Labyrinth of the Violet   作:白波恵

75 / 162
FamilyⅡ

 

××××年11月18日

 

「なぁ…イナ的にはどう思う、アンジェリカって」

 

「はい?」

 

ローランの家で夕食を済ませ、共に皿洗いをしていた時のこと

 

洗剤をスポンジで泡立て皿についた汚れを落としながら、ローランは隣ですすいだ皿を拭くイナに問いかけた

 

数日前に似たような質問を受けたような気がする、とデジャヴを感じながらイナは暫しの沈黙の後口を開いた

 

「…どう思う、とは?」

 

「いや…まぁ…その、なんだ

イナから見てアンジェリカってどうかな〜って

ほら、男女で見る目って変わるだろ?」

 

「少なからずローランよりはいい人ですよ」

 

「そんな間髪入れずハッキリと言うか!?

…いや、うん、わかってんだ

アンジェリカはいい女で、俺には勿体ないって…」

 

なるほど、全貌が見えてきたぞとイナは一人頷いた

 

アンジェリカはローランが好きで、ローランはアンジェリカが好きなのだろう

 

つまり両片想い、というやつだ

 

いつか読んだ小説でも、そんな感じの関係性が描かれていた

 

けどそれは傍から見ればとてつもなく焦れったいもので

 

「珍しいですね、ローランがそんなふうに弱気になるなんて

一度当たって砕けてみたらどうですか?」

 

「いやいやいや、そう簡単に出来たら苦労しねぇって…」

 

両片想いを第三者が観測する場合、それは片方もしくは両者が奥手なことが多い

 

なかなかスピーディに恋愛仲が発展せず、もどかしくなるのだ

 

そしてこの二人の場合、恐らくローランは奥手タイプだ

 

持ち前の慎重さ故にアンジェリカへの想いを自覚していてもそれを本人に言い出せないのだろう

 

長年仮面を使っているだけあり、なんならアンジェリカやその他の人間にもずっと秘してきた可能性がある

 

イナでさえ、ローランもアンジェリカのことが好きなのだと今知ったのだから

 

(…あの、ローランが)

 

女の気配も無かったローランに、春が訪れようとしている

 

それはイナも信頼している相手、アンジェリカだ

 

これは背を押さない理由は無い

 

しかし両名の気持ちを聞かされたイナは言わば仲介役、仲介役が出しゃばり過ぎて二人の関係を壊すなんてあってはないらない

 

それとなく二人の距離を縮めさせる

 

しかし、そうするためにはどうすればいい?きっかけらしいきっかけが無いのだ

 

「ローランは、自分に自信が無いのですか?」

 

「あ?あー…まぁ、そうだな…仕事をこなせる実力云々ならまだしも、色恋沙汰はとんと縁が無くてな…」

 

「でも、ローランに魅力がなかったら私はわざわざローランの家に居座ったりしませんよ

そこは、自信を持ってもいいんじゃないですか?」

 

以前アンジェリカとした会話を思い出しながら話すことで、ローランに少し自信を付けさせようとする

 

そんなイナの思惑を知ってた知らずか、それを聞いたローランは照れ臭そうにそっぽを向く

 

「そ、そうかよ」

 

洗い物が終わった後リビングへ戻ったイナは、リビングに投げ出すように放置されてるローランの鞄から飛び出たものを見て首を傾げた

 

それは、一週間ほど前にアンジェリカが事務所へ寄付したとある工房の商品だった

 

…のだが、幾らかパーツが欠けており、つまるところ壊れてしまっているのだろう

 

「ローラン、これ…」

 

「あ

い、いや、それは…違うんだイナ」

 

この焦りよう、恐らくローランが触って壊した可能性が高い

 

凝ったデザインや材質から見てもそれがかなりの高級品というのはイナでも理解出来た

 

これをもしアンジェリカに知られたら、アンジェリカは怒ってローランを嫌いになるかもしれない

 

それはなんとも良くない、だがこれを隠してバレた先の方が恐ろしい

 

流石にこれは早めに謝罪すべきか?その方がいい、なんなら二人きりの時間を設ければきっといい雰囲気になるはず、ローランが誠実ささえ見せれば!

 

「ローラン、これアンジェリカに言いましたか?」

 

「…まだ、です」

 

「なら明日謝罪しましょう、そうですね…

ローランがアンジェリカをお昼に誘うんです、丁度明日の午前は二人で任務でしたよね?」

 

「は、は…!?わざわざ昼飯に誘ってか…!?」

 

「はい、お店は…ローランが美味しいと思うお店にしましょう

そこで誠心誠意謝罪するんです、ここで隠してしまえばいくら想いを寄せてても実るとは思いません」

 

「そ、それも、そうか…」

 

ローランはバツの悪そうな顔をしながら、壊してしまった工房品を抱える

 

恐らく、工房に持って行って同じものを買って隠蔽工作をしようとしたのだろうが…そんなずる賢い作戦は生真面目なイナの前では通用しない

 

二人が結ばれる為に、まずはお互い後ろめたいものを清算すべきだとイナは判断したのだ

 

「…なぁ、まずはどう話を切り出せばいい?」

 

「それは…まぁ、まずは普通に会話を…すればいいんじゃ……ない……でしょうか……」

 

ローランが助けを求めるように聞いてくるが、特段イナは恋愛経験があるわけではないのでどうやったらカップルが成立するかなど知り得ない

 

ただ、喧嘩した時の仲直りの仕方は近所の悪ガキ達との交流で知っている程度なのだ

 

「普通…普通、か

だぁ〜!なんでこんな…今までこんなにコミュニケーションに悩んだことなんて無かったのに…」

 

「ローラン、人の懐に入り込むのは上手いですもんね」

 

「…こんな気持ち、今までそうそうなったことねぇんだよ…

そう言うお前はなんかねーの?浮ついた話とかさ」

 

アンジェリカがアンジェリカなら、ローランもローランである

 

そこはかとなく似たもの同士なのだろう、全く同じことを聞いてくる

 

「浮ついた話なんてありません」

 

「じゃあ好きな奴とかは?ほら、お前昔からよく近所の悪ガキと遊んでただろ」

 

「彼らは友人であり恋愛感情らしいものは持ち合わせていません

強いて言うのであれば…想う相手はいます

ローランには教えてやりませんけど」

 

「はっ?え、何、お前好きな奴いるのか?」

 

先程までからかい半分で聞いてきたローランが、何故か焦ったような様子で聞き返してくる

 

そんなローランの様子に訝しみ、イナは首を傾げる

 

「まぁ、恐らくローランの言う好きと差し支えないかと」

 

「な…そ、それは何処の馬の骨だ!」

 

「どこのって、言えませんけど

なんですかローラン、何だか様子が変ですよ」

 

「そいつは今どうしてる、お前はそいつと付き合いたいとか思ってるのか?」

 

「つき、あう?」

 

付き合うとは、所謂交際の事だろう

 

交際とは、想い合う者同士が将来の伴侶になれるかどうかの経過観察の関係性だと聞き及んでいる

 

恋人、という呼称でより親密に触れ合うことの出来る関係なのだとか

 

(私と…)

 

あの死にたがりの箱を連想させる

 

イマイチ、ピンとこないイナは更に首を傾げる

 

「なんだか想像がつきません」

 

「……お前にはまだ早い話だったか

ともかくまぁ、もしお前がそいつだったり他の男とそういう関係になって、万が一泣かされるようなことがあったらすぐ俺に言えよ

殴り倒して裏路地の夜に外へ放り出してやる」

 

かなり物騒なことを言うローランに、イナは吹き出して笑う

 

なかなか過保護なことを言うものだが、イナはそんじゃそこらの男よりも強いのでそうそう泣かされることも無い

 

…きっと

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。