和菓子屋の少女と普通の男の子   作:麒麟

5 / 5
行き帰り

「………ふぁぁ〜」

 

俺は小さくため息を吐くと一昨日のことを思い出す

恋愛には踏み込まないつもりだった

好きな人は知っていたはずだったし覚悟はしていたはずだった

失恋した時より

……あんな顔されちゃあ流石に見過ごすことなんてできないだろ

あの時の小野寺の顔は忘れることなんてできない。泣きそうで、苦しそうでそして切ない

その印象だけが脳裏に焼きつく

好きな人の恋の終わりなんて見たくなんてなかった

そんなことを考えながら歩いていると見知った姿が見える

 

「……あっ!」

「あっ」

 

偶然にも小野寺と出会う。朝の通学路で会うのは初めてだった

ずっと小学校から同じだったし家も近所だと予想できたので、家が近いだろうとは思っていたけど

 

「おはよう。水口くん」

「あぁ。おはよう。小野寺」

 

どこか気まずい雰囲気に俺は少しだけ小野寺という少女の強さを見た気がする

失恋はしたはずなのに、しっかりとした足並みで歩いてきている少女に少しだけ一条が羨ましく感じる

 

「立ち止まってないで行こうぜ」

「えっ?」

「行かないのか?」

「ううん。行くけど……顔大丈夫かな?昨日少し腫れちゃったから」

「ん?大丈夫だと思うぞ?見た目はそこまで変わらないし」

「そっか」

 

少し笑顔が崩れており、未だに痛々しいのは避けられない。ただ、小野寺も進みだそうとしていることはわかる

 

「……そういや、今週末大丈夫なのか?」

「えっ?」

「今週末ケーキの調理実習あるだろ?小野寺って料理できなかったんじゃ」

「あれ?ケーキ作りって今週だったかな?」

「あぁ。一応簡単なものなら教えられるけど、少し空いた時間使って見とこうか?」

「…いいの?」

「まぁカフェでキッチン担当してるしな。元々両親共働きだし、料理もできるし誕生日ケーキも作ることもできるしな」

 

ふと思い出したようにしているが、いくつかあまり触れないようにするために俺は話の話題をいくつか用意していたのだ

少しだけ笑顔がこぼれいつも通りの小野寺が戻ってきている

やっぱり悲しんでいる小野寺より笑顔の小野寺の方がいいしな

そんな中で教室に二人で歩いていくとすると教室内がざわざわと騒いでいる

 

「あれ?なんか賑わってるな」

「おっ!カエデ!!おはよう!!」

「ん?おはよう?どうしたんだ?やけにテンションたけぇな」

 

俺は少しだけ引き気味の答えるとすると舞子が笑う

 

「実はな。楽と桐崎さんがデートしていたのを板野と城ヶ崎が目撃してたんだよ」

「……あ〜なるほど」

 

バレてるぞ一条と桐崎。俺は小さく苦笑してしまう

 

「そっか。んでからかうのか?」

「あぁ、こんなに面白いことからかわないわけないだろ?」

 

その舞子の言葉に俺も少しだけ違和感を覚えたが、俺はどうしようにもないだろうと判断する

そして入ってくる一条と桐崎。どうやら一緒に登校してきたのか一緒に歩いてきた

 

「おおっとー!?一条と桐崎さんじゃねえかーーっ!!」

「へ?」

 

賑わってきた。教室に学級日誌がないことに気づく

……まぁいいや。こういう雰囲気好きじゃないしな

 

「あれ?どうしたの?」

「ん?学級日誌取りに行こうって思って」

「あっ!私も行くよ」

 

俺は席を離れようとすると小野寺が立ち上がる

少しだけ辛そうにしていたのがふと気づくがあまり触れないようにする

でもなんとなく舞子の態度が少しだけ気になってしまうのであった

 

 

「あれ?小野寺?」

「えっ?水口くん?」

 

翌日、俺は放課後図書館で宿題を終わって帰ろうとした時、小野寺と出会う

最近会う機会増えたなと少しだけ苦笑していると小野寺が近づいてくる

 

「水口くん珍しいね。今日バイトは?」

「休み。宿題を家でやるの嫌だったから図書館で終わらせてきたところだよ。小野寺は?」

「あはは。忘れ物しちゃって」

「……あぁ。なるほど」

 

結構抜けているところもあるし授業中に、時々寝ている小野寺は見ているしな

 

「…勉強って真面目だね」

「家で勉強したくなしたくないんだしたくないんだよ。勉強嫌いだし」

「そうなの?」

「……言っとくけど俺小野寺より成績順位はかなり低いぞ。ここも繰り上げだったし」

「私もそうだったけど」

「……俺入学後のテスト108位だったんだけど」

「私も100位くらいかな」

 

俺もは少しだけ苦笑してしまう

なんか共通点が多いよなぁ。こういう普通の生活は

 

「んー。まぁ、今日は帰るかぁ。明日の調理実習の準備もしないといけないし」

「調理実習の準備?」

「あぁ。俺はカップケーキにしようと思って。あれ人に配りやすいし簡単だから小野寺も作りやすいだろ?」

「…そっか。優しいね」

「ん?当たり前だろ?一度言ったからにはちゃんと美味しいケーキ作りたいだろうしな」

 

そして自然と隣を歩き始める小野寺に少しだけ驚いてしまう

多分天然だろうけど、普段よりも距離が近い

 

「ねぇ。水口くん。私頑張ってみるよ」

「ん?」

「一条くんのこと。もう少しだけ追ってみようと思う」

 

どうやら決意したらしい。何があったあ分からないがそれでもいつもの力強い小野寺に戻っていた

本当に恋する女の子はずるいと思う

強く儚く、そしてこんなにも魅力的なのだから

……胸が痛いけど俺がみたいのはこの姿なんだから

 

「そっか。んじゃ少しだけ多めに持ってくるか。ケーキ渡せるといいな」

「えっ?…うん」

 

ひたすらに恥ずかしそうな小野寺に俺は少しだけ苦笑してしまう。やっぱりわかっていた筈だけど結構きついものがある

それでも俺は君には笑ってほしいから

恋を素直には応援できないかもしれないけど

 

小野寺には幸せでいて欲しいから

もうあんな姿見たくないし俺は小野寺の味方であろう

初めて一緒に帰る帰り道は何処か苦く、切なかった


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。