Kung-Fu / Box   作:勿忘草

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今回で最後へと秒読みになります。


『精密機械と大爆発』

俺は階段を登る、上に『気』を感じるが人数は二人、そこから近づいているのが一人、階段の下には一人。

 

少し怒りのせいで『気』を感じやすくなっているのだろう、普段は集中したりしないと分からない、そしてここまで細かく分かるなど片手で数える程度だ、怒りなどの感情やこの環境が引っ張り上げているのだろうか。

 

「上にいるのは、あのナースの情報が正しいなら佐伯四郎と知らない奴が一人、そして近づいてるのは覚えのある奴だがリーではない所から考えてジュリエッタだろう、下にいる奴も知らない奴だな」

 

階段を登っていくとなかなか悪くない場所に出る、廊下から曲がり角が近くに有って、通る奴らも多そうだ。

 

「お前は……?」

 

坊主頭の奴が俺を見て声をかけてくる、随分とでかい奴だな、俺も俺でコイツの事は知らないんだけどな。

 

「俺は逢間長枝、こっちは答えたんだからお前の名前を聞かせてもらうぜ」

「俺は渺茫(びょうぼう)…名前を聞いて分かったが…二位の男か、興味深い」

 

そう言って構える渺茫、俺からすればお前はどうでも良いんだよ、こっちの奴が重要なんだよ。

 

「おい、お前が佐伯(さえき)四郎(しろう)だよな」

「そうだが……お前は何者(なにもん)だ?」

 

こちらが名前を尋ねると振り向いて、こちらへ目線を向ける、見下ろす形になっているのは佐伯四郎の背が俺よりも随分と高いからである、差にしてみれば三十ほどはあるだろうか?

 

「お前にやられた奴の友人だ、よくもやってくれたな……」

「そうか…俺からすればお前の友人の事なんぞ知らん」

「それもそうだな、俺もお前がどうなろうと知らん、敵(かたき)を討たせてもらう」

 

俺はその言葉を言い終えた瞬間に踏み込む、狙うのは中心、一撃で終わらせてやる。

 

「ハアッ!!!」

 

佐伯四郎の腹へ『猛虎(もうこ)』を放つ、それを避けるが即座に踏み込んで次は『鉄山靠(てつざんこう)』を放って逃がさない、相手の得意な間合いにさせてしまえばペースを取られる、ましてや相手は現役格闘家だ、そういう自分のペースにするのはお得意だろう。

 

「なかなかやるじゃねえか」

「……黙っていろ、お前に喋る暇は与えはしないぞ」

 

そう言って再び踏み出す、それに合わせてタックルをして片足を取ろうとする、踏み込みの最中なんて一歩間違えれば掠って鼻とかいかれるだろうに。

たいした度胸だ、しかし片足ならば取れると思ったのか、外見で判断したとしたら甘い甘い、俺の体はそんじょそこらの奴とは別もんだぜ。

 

「なっ、全く動かんだと……」

「お前、見た目で判断したみたいだがどんな奴を想像していたんだ?」

 

がっしりと掴んで動かそうとするが全然動かない、俺の身長は百六十五、それに対しての体重は六十、体脂肪率は十一。

 

つまり現役の第一線で活躍する格闘家と同格、もしくはそれ以上の肉体なのだ、まるで根付いた大木のように俺の体は動かない。

 

「お前、ただのチビじゃあないのかよ……」

「そうだよ、お前さんの想像以上に鍛えてるんだぜ……フン!!!」

 

その状況に驚いた顔で俺を見上げる佐伯四郎、俺は大きく息を吸い込み『気』を練り上げ、手を下げて勢いよく息を吐き出し、『発勁(はっけい)』をする。

 

「ぐあっ!!」

「『猛虎』!!」

 

佐伯四郎が『発勁』で弾き飛ばされると同時に、俺は踏み込んで一気に佐伯四郎の懐へと辿り着く、そしてためらいも無くある場所へと一撃を繰り出した。

 

「がっ……」

「崩れ落ちただけか、狙い通りだな」

 

わざと『気』が充実している場所、しかもなおかつ頑丈な部分を狙って放った一撃は行動不能に留めた、この一撃は元々倒す為に放ってはいないから十分な結果である。

 

俺は気が済んでいないから追い討ちをする準備をする、まあ、無抵抗になった奴とはいえど復活されたら面倒だしそういった可能性を摘み取る点としては良い判断だろう。

 

「体……が動か……ねえ」

「さて……言った事はさせてもらうか、その顔をズタズタにしてやる」

 

俺は佐伯四郎が顔を上げたり抵抗する前に事を成す、照準を定めると勢いよく足を下ろして顔面を踏み砕く、その拍子に少し吹っ飛んで仰向けになる。

 

「ぐあっ……」

「良い感触だな、心配する事はないぞ、一度では済まさないからよ」

 

そう言って再び踏み込む、良い感触だしグチャっという音が聞こえる、よく見ると鼻が折れていやがるな。

 

「ううう……」

「オラッ!!」

 

うめき声が聞こえるが構わずに踏む、まあ、鼻血で息がしづらいからこんな声が出るんだろうけど。

 

「ぐっ……」

「掴んでやめてくださいってか?、俺の友人をボロボロにして虫が良いにも程があるだろうが!!」

 

掴んできた手を振り払い、知らない奴が俺を殴り飛ばすまで俺は幾度も佐伯四郎の顔を地面に見立てて踏み込む事で顔面を延々と痛めつけていた。

 

「誰だ、お前?」

「楊鉄健、で……何で渺茫が此処にいるんだ?」

 

俺は知らない奴にお前は誰なのかと聞く、するとそいつは俺には目を向けずに質問に答えて渺茫を睨みつけていた、そして即座に構えて近づいていく。

 

「目的としては時田を見つける為に先に進まなくてはいけないんだが……最大級のイレギュラーは別物だ!!」

 

勢いよく拳を出す鉄健、なるほど…こいつはボクサーだったのか。

しかしアバラを痛めているのか腰の回転が若干鈍い、そこを見抜いた渺茫がその攻撃をいなして避ける。

 

「くっ!!」

 

避けた瞬間を狙って逆の腕でも一撃を出す、しかし渺茫が腕を交差させて鉄健の腕が戻る隙を突きカウンターを放つ、すると鉄健の奴が不敵な笑みを浮かべて……

 

「オラァ!!」

 

痛みを我慢したのか先ほどよりも腰を捻ってそのカウンターの一撃にカウンターをあわせる、『クリス・クロス』を意図的にやるとは実力は立つ様だな。

 

「……ぐっ!?」

 

苦しそうな顔をして下がる、よく見ると拳が砕けていた、何が原因か見てみると丁度鉄健が拳を出した地点に渺茫の頭が有った、あいつ……あのタイミングで頭突きをしたのかよ。

 

「流石だな」

「そうか…もう時田と戦う気はなくなっちまった…お前に全てを注がせてもらう」

「そうか、少しは楽しませてくれるか?」

「まあ、退屈はさせないつもりだ、行くぜ、おい!!!」

 

そう言って渺茫へと駆け寄る鉄健、痛みがあるはずだが戦いの興奮でアドレナリンが出たのだろうか、平然と懐に飛び込んで行った。

 

「シィアアアア!!!」

 

連打をして渺茫へダメージを通そうとする、しかし渺茫はその攻撃を機敏な動きですべて避ける、それを見て更に回転数を上げていく、コイツなかなか良いじゃあないか。

 

「残念だが、さっきの俺とは違う……」

 

そう言って攻撃に合わせてカウンターを出す渺茫、しかし相手は本職のボクサー、片手になっても相手との射程を計算に入れて捌いていく。

 

「これは……何故当らない?」

「お前、舐めてんのか、それとも天然でそんな疑問を言うのか……俺は何年とやってきているんだぜ」

 

渺茫が驚いているが鉄健の主張はもっともである、本職の奴が少し見よう身まねしたような奴に負けたら元も子もない。

 

「そういうものか……歴代の渺茫の中にそれを扱うものが此処(ここ)に居たならばお前と渡り合えただろうに」

「『歴代』なんてまるで渺茫が『称号』で今までの奴らが『憑依』するような口ぶりだな」

 

鉄健の言う事は理解できる、『歴代の中で扱うならば渡り合える』という事は歴代の『渺茫』はある条件下でならば『憑依』する事が出来るというわけだ、それこそ降霊術のように、しかも『此処(ここ)』という事はもはやすでに居るという事だ。

 

「実際そういう意味だ、行くぞ……」

 

そう言って攻撃をする渺茫、鉄健は懐に入って隙を伺う、ギリギリのところで紙一重の争いを繰り広げる、風圧だろうか鉄健の顔には少しずつ傷が入る、そして鉄健の体勢が崩れる。

 

まあ……第三者の視点で見たらどうにか分かるが渺茫を釣るための餌だな、そして渺茫は少しばかり大振りに構えてしまう、今のは絶妙なくらいのさじ加減で崩していたから相当な試合巧者でもないと見抜きにくいだろう。

 

鉄健が少し足に体重を乗せたのが分かったから、見抜けたが渺茫のように目の前でやられたらどうだったか。

 

「まんまと釣られやがって……よ!!!」

「なっ!?」

 

拳を避けて折れた手で拳を作っていたのか顎へとフェイントをかける、渺茫はそれに対して防御をするが、鉄健はがら空きになった胸の場所へと、先ほど以上に腰を捻り勢いをつけて拳を放っていた。

 

「かっ……」

 

その攻撃は無防備になっていた渺茫の心臓へと直撃する、すると渺茫は驚愕の顔を浮かべたまま一瞬動きが止まる、なるほど『ハートブレイクショット』か、確かにこれなら一発逆転を狙うことはできるよな。

 

「おおおっ!!!」

 

一瞬の隙を突いて鉄健が顔へと一撃を放つ、すると渺茫も鏡合わせのように腰を捻って鉄健の顔へと放っていく。

随分と速い復帰だな、並の奴なら反撃は出来ないだろうに、この点は流石は『元一位』といった所だろう、まあ……それ以上に分厚い筋肉が渺茫の心臓を守ったのだろうが。

 

「ハッ!!」

 

渺茫の拳が鉄健の放った拳に対してぶつかる、すると鈍い音が聞こえてきた、そして次の瞬間鉄健の悲痛な叫び声が聞こえてきた。

 

「ぐああああああっ!!!!」

 

声から察するにもう片方の拳も今の衝突で渺茫に破壊されたのだろう、先ほどの頭突きとは違いこちらは力任せの拳で壊されている。

壊された事でアドレナリンが切れて痛みが戻ったのか、苦しそうな叫び声を上げている。

 

「フンッ!!」

 

腹にもう一撃を加えて吹っ飛ばしていく、後ろに下がったみたいだがあれなら威力は結構なものだろう、渺茫は勝利を確信したのか、後ろを向いている。

 

「おいおい、相手に失礼じゃあないのか?」

「何がだ、奴は倒れた、俺の勝ちだろう」

「そう思っているのはお前だけだ、よく見てみろよ」

 

俺は渺茫が吹っ飛ばした方向を親指で指す、その向こうでは足をガクガクさせながらも鉄健が立っていた。

 

「その…通り…だぜ、どこ見て…やが…る」

「なっ!?」

「……来…い…よ」

 

もはや意識も絶え絶え、両手も砕けている中睨みつける鉄健、渺茫は驚いていたがすぐに近寄り構えて拳を放つ、それは鉄健の顔へと吸い込まれるように当たる、そしてそのまま吹っ飛んで意識を失うのであった。

 

「あの男はこの俺に驚愕を与えたがお前は俺に何を与える?」

「何を与えるだと、決まってるだろ……『敗北』だ」

 

俺は構えて渺茫を睨みつける、驚愕なんてだけじゃあ物足りないものを与えてやるよ、構えに驚いてももう遅いんだぜ、渺茫。

 

「待てよ、長枝……そいつは俺が先だぞ、『順番守れ』」

 

その声に振り向く間もなく一撃を喰らう、そんな……俺はあんたと戦いたかったのに、あんたはそいつの方が良かったって事かよ、逆鱗に触れたのかよ……。

 

リーが俺に喰らわせた一撃は壁を容易く破り、俺は必死に動こうとするが体は弱弱しく震えて立ち上がるのも一苦労だ、捕まるものもないとは不便だな。

 

「必死に這い出ようとするのをみれば奴はお前と戦いたかったのではないのか?」

「あいつには悪いがお前と戦ってからあいつじゃあ苦しいんでな、だからご退場してもらったのさ、逆も然りだ」

 

俺の耳はその言葉を拾うが次の瞬間、渺茫とリーの肩がぶつかって床が崩れていく、速く動いて追いつかなければいけない、そう思い俺は必死に体を芋虫のように動かすのだった。

 




今回で鉄健が脱落します、これから先少し原作の部分が色濃く入りますがご了承ください。
何かご指摘ありましたらお願いします。

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