

「貴方なら聞かなくても記録していると思っていたけれど」

 

「まぁそうなんだけどね

…一万回を超えているけど、シナリオを達成させるにはまだまだかかると思うな

少なからず…外の時間換算で、5年以上はかかるね

なんせ、このシナリオはAが悟りへと進んでこそ、君はそのシナリオへと正確に導くガイド…

僕はただの脇役、そうだろう?」

 

「貴方が脇役なら、私は腹を捩れさせるわ」

 

「笑うこともしなくなった癖に」

 

「…もうすぐ管理人が目覚めるわ

早く出ていって」

 

冷たい声色、冷たい態度、蒼白の機械はまるで氷のようにヴィオラを追い払う

 

ヴィオラは口を尖らせながらもシャンパンを持ったままメインモニタールームを後にする

 

「母様」

 

メインモニタールームから出てきたヴィオラを、一人の女が出迎える

 

同じ灰色の髪、同じ菫色の瞳の職員

 

彼が作るクローン達の一人である女

 

「…レインvol.2.7-14562、今日の調子は?」

 

「問題ありません

wawクラスのアブノーマリティが脱走し一時窮地に立たされましたが、他の職員の命のおかげで生存出来ました」

 

「うん、それでいい、よくやったよ」

 

ヴィオラはクローンに優しく微笑みながら、足を進めていく

 

「同じ失敗は繰り返さない…

あらゆるシチュエーションでも生存方法を導き出す思考、生存本能…ここでは無数に近しくシュミレートできるからね

そのデータを集計して、作り出さないといけない

君達のこと、頼りにしてるんだよ」

 

ヴィオラがそう激励すると、クローンは頬を染め嬉しそうに顔を輝かせる

 

「は、はい!私達、皆母の為にがんばります」

 

そのままクローンは一礼し、ヴィオラの元から去っていく

 

ヴィオラはそれを笑顔で見送り…クローンが見えなくなってからその笑顔を消し去る

 

「…母の為に、か」

 

一人のクローンを脳裏に浮べる

 

ALEPHクラスのアブノーマリティを移植され、更には肉体が縮んだ廃棄処分のクローン

 

今でも捜索の手は緩めていないが、廃棄処分が出来ていない現状に小さく苛立っている

 

(無の世界蛇が一緒にいると、探すのも一苦労なんだよな…かくれんぼ上手すぎ

まぁ、何人かは裏切ってるんだろうけど

 

……()()()()、なんて言わせてやるものか)

 

誰がヴィオラを裏切っているのか、ヴィオラはその対象をとうに絞り出している

 

しかし、あえて黙認し泳がせたままでいる

 

下手に消えられるよりも、行動を把握できる位置にいる方がいい

 

更には、あえて生き延びさせることで彼が欲する失われた「権能」が再顕現するのを待っている

 

(僕の血を混ぜたクローンだ、僕と同じDNAを持っている…万が一という可能性もあるからね

行動を監視できる範囲内で餌にするのが今のところ丁度いい

頭に目をつけられている以上、派手な行動もできないし…)

 

片手のシャンパンを後ろに放り投げ、そのまま歩き出す

 

紫の瞳は、見えない未来を見据えるように深く影を落としている

 

(世界に見捨てられ幾星霜…死んでは新たに生まれ幾つもの世界を生きてきた

君が運命力を捨てた理由はわからないけど、君がそうしたとしても僕がすることはただ一つだけ

 

……必ず、君が幸福に生きられる世界を構築するよ)

 

左耳の紫の花飾り、その一枚の花弁を指で握り締め、不快そうな表情を消し去りヴィオラは長い廊下を歩き進めた

 

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