Kung-Fu / Box   作:勿忘草

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バトル回です、次回が最終話になります。


『全力全開』

少し時間は過ぎて意識が戻る、時間にして十五分かそこらといったところだろうか、全く……強烈な蹴りをかましやがって。

 

「ってなんだ、この惨状……」

 

俺は目の前に広がる光景を疑った、アレから起き上がると長戸と時田、そしてジュリエッタがこの場所で倒れこんでいた、長戸の場合は金ちゃんの膝枕だから少し違うんだけどな。

 

「ここもまた酷い有様だな……」

 

何が有ったのかと思って飛んで降りていくとそこには地下の階層が有った、そこで目に入ったのは壊れた柱や大きな陥没、そして横たわっている奴らだった。

 

起き上がった時もかなり驚いたが此処に居て横たわっているメンツにも驚いた。

尾形(おがた)小路(こうじ)、サンパギータ・カイ、屋敷(やしき)(しゅん)、武(たけ)月雄(つきお)、そして深道(ふかみち)の五人がぼろぼろの状態だった、そしてその遠くにエアマスターが居た。

 

とりあえず、俺の目的は金ちゃんとリーの敵(かたき)をとる事だ、白目をむいて首から血を垂れ流している渺茫へと近づいていく、近づけば近づく分、渺茫から放たれている重圧(プレッシャー)が強くなっていく、弱い奴らならこの重圧だけでやられるだろうな。

 

まあ、仮に弱かったとしてもどんなに強くても引かないような奴らでも、大丈夫だろうけどな。

 

目の前に来た時こちらを見て途切れ途切れの言葉を喋り始める、もはや理性などはあまり存在せず戦う事に意識が向いているのだろう。

 

「キサマ…如きが…いまさら……来て勝てるか…」

「どうかね…今の俺は気が立っているし、この勝負に全てを尽くす気で来た、片道切符なんだよ…それしても随分化け物じみた姿になったもんだな」

 

渺茫が俺では勝てないと言ってくる、よく目を凝らせば見えてしまう、十四人もの人間が幽霊となり思念体として渺茫の体に巣くっているのが分かる、確かにこんな状態なら誰も勝てないだろう。

 

「確かに難しいかもしれないだろうよ……でも、だからって逃走なんて出来るわけ無いだろうが!!」

 

でも戦う前から勝敗を決めつけられたくは無い、どんな奴が相手でも『負けたくない』のだ、リーは言っていた、安いプライドが有れば例えどんな化け物が相手でも戦えると。

 

俺はそれを心に宿して全てを尽くすだけだ、少し歯を見せるように口角を上げながら構えて臨戦態勢をとった。

 

「キサマにはわからんだろう……『最強』の執念が……散れ」

 

渺茫が手を目の前に出すと一拍おいて発勁(はっけい)が直線状の光の帯となって目の前に迫ってくる。

弩級(どきゅう)の一撃だが流石にこっちもそう簡単に出会いがしらの一撃ででやられはしないぞ、俺は息を吸い込み手を下げ渾身(こんしん)の発勁をする。

 

「ハアアッ!!!」

 

気合一閃、渺茫の放った発勁を拡散させて無傷でその場を切り抜ける、それにしても暴走しているからか上手く制御が出来てないのが今のでわかった。

 

これだったら量が多い極太のレーザーなだけだ、帯の所々にむらがあるせいでそこを突かれると切り抜けられるものになっている、と言っても『気』の事を知っていなければ無理な芸当だが。

 

「で……さっき暴走して撃った発勁がこんなものか、お前を倒して俺はジョンス・リーの敵(かたき)討ちを果たさせてもらう、俺には見えてるんだよ、お前らが…行くぞ、渺茫『達』よ!!!!!!」

「どうしてもやる気か……良いだろう…どれ…程身の程知らずか…思い知るが良い」

 

渺茫が構えて拳を放つ、思念体が何人か拳に宿った状態での突き、勢いはすさまじいが暴走しているから狙いが見えやすく平然と逸らして避けられる。

 

「フッ!!」

「そら……したか…」

 

渺茫は途切れ途切れの喋り方をしてもう一度突きを放つ、しかしさっきと同じで狙いが見え見えすぎて平然と避ける、そして俺は懐へ飛び込んで『気』を練り上げて『猛虎(もうこ)』を放つ、これだったら暴走しないほうがまだ良かったかもしれないな。

 

「かぁ!!!!」

「ほぉ……やるな」

 

八極拳の一撃を腹へと叩き込む、岩をも超えるほど硬い感触に驚いて即座に離れる、その感触から察するに、どうやら腹筋などのフィジカルは普段よりも断然上がっているようだ。

 

「コレはどうだ……?」

 

腕をしならせて拳を出してくる、しならせた時に生まれた空気が拳のように顔へ迫るのが分かる、それを頭を下げて避ける、それに対して渺茫は少し怪訝な顔をしてこう言った。

 

「なぜ……読める」

「風の拳って奴か?……読んでるのとは違うね、勘だ」

 

野生の勘という漠然としたものだが俺は攻撃のコースを肌で感じ取れる、次は発勁がくるか?、もしそうだとしたら後ろに下がるか前へ強引に突っ込んで隙を見せた直後に決める……。

 

「……喰らえ」

「残念だな、避けてやる」

 

雨あられのように連続して風の拳を放つ、しかし感じ取って威力を殺すように動けば良い、そしてあのアクションを起こしている間はきっと発勁を使うことは出来ないはずだ、だから俺は速く駆け抜け風の拳が一度やんだ時渺茫の懐へと潜り込んだ。

 

「くっ……」

「一撃だ、喰らえ!!!!!」

 

引き離す為に発勁をしようとするがそれより速く腹へ俺の一撃がめり込む、しかしそのめり込んだ腹の筋肉は瞬く間に隆起(りゅうき)していき、そして豪快に息を吐き出したのだった。

 

「フゥ!!!……」

「俺には見えている、今防御したのは三代目の渺茫だろう、胸の字で分かった、どうやら八極拳士でもなければまた勁の使い手でもないようだな」

 

仮に八極拳士の奴が出てきていたなら、最初の風の拳から踏み込んで決めにかかっていたはずだろうし、今の一撃を硬気功で即座に弾けたはずだが『気』の充実が感じられなかった。

 

そして勁の使い手ならば化勁をして逸らすはずだが同じく『気』の充実が感じられなかった。

 

「こうも…あっさりと見抜く…か……」

「そりゃあ見えるんでな、筋骨隆々ではあるが……普通、俺の一撃はそれだけでは防げないぞ、流石はと言った所だな」

「く……あ……」

 

構えて渺茫がタメを作る、まだそれを続ける気か、いい加減別の奴が出て来いと心底思う。

 

「それでも耐えたお前にくれてやる……坂本ジュリエッタ以来の禁じ手を」

「やって…見せろ……そして浅はかだと知れ」

 

そう言って風の拳を放ってくる、再び距離を取っていくが体勢とタメを作った所から攻撃の瞬間がわかった、あの三代目の渺茫で普通の拳を放てばいいのに何をしているんだ?、そう考えて俺は回避する。

 

「どうした……近づけても…いないぞ」

「お前だってバカの一つ覚えだぞ、それしかできないのか?」

 

こちらに近づかない事に何か言ってくるが、うかつに懐に飛び込む気はないぞ、流石に今さっきに喰らっておきながら同じ手を打つわけがないからな。

 

「何が…言いたい?」

「別の技術を見せたらどうなんだって事さ」

「貴様に幾らも見せると思ったか…速く散れ……その身に強さを噛み締めろ」

 

三回目の正直とでも言いたいのか、まだ風の拳を撃ってくる、いい加減うんざりしてきた俺は避けて逸らし弾いて攻撃を捌いていた。

 

「だから……効かないんだっての、渺茫っていうのは十五人も居るくせに今やってるこいつにおんぶに抱っこの弱虫共なのか、さっきみたいに弩級の一撃をやってみろよ」

 

渺茫の目の奥から怒りが感じ取れる、怒って当然な挑発をかましたんだから仕方ない、さて……手から溜めて溜めて今にも弩級の一撃を見舞おうとする、別の使い方があるだろうに暴走しているからこうなるんだろうな。

 

「消えろ……」

 

渺茫が手を前に出した瞬間、レーザービームのような発勁が放たれる、俺は真正面から相殺する為に大きく踏み込んで発勁をして難を逃れる、その代償として衣服の大半が破けてしまったが今になってもそんなものどうでも良い。

 

「何故わざわざ挑発したと思う……お前の今やった技が一番隙が出来るからだよ!!!!」

 

発勁の一撃がやんだ時、俺は渺茫の体に触れていた、狙う場所は左胸、心臓がある場所だ。

流石の渺茫もここは鍛えてはいられない、それにあの時ジュリエッタに放った時よりも数段レベルアップしている為無駄な一撃にはならないだろう。

 

「これは、零…距離……」

「そうだ……禁じ手を喰らいな、心臓へと…腕が砕けるほど強く、歯が砕けるほど噛み締めて……『零勁(れいけい)』!!!!」

「…がっ…」

 

渺茫の体勢が崩れていく、流石にこの一撃は渺茫にも通用するか、でも完全に崩れ落ちるわけが無い、そんな簡単に崩れ落ちるようにはなっていないはずだ。

 

「暴走して近距離戦を挑まず中・遠距離で横着したからだな……でもまだ終わらないんだろ?」

「……」

 

崩れ落ちそうになるギリギリで踏ん張って立ち上がった、流石だな。

まあ、このまま崩れ落ちても拍子抜けだったから丁度良いんだ、さて……暴走はどうなったのかな?

 

「俺の腕は今のでヒビいっただろうな……しかし『現代最強』を倒した奴らには悪いが敵(かたき)を討たせてもらわなきゃな…だからよ…ジョンス・リーに勝った渺茫達……やろうぜ、サシでな」

「……良いだろう、やろうではないか」

 

今の衝撃で途切れ途切れだった喋り方もなくなり目が白目ではなくこちらを見据えていた。

そして雰囲気が変わる、暴走は収まっていたようだが、どうやら暴走を続けて全員の人格がところどころででしゃばるんじゃあなくて一つの憑依していた思念体が主人格になったようだ。

 

「そう来なくちゃな…誰だ、お前は」

「勁使いの渺茫だ、いくぞ……」

「発勁や化勁って訳か……」

「その通りだ……」

 

そう言って手を前に出す、すると弩級の発勁が放たれた、後ろに下がって発勁を返す事で何とか回避をするが、流石に最初からやられると驚くな。

 

「いきなり弩級の発勁……しかしこのヒビがいった腕を、次の一撃で完全に圧し折るほどの一撃をぶつけて、お前に勝たせてもらう!!!!」

「来るがいい…、主人格が私になった今、私の技は発勁だけではない」

「そうなのか、さっきと同じ様に発勁の後の隙を狙いたいが普通に拳があるというわけだ……まあ、どうせエアマスターとは戦う予定なんて無いから別にボロボロになってもいいんだがな」

 

腕に勁を纏(まと)わせて槍のように突きを放つ、速度もかなりのものだが一撃の重さと射程が凄すぎる、一撃を避けるたびに風が通り過ぎていき少しでも掠ると皮だけでなく肉ごとやられそうだ。

 

「しかし、やはりさっきよりも手応えがある……暴走なんてろくな事がねぇ」

「カッ!!!」

 

勁を足に纏って地面を砕く、それによって俺の足場が崩れて隙ができる、その瞬間に渺茫が遠ざかって手を前に差し出した。

 

「なっ……」

「隙が出来たな……ハッ!!!」

 

発勁が光の帯のようになってこちらへ迫り来る、さっきに比べて段違いに洗練された一撃であるのが目だけでなく肌で感じ取れた。

 

光の帯の一撃はイメージで言うと人をのみ込むほど強烈な『気』のバズーカだった。

『気』に精通した奴や軌道や風や空気を感じ取れる奴、もしくは同じ発勁の使い手、しかもかなりレベルの高い奴でもないとコレをのがれる事は出来ないだろう。

 

俺はその二つに該当していた為、逃れる事は不可能ではなかった、どうやってのがれるかが重要だった、後ろに下がるかそのまま真っ直ぐ行くか、それを考えた時……『常に相手の中心』というリーがあのシゲオとの勝負で言っていた言葉が脳裏によぎった。

 

その一言は俺の行動を決定付ける、俺は前に無謀だが突っ込む、一度ならず何度も息継ぎのように発勁をしてその距離を最短で懐、中心を目指した。

 

「残念だったな、最短で懐に来させてもらった……」

「『波動の帯』の中を突っ込むとは……正気の沙汰ではない!!」

 

服はもはや下半身のズボンたちしか残っては居なかった、上半身の服は全て今の一撃で破れ散っていた。

 

「勝たせてもらう……おおおおおおおお!!!!!」

「くっ、体が動かん……コレはあのハチマキの男と同じ」

「そうだ…お前らはあの時に渺茫の中で見ていたんだったな…、お前らみたいに『自分』が負けた事がない奴らにはわからんが『喧嘩は根性』なんだよ、成長には『屈辱』が、『敗北』が必要なんだよ」

 

驚愕の顔を浮かべたまま勁使いの渺茫は迎撃の構えを見せる、しかし指の一本さえも動くことは無かった、もしあの時のまだ支配されてない渺茫なら金ちゃんで体験している分、この状態になるのを何とかできたのだろう。

しかしあの人格が気絶している今、他の憑依している渺茫は感性というものに触れてしまって僅かな間動けなくなってしまうのだ。

 

「あの時代にあの男やお前のような奴に出会いたかった……」

「俺も出来れば思念体じゃないお前らと戦いたかったさ……『零勁』!!」

「距離が全くなくては化勁で受け流せん……な」

 

勁使いの渺茫の腹に一撃が入る、受け流すこともできず無防備に等しい状態で喰らった為、勁使いの渺茫は少し後退をして体をゆらりと揺らしたのだった。

 

「先ずは一人だ……次は誰だ?」

 

崩れ落ちるものだと思っていたがそう上手い話は無かったようだ、渺茫は顔を下げて背中を曲げてから、一気に反動を利用して伸びをしてこちらを睨みつけるのだった、雰囲気が変わっているから別の奴が憑依したようだ。

 

「俺だ……」

「お前は八極拳士の渺茫か」

 

構えを取ろうとする体の運びで看破をする、こいつが歴代最強なのならば凌駕するまでだ、俺は再びリーと戦うまで八極拳士に負ける気はまったく無い。

 

「……お前に真の二の打ち要らずを見せてやろう」

「上等………見せてもらう!!!!!!」

 

俺と八極拳士の渺茫は合図など交わさずお互いが同時に踏み込む。

 

肩と肩がぶつかり地面にはお互いを中心にして、蜘蛛の巣のようにヒビが広がったクレーターが出来る。

 

「血気盛んは美なり……喰らえ」

「そっちこそ…喰らいやがれ!!!」

 

リーの時とは違い言葉を交わす暇も無く再び肩がぶつかり合う、するとやはりお互いを中心にクレーターができる。

 

息切れが起きるようなペース配分でもない、ここに来てこの戦いで俺の中の勁の量はさらに成長しているようだ、こいつらに引っ張り上げられているというわけか、まあ……考えれば十四人もの『最強』なのだから不思議でもなんでもないことである。

 

「見事……勁の力も踏み込みも重さも申し分ない」

「嬉しくないね!!!、オラァ!!!!!!」

 

賛辞の言葉さえも今の俺には嬉しくない、例え歴代最強といえどリーの方が輝いている、それゆえに賛辞が嬉しいとは感じられなかった。

 

「ふんっ!!!!!」

「幾らやっていても、俺は退かない……故に俺の勝ちだ!!!!!!」

 

何度もぶつかるが八極拳士の渺茫の足が少しずつ後ろへと動く、踏み込みがヌルいのだろう、俺は一撃ごとに踏み込みを強くしていき更に詰め寄っていった。

 

「くっ、何故にこうも詰められてしまう!?」

「この打ち合いで下がった時点で、あんたじゃあ気持ちで俺に負ける……」

 

距離が徐々に詰まっていき八極拳士の渺茫は一撃を出す前にこちらの一撃を喰らいそうになっていた、その為かいくぐって難を逃れようとするがどうしても己の間合いをつかめずに俺の一撃を喰らう事になるのだった。

 

「負けんぞ…俺が負ければ何のためにいる!?」

「さぁ…そんなものは分からないな、吹っ飛べ…そして思念体は静かに空の上で見守るんだな!!!!!!」

「がっ……」

 

最後に一撃を放とうとするが、あの顔に浮かんでいたのは『屈辱』だったのだろう、

 

俺の一撃を腹に受けて俯(うつむ)いたように顔を下げていた、しかし三度(みたび)雰囲気が変わる、どうやら二人目も倒せたようだ。

 

「チッ、今ので踏み込んだ足がいったか、次に倒さないといけない奴はお前のようだな、胸に三とあるから怪力の渺茫だな、リーを倒したのはあの二人とお前以外にいるのか?」

 

足に痛みがはしるが今の俺は目の前に居る男に注目していた、雰囲気は偉丈夫が纏う空気そのもの、どうも見えていた時から分かっていたがどうやらイメージ通りの人間のようだ。

 

「……居ない、俺が最後だ」

「ずいぶんと今までの渺茫も無表情だったが輪を駆けて無表情だな、顔があまり見えないからか?」

「……悪いな、こういうものなんだ」

「そうか…最後なんだからな、早く決めさせてもらう!!!!!」

 

俺は最後と言うことで性急に事を運ぼうとしていた、その為足がいかれている事も厭(いと)わずに大きく踏み込み、有無を言わさぬ速度で怪力の渺茫へ一撃を叩き込んでいた。

 

「ふふっ、かなり良い一撃だな……」

「効いていない……だと?」

 

怪力の渺茫はこちらの攻撃をまともに受けておきながら、顔色一つ変えずに少しだけ口角を上げて攻撃の評価をしていた。

 

「お前の勁は確かに強いが……今までの間に二人の渺茫を相手にして無事でいられるとでも思ったのか?」

「なっ!?」

 

言われればそれもそのはずだ、全て出し尽くすからと言って、片道切符だからと言って、無尽蔵に『気』が使えるわけではない、冷静になれば分かる事だったはずだ。

 

「お前は自分でも気づかないほどに消費していたんだ、こちらの反撃だな」

「くそっ!!!!」

 

自分のこの体(てい)たらくに悪態をつき、硬気功と後ろに下がって威力を軽減する、しかし肋骨にいやな感覚が広がった、今の一撃でアバラが結構いかれたようだ。

 

「少しだけしか浮かなかったな、硬気功を使ったか?」

「やっててこれかよ……アバラが四本か五本いったな、こりゃあ」

 

浮いていた俺はちゃんと着地をするがやはりアバラ部分がちくちくと痛む、逸らさなかったにせよ普通ならアバラが折れる訳が無いのにな、

 

「そんな事を気にするたまではないだろう……」

「当然だ、お前、表情は薄いが饒舌なんだな」

「そういうものだ、顔はあまりにも語ってしまう……」

 

お前……そりゃ、気にはしないが痛みを鎮めるのは苦労するんだよ、表情の事については確かに正論だ。

そのためにポーカーフェイスなどと言う言葉が生まれたのだからな、さっき笑みをこぼしていたのは嬉しいのか、それとも勝てる事への自信の表れだろうか?

 

「出来ればお前の時代でお前そのものと戦いたかったな、その方が楽しそうだ」

「ここに憑依できただけでも僥倖、お前のような奴に逢えて良かった」

 

俺は憑依している状態より楽しいだろうと思ってそんな事を口走っていた、すると笑みを浮かべて怪力の渺茫は感想を言ってきた、お前からそんな言葉が出るとは予想外だったな。

 

「そうか、そんなのを話している所、悪いが俺は提案する……」

「なんだ……?」

 

この提案を蹴られたらジリ貧での勝負になるだろう、そうなれば勝てる可能性は低くなる、この提案をのんだ場合の勝率が五割ならば、蹴られた場合は二割か一割といったところだろう。

 

「俺は今のでアバラが折れて勁をうまく練る事ができん」

「それもそうだな……」

 

表情を変えずにこちらの言葉を淡々と聞く、さて……どう動いてくれるだろうか?

 

「だから、だから…俺は次の一撃に全身全霊をかけよう……」

「ほう、とてつもないほどの一撃であるのか?」

「ああ……全てを使い果たすからな、その後にぶっ倒れるかもしれないし、使った腕が折れるかもしれない」

 

偽りではなく本当にそうなるかもしれない、なぜならば『気』を使い果たすような戦いはリーの時にやっているが、体を省みずに打つのは初めての事だからだ。

 

「そんな次の一撃だ……コレが成功したら俺の勝ち」

「失敗したらお前の負けか、分かりやすい、受けて立つ……そういう奴は嫌いではないしな」

 

微笑んで承諾する、さてここからが大変だ、今からこの目の前にいる男を倒すだけの『気』を練り上げなくてはいけないんだからな。

 

「いくぞ、三代目渺茫、コレが俺の……」

「来い……全力を持って受け止めてやる」

 

俺は構えて『気』を充実させていく、大きな呼吸を何度もして練り上げて集中させていく、全部を出し切る為に……もはや雑音も一切聞こえない、『気』は完全に満ちた、さて……いくか。

 

「……コレが俺の全身全霊だぁ!!!!!!!」

「ヌッ………」

 

今までに無いほど大きく踏み込む、するとその衝撃に足が耐え切れず折れる、その痛みに呻く間もあってはならない、俺は全ての『気』をこの一撃に集中させている、痛くても集中を切らしてしまってはいけない。

使う技は今まで一番多く撃ってきた『猛虎』、俺は怪力の渺茫へと勢いよく手を突き出して一撃を放った。

 

「はぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!!……………」

 

この一撃の代償は足だけにはとどまらなかった、腕にヒビが入った鈍い音が耳の奥に響いて頭に警鐘を鳴らし続ける、全身全霊を込めた俺の一撃は怪力の渺茫の防御を弾き飛ばし、体へと突き刺さり吹っ飛ばした。

 

「全力で受け止めたがこうなったか……お前のような奴と戦えてよかった……現代に生きる八極拳士よ、さらばだ」

 

そう言ってついに渺茫の体が片膝を付き怪力の渺茫は成仏したのだった、また白目をむいているが俺との戦いで成仏したのと体へのダメージの蓄積、そして三人の渺茫を倒したという危機感からか再び他の渺茫が暴れだしたのだろう。

 

「最後に大きな声が聞こえやがった……気絶して成仏したか、流石に関係無しに次の奴が出てきたらやばいな」

 

そういうと駆ける音がする、エアマスターが壁を横切り重力を無視して延々と勢いをつけていく、仕方ない、ジョンス・リーの敵(かたき)はとったしこの体ではもう渺茫とも戦えない。

 

「結局最後はエアマスターに任せる事になるか、目的は果たせたし俺はこれで十分戦えた、じゃあな…楽しかったぜ…」

 

そう言ってボロボロの俺は崩れ落ちていき、意識を手放すのだった。




次回が最終回です。
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