廊下を歩き進めると、程なくして上へと上がる階段に辿り着いたイナとゲルダは、階段の上を見上げる
暗く狭い階段は数段先から足場に虫が蠢いており、それは黒く艶めいており長い触覚がふわふわと揺れている
「…あれは」
その姿は、イナの短い人生の中で数度見たことがある
裏路地では見かける頻度は少なくないし、チャールズ事務所の掃除の時にも遭遇したことはある
事務所のフィクサーの誰もが恐れる、都市でも最も最恐の虫…
それに対する恐怖は、イナも同様に持ち合わせていた
「………」
「何してんだ、早く行くぞ」
イナが足踏みしている様子を気にもとめず、ゲルダは階段を登っていく
その様子を見てイナは悲鳴をあげそうになるのを必死で堪えた
黒い虫はゲルダに踏み潰されつつも何十匹も一斉に飛び回りゲルダの体にまとわりつく
ゲルダはそれに対して何ともない様子で階段を昇っていく
「げ、げげげ、ゲルダ、待ってください…」
「はぁ?この程度のゴキブリ、裏路地ではよくいるだろ」
ゲルダが片手のライターを振り回すと黒い虫達は一斉に散っていき、再び足元に集まってくる
進むしかないこの道、イナは吐きそうな程の嫌悪感を腹の奥に押し留め、目を瞑り足を踏み出そうとしたその時…
目を閉じる瞬間に見えた、こちらを見守るゲルダの背後から伸びた刃
「ゲルダ!!」
咄嗟に呼びかけるとゲルダは瞬時に振り向き、振り回された刃を間一髪で回避する
しかしその拍子にバランスを崩し、階段から落ちていく
そんなゲルダをイナは受け止め、黒い虫達は瞬く間に歩いてきた廊下の奥へと飛び去っていった
「大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ…悪ぃ」
「だだだ駄目駄目駄目じゃないぃぃ
おお、お客さんははは、おおお義母さんののの
ご、ご、ご、ご飯なののののの」
階段上から聞こえてくる声
滑舌が悪く抑揚のない女の声は、時折何かを噛み砕くような咀嚼音を響かせながら降りてくる
ゲルダが階段から落ちた際に手放し床に放り出されたライターは、刃によって破壊される
暗い階段から姿を現したのは、試験対象の元妻、コーラル
しかしコーラルはその背後から巨大な蟷螂のような腕を生やしており、口元には何かを咥えていた
その何かは彼女の息子、ヨシュアであり、彼はコーラルに首を喰われて既に息絶えた様子であった
コーラルがヨシュアの首を食べ続け、やがて頭の重さに耐えられず残った皮膚と肉が千切れ頭がゴトリと床に落ちた
「…自分の子供を…」
「よよ、よくも、わたしの旦那をここ殺してくれたわね」
「既に死した者の体を寄生虫が動かしていたのです、今更殺すもなにも…」
イナの説明を聞かず、コーラルは口元の血を舐めながら金切り声のように叫ぶ
「よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもぉぉおおオオオオオオ!!」
コーラルは背中から生えた巨大な鎌をイナとゲルダへと振り下ろす
ゲルダは瞬時にナイフを手に鎌を防ぐも、力に押し負け壁方向へ叩きつけられる
「がッ…!」
「ゲルダ!」
イナがゲルダの元へ駆け寄ろうとするも、コーラルがそれを許さない
もう片方の鎌をイナへと振るい攻撃する
イナは持ち前の瞬発力で跳躍し後退するも、ゲルダから距離が離れてしまった
その隙にコーラルは動けないゲルダへと鎌を突き刺そうと振り上げた
イナとコーラルの距離はおよそ7m、対してゲルダと鎌の距離は僅か1mもない
間に合わない、そう思ったイナは迷わず行動をとる
「銃を武器に出来るのは大きなアドバンテージだと思うよ
何せ、都市は銃の取り締まりに厳しい
弾丸は鉄を貫いてはいけないし、何よりその弾一発一発の税が高い…
それに引き替え、君が用いる銃はこの都市で造られたものじゃない、弾丸だってそうだ
だから税はかからないし、放たれた弾丸は消え物は残らない」
都市での銃の取り扱いは複雑で厳重
その為、都市の法に引っかからない無二の「特別な銃火器」は切り札とも呼べるもの
しかし、四の五の言ってはいられなかった
「無二、マグナム54番!」
『妾は四次元ポケットではないぞ!』
光がなく影の生まれないこの空間だが、イナは構わず自身の足元の床に手を伸ばす
すると手は床の暗がりに吸い込まれ、確かな重量が手に握られた
素早くそれを取り出しては構え、狙うはコーラルの鎌
それが蟷螂の腕ならば、関節は存在する
イナはコーラルの鎌がゲルダを突き刺すより早く照準を定め、引き金に指をかけ、弾を撃ち出す
放たれた弾丸は見事、コーラルの片鎌の関節に命中し関節は破壊される
威力の高いマグナム弾はその関節を吹き飛ばし、その先の鎌が床へと落ちる
「あ…ぁぁああアアアア!!!
わた、わたし、私の腕がぁぁぁアアアアア!!」
片腕となる鎌を飛ばされた衝撃から、美しかったコーラルの顔は恐ろしい形相に変わり果て、蟷螂の腕の生えた背中が瞬く間に膨れ上がる
背中の皮膚、肉、血管が破れる音と骨の砕ける音に混じり、木の葉のような茶色の体が姿を現す
コーラルという蛹から片腕を無くした巨大な蟷螂が孵化し、イナを一直線に見つめる
既にコーラルの殻から抜けた為発声はしないが、劈くような悲鳴を轟かせイナ目掛けて突進してくる
「…ふぅ」
二年間の銃火器の特訓を元に、イナは精神を静かに安定させる
凪のような心を持ち、力を込めずゆるりと拳銃を構える
蟷螂のもう片方の鎌がイナに向けられる、その距離僅か30cm
しかし、それが届くよりも早く、イナはその弾丸を蟷螂の頭の中心点へと撃ち抜いた
その衝撃から頭は破裂四散し、鎌はイナの鼻先10cmの距離で止まり、巨体は床に倒れ伏した
「……はぁ〜〜〜…」
実践で使うのは初めてだったのだ、イナは多大な集中力と緊張感から解放され思わず膝に手をついた
『ナイスショットだぞ、童』
「ありがとうございます、無二…」
ゲルダに聞こえないよう小さな声で会話しながら拳銃を再び影を通して無二の腹の中へと戻す
少しばかり息を整えては、イナはゲルダの元へと駆け寄った
「ゲルダ、大丈夫ですか?」
「げほっ…なんとかな…」
背中を強く壁に打ち付けられたが、ゲルダは無事な様子だった
「良かった…」
「…あんまり見てなかったけどよ…お前、銃持ってたのかよ
やっぱいいところのお嬢様なんじゃねーの?」
「それに関しては秘密ですが、ひとつ訂正させてもらいますと私は決してお嬢様なんかじゃないので」
ゲルダの手を掴み、イナはゲルダを引き上げ立ち上がらせる
そんな他愛のない会話をしながら黒い虫もいなくなった階段を登ろうと足を踏み出した
「ッ……!」
「ん?ゲルダ、どうしました?やはりどこか怪我を…」
「…いや、なんでもないよ」
小さく声を漏らしたゲルダをイナは心配そうに伺うが、ゲルダは首を横に振り階段を昇っていく
今はそんなゲルダを引き止めるわけにもいかず、イナは彼女の後を続いて階段を駆け上がっていった
去年の8月より、左胸に謎の激痛が発生しました
一週間程でその痛みは緩やかに消失していきましたが、同年9月に再び痛みは現れました
遠方に住まう友人に会いに行った旅行の最中でした
こちらも同様、一週間程で痛みは消失しました
更に今年3月、久方ぶりに同じ痛みが同じ箇所で発生
しかし都合が悪く治りかけの際に受診した為痛み止めを貰って終わり
そして、4月6日の夜
バチクソ痛ぇ〜〜〜〜〜お馴染みの激痛が左胸に走りました
私は翌日すぐさま仕事を休み病院へ駆け込み、外科にてCT検査を受けました
診察結果は…
先生「うん、肺に穴空いてるね。肺気胸ってやつ」
私「はいききょう」
肺気胸でした
肺というものは中に肺胞という小さな袋がめちゃくちゃ入っており、外側はいくつもの膜で覆われています
その肺に穴が空き空気が膜の隙間に漏れるのが肺気胸です
あぁ〜なんか昔習ったなぁ〜という印象と、ようやく謎の激痛の正体が知れて嬉しかった気持ちがありました
あまりに繰り返すようなら脱気施術しないといけない、肺が萎んでいたら手術しないといけない、等諸々の話を聞いてとりあえず穴は小さいから痛み止めと胃薬を貰い経過観察となりました
これを書きながらも薬を飲んでも「あぁ〜痛ぇなぁ〜」と思ってます
これ薬効いてるのかわかんないんですよね
というか繰り返すようなら云々言われたんですけど、これ今回でもう4度目なんですよね
恐らく過去3度も同じ場所で同じ痛み同じ症状(左胸からゴポゴポ?ゴリゴリ?音が鳴る)(恐らく空気が漏れてる音)が出てたので4度全て肺気胸だと思います
いつも自然に治ってたので今回も自然に治ると思いますが、やはり同じ場所また再発するんじゃないかな〜って気持ちです
まだ若いから治りも早いと思いますがこんなに繰り返し再発している現状なのでちょっと素直に怖いですね、はは!
本当に酷かったら命に関わると言われましたが今のところ大丈夫なのでゆっくり治療していきます
いつも愛読してくださってる皆様、誠にありがとうございます
流石にこれ完結させる前に死ぬなんて出来ないので意地でも生に縋りつきます
私自身現状を受け止めつつ悲観せず楽観視もせず「穴空いてる?私なら治る!!!」という強い気持ちでいるのでどうか皆様もこんな私を応援してくださるとありがたいです
それではまた、次の更新で!