Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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A step towards a dreamⅠ

 

「第七十三回フィクサー認定試験実技試験の結果発表を行います」

 

一番最初の試験会場へと再び足を運んだイナは、凡そ五人しか参加者が残っていないその場にて呆然と試験官の声を聞いていた

 

会場にいる五人のうち、鮮明な青の髪を靡かせる女を見やる

 

彼女は家取りに襲われていたイナとゲルダを助けた、家取りを討伐した試験参加者だった

 

都市伝説、家取り…その老婆と相対してから早二日、負傷したゲルダは試験スタッフにより病院へと連れられ、イナもまた病院へと同行した

 

ゲルダは肋骨が3本折れ、脳震盪も起こしていたが命に別状はなかった

 

恐らく、蟷螂と老婆のせいで何度も体をぶつけたせいなのだろうが…大事に至らずイナは安堵した

 

しかし、治療の為二週間程の入院は必要とのことでその間の治療費はハナ協会が出してくれるのだそう

 

会場に来られないゲルダの分も、この結果発表はしかと聞き届けなければとイナは試験官へと目を向ける

 

「試験対象は都市伝説である家取りにより殺され洗脳されていたとの事なので、試験内容としては原則に討論を重ねました

試験参加者であるにも関わらず、都市伝説を討伐した功績を讃え…

 

受験番号22番、ナクワ・べレーヌをハナ協会公認フィクサーに認定

同時に8級への昇任を認める」

 

名前を呼ばれた青髪の女…ナクワは試験官の元へ歩み寄り、承認証を受け取り頭を下げる

 

「有り難き幸せ

…公認フィクサーとして精一杯務めて参ります」

 

優雅に、そして凛々しいその姿勢にイナは精一杯睨みつける

 

「まぁ美味しいところを横取りされて腹が立つ気持ちもわかるが…少しは落ち着け小童」

 

無二の耳打ちにイナは「わかってますよ」と小さく答え、俯く

 

結果から見れば事態を解決したのはナクワで、自分達の努力は水の泡になってしまったのが悔しい

 

ゲルダと力を合わせて家取りを追い詰めたのに、その結果は何も残らないのが腹立たしい

 

そんな複雑な心境を抱えながら…一刻も早く解散発表がされるのを待つ

 

「そして…試験対象、及び家取りを発見した受験番号17番、18番もまた9級フィクサーとして承認する」

 

17番と18番の方、おめでとうございます

 

そんなことを考えながら…ふと気がつく

 

17番って、私の番号では?と

 

イナは懐から受験票を取り出す

 

自身のものとゲルダから預かった2枚には「17番」と「18番」と書かれていた

 

「…え」

 

「17番、イナ

入院中の18番ゲルダの分も承認証を受け取ってください」

 

「は、はい!」

 

イナが狼狽えるのも無理はなかった

 

イナは、フィクサーになれるのは一人だけだと思い込んでいた

 

しかし、この認定試験において「フィクサーとなれるのは一人だけ」とは誰も言っていなかったのである

 

試験官の前へと駆け寄り、イナは承認証を受け取る

 

「後日正式なフィクサー身分証を発行します

所属事務所は任地希望調査を行うので身分証と共に郵送させていただきます

若いながらのフィクサー承認、おめでとうございます」

 

「…あ、ありがとうございます!頑張ります!」

 

承認証を抱えながら上擦った声で宣言するイナに、無二は「やったな小童…!」と涙混じりの鼻声で祝いの言葉をかける

 

「これにて結果発表、フィクサー認定試験は終了致します

皆様、お疲れ様でした」

 

試験官の言葉と共に、残っていた参加者は皆不機嫌そうに、悔しそうに、落胆して会場から出ていく

 

イナも喜ばしそうにゲルダやアルガリアへの報告を思案している中、歩み寄る人物が一人

 

「17番のイナさん、だったかな

すまないね、君達の活躍を奪ってしまって」

 

フィクサー認定、更には都市伝説討伐にて9級を飛び越し8級へと昇級したナクワだった

 

「…いえ」

 

「ちょうど試験対象の奥さんの所在を調べていたところ、強い閃光が見えてね

駆け付けたところ何やら騒がしかったし嫌な気配もしたから…こう、天井からお邪魔してしまった

君も入院した彼女も、怪我は大事無いかい?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

誰か見ても美しい顔立ちにイナよりも随分と高い背は女性としては大きく、短く切り揃えられた髪は滑らかに風を受け柔らかく揺れる

 

一見したら本当に男性にも見えてしまうその容姿に迫られれば、男女問わずきっと骨抜きになってしまうだろう

 

「なら良かった

良ければこの後お茶でもどうかな、今後同じフィクサーとして一緒に仕事をするかもしれない相手だし、今からでも親睦を…」

 

「いえ、結構です」

 

「そう、か…それは残念だ

しかしいつか手を組むことがあればその時はよろしく頼むよ」

 

親しげに声を掛けてくるナクワに対し、イナは終始冷たい態度を取り続け、仕舞いには差し出された握手の手さえ無視をしイナは会場を後にする

 

「…やれやれ、随分と気難しい子なんだな」

 

 

 

「何もあそこまでつっけんどんにならずとも良かったのではないか?」

 

「…反省してはいますが、やはり私とゲルダの手柄を横取りされたのが悔しいのです」

 

イナは古びた白い廊下を歩きながら無二と会話する

 

そこは、ハナ協会が試験の際に負傷者を搬送する為に契約している小さな病院である

 

試験で負傷した参加者はこの病院にて治療を受けており、恐らくイナが骨を折った参加者もここの運ばれていることだろう

 

数ある病室の扉のうち、一つの前に立っては二回ノックをする

 

「ゲルダ、起きてますか?」

 

イナの呼び掛けに答える声は無く、イナは構わず病室の扉を開ける

 

あまり設備が整っているとは言えない古い病院だが、最低限清潔に保たれているようであの家よりもまだ明るく、空気も綺麗だったベッド

 

四人部屋の病室の中、左奥のベッド

 

清潔な包帯を巻かれ、点滴を繋がれたゲルダが横たわっている

 

「…寝てる、か」

 

ベッドの傍らに用意されてる床頭台に、試験官から受けとったゲルダの分の承認証を置く

 

そのまま病室を後にしようとイナは音を立てずにベッドから離れようとした時、ゲルダの方から微かに声が聞こえた

 

「……い…つか…おまえ…みたい、に…」

 

それはゲルダの寝言のようで、イナはゲルダを優しい眼差しで見つめる

 

「ありがとうございました、ゲルダ

また会いましょう」

 

一言だけ言い残したイナは病院を後にし、帰路に着いた

 

 

 

三日後、イナと無二、そしてアルガリアが暮らすホテルの元に一通の手紙が届いた

 

封筒の中には正式発行されたフィクサー身分証と任地希望調査票が同封されていた

 

そして、各協会ごとに公認されているフィクサー事務所のリストが事細かに

 

「す…凄い数ですね」

 

「字が細すぎて読めんわ

…してどうする小童、協会には高らんくのふぃくさーでなければ付けぬが、下の方の事務所ならばどこであろうと受け入れてくれるであろうよ」

 

「そんなの希望地なんてひとつに決まってます」

 

イナが希望地調査票に希望を書こうとボールペンを手にした時、頭上から妨害するような声が降ってくる

 

「勿論、俺のところだよね」

 

晴れてフィクサーに認定されたイナをお祝いを込めて巣の高級料亭へと連れて行ってくれたアルガリアが、「それ以外は認めない」というように言葉に圧力を込めてくる

 

そんなアルガリアに引きながら、イナは希望地調査票を隠す

 

「貴方、フリーランスでしょう

独立するにはまだ早過ぎるので」

 

「そんな…俺は悲しいよイナ

こんなに立派になるまで育ててあげたのに」

 

アルガリアの構ってちゃんをスルーしてイナは記入欄に自分が行きたい事務所を書き綴る

 

『チャールズ事務所』

 

イナとしては、そこ以外考えられないのだ

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