Kung-Fu / Box   作:勿忘草

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次回に引き続き鉄健の勝負です。


『乱入 スカイスターとの戦い』

「おいおい、気絶してるじゃないかよ……」

 

カラオケボックスの屋上へと上がるとそこには倒れている深道信彦が居た。

アレから探してせっかく見つけたと言うのに、これじゃあ消化不良もいいところだ。

これなら探すのをやめて家に帰ろう、腕の痛みもだんだん我慢できなくなってきていたし良い頃合だ。

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次の日になると筋の違えはなくなって痛みも消えていた、とりあえず他の奴を探すか……最近の奴なら元九位の『サンパギータ・カイ』と新九位となって今はリザーバーの『北枝金次郎』。

俺はすぐに身支度をして家を出る、現役復帰したのかテレビでも出ている為『ルチャ・リブレ』の使い手というのを知っている、そしてプロなら巡業か近くで試合を試合をしているはずだろうからそこへ乱入してしまえば良い。

 

家を出て駅へ向かい、切符を買って改札を出て電車に乗り込み揺られる事数分。

駅から降りて俺はチケットを試合会場で買い、会場受付の警備員に見せる、怪しまれる格好でもないから厳しくチェックされる事もなく半券をきられた。

 

「A席でございますね、どうぞ」

 

そう言われてチケットを渡された俺はチケットの番号を見ながら観客席まで入っていった、試合の乱入の計画は順調だ。

 

「それでは今日のメーンイベントを開始します、シングルタイトルマッチ、まず入場するのはチャンピオン『スカイスター』!!」

 

おぉ、丁度試合が始まる前だったか、良いタイミングだな、俺は駆けていって観客席からリングへと入る、というか深道ランキングでの登録は普段使われる名前でリングネームは違っていたんだな。

 

「なんと、乱入だー!!」

「どけどけー!!」

 

俺は瞬く間にリングへと辿り着きコーナーロープを飛び越える、実況の言葉から一気にリングの中心にいた人を殴り倒す、身のこなしの向上はきっと小西さんの戦いで引っ張り上げられた結果だ、相手にリバーブローと顔面へのストレートで対戦相手であろう人をノックアウトしてチャンピオンである『スカイスター』もとい『サンパギータ・カイ』の方を見る。

 

「平然と挑戦者をノックアウトー!!、一体この観客は何者だー!?」

「おいおい、何ぶち壊しにしてくれているんだよ、せっかくの防衛戦だったって言うのに」

「俺はそんな事抜きであんたと勝負しに来たんだ、元九位『サンパギータ・カイ』」

 

乱入に対して非難するような事を言ってきたが俺が深道ランカーだと分かったからか目つきが変わっていた。

今時分の目の前に居る相手が強いと分かったからだろうか威圧するように殺気が噴出す、ただそれでも小西さんには到底及ぶことはなかった。

 

「そうかよ、良いさ、来いよ」

「じゃあ、言葉に甘えて行かせて貰う!!」

 

乱入してきた俺の行為を咎める事もなく、スペシャルマッチとして試合が始まる、俺の構えを見て即座にカイさんがコーナーロープへと動く。

 

空中戦が相手でも打ち落とせば良い、俺は逆のコーナーへと進む、相手が飛ぶ攻撃をしても反撃が出来るように、ファイティングポーズでステップを踏んでリズムを取った。

 

「スカイツイスタープレス!!!」

「なっ、いきなりかよ!!」

 

コーナーポストから高々と跳躍をして回転しながら落下をしてくる、そのとてつもない威力と見受けられる一撃を避けてその場をやり過ごす、アレは食らってはいけない、あの技の威力は高さから推測して……もし喰らったとしたら体重の十倍ほどの衝撃が襲い掛かってくるだろう。

 

俺はいきなりの大技に驚いたが俺はコーナーロープから一気にダッシュをして距離を詰める、いきなり眼前に現れるほどの加速に驚いたのか目を見開いていた、起き上がるまで隙だらけというので俺は大きく振りかぶって勢いをつける。

 

「喰らいやがれ、顔ががら空きだぜ!!」

「グッ!!、避けられていたか!!」

「オオオオオオオオ!!」

 

雄たけびを上げながらカイさんの顔をめがけて打ち抜いた、手応えは十分、なかなかの好感触だった

 

「この腰の入ったパンチは……ボクサーか?」

 

しかし平然と起き上がってきたカイさんを見て驚く、おいおい十分良い手応えだったんだぞ……

幾らプロレスラーがタフだと言っても結構ショックだぜ。

 

「単発でのフルスウィングだぞ、効いてないのか?」

「効いている事は効いている、悪いが気合が入った一撃だったら前にしこたま貰ったんでな」

 

こっちの質問に対してカイさんはにやけて言葉を返してくる、まあ、順位を調べれば分かる事だが、あの男と勝負していたらそれもそうか、俺は再び構えなおしてステップを踏んだ。

 

「さて、いけるかな?」

 

そう言ってコーナーロープに足を乗せるカイさん、飛んできたところをカウンターで打ち落としてやる。

 

「おい、何処見ているんだ?、私はここだぞ」

「なっ!!」

 

いつの間に後ろに!?、そう思って向かいのロープを注視すると僅かに震えていた、なるほど……コーナーロープからコーナーロープへと飛び移ったってわけか。

 

「私のリングネームは『スカイスター』だ、空を駆ける星を捉えられるか!!」

 

そう言って滑空してエルボーを落とす、俺はそれを避けて着地を待つ、すると再び俺の視界から消えた。

 

「横だよ!!、『居酒屋ボンバー』!!」

「ヌッ……!!」

 

今度は後ろではなく横から現れてラリアットをしてくる、なるほど打撃技の威力は悪くない、このままいけばいいようにされて負けるだろう、一体どの様にして打ち落とそうか……。

 

「それっ!!」

 

空中で戦う為にはコーナーロープを確実に経由している、まずはこれを頭に置いた上で方法を考えなくてはいけない。

 

「次こそは決めてやる!!」

 

コーナーロープを次々と飛び移って大きな技のためのよび動作を始める、だがどうにか打ち落とす方法を子供だましながら思いついたので実践する。

 

「付け焼刃でやるには心もとないが……セイッ!!」

 

カイさんが乗り移る前に俺はある場所へと駆けていく。

コーナーロープを叩いた所だけでは一箇所しか揺れず完全には打ち落とせない、しかしコーナーポストならば一気に振動が全てのロープへといきわたるだろう、俺は全力でコーナーポストを叩いた。

 

「くそっ……お前、よくもこんな真似してくれたな」

 

着地地点が振動を伴ったから着地できなかったのか、苦々しい顔でカイさんが俺を睨みつけていた、さて、地上になったら逃がしはしないぜ。

 

「シッ!!」

「速いっ!?」

 

俺のパンチの速度に驚いていた、こっちも一応プロを目指しているんだからこれくらいの速度を持っていて当然だ。

 

「ハッ!!」

「左か!!」

「甘い!!」

 

カイさんが腕を交差して防ごうとするが逆の拳でがら空きの脇腹を打つ、出来れば顎とか狙いたかったんだが交差していた腕が崩れなかったから残念だ。

 

「フッ!!」

「こっちか!!」

「外れだ!!」

 

今度は右かと予想したみたいだが残念な事にこちらは両利きだったから再びがら空きの脇腹へと喰らう。

 

「まだまだ!!」

 

相手の予測を外してそれから、脇腹、顎、ボディ、こめかみ、とコンビネーションをつなげて着実にダメージを蓄積させていく。

 

「くそっ、左と思えば右、右かと思えば……」

 

上手く防御できずに打たれ続けるカイさん、まあ、予測してもそっちと逆を撃ってくるから受けようがないのだが。

 

「お返しをしてやる……」

 

そう言ったかと思うと一気にバックステップで距離をとり再びコーナーロープへと動いていく、そして跳ねるようにして動き続けていたが次の瞬間、恐ろしい光景を目の当たりにした。

 

「どうだ、お前のパンチに対してのお返しだ」

 

後ろかと思えば前、前かと思えば後ろ、左と右に関しても同様だ、カイさんがコーナーロープの反動を使って何人にも見えるほど高速移動をしていた。

 

「なっ……これは!?」

「新技だ、『デス・ロープ・ダンス』!!」

 

その言葉を口火に鋭い一撃が入る。

カイさんは四方八方に動きまくってそのロープの反動でダメージを与え続ける、受け止めようにもフェイントに反動が使われてぼんやりとしか読めない、はっきりとしていたなら捕らえられるんだろうけど。

 

「クソ、目で追っても反応できても全然守れないぜ……」

「トドメだ、次で終わらせる」

 

そう言って一際大きな反動をつけてリングの周りを往復し始める、目線とコースで読むがどうやら腹を狙っているみたいだ、俺は腰を落とし腹筋に力を入れ受け止める準備をした、もし顔面とかならばKOされるだろう。

 

「『ファイナル・ランス・シュート』!!」

「ぬぅうううううう!!」

「くそっ、この感覚は……」

「はあはあっ……」

 

俺は腹への一撃を渾身の力を入れた腹筋で受け止めて足を掴んでいた、衝撃の大きさから息が苦しいが、どうにかパンチを打ち込める、こんなチャンスならば全力でぶち込むのもいいかもしれない。

 

「チッ、少し急いで腹を射抜こうとしたのが間違いか……」

「喰らいやがれ……オラアアアア!!!」

 

技の後に有る僅かな硬直で足を振りほどこうにも一瞬の遅れを生み出す。

俺はそれを見逃さず限界まで力を振り絞ったパンチを叩き込んだ、後で力尽きて倒れこんでもいいほどに、腕がビリビリとする一撃を叩き込んだ。

だが次の瞬間、俺の目の前に有ったのは体で受け止めて俺の股下に手を差し込んで、辛いながらも『取ったぞ』という顔をしたカイさんだった。

 

「ぐっ、喰らうことなく上手く受けられたか……」

「いや、思いっきり喰らったよ、普段の私ならKOされてたさ。 でもみおりの前では私はもう負けられないんだ!!、喰らえ、『ランニングライガーボム』!!」

 

そう言って俺を抱えてボム投げを放つ、こっちもさっきのが最後のパンチだ、小西さんの勝負と違ってストリートファイトじゃなくリングの上だから意識して、反則をしない清廉潔白な試合運びをさせてもらったがそれがかえって仇となった。

 

「なっ、なんと乱入者がとてつもない戦いを見せてくれました、チャンピオンを限界ギリギリまで追い詰める名勝負でした!!」

 

意識が落ちていく中実況のその言葉を聞く、目は霞むがカイさんはどうやら足もガクガクでロープに捕まって耐えているだけでお互いに力を使い果たしていたようだ、とりあえず今度は誰を狩ってしまおうか……そこで俺の意識は途切れたのだった。

 

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その頃喫茶店では深道が鉄健とカイの試合を見ていた。

 

「ハハハハッ、最初テレビで見た時はやけになったと思ったらそういう訳か、話題に事欠かない奴だ」

「兄貴、笑っているがこれでランカー狩りが増えたんだぜ……」

「ああっ、だがこういう不確定要素になりえるのは面白い、それにもう『最後の戦い』も近いだろうからな」

 

そう言って紅茶を飲み干す深道、そして遂に幕が開く『最強の女』である皆口由紀と『第二の八極拳士』である逢間長枝の対決。

まあ、こうなった流れは少し時間を遡らなければいけない、それは次の話から説明を始めよう、俺の視点ではないだろうが。

 

そして喫茶店の中に静かにエンターキーを押す音が響いた。




次回は長枝の話が連続します、ご了承ください。
何が指摘の点がありましたらお願いします。

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