とある特殊工作兵見習いの日常   作:氷桜

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オヒサシブリデス


山鳥 鷹-⑧

しゅいん、という物音を立てながらのトリオン体への換装。

それぞれの衣装が切り替わる中。

俺のトリオン体への変移は言ってしまって地味。

「通常の衣装と全く同じだと区別がつかない」なんて理由から、格好だけは基本的なジャージに近いものではあるのだが。

 

(……結局格好だけ変えたのも引っ掛かる要因になっちまったもんな。)

 

目前にいる、医療へと方向を向けたトリオン体の被験体として成功した那須さんと同様に。

俺自身も副作用(サイドエフェクト)に苛まれる職員として抽出・同プログラムに参加した事を思い出してしまう。

 

彼女の場合は肉体的な問題で。

俺の場合は恐らく脳、そして神経回路的な問題が大きくて。

その差異も有り、結果も明暗を分けた――――それだけの話、なのだけど。

 

「? 何、鷹。 どうかしたの?」

「いや、別に。」

 

小さく息を吐き、今の思考を端へと避ける。

どういった感情なのか、ある程度以上に知り得てしまっているのは師匠筋。

そして今の俺に気付いているのか曖昧な()()()()()()

出来れば気付いて欲しくない。

そう思うことも我儘なのだろうけど。

 

『じゃあ準備は大丈夫?』

 

幾度か息を吐いた後に耳元に聞こえるオペレーター……栞さんの声。

耳元に響くような、トリオン体全体で受け取るような声を受けて頬の辺りを指で叩いた。

 

「大丈夫。」

『オッケー。 じゃあまずは何からやる?』

「そうだなー……。」

 

他の二人にも同様の声は聞こえているはずだ。

舞台は特に定めているわけではない『市街地A』。

狙撃がしやすかったり、室内戦有利だったりと特殊な区別が余り見られない戦域。

言ってしまえば地形戦と言った周囲の影響を無視しやすい、『力押しが出来る』場所。

その中の一本の道路に三人で並び立っている。

 

「まずは鷹からやってみる?」

「別にいいけど……スイッチボックスを実体験させる感じ?」

「何が出来るかー、ってのは実体験したほうが早いでしょ。」

「そりゃそーだが。」

 

攻撃手、射手、銃手、狙撃手。

一般的に分けられる4つの立ち位置(万能手系列は4つの役割の何れかを複合するから無視)とは少し違う。

言い換えれば特殊な才能、知見、或いは一般に分類できない人物でなければ選ぶことはほぼ無い特殊な役割のトリガー。

だからこそ、味方として経験する機会はなかなか無いモノではあるのだが。

 

「はっきり言って()()()()()()()()()()()()トリガーって分かってるよな?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

出来ることに幅が有り過ぎるこのトリガーの唯一にして最も使い難いと思わせる仕様。

まあ罠を完全に隠してしまえば仕掛けた側も踏む危険があるので一長一短なんだけれども。

 

「そりゃね。」

「……でも、一人でないなら?」

「まあ、多分ご想像通りです。」

 

罠のトリオン反応を利用して誤魔化す。

仮にBランク以上に上がれた場合にやってみたい合わせ技の一つも、丁度小南がいる今なら実験できる。

ただ立ち位置だけで考えると那須さんと合わせたほうが良いのかもしれんが。

 

「なら。 山鳥くんの――――からで、お願いできる?」

「見た目は地味ですからね?」

 

そういうものでしょう、と。

当たり前のことだと呆れる顔と。

苦笑する顔が、二つ並んでいた。

ヒロインイチャコラ@2021年版

  • コナセン
  • 那須さん
  • 柚宇さん

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