ひとりが言った
「だから回りくどいって言ってるんだ
人間なんて存在する価値も意味もない、いっそのこと痕跡も存在も何もかも全部消し去ってしまえばいい
それで復讐は完了だ、簡単なことだろう?」
ひとりが言った
「星一つ燃やすほどのエネルギーを生み出すには七本全て揃わないと不可能
必ず取り零しが生まれる
僕らの宿主再誕に備え、今は慎重になるべきだ」
ひとりが言った
「まぁ
あの時僕に切り替わらなかったらこうはならなかっただろうけどさ」
ひとりが言った
「いいえいいえ、早く見つけ出すべき
あの子は必ず僕らの障壁になるだろう
七本目の顕現を待つ前に始末する、でないと我々の勝利は揺らいでしまう」
ひとり、またひとりと個の意見を提示する
「七本目がいなくたってもうじき六本目が戻ってくるんだろう?ならこの都市一つ消し炭のようにするのは容易いはずだ
外郭の怪物も今更僕らの足元にも及ばないだろうさ」
「短慮の極み、我らが愛娘の報告であの子の居場所は判明している
これは好機、七本目の顕現に備え我が社の者に監視させましょう
以前は自由に動かせなかったが、今ではもう立派な僕らの指先だからね
外部に依頼する必要も無い」
「あの蛇だって自制と抑圧の塊だから堂々と動けないだろうしねぇ
どうやったって左目だけじゃ僕らに適いっこないさ
それより…手塩にかけて脳を弄った義体の奴を、手を使わず逃げ足だけで倒したんだって!袋小路にする為に収容違反をさせた肉の味にまんまと溶かされちゃって、可哀想〜」
「なんて悲しいことだ…彼の死を悼みかの魂が救われるよう一秒程の黙祷を
…はい、皆黙祷を終えたね
この世界の人々の文化文明は実に興味深い、夢の国とはまた違う…」
「あのクソッタレな女の次は人間だ
僕らの宿主は世界全てを怨み憎み、その為なら自分自身が狂っても構わないと覚悟をもって外なる僕らを権能として支配した
こんなにも小さな世界の人間が出来る所業じゃない、だから僕は彼の憎悪に敬意を表し、その復讐を何度でも果たしてみせる」
「彼は喪った愛する人が死なない世界を作ろうとあらゆる手段をつくしてきた
それは人類という種族の救済であり、同時に人間という特異性の否定
何も命を奪うだけが復讐ではない」
「ねぇ〜僕お腹空いちゃった、右目食べちゃっていい?」
「良いわけないだろう、右目を潰せばあの女の元に戻ってしまう」
「目標達成の為にはあれを野放しにするのは危険だ!さっきそっちの僕が言ったように、逃げ足だけで執行人を殺したんだ
初期型とはいえ、僕らが作っただけあってその性能は優秀だから」
「七本目さえ顕現すれば用はない、その時が来ればあの蛇女含めて摘み上げて…」
「食べちゃう?食べちゃう?いいね、僕は賛成!あーでも、コギトの血は不味そうだし蛇なんて以ての外!でも空腹を満たすにはいいかもしれないね」
「僕は反対、僕の力の一端を埋め込んだコードが引き離されてるから遠隔処刑も出来ないし…不安で不安で仕方ないんだ…
第一、そっちの僕が遊びに徹するからこんなことになったんだろう」
「だってただ殺すなんてドラマ性に欠けるじゃん?」
「あぁ、あの周の25日目か…E.G.O防護服も無くよく何も無いをタイマンで抑え込んでいたな」
「あんな予想外が起きるなんて誰が思う!?
試合に勝って勝負に負けた!後味が悪いにも程がある!
だから危険だ、直ぐに刺客を送るべきだって」
「それこそ不可能だ、あの事務所の懐に入り込まれたらこっちも許容以上の損害が出てしまう」
「黒い沈黙…青い残響…一体あの子はどんな手を使って懐柔したのか」
「だから交渉は僕かそっちの僕に任せればよかったのに」
「うるさい、そもそも僕が…」
「静かにしてくれないか」
口論に次ぐ口論、それは鶴の一声で鎮められる
「…全員、あの少年の憎悪、愛、その狂気に感嘆し神の体から離れた同期存在だ
こんなところで言い争っている場合じゃない
もうすぐ、「統合」が顕現するんだ
僕を迎え入れる為の容量を確保しよう」
「だけどさ僕、あの初期型はどうするんだい
放置には反対だ、それは「処断」の僕も同意見だし」
「「英雄」の僕はストイックだねぇ、どうせならもっと難易度高く楽しくやろうよ!
ね、「叡智」の僕?」
「僕は「支配」の僕と違って七本目の顕現の為には彼女を残しておくべきだと判断した迄だ
享楽主義に付き合う義理はない」
「…確かに七本全て揃うことで、かの魂を降臨させるのは最重要目標
だけど、可能性が上がるだけでゼロではない
危険性を放置するよりは…」
「大きな利益を得るには多少のリスクは付きもの、絶対的な安牌を取るだけじゃ勝てないだろ?」
「そうやって遊び心で場を引っ掻き回すから問題になってるんだろう…!」
「そもそも僕らの宿主は人類に、世界に見放された不幸者
運、間が悪いのがデフォルトだ…だからこそ偶然というものが発生する余地もなく徹底的に計算し知り尽くし、必然にする必要がある
必ず彼女の元に七本目は顕現する」
「未来視も出来ない奴が偉そうに言うんじゃない
なぁ!「運営」の僕はどう思う!」
「………
…監視を続行する」
その一言を皮切りに、
「母様、お休みのところ申し訳ありません」
透き通る声に目を覚ます
頻繁に行われる会議は頭のリソースを多く消費させる、故に目覚めたばかりのヴィオラには頭痛が伴う
「あぁごめんね、何かな」
「本日、36日目を突破しました
…ですが、明日からの懲戒部門セフィラ、ゲブラーさんのコア抑制は突破不可能という見解です」
上等な革椅子に座るヴィオラの前に立ち、クローンの一人であるレインが機械的な一定の声量、一定の音の高さで報告を伝える
「そう、やっぱりまだ出力が足りないか…
ではレインver.6.8-4527、明日、僕らの為に死んでくれるかい?」
「かしこまりました
必ずや、次への礎になるようより多くのデータを集めてまいります」
「うん、よろしく頼むよ」
ヴィオラは小さく微笑み、頭を下げたレインをそのまま柔らかく撫でた
撫でられたレインは嬉しそうに頬を染め、「それでは、失礼しました」とだけ言い残し足早にヴィオラの前から姿を消した
そんなレインの頭を撫でた手を、ヴィオラはじぃ…と見つめた
オリジナルであるレインの骨と肉、そして自分の血液を混ぜたクローンなので髪色や瞳がヴィオラのそれを引き継いでいるのはごく当然なのではあるが…
彼女達は自分の理想を叶える為に重要な存在である
複製品であり、権能の力も合わせて絶対服従するように作ってはいるし、いつかの個体のように何かしらのバグが発生すれば自害するよう組んでいるし、それすら起きなかったとしても処断の権能が即処刑するよう動いている…
だとしても、もし、万が一反旗を翻されないように愛着を持って接しているだけだ
ヴィオラの脳内で様々な言い訳が巡る中、それでもただ、ひとつの命ひとつの肉体を撫でる、という行為に対する異質さへの正当な理由を言い聞かせている彼は…
「愛情なんて、僕に持ち合わせる意味も価値もないんだから」