「ん……」
チヒロは目を覚ました。
自分の体格には大きめのベッドに、白いシーツと毛布が掛けられている。
「ここは……」
起き上がり、周囲を見渡す。
その時、部屋のドアがノックされ、開いた。
「あら、お目覚めですか、ご主人様」
メイド服を着た女性が入ってくる。
「……ベルファストか」
チヒロは昨日の出来事を思い出す。
「そうか、俺は指揮官になったんだったな」
「はい。これからよろしくお願いいたしますね」
「ああ」
「では朝食の用意が出来ておりますので、食堂へどうぞ」
「分かった」
チヒロはベッドから降りて着替える。
「あ……そうだ」
ふと思い出し、ベルファストを呼び止める。
「何でしょうか?」
「ここって食料とかはどうしてるんだ?俺が来る前はどうやって生活してたんだ?」
「はい。母港の中に畑がありまして、そこで饅頭たちが野菜や果物を育てています。あとは海産物も取れますよ」
「そうなのか」
「はい。ですが、肉類に関しては自給自足は難しいですね。どうにか安定して供給したいのですが……」
「肉がないのか?」
「はい。この島には動物があまり生息しておりませんので」
「そうか……」
「その事で、一部のKAN-SENから不満の声が出ております」
「なら、まずはその辺をどうにかするか」
「よろしいのですか?」
「ああ。だが、すぐにどうこうできる訳じゃないからな。しばらくは我慢してもらうしかないだろ」
「かしこまりました」
ベルファストは一礼すると部屋を出て行った。
「さて、行くか」
着替えを終えたチヒロは食堂へ向かった。
食堂に入ると、既に何人かのKAN-SENが集まって食事をしていた。
「おはようです、指揮官」
真っ先に気付いた綾波が挨拶する。
「あぁ、おはよう」
チヒロは空いている席に座った。
「指揮官は何を食べるです?」
「どうするかな……」
「じゃあ、綾波と同じもの食べるです」
「何を食うんだ?」
「刺身定食です」
「うっ、生魚か……」
「指揮官は苦手ですか?」
「まぁな」
「なら、焼き魚にするといいです」
「そうさせてもらうか」
「はい!」
綾波は嬉しそうな顔をした。
しばらくして、ベルファストが料理を持ってくる。
「お待たせいたしました」テーブルの上に並べられたのはご飯と味噌汁、そして焼いたアジの開きだった。
「いただきます」
箸を手に取り、食事を始める。
「美味いな」
「ありがとうございます」
チヒロの言葉を聞いて、ベルファストは微笑む。
その時、背後から呻き声が聞こえた。振り返ると、そこには犬耳を携えた銀髪の少女がいた。
「ぐぅ~……」少女のお腹が鳴る。
「うぅ~……肉…肉が食べたい……肉……肉……肉……」
虚ろな目をしながらブツブツ呟く少女を見て、チヒロはベルファストに問いかける。
「あいつが肉食えなくて困ってる奴の一人か?」
「はい……。夕立さんと言いまして、駆逐艦の子なのですが……」
「そうか」
チヒロは再び夕立を見る。
「肉……肉……肉……肉……肉……」
「……これは重症だな」
「はい……」
その後、朝食を食べ終えたチヒロは食堂でくつろいでると、KAN-SENが二人やって来た。
「綾波ー!一緒にご飯食べよ!」
「あ、吹雪に響……」
二人の姿を見て、綾波は立ち上がる。
「ごめんなさいです。もう食べたです」
「そっか~残念……」
「じゃあ食べながらお話しようよ」
「うん、いいですよ」「やった!」
二人は綾波たちの向かい側に座る。
「……で!」吹雪はチヒロの方を向いた。
「あなたが新しい指揮官なんだよね!?」
「ん?あぁ、そうだが」
「私、吹雪型一番艦の吹雪だよ!よろしくね!」
「私は特三型二番艦の響だよ」
「ああ、知ってる」
「おぉ~!私たちのこと知ってるんだね!」
「そりゃあ、俺はお前の素体と会ったことがあるし、響が行方不明になった件も聞いたからな」
「そうだったんだ!」
「なるほど!」
「ねぇ指揮官さん!ちょっと聞きたいんだけど」
響が手を上げる。
「何だ?」
「重桜の母港で、暁ちゃんたちはどうしてた?元気にしてる?」
「いや……そこまではわからないな。特三型は中央の所属じゃないだろ?」
「そっか……」
少し落ち込んだような表情をする響。
「大丈夫です。きっとまた会えるです」
「そうだよ響!」
「うん、ありがとう」
「ところでさ、指揮官はどんな戦い方するの?」
「ん?どういう意味だ?」
「ほら、指揮官は執務室で指揮を執るか、一緒に海に出て指揮を執るかのどっちかでしょ?だから、戦闘の時はどうなのかなって」
「ああ、そういうことか。俺は海に出て指揮を執るつもりだ。俺はどういうわけか、セイレーンの居場所がなんとなくわかるからな」
「へぇ〜そうなんだ〜」
「なら、指揮船はどうするの?」
「あー……そういやそんなのもあったな」
「持ってないの?なら、どうするの?」「代わりに誰かに乗せてってもらうか……?」
「でも、誰が乗せるの?」
「うーん……」
三人は考え込む。
「それなら、戦艦か空母に乗るといい」そこに現れたのは赤い軍服を纏った金髪の美女。
「あ、ウェールズさん!おはようございます!」
「ウェールズ……まさかプリンス・オブ・ウェールズ!?」
「あら、私のことを知ってるのね」
「そりゃあ、KAN-SENの有名どころは大体知ってるさ」
「ふっ、それは光栄だわ」
「それで、戦艦か空母に乗ればいいというのは?」
「そのままの意味よ。戦艦か空母なら敵に近づく必要もないでしょう?」
「確かにそうですね」「じゃあ、指揮官にはそのどちらかに乗ってもらって、私たちは指揮官の指示に従う感じかな?」
「あぁ、そうさせてもらう」
こうして、指揮系統がある程度決まった。
朝食を済ませたチヒロたちは、工廠に向かっていた。
「工廠に何か用でもあるのですか?」
綾波が尋ねると、チヒロは答える。
「明石に特注で作ってほしいモノがあってな」
「何を頼む気です?」
「なに、ちょっとしたもんさ……ん?」
チヒロは広場でなにやら踊っている少女たちを見つける。
「あれは……」
「一人は見たことがあるです。確か、ユニオンのサラトガさんだったはずです」
「残りの3人は誰だ?」
「うーん……知らない子たちです。格好から見てロイヤルの人だと思うのですが……」
「そうか……」
チヒロは少しだけ見つめた後、その場を去った。
「……?」
チヒロの行動に首を傾げる綾波。
「どうかしたです?」
「いや、単純にああいうキラキラした雰囲気が慣れないだけだ。それより、早く行くぞ」
「はいです」
チヒロたちは再び歩き出した。
「あれが工廠です」
綾波の言葉を聞いて、チヒロは目の前の建物を見る。
「デカいな……」
「艦艇の格納庫もありますから、かなり大きいです」
「なるほど……」
二人は中に入る。
すると、見覚えのある人影が見えた。
「おや、指揮官」
「エンタープライズか」
「こんなところで会うとはな」
「お前こそ、ここで何してるんだ?」
「私は艦載機の整備をしてもらっている」
「よう、チヒロ……」
「ヒロキ?なんだか疲れた顔してるな」
「まぁな……。あの後ここに来て、ずっと艤装のメンテやってるからな」
「大変そうだな」
「あぁ……」
「お、指揮官が来たにゃ!」
奥から出てきたのは、猫耳と尻尾をつけた小柄な少女だった。
「明石だな」
「そうにゃ!よろしくにゃ!」
「ああ」
「それで、今日は何の用かにゃ?」
「特注のヘッドホンを作ってほしい」
「特注?なんでまたそんなものを?」
「これを見れば大体わかるだろ」
そう言うと、チヒロは右側の髪をかき上げて見せた。
「……おぉ、なるほどにゃ〜」
「わかったか?」
「わかったにゃ。指揮官の角は右耳位置から生えてるにゃ。そりゃあ普通のヘッドホンなんて使えないにゃ」
「そういうことだ」
「でも、それで音はどうやって聞くのにゃ?」
「骨伝導っていうのかな。角が直接振動を感じ取るんだ」
「へぇ〜、面白い構造になってるにゃ」
「で、できるのか?」
「それだけ分かれば十分にゃ!任せるにゃ!」
「助かる」
「それじゃあ、設計図を書くから待っててにゃ〜」
「ああ」
明石は紙を取り出し、何かを書き始める。
「右耳の代わりに角が生えているのか。重桜人はやはり変わっているな」
「俺みたいな生え方は珍しいけどな。母さんは普通に耳があったろ?」
「そういえばそうだったな」
「……よし、できたにゃ!」
「早いな」
「このくらい朝飯前にゃ!」
「どれ、見せてくれないか?」
「いいにゃ」
チヒロは受け取った設計図を見てみる。
「ふむ……悪くないんじゃないか?」
「そうか、ならこれで頼む」
「了解にゃ!それじゃあ2日ほど待っててにゃ!」
「ああ、頼んだぞ」
「はいにゃ〜♪」
明石はスキップしながら去っていった。
「んじゃ俺も寝てくるわ……」
ヒロキも欠伸をしながら去っていく。
「さて、俺たちも戻るか」
「はいです」
チヒロたちも工廠を後にした。
戻る途中、広場に目をやると先程の少女たちがいた。
「まだいたのか」
「随分熱心に踊っているですね」
チヒロはしばらく眺めていた。
「ホラホラ、ここでクルッと回ってターン!」
「こう!ですか?」
「そう!上手よ、コメットちゃん!」
「はい!」
「ふえぇ、いつの間にうち達も踊ることになってるのぉ……」
「諦めなさい、シグニット。どうせ逃げられないわ……」
「うぅ……」
「はいそこ!私語は終わった後で!さぁ、もう一回!」
「ふえぇ!?」
「こうなったら最後まで付き合うしかないわね……!」「うう……」
少女たちは踊り続ける。
その様子をチヒロはじっと見つめている。
「楽しそうだな」
「はいです」
チヒロは広場を離れ、宿舎に戻る。
「うがー!!肉を食わせろー!!」
「だーもう!夕立!あんたうるさいのよ!」
「だってもう何ヵ月も肉食べてないんだぞ!時雨もそう思うだろ!?」
「暴れても仕方ないでしょ……」
「アイツ……まだあんなこと言ってるのか……」
「あはは……」
食堂では、騒ぐ夕立とそれを抑える時雨の姿があった。
「はぁ……しょうがないな」
「指揮官?」
「ちょっと行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいなのです」
チヒロは騒ぎ立てる夕立に近づく。
「おい」
「わう?誰だ!」
ガルルルと夕立が唸る。
(犬かよ……)
「バカ夕立!昨日エンタープライズさんが言ってたじゃない!」
「あっ、そうだった!」
「全く……」
「でだ。お前そんなに肉が食いたいのか?」
「当たり前だ!」
「そうか。なら食わせてやる」
「本当か!?」
「ああ。ここに来る時に持ち込んだ食料がある。確か肉もあったはずだ。ベルファストに言っておいてやる」
「やったぜ!ありがとうな!」
「それから……」
「ん?」
「肉なら安定して取れる方法を見つけてやるからもう暴れるのはやめろ」
「わかった!なぁなぁ時雨、指揮官っていい奴だな!」
「はいはい……よかったわね……」
(チョロいな)
「ねぇ、指揮官」
「ん?」
時雨と呼ばれた少女は、チヒロに声をかける。
「あんた、名前なんて言うの?」
「鷹山チヒロだ」
「ふうん……。私は白露型駆逐艦の2番艦、時雨よ。よろしく」
「あぁ」
そう言って時雨は大はしゃぎしている夕立を引きずりながら去っていった。
「賑やかな連中だな……」
「でも、みんないい子たちなのです」
「そうみだな」
その後、執務室に戻ったチヒロは、ベルファストに食料の件を伝えると、彼女はすぐに手配してくれた。
「さて……執務室に来たはいいものの、何をするか……」
これが軍の指揮下なら、何かしらの報告書をまとめるなどするべきだが、正式な軍でない以上、そこまでする必要もない。
「とりあえず、その辺にある資料でも見とくか」
チヒロは適当に書類を手に取る。
「これは……セイレーンの技術についてまとめたものか?」
そこには、セイレーンの兵器などについてまとめられていた。
パラパラとめくっていく。
「『メンタルキューブ』……」
艦船を作り出すことのできる謎の物質。
「メンタルキューブと鏡面海域……この条件が揃えば……」
チヒロは呟く。その時ーー
「!!」
チヒロは何かを察したように顔を上げる。
それとほぼ同時に、母港全体にアラームが鳴り響く。
「これは……!」チヒロの左目が金色に光る。
その時、執務室にエンタープライズが現れた。
「指揮官、セイレーンだ!」
「……害獣どもが……!」
チヒロは立ち上がり、窓から外を見る。
空には、黒い雲が広がっていた。
「指揮官、出撃準備はできているか?」
「ああ!綾波!」
「はいです!」
「よし、行くぞ!」
3人は執務室を出て、港に向かう。
「ご主人様!」
途中で、ベルファストとすれ違う。
「状況は?」
「ロング・アイランド様の偵察機によりますと、敵は人型が2体、艦艇型がそれぞれ空母が2隻、戦艦1隻の計6隻とのことです」
「6匹か……。ならこっちは綾波、吹雪、ベルファスト、エンタープライズ、ウェールズの5人を連れてそのロング・アイランドと合流する!あとは臨機応変に対応だ!」
「了解しました!」
「指揮官!」
「なんだ!?」
「気をつけてくれ!」
「わかっている!」
チヒロたちはそのまま港に向かい、それぞれの艦艇に乗り込む。
「指揮官指揮官!」
その時、明石がチヒロを呼び止める。「どうした!?」
「これを持っていくといいにゃ!」
そう言って渡してきたのは、右側が外されたヘッドホンだった。
「これは……」
「例のモノが完成するまではこれで我慢してほしいにゃ!それじゃ、頑張ってくるにゃ~!」
「わかった!ありがたく使わせてもらう!」
そして、チヒロはウェールズの艦艇に乗り込んだ。
「早速の出撃ね。あなたの指揮、見せてもらおう」
「あぁ、失望はさせないさ」
チヒロは通信機を起動し、全員に指示を出す。
「これより、セイレーンの迎撃に出る!目標は敵の殲滅!1匹残らず狩り尽くせ!」
「「「「「了解!」」」」」
「行くぞ……抜びょ「狩り、開始ィッ!!」……えっ!?」
エンタープライズの言葉を遮り、チヒロが叫ぶ。
「ちょ!?」
「ちょっと指揮官!?狩りって何よ!?」
「害獣を狩るんだ、何も間違ってないだろ」
「………」ウェールズは絶句した。
「……ここまでの憎悪を募らせるなんて、それだけ愛されたのね、ナナハは」
「?」
「なんでもないわ。もうすぐロング・アイランドが合流する。」
「わかった」
しばらくして、空母の艦艇が合流した。
「お待たせ〜!ロング・アイランドの到着だよ〜」
「お前がロング・アイランドか」
「そだよ〜。よろしくね指揮官さん!」
「あぁ」
その時、レーダーが反応する。
「来たぞ、指揮官」
ウェールズが呟くと同時に、チヒロたちの目の前に黒い雲が現れる。
「あれが……」
「害獣だ」
チヒロはヘッドセットを耳につけると、マイクに向かって話す。
「こちらチヒロだ。聞こえるな?」
『はい、聞こえています』
「狩りの時間だ。エンタープライズ、ロング・アイランド、まずは艦載機で敵を牽制しろ。その間に綾波と吹雪が接近する」
「任せて~」
「了解した」
2人の返事を聞くと、チヒロはウェールズに言う。
「ウェールズ、お前は艦艇のまま、タイミングを見てブチ込め」
「了解した」
「よし……行くぞ!」
そう言ってチヒロは通信を切る。
「エンタープライズ、エンゲージ!」
ウェールズを除く5人は艤装を展開。それぞれ戦闘態勢に入る。
先にエンタープライズとロング・アイランドが艦載機を飛ばし、セイレーン艦隊に攻撃を開始。
セイレーンもそれを迎撃しようと動き出す。
「今だ!」
チヒロの指示を受け、綾波と吹雪が飛び出す。
「行くです!」「ふっふー!特型駆逐艦の力を見ろ!」
「ウェールズ!」
「了解した!」
エンタープライズたちが放った艦載機がセイレーン艦隊の航空機と激突。
何機か落とされてしまうが、残った艦載機がセイレーン艦隊に襲いかかる。
その隙に、綾波と吹雪がセイレーン艦隊に接近した。
「鬼神の力、見せてやるです!」
綾波が魚雷を放つ。
「当たれー!」
続いて吹雪も砲撃するが、それは外れてしまった。
「まだまだ!」
綾波は主砲を放ちながら、さらに近づく。
「そこ!」
すれ違い様に、手に持った刀で空母のセイレーンを切り裂き、続けて艦載機の爆撃が空母に直撃、爆発を起こす。
「やったです!」
「私だって!」
吹雪は主砲と魚雷を連射しながら進む。「この距離なら当たるもんね!」
吹雪の砲弾と魚雷で戦艦が1隻撃沈される。
「次!」
「ベルファスト、頼んだ!」
チヒロの声を合図に、ベルファストが主砲を放つ。
放たれた弾丸はセイレーンの最後の艦艇に命中し、ダメージを与える。
「ウェールズ!やれ!」
「了解した」
ウェールズが主砲を構え、放つ。
その一撃は、空母のセイレーンに命中。
その衝撃により、空母はバランスを失い、海の底へと沈んでいった。
「さて……」
チヒロは人型セイレーンを見る。
人型は2体とも無傷だった。
「残り2匹!一気に仕留める!」
「「了解!」」
エンタープライズたちは再び艦載機を飛ばす。
だが、セイレーンは艦載機を撃ち落としていく。
「……!!」
「なら!」
綾波が飛び出し、セイレーンの懐に飛び込む。
「これで!」
そして、そのまま刀を振り下ろす。
しかし、セイレーンはすんでのところで回避し、反撃に蹴りを入れる。
「うぐぅ!?」
綾波は吹き飛ばされるが、なんとか体勢を立て直す。
「大丈夫!?」
「平気です!」
綾波を庇うようにベルファストが前に出る。「今度はこちらの番ですね」
そう言って主砲を構える。
「行きます!」
ベルファストの主砲が火を吹き、1体の人型のセイレーンにダメージを与えた。
「やりました!」
「まだだ!ウェールズ!もう一発ぶち込んでやれ!」
「了解した」
ウェールズは再び主砲を放つ。しかし、もう一体の人型セイレーンが盾となり、ウェールズの攻撃を防いだ。
「くっ!」
「いや、それでも向こうにダメージは入った!このまま畳み掛けるぞ!」
チヒロの言葉通り、セイレーンはダメージを受けていた。
「……!いや待て!綾波!吹雪!ベルファスト!一旦距離を取れ!」
突然、チヒロが指示を出す。
その時、セイレーンが全身から弾幕をばら撒いた。
「きゃあ!?」「うわぁ!?」
「くっ!」
綾波たち3人は咄嵯に回避行動を取る。「これじゃ近づけないよ!」
「どうするのですか指揮官様!」
「……」
チヒロは考える。
(……これだけの弾幕だ、一発一発は大したことはないはず。ゴリ押しでならやれるかもしれないが、そんなことをすれば一人の負担が大きくなる。)
チヒロが考えている間にも、セイレーンは弾幕を緩めない。綾波たちもなんとか弾幕を避けてはいるものの、ジリ貧であることに変わりはない。
「……ん?」
チヒロはふと気づく。
「……エンタープライズはどこに行った?」
さっきまで近くで艦載機を飛ばしていたはずのエンタープライズがいなくなっていた。「まさか……」
嫌な予感がする。
「エンタープライズ!どこに行った!」
『私はここだ』
エンタープライズの声が聞こえる。
「エンタープライズ、お前まさか……!」
『そのまさかだ』
エンタープライズは自身の甲板を盾に、セイレーンめがけて突っ込んでいた。
「エンタープライズ……また無茶を!」
ウェールズが叫ぶ。
エンタープライズはセイレーンに近づき、盾にした甲板でセイレーンを殴りつける。
「エンタープライズ様!?」
「何を考えてるんですかあの人!」
「あっちゃー。またやった」
「今だ!みんな!」
エンタープライズが叫んだ。
「弾幕が弱まったです!」
「チャンスだよ!」
「……!」
3人が一斉にセイレーンに向って突撃。
「これで終わりです!」
ベルファストが主砲を放つ。
続けざまに吹雪が魚雷をゼロ距離で撃ち込み、とどめとばかりに綾波が斬りつける。
「……!!!」
セイレーンは断末魔を上げ、爆発を起こした。
「やったです!」
「よし!」
「やったね!」
「……」
エンタープライズは静かに空を見上げる。
チヒロは通信機を手に取って呟いた。
「……狩り、完了」
「いえーい!完全勝利ー!」
母港に戻り、大はしゃぎする吹雪。
「……初めてにしては上出来だ」
「お疲れ様でございます」
エンタープライズとベルファストも労う。
「よ、勝ったみてぇだな」
「ヒロキ、起きてたのか?」
「あんなバカでけぇアラーム鳴りゃ誰だって起きる」
「そうか」
「……で、だ。チヒロ。どうだったよ?」
「何が?」
「エンタープライズだよ」
「ああ……」
チヒロはエンタープライズを見る。
「正直、かなり危なっかしい戦い方をしてた。自分の艤装を盾に弾幕に突っ込んだりな」
「……やっぱりな」
「どうかしたのか?」
「いや、実はな、あの時お前らが来るまでエンタープライズの艤装を整備してたんだ」
「それで?」
「あいつの艤装、かなりボロボロだった。いつブッ壊れてもおかしくない程にな」
「マジかよ」
「ああ。だから、アイツはあまり戦いに出さない方がいい。下手すりゃ死ぬぞ」
「……」
「ま、とりあえずは初勝利、おめっとさん」
「あぁ……」
チヒロはエンタープライズを見る。
「……」
エンタープライズはじっと海を見ていた。
チヒロはエンタープライズに何か不穏なものを感じるのだった。
続く