Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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Nightmare of the sunsetⅥ

 

イナが振り返った視線の先、玄関と廊下の境目には少年が立っている

 

少年は不思議そうな顔をしながらイナに近付いてくる

 

「きみ、誰?」

 

「…わ、私は」

 

先程男達が話していたことを鑑みるに、この少年は彼らの子供のヨシュアだろう

 

ヨシュアは警戒心を感じさせない人懐っこい表情でイナの手を掴んでくる

 

「ほら、席につかなきゃ

もうすぐ「おばあちゃん」が起きるんだよ」

 

そう言って彼はイナの手を力任せに引いていく

 

イナは見た目にそぐわない筋力を誇っているが、そんなイナでも少し抵抗しないと引き摺られてしまうほど彼の力は強かった

 

(先程から、一体何が……)

 

これからどう行動するか思考している時、家の玄関扉が力強く叩かれる音がした

 

「おい、いるんだろ」

 

ぶっきらぼうな口調の女の子の声に、イナはそちらを振り向く

 

一体誰が?と疑問に思うのも束の間に、扉が力強い衝撃を伝達させる

 

それが向こう側の誰かの一蹴りだと理解する

 

「早く出てこいよ!おい!」

 

脅迫の言葉に、少年は萎縮する

 

「だ、誰?きみの友だち?」

 

「いえ私にあんな粗暴な女の友人はいませんが…」

 

生真面目に返答している間に扉の向こうの人物は痺れを切らしたのか、扉扉に何かが突き立てられた

 

それは銀色に輝く刃物であり、それは一直線に扉を刻んでいく

 

扉は瞬く間にその機能を失い、刻まれた木材と化して雪崩落ちていく

 

家の中と外を隔てる出入口がなくなったことで、先程から荒く怒鳴ってきた人物が家の中へ入ってくる

 

それは全身を黒い衣服で包み込み、隙間から包帯で肌を隠している少女

 

「…あ」

 

一次試験開始前にイナに突っかかってきた、同じ試験参加者の少女だった

 

「よぉお嬢サマ

得物もなくのこのこと入っていっては捕まってんのか?ざまぁないね

お前みたいな日和ってる女はいいカモだぜ」

 

少女は先日持っていたナイフとは違い、小さな手頃の鎖鎌を手に刻んだ扉だったものを蹴り飛ばす

 

「あぁ!人のものを勝手に壊しちゃダメなんだよ!」

 

「あ?知るかよ、こっちは試験合格の為に必死なんだ

ここ、ターゲットの女の家なんだろ?」

 

「…それが」

 

「なんだ、なんの騒ぎだ」

 

玄関での悶着を聞きつけた男とコーラルが居間から飛び出してくる

 

そして、当然といえば当然の反応ではあるが、玄関の惨状を見ては唖然とする

 

「な…なんだこれは!」

 

「貴方どちら様?まさか、貴方がこんなことを?」

 

夫婦も少女を見ては怯えと怒りをその顔に滲ませる

 

「フン、だとしたらなんだ?

…っていうか、ターゲットいるじゃん、ラッキー」

 

「どうするつもりですか?」

 

「どうするもこうするも、捕まえて試験官の前に突き出せば良いだろ?

道案内サンキュー、あとは邪魔だから下がってろ」

 

どうやら少女は自分の跡をつけてここに辿り着いたらしい

 

なるほど、他の参加者を潰そうとする者もいれば他の参加者を利用する者もいるのは道理である

 

一次試験を通過したこともあり、頭は回るようでイナは静かに感嘆した

 

最も、そんな悠長にしている余裕はないのだが

 

「こんなことをして…「母さん」が怒るぞ」

 

「さっきからなにをごちゃごちゃと…」

 

「あぁ…きた…起きてしまった…「お義母さん」が」

 

薄暗い廊下の奥

 

その先から、何やら生暖かい風が吹いてくる

 

イナと少女は本能的に嫌悪を覚える

 

そして、廊下の奥から誰かが姿を現す

 

簡易的な車椅子に腰を下ろした、小さな老婆

 

その姿を見て、イナは昔の記憶を呼び覚ます

 

「……あなた、は」

 

「何やら騒々しいお客さんだねぇ」

 

朗らかな微笑みを携え、老婆は眼鏡の奥の瞳を細める

 

その声色は全てを抱擁するような暖かさを持ちながら、何かが根底に潜む恐怖が感じ取れる

 

単純な言葉で言い表すのなら、「気持ち悪い」の一言に尽きる

 

「おやまぁ、玄関をこんなに散らかして…駄目じゃないか」

 

「ごめんなさい「お義母さん」、今すぐ片付けますから…」

 

「いいのよコーラルさん

それよりもまず、お客さんをおもてなししないといけないでしょう?」

 

お客さん、と呼ばれたイナと少女はじりじりと後退する

 

後ろの玄関に扉はない為、走り出せば直ぐに家から逃げ出せるはずだ

 

イナは少女の方を向き、逃げるようアイコンタクトしようとするが…

 

「…気色悪いババアだな…!」

 

少女は鎖鎌を握り締め、老婆へと向かってその刃を振るう

 

「ま、待ちなさ…!」

 

制止の声も虚しく、少女は飛び出す

 

しかし、老婆は自信に凶器が向けられているにも関わらず絶えず微笑みを浮かべ…その背後から無数の黒い何かを溢れさせる

 

それを理解するのは、イナとしては避けたいものだった

 

なせならそれは…複数の足、不規則に動く触角、がむしゃらに動かす羽……なぜならそれは、無数の「虫」であるからだ

 

老婆の背後から飛び出してきた無数の虫は瞬く間に少女を飲み込み、次いでイナをもその姿を覆い隠した

 

 

 

次にイナが意識を取り戻したのは、冷たい木の床の上だった

 

「ん…んん…」

 

身を捩ると、手足の自由が利かないことがわかった

 

拘束されているのは瞬時に理解出来たが、イナはその「拘束具」に違和感を覚える

 

縄でも鎖でもなく、何かチクチクしている

 

しかも、拘束具がひとりでに動いているような気もする

 

手は後ろに回されているので確認できないが、暗い空間の中で辛うじて足の拘束具は見ることが出来た

 

イナの手足を縛っている拘束具の正体は、長い体に節々に鋭い足を生やした…百足だった

 

「____ッッッ!!」

 

イナは声にならない悲鳴を上げ、全身を粟立たせる

 

すぐさま意識を失う前のことを思い出す

 

廊下の奥から現れた老婆により放たれた大量の虫

 

その虫達の影に飲み込まれ、意識を手放したのだ

 

身の毛もよだつような光景と感触に、イナは首を振る

 

そして…飲み込まれたもう一人の人物を探す

 

暗い部屋を見渡せばそんなに離れていない場所に少女は横たわっていた

 

近付いて伺ってみると、息はしているし目立った外傷も見当たらない

 

同じように手足を百足で縛られている

 

「…なんだか、ただの人探しの試験が面倒な事件に巻き込まれた気がします」

 

「難儀なことになってきたなぁ」

 

イナの首元から姿を見せた無二は、やれやれと言ったように首を横に振る

 

「ちょっと無二、貴方蛇でしょう

蛇なら虫くらい食べてくださいよ、ほらこの百足」

 

「………正気か?」

 

「出来れば私も虫を磨り潰して拘束具を取り払ったりしたくはありません…」

 

「ふ…ふざけるなよ貴様!妾は虫なぞ食わん!食むのは星屑の砂糖菓子だ!」

 

「食べなくてもちょっと頭噛み砕く程度でいいですから」

 

「程度とな!?それが程度というのか貴様は!」

 

そんな言い合いをしていると、少女が呻き声を零して目を覚ます

 

「ぅ…ぁ…」

 

「おや、起きましたか」

 

少女はむくりと上半身を起こしては、イナの方を見る

 

その目つきの悪さはより一層増されており、舌打ちをしながら視線を逸らした

 

「どこだここ」

 

「どこでしょう、私にもわかりません」

 

「あたしら、捕まったってことなんだよな」

 

「そうですね、そう考えるのが妥当でしょう

殺されていないということは生かすことにメリットがあるということですね」

 

「メリット…?」

 

「…どうやらこの事件、そう単純なものではありませんね

ここを脱出する為にも……うん、私達は協力すべきです」

 

イナが力強くそう説くと、少女はあからさまに嫌そうな顔をする

 

「はぁ?あたしがお前と?ぜってー嫌だ、お前みたいなお嬢サマ身なりの野郎と協力なんて…」

 

「私はお嬢様でもなければ冷やかしに参加したわけでも、貴方を憐れんでるわけでもありません

私はフィクサーになりたくて試験に参加したんです

その為には、ここを脱し試験課題をクリアしなければなりません

だからどうか、力を貸してください」

 

縋るような想いを滲ませ、イナは頭を下げる

 

誠実な姿勢を見せることで、相手の警戒心を解き協力関係を結ぶ

 

利用するされるではなく、対等に純粋な協力相手として

 

そんなイナの様子を見た少女は驚愕しながら、少しばかり沈黙し…息を吐いた

 

「…はぁ…わかったよ

生きてここから出るためだ、せいぜい上手く使われろよ」

 

変わらずぶっきらぼうな言い草ではあるが、少女はイナと協力することを約束する

 

「ありがとうございます!

名前がまだでしたね、私はイナといいます」

 

自己紹介をして笑いかけたイナを少女は睨みながら口を開く

 

「…ゲルダ

あたしはゲルダだ」

 




リンバスカンパニーぶるんぶるんゆるりくらり走り続けて一章クリア、どうも皆さん改めまして白波恵です

読者の皆さんにはいつも大変お世話になっております、長らくの停止期間を経て最近また文字を綴り始めた私ですが、一週間前にリリースされたリンバスカンパニーももちろんプレイしております

推しが誰になるかは未だ定かではありませんが、一章クリア時点ではユーリちゃんが好きです!

この意味わかっていただけますね?はは、ははは

不憫な女の子は大変可愛らしいのですよ

さて、今回後書きを書き出した理由と致しましては特にありません

はい、理由は特にないのです

それでも何か書きたい気分だった、としか言いようがないのですが…

日頃この小説をご愛読してくださっている皆さんには大変感謝しているのも事実、いただいたコメントも大切に読ませていただいております

その中で、もしかしたら以前にも言ったかもしれませんが(記憶にない)、もしオリジナル登場人物達へのご質問等あれば答えられる範囲でキャラクター達が回答する質問コーナー等を設けようかな、とかも考えています

日頃プロジェクトムーンの作品を愛する皆様は今やバスに乗り殺戮を撒き散らすのにお忙しいかと思われます、かく言う私も数多のゲーム(FGO)(原神)(プロジェクトセカイ)(ゆめくろ)(ここに新たに加わったリンバス)に仕事にと忙しいですが、せめて休日は小説を執筆できるようにしていきます

どうかこれからもLabyrinth of the Violetをよろしくお願いします
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