Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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White noiseⅣ

 

反復

 

52025回目

 

「管理人さん、見守って下さい

私がこの状況を統制します」

 

『……管理人さん、見守って下さい

私がこの状況を統制します』

 

「二度目を開けたくなかったな

罪を背負ったまま、地獄にただ落ちていきたかったんだ」

 

『……二度目を開けたくなかったな

罪を背負ったまま、地獄にただ落ちていきたかったんだ』

 

「私だって、皆の安否をそれなりに心配しているのにどうして私を憎むんですか?」

 

『……私だって、皆の安否をそれなりに心配しているのにどうして私を憎むんですか?』

 

「はぁ…本当に一言一句違わず、同じ時間に同じセリフね」

 

ロボトミー社本社の、メインモニタールームで

 

赤く光るモニターに映し出される異形達

 

様々な危険要素を抱えるこのL社において、リスクレベルⅡも日常茶飯事なのだろう

 

現に、上級AIのアンジェラは眉ひとつ動かさず現状を眺めていた

 

何度も繰り返し何度もやり直し、反復回数は無数に伸びていく

 

全てはひとつの台本を完璧に完成させる為

 

その為にアンジェラは存在している

 

そんな光景を静かに眺める白い人影が一人

 

「セフィラ達…いや、その前身が抱えていた問題…

以前はあんなにも仲間として親身にしていた君なのに、今やそんなに冷淡な顔になってしまうなんてね」

 

スミレの魔女・ヴァイオレット…ヴィオラはエラー信号を放つスピーカーに耳を傾けながら呟く

 

「…ヴァイオレット、貴方の提供する派遣人員は凄まじいものだわ

エネルギー生産を効率よくしてくれる、Aもきっと認めてくれているわ」

 

「それは、「自分は認められないのに他人は認められて心底羨ましい」の皮肉かい?」

 

アンジェラの貫くような視線がヴィオラへと向けられる

 

「怖いなぁ

ま、改良に改良を重ねた()()達だからね」

 

「愛…だなんて

彼女達への情なんて初めから持ち合わせていないのに、よく言うわ」

 

「……

それで、以前言った件についてはどう?考えてくれた?」

 

「あぁ、あれね

Aも構わないと言ってくれたわ

紫の試練…深夜、あそこに貴方が探していた権能が現れるのだったわね

鎮圧後、貴方へ所有権の譲渡します

まぁ…まだ先になるでしょうけど」

 

「それでいいよ、ありがとうアンジェラ

Aにも伝えておいてくれ

最終的に、僕の元へ戻ってくるのなら問題ない」

 

吐き出し続けられるエラーに、収容違反を頻発する幻想体達

 

必死になって鎮圧する職員達の中に…残酷に咲くスミレが一輪

 

 

 

「…」

 

セフィラ達が観測するサブモニタールーム、上層の階

 

モニターに反映される、脱走した怪物達を一騎当千で鎮圧していく少女を眺める深緑の箱

 

少女職員は既に10人以上のオフィサーやエージェントを肉壁にして、最高クラスのアブノーマリティを三体も鎮圧していた

 

人の肉体で、機械的に動くその姿に、深緑の箱…安全チームのセフィラであるネツァクは自身の記憶層に意識を向ける

 

大半が消去処理されてしまったが、何かが残る記憶の奥底

 

未だ解除コードすら思い出せないその記憶に、モニターに移るスミレの瞳から何かが得られそうだと何度も思った

 

いつ、どこで、俺はその記憶を得たのか

 

わからない、わからないから、苦悩する

 

「………」

 

次々と死んでいく職員達

 

殺して満足げにエネルギーを生むアブノーマリティ達

 

きっと助けられると信じて協力した、薬漬けの日々を思い出す

 

「…結局、意味なんて、ないのかもな」

 

生きているだけで苦しむくらいなら、どうか眠らせて欲しい

 

あの頃から安らかに眠れない彼は切に願う

 

心の底から思う終わり

 

それを阻む何かがあった

 

死にたいと、眠りたいと願うのに…片隅に在る痛みがそれを否定する

 

セフィラ達の多くは、このL社内で何度もトライアンドエラーが繰り返されていることを知らないと言うのに、存在しないと理解しているはずなのに、ネツァクは拭いきれない違和感に蝕まれている

 

「ネツァク様…!マリーが殺られました!

管理人に報告を…!」

 

アブノーマリティを対処している職員の一人から、また職員の死亡を通達される

 

それを聞いて、管理人へと伝える…メインモニターでも観測できている事象を伝達するのがセフィラ達の役割のひとつ

 

重い頭…に該当する部分で思考を切り、ネツァクは職員からの通信に返答する

 

「あぁ…わかったロイド、すぐに報告する」

 

強いノイズと悲鳴に、掻き消されるネツァクの音声

 

きっと、インカムイヤホンの向こうでは報告してくれた職員も殺されたのだろう

 

「…あぁ、もう、嫌になる…」

 

楽になりたい

 

楽にさせてくれない

 

片隅の痛みは、希望か、はたまた絶望か

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