Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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Your shieldⅡ

 

 

 

「たすけてぇぇえ!だれか、おか、おかあさん!おとうさあぁぁああ!!」

 

 

 

「は…ははははは…!なんですかこれ、すっげぇ気持ちいい…!これがポーキュバスの棘…?俺もう死んじゃうのにこんなに気持ちよくなっちゃっていいんですかね…!」

 

 

 

「お前は自分の部下一人身代わりにしたんだぞ!お前、部下を殺したようなもんじゃないか!」

 

 

 

「ここは、そういう場所だし…裏路地に比べたらここはいいとこっすから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

失ってきた、使い潰してきた命達は沢山いる

 

イナの始まりとも言える場所

 

ロボトミーコーポレーション

 

本社とは違う支部とはいえ、イナの感情は不安と緊張で張り裂けそうだった

 

経験してきた記憶、過去同期してきたレイン(じぶん)達の記録、数多の人間を踏み台にしてきた行いがフラッシュバックで脳裏を埋め尽くす

 

そんなイナの足取りは重苦しく、長い時間をかけてツヴァイ協会のビルを出た

 

民宿は予め貰った地図にあり、数軒隣に建っている比較的綺麗な建物であった

 

どちらかと言うとビジネスホテルに近いかもしれないが、残念ながら一部屋二人で泊まるよう決められている

 

陰鬱とした気持ちを振り切ろうと頬を抓り、民宿へ足を向ける

 

「小童…大丈夫か?」

 

「無二こそ、支部に収容されないよう気を付けてくださいよ」

 

イナを案じる無二に心配をかけまいと、イナは冗談を口にしてやり過ごす

 

それでも気分は晴れることはない

 

「イナ!」

 

そんなイナの背に呼び掛けてくる声にイナは振り返る

 

先に移動したイナに気が付き後から駆けつけたのだろうか、少し小走りにナクワが駆け寄ってくる

 

「君、大丈夫かい?顔色があまり優れないようだけれど…」

 

「…別に、なんでもありません

お気になさらず」

 

ナクワに対しては無二と正反対に素っ気なく返し、先程よりもそさくさと民宿へ歩き出す

 

「気にもなるさ、だってこれから数日一緒に過ごすんだから」

 

「……ん?」

 

 

 

イナの部屋は二階の角部屋だった

 

軋むドアを開き中へ入れば、靴を脱ぐ玄関口の横にシャワールーム

 

奥の座敷は時代を感じさせる渋みのある香り

 

押し入れには敷布団が用意され、外見のビジネスホテルとは違い内装は正しく民宿そのものであった

 

荷物を置き、窓を開けて外の空気を吸うイナの背後で、ちゃぶ台に用意していた湯呑みを置き急須の茶を注ぐ人間がいる

 

「中々面白いところだろう?

前もって昨夜泊まったんだが、夜に灯りをつけると虫が寄ってくるから暗くなったら早めに寝るといい

あ、これ粗茶だけどどうかな?」

 

王子様スマイル(イナ命名)を輝かせながら茶をシバくナクワにイナは溜息を吐いた

 

これが高級ホテルのカフェで淹れた紅茶であればさぞ雰囲気が出たものなのだろうが…この古臭い民宿と湯呑みではナクワとそぐわない

 

「民宿の女将さんがお菓子をくれたんだ、お饅頭だよ」

 

「…」

 

食べ物にも飲み物にも罪はない、イナは敷かれた座布団に正座し淹れてもらったお茶を一口啜る

 

「…あ、美味しい」

 

「本当かい?嬉しいよ」

 

「茶葉の深い渋みは独特な苦味を口の中に広めながらも風味があり、更に饅頭と一緒に食すことで茶の苦味を饅頭が、饅頭の甘みを茶が…お互いを殺すことなく引き立てるような協奏曲(コンチェルト)を奏でています」

 

「…ふっ、食レポ上手だね」

 

穏やかな鳥のさえずりと大通りから聞こえてくる喧騒から隔絶されたように静かな茶の時が過ぎていく

 

そんな静寂を破るように、ナクワは言葉を選びながら口を開いた

 

「…それで、イナは今回の作戦に対して、何か思う部分でもあるのかな」

 

先程の案じてくるような表情とは違い、強い責任を感じる面持ちをするナクワ

 

その表情から、イナはナクワが今回の任務に対してどれほど真剣に向き合っているのかを感じ取り…この時は意地を張らず、素直に話をしていく

 

「…私、は…元々L社に関係していた人間だったのです

諸事情により今は関係を絶たれていますが…その、母はL社の関係者で

私は母に失望され…今、行方を追われている身です」

 

「それは…今回の作戦、不安だろうね

でも、これは仕事だ

家族間の問題を全て忘れろ、とは言わないけれど…仕事に私情を挟まれては作戦に支障が出る

今回は単独ではなくチームとして動かなければならない、ましてや立場が上の人間を守る重要な役割であり、フィクサーの卵である人も守らねばならない

それを、忘れないでくれ」

 

真っ直ぐな視線と強い言葉に、イナは圧巻される

 

認定試験からいけ好かないと思っていたが、彼女は物事を切り分けられる大人だった

 

そんなナクワの精神性を体感し、見直し認識を改めたイナはその言葉に頷いた

 

「当然です

私だってフィクサーです、今回の護衛任務への覚悟は決めていますから」

 

イナの言葉を聞いたナクワは表情を和らげ、元の王子様スマイルを見せる

 

「なら良かった、でも安心してくれていい

私も君を全力でサポートする、同じチームなんだからね」

 

そう、今回の任務…イナとナクワは同じEチームで活動するのだ

 

それは先程ナクワが会議室に戻ってツヴァイ協会のフィクサーから直に聞いた確定事項の為、間違いはない

 

「…実は言うと、私も元巣の出身なんだ」

 

「あぁ、通りで」

 

ナクワのカミングアウトに、イナはさほど驚く様子を見せず、逆にナクワの素行の良さの理由が判明して納得していた

 

「K社の巣のとある村出身でね

父は翼に提供する機械の部品を作る会社の社長だったし、私も本来ならそこを継ぐはずだったんだが…横領が発覚してね、責任問題から会社の評判も落ち、商売が回らずあえなく倒産

祖父にも勘当された父を見捨てられず、今では共に裏路地暮らしさ

通っていた学校も辞めて、裏路地で稼ぐ為にフィクサーになったんだ

父は、毎日酒と煙草とギャンブル三昧だけれどね」

 

「いやクソ野郎じゃないですか

ナクワが損しますよ」

 

イナのツッコミにナクワは声を上げながら笑い、肩を竦めた

 

「だろうね、でも私はそれでいいって思ってる

別に父に期待してないし不誠実な人だと知ってる、不倫もしてたしね

でも、私を育てた人に違いはないんだ

まずはその分の親孝行くらいはしないと、私の気が済まないんだ

…あぁ、だからと言って君と君の母親の問題に口出しをするつもりは無いよ」

 

ナクワの語りに、イナは考える

 

母の、スミレの魔女の野望を止める、その為に都市の星に渡り合える実力が必要だからフィクサーを目指した

 

違う都市の星と対立したローランとアンジェリカ、チャールズ事務所の面々…その誰もが実力者だったが、五体満足で圧勝とは言えないものだった

 

スミレの魔女の野望を止めたい気持ちと、恐怖の象徴とも言える母に対する敬愛の気持ちは未だ衰えていない

 

今回の作戦ではL社の支部に関わるのだが、必ずしもスミレの魔女が関与しているとは限らない

 

それでも、何かの進展も期待して…イナはひとまず茶を飲み干した

 

…そして、入口近くに置かれているトランクに目を向ける

 

かなり大きめの、旅行鞄のような黒いトランク

 

「あれは祖父からの誕生日プレゼントでね、確かW社が販売していた古い鞄だよ

ああ見えて軽くて実用性がある、使いどころはまたどこかで見せるよ」

 

「へぇ、翼の」

 

「それよりも、明日からの作戦についていろいろと話し合わない?

今のうちに事前に作戦を練っておけば不測の事態にもある程度対応出来るからね」

 

ナクワは切り替えるように手を叩き、先程協会支部で配布された封筒を開く

 

中からはファイリングされた書類が入っており、さすがの厚みなだけあって字も細かく、内容量は凄まじい

 

イナはそんなナクワの作戦会議を快く受け入れ、日が暮れるまで作戦シュミレートを話し合った

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