Labyrinth of the Violet   作:白波恵

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Virgin roadⅢ

 

煌びやかなシャンデリアに穏やかな演奏

 

雰囲気は当然ながらに決して安くない分料理も舌が唸るほどの美味

 

しかしながら、せっかくの高級ディナーであるのにも関わらずローランはその味がわからなかった

 

極度の緊張状態のせいで味覚が麻痺を起こしている

 

「んー!このお肉とっても美味しいです!」

 

ローランは向かい側で柔らかな肉を頬張り幸せそうなアンジェリカを見やる

 

その幸せそうな笑顔に、ローランも嬉しく思う

 

(…ああ、やっぱり好きだな

ありがとうな、イナ

お前のおかげで、今こうしてアンジェリカと落ち着いて話せる)

 

ローランは知っていた

 

先ほどから姿が見えないイナは、きっと最大の難敵の足止めをしているのだろうと

 

そんなイナの気遣いを、助力を無駄にしないためにも、少し早いがローランは覚悟を決めて口を開いた

 

「…あ、あのさ、アンジェリカ

話が、あるんだが」

 

メインディッシュの最後の一口を平らげたアンジェリカはローランの呼びかけに応えるようにカトラリーを置き、口元を拭い取った

 

「…改まってどうしました、なんて聞くのも野暮ったいですね

変だと思ったんです、あのローランがこんな雰囲気のいいお店に連れてきてくれるだなんて

さっきまではスタッフに紛れてイナもいましたよね?今は姿が見えませんが…何か企んでるんだろうなー、とは思ってました」

 

やはりアンジェリカは勘が鋭い、いや普段のローランの素行の問題もあるが、スタッフに扮していたイナの存在にも気が付いていた

 

「…やっぱりお前に隠し事は通じねぇな」

 

ローランはテーブルの上に置かれたベルを鳴らし、数秒してスタッフが青い薔薇の花束を運んでくる

 

伝えられていた予定とは違い、運んできたのはイナではなく男性のスタッフであったが…そのまま花束はアンジェリカに手渡された

 

「えっ…これ、私に、ですか?」

 

「ああ、せめてもの感謝の気持ちだ

いつも俺を支えてくれてありがとう、アンジェリカには助けてもらいっぱなしだ」

 

「そ、そんな、私の方こそ…いつもありがとう、ローラン

でもどうしよう、私こんな素敵なものをいただいてしまって、返せるものが何も…」

 

「おっと、驚くのはまだ早いぞ?」

 

狼狽えるアンジェリカに笑いかけながら、ローランは席を立った

 

そのまま数歩、アンジェリカの側に歩み寄り跪く

 

一度深呼吸を挟み、煩い心臓に言い聞かせる

 

落ち着かせるのが無理でも、この胸の痛みすらこの日の記憶として刻み込むように

 

深呼吸の後、ローランはジャケットの内ポケットから小さな箱を取り出しアンジェリカの前に掲げる

 

「アンジェリカ、俺は不甲斐ない男だ

ダメな部分も多くあるし、お前を失望させてしまう時もあるかもしれない…

けど、そうならないように努力はするし、何より俺はお前と生きていきたい

 

…愛してる、アンジェリカ

俺と、結婚してくれませんか」

 

ローランが差し出した箱を開く

 

中には小さくても美しく輝く宝石が埋め込まれた指輪が入っており、数日前からローランは何度もイナとプロポーズの練習を繰り返していた

 

冷や汗がローランの背中を伝う

 

生唾を一度飲み込み、アンジェリカの反応を伺う

 

アンジェリカは大きく目を見開いて唖然として…その青い瞳を潤ませては、ローランに抱きついた

 

「おわっ!?あ、アンジェリ、カ…?」

 

アンジェリカは小さく肩を振るわせながら何度も頷く

 

「…い…」

 

「うん…?」

 

「はい…します、結婚…します…!

私もローランのこと、愛してます…!ずっと一緒がいいです、貴方と一緒に生きたいです…!」

 

YES、の返答にローランは片腕でアンジェリカを抱きしめ、もう片方の手は強く拳を握りしめガッツポーズをする

 

スタッフ達や他の客が拍手をして二人の婚姻成立を祝福する中、一つの足音が二人の元へ近づいてくる

 

二人がその足音の方を見やると、そこにはイナを背負ったアルガリアがいた

 

「に、兄さん!」

 

「イナ…!お前…!」

 

「勘違いするなよ、殺してはいない

色にはまだまだ及ばないけど、まぁまぁ頑張ったんじゃない?」

 

アルガリアの背で小さな寝息を立てているイナを見ては安堵するローランを、アルガリアは冷たい視線で睨みつける

 

「兄さん、実は…」

 

「話はわかっているよ

…結婚するんだろう、アンジェリカ

その男と」

 

「…はい、ですから兄さん、どうか認めてくれま…」

 

「いいよ」

 

あっさりと婚姻を認めたアルガリアに、ローランもアンジェリカも驚きを隠せずにいる

 

「お、お前、どういう風の吹き回しで」

 

「何?この俺がせっかく認めてあげたのに気に入らないの?前言撤回してもいいけど…」

 

「待ってください!認めてくれてありがとうございます兄さん!

イナが説得してくれたんですか?」

 

アンジェリカがイナの頬をつつくと、瞼が薄く開き左右違う色の瞳が覗く

 

「ん…あれ、ここは…

…そうだ!プロポーズ!」

 

目覚めたイナはアルガリアの背で飛び起き、慌てて周囲の様子を確認する

 

「ろ、ローラン!?ここはレストランに戻って…?ぷ、プロポーズはどうなりました!?」

 

「大成功だよ、イナのおかげだ

ありがとうな」

 

成功の報告とともに感謝され、ローランに頭を撫でられたイナは嬉しそうに顔を綻ばせる

 

「それは、よかった…」

 

「イナ、私達のためにたくさん無理させてしまったようですみません

その、これからは私もイナの家族としてよろしくお願いしますね」

 

「これくらい、というわけでもありませんでしたが…ローランもアンジェリカも私にとって大切な人ですから

もちろん、アルガリアもですよ」

 

イナの言葉にアルガリアは薄ら笑いを浮かべながら、スタッフが運んできた空き椅子にイナを座らせる

 

「これからはイナは俺の姪になるんだもんね」

 

「そういうことですね…」

 

「嬉しいな、アンジェリカが一番だけどイナのことも大切にするからね」

 

「おい、俺のこと忘れてないか?」

 

「まぁまぁ、そうだイナ!デザートがまだ残ってるんですが、功労者たる貴方に食べてもらいたいんです」

 

睨み合う男達を他所に、アンジェリカはスタッフに運ばせてきたデザートプレートを見せる

 

そこには、イナの大好物であるアップルパイがあった

 

「あれ、注文していたメニューと違う…」

 

「ああ、それは俺が後から頼んだんだ

お前にも報酬をあげないとだろ?」

 

ローランの粋な計らいにイナは口元を綻ばせながらアップルパイを頬張る

 

死にかけながらも、大切な二人のために頑張ったことはイナにとって誇らしい記憶となった

 

 

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