「セイレーンの群れはこの辺りか!」
チヒロたちは、鏡面海域内に現れたセイレーン艦隊を狩るべく艦隊を引き連れていた。
「……妙だな。いくらなんでも動きがなさすぎる」
エンタープライズはレーダー画面を見て呟く。
いくら統率力のないセイレーン艦隊であっても、何かしら動きがあるものだ。しかし、今回の敵艦隊はレーダーを見る限り艦隊に大きな動きはなかった。
「……いや、待て。これは……戦闘の動きか?」
チヒロはレーダーの画面を拡大すると、セイレーンがある地点で固まり始めていることに気付く。そこにはセイレーンとは違う反応があった。
「これは……艦船の反応だ!」
チヒロの言葉に皆が驚く。鏡面海域で艦船に出会うことなどありえないからだ。
「迷いこんだのか……?」
「なら早く助けないとです!」
「……」
チヒロはすぐには応じなかった。なにか胸騒ぎを起こさせるものがあるのだ。その正体を確かめるべく、セイレーン艦隊のいる場所へと近付いた。
「セイレーン艦隊、確認!」
「あれと戦ってるのは……重桜の艦船でしょうか?」
「あれは……!」
「うわっ!ちょっと綾波!?」
綾波は突然スピードを上げてセイレーン艦隊……いや、セイレーン艦隊と戦う艦船のもとに急いだ。
そして、セイレーンを斬り捨てながらその艦船の側に降り立つ。
「赤城さん!加賀さん!」
「っ!……貴女は……綾波!?」
そこにいたのは重桜所属空母『赤城』と正規空母『加賀』だった。
「……!」
チヒロは無線で拾った声を聞き取る。
「綾波……どうしてここに」
「綾波!」
遅れてエンタープライズもやってきた。
しかし、彼女の姿を見た途端、加賀は敵意を剥き出しにした。
「……!貴様ァ!」
「!!」
加賀がエンタープライズに向かって殴りかかり、エンタープライズはそれを避ける。
「いきなり何を……?」
「とぼけるな!貴様のせいでどれだけ我々が被害を被ったと思っている!」
「……?どういうことだ?」
「ダメです加賀さん!この人は味方です!」
「なぜ止める綾波!お前も今の重桜とユニオンの関係は理解しているだろう!」
「……そうか、あなたたちは私の『素体』と会っているのだな」
エンタープライズは納得したように言う。
「……どういうことだ」
加賀は少し落ち着いた様子を見せる。
その時ーーー
「赤城!加賀!」
近づいてきたウェールズの艦艇から、大きな声が聞こえてきた。
「その声は……!」
赤城と加賀は声の方向に顔を上げる。
そこには、複雑な表情を浮かべたチヒロがいた。
「「チヒロ……」」
2人の口から無意識のうちにその名前が漏れる。
チヒロたちは赤城、加賀を連れて母港に戻った。
その間も、母港に戻ってからも、チヒロは
赤城たちと目を合わせようとしなかった。
「指揮官?どうしたです?」
綾波は心配になってチヒロに声をかける。
「赤城さんたちと会ってから様子が変ですよ?」
「……あいつらがやったことを考えたらわかるだろ」
チヒロはぶっきらぼうに答える。
「チヒロ……」
背後から声をかけられた。チヒロは振り返らない。それが赤城の声であるとわかっていたからだ。
「……なんで、ユニオンを襲撃した」
チヒロは怒りを押し殺したような声で尋ねる。
「……それは」
「お前たちがあんなことをしなかったら、俺は重桜を抜けずに済んだ。レッドアクシズの指揮官として戦えた!」
「……アズールレーンとレッドアクシズに分かれた以上、いずれこうなる運命よ」
「セイレーンを狩るのが先だろ!こんなこと天城だって望んでない!」
「あなたのためよ」
「ふざけるな!国同士の衝突がなんで俺のためになるって言うんだよ!」
「それは……」
チヒロの怒りは収まらない。赤城たちも言い返す言葉がなかった。
「……俺はお前たちのしたことを許さない」
チヒロはそれだけ言って立ち去る。
「指揮官!」綾波は慌てて追いかけていった。
「チヒロ……」
赤城たちには、チヒロの背中を見送るしかできなかった。
チヒロは寮舎の屋上でゼリーを吸いながら海を眺めていた。
「……はぁ」
チヒロは大きなため息をつく。
「指揮官」
そんなチヒロに誰かが話しかけてくる。振り向くとそこには綾波の姿があった。
「綾波……」
「指揮官、赤城さんと加賀さんとはお知り合いだったですか?」
「ああ……」
チヒロは答えづらそうにする。
「……アイツらは父さんの艦隊にいたからな。子供の頃から、ちょくちょく面倒を見られてた」
「そうなんですね……」
「まあ、士官学校に入ってからはあまり会わなくなったけどな」
「……赤城さんたちのこと、やっぱり許せないです?」
「……あぁ」
「でも……二人は悪い人じゃないと思うのです」
「……」
「だから、ユニオンを襲撃したことも、何か理由があるはずです」
「……知ってるよ。そんなこと」
チヒロは俯き気味に答える。
「……子供の頃から一緒にいたんだ。あいつらがなんの理由もなしにあんなことをするわけがないことも、重桜を想ってのことだってのも、全部わかってる」
「……」
「それでも、俺はアイツらのやったことが許せない」
「……やったことだけ、です?」
「……?」
「赤城さんたちのこと、嫌いになったですか?」
「……」
「本当に赤城さんたちを許せないなら、あの時見捨ててたはずです」「……」
「本当は、赤城さんたちと会えて嬉しかったんじゃないです?」
「……!」
チヒロはハッとする。
「……そう、なのかもな」
「きっとそうです」
「……ありがとうな、綾波。少しスッキリした」
「綾波こそ、今日は指揮官のことが少しだけ知れて嬉しいです」
綾波は微笑む。チヒロはそれを見て少し驚いたような表情を浮かべる。「指揮官?」
「お前……笑えたんだな」
「失礼です!」
綾波は頬を膨らませる。
「ハハ、冗談だよ」
「指揮官は意地悪なのです」
「ごめんって」
「……ふふっ」
「フッ」
二人の間に穏やかな空気が流れる。
チヒロの顔に、もう怒りの感情はなかった。
翌日。チヒロは赤城、加賀を執務室に呼び出した。
チヒロは2人と話をつけなければならない。
「……チヒロ、入るわよ」
赤城と加賀が部屋に入ってくる。
「来たか」
チヒロは椅子から立ち上がる。
「それで、私たちを呼び出した用件は?」
赤城は尋ねる。チヒロは真剣な表情で言った。
「もう一度聞く。なんでユニオンを襲った?」
「……ごめんなさい。それだけはどうしても言えないわ」
赤城は申し訳なさそうに答える。
「私も同じだ。今は言えん」
加賀も同様に答える。
「なら……質問を変えよう。お前たちはセイレーンと結託したわけじゃないな?」
「えぇ、それは誓って言えるわ」
「……わかった」
チヒロは席を立ち、赤城たちに歩み寄る。
「俺はお前たちのしたことを許せない。だから、責任を取ってもらう」
「責任……?」
「俺たちと一緒にセイレーンを狩れ」
「……」
赤城と加賀は何も言わなかった。しかし、その目からは強い意思が感じられた。
「……いいでしょう。あなたの望み通り、私たちはセイレーンを倒しましょう」
赤城はそう言って手を差し出し、チヒロはそれを握り返した。
「それから……」
チヒロは顔を赤らめて言う。
「久しぶりに会えて……嬉しかった」
赤城たちは一瞬キョトンとした顔になるが、すぐに笑顔になって言う。
「私もよ、チヒロ」
こうして、重桜の空母、赤城・加賀はチヒロたちの艦隊に加わった。