深道さんとケアリーさんから話を聞いてから一週間も経ったある日の事、学校帰りで俺は街中を歩いていた、すると奇妙な光景を見る事となる。
「なまら弱い奴ばっかりだな、内地の男は」
ガクランを来た男が沢山の群れとなっていた、言葉遣いから北海道から来たんだろう、俺はとりあえず無視する事にした、ただこの十分後にとんでもない騒動が巻き起こるとは知らずに。
「悪いけど兄ちゃんよぉ」
「何です?」
「俺達は『黒正義誠意連合』っていうんだ、まあ、用件は黙ってやられとけって事だ!!!」
いきなり声をかけられたと思ったら襲撃って何だよこいつら、流石に無抵抗って訳にはいかないしこちらもやらせてもらうけどよ、これは『喧嘩』って事でいいんだよな!!
「ていっ!!」
「甘いんだよ!!」
いきなり飛び掛るような攻撃をしてきた奴に対して右のストレートを顔面にぶち込む、そしてそいつのがら空きになった所にもう一発。
まだまだ居るみたいだが普通こうも簡単にやられたら少しは躊躇しないか?
「こっ、こいつ……」
「掘り出し物だぜ、やっちまおう!!」
不良が構えている、人数はおおよそ十人ほどだ、こっちもそれだけいたら多少は楽しめそうだな、俺は壁を背に出来たらいいのにと少し高望みしていたが相手がここまで来ていたらそれは無駄だろう、構えて迎撃の姿勢を見せた。
「シッ!!」
目の前にいる奴に左のジャブを浴びせる、すかさず横へ移動し、そして脇腹に狙いを定めて……
「フンッ!!」
脇腹へのブローを食らわせて一人目を倒す、ここはリングでもないし今やっていることはスポーツの側面を持ったボクシングではない、ただいかに効率よく相手を倒すか、紳士的な要素を排除したボクシングだ、普通に考えて顎にアッパーをするなどマウスピースを持っていない奴にやればただではすまない。
空手家が正拳突きを、相撲取りが張り手を素人相手にやらないように、ボクサーが素人相手にパンチを打ち込むなどは本来ご法度である。
ただ、今の俺はその様なご
……とは言っても一気にトップギアにはもっていけないだろうがな。
「オラ!!!」
「グアッ……」
「まだまだ行くぜ、オイ!!」
鼻に一発、腹に二発入れて二人目の奴も終わり、そこからギアも少しずつ上がり始めて、側頭部と顎に一発ずつで三人目、そして大技の『ハートブレイクショット』を決めて四人目を順調に倒す、少しずつ相手にもあせりが出始めたのをきっかけに更に倒すスピードが上がっていく。
「甘いな、二人同時にやるにも焦ってずれてるぜ、ソイヤ!!」
「カッ…」
「ウエッ……」
二人のうち一人がゲロ吐いて倒れたけどどうでも良い、あと四、五人ほどだが一人が電話をかけ始めた、なんだか嫌な予感がしはじめたので逃走の準備をする、これで何十人も来たら面倒だ。
「逃げたぞ、追いかけろ!!」
「待ちやがれー!!」
声が聞こえるが気にしない、行き止まりは何処にあるんだ?、壁を背にして一対一の状況を意図的に作りたい、そしたらトップギアに入る前とはいえど楽にこいつらを全滅させられるだろう、しかし残念な事に逃げ回っていたのは狭い方向ではなく見渡せる場所の方である、そこで見たのは自転車を使って上手く不良たちをやっつけている男と美菜さんだった。
「あっ、あなたは!!」
美菜さんは俺の顔を見て驚くが今はそんな時間なんてものはない、自転車に乗ってる人に頼んでこの状況から皆さんだけでも逃がしてもらおう。
「美菜さん、こっちからも来てるから話してる暇は無い!!、俺が引き寄せた分はどうにかするから自転車の人、逃がすのを頼む!!」
そういうと自転車、よくよく見たら本当はBMXだが細かい事は今のところはいい、それをこいで美菜さんを乗せて逃げていった、さて人数の方はどれほど増えたんだ!?
「さて……兄ちゃん、もう逃がさないぜ」
「今度は三十人ほどかよ、こいつら底なしに増えやがるんじゃないのか?」
そう思って振り向いて見たが目に入った人数に口が塞がらない、幾らなんでも多すぎだろ……これ。
「これは厄介だぜ、だが……」
構えてステップを踏む、そして一気に前にいた奴の顔面めがけて右ストレートをぶち込む!!
「ガハッ!!」
「なっ、さっきよりも強くなってる!?」
「吹き飛んだか……まあ、逃げている間にようやくエンジンがかかってきたからな」
相手が驚いている隙に更に二人ほど倒す、携帯で呼び出せないように全員やっておかないとな、ハデにぼろぼろにしたら相手の方はどう出てくるか楽しみだな。
「シッ!!」
「ヌガッ……」
「ラァ!!!、フッ!!!、ハイァ!!!」
瞬く間に四人を倒して七人がダウンした、さてエンジン掛かってきたから体も軽い。
おかげで相手が飛び出すよりも速く迎撃できるぜ。
「こっ、こいつ……」
「残りは二十五、総人数は三十二人だったってわけだ、行くぞ」
冷静に人数を数えて相手へパンチを繰り出す、今頃美菜さんたちはどうしているだろうか?
「なんだ、なんだ……このお祭り騒ぎは?」
そんな事を考えていると声が聞こえてある人にぶつかった、振り向いたらそこにはちんちくりんな男の人が立っていた、身長は百六十五ぐらいだというのに異様に着膨れしたようなそんな感じの格好をしている、それに加え目つきが悪いから道行く人からは誤解されていそうだ。
「なんだ、このチビが……」
「こいつもどうせだからやっちまおうか?」
「そうだな、面倒だし」
不良たちはその人を見て俺を含めてやってしまおうとか言っている、俺に手も足も出ていないくせに何を言っているのだろうか、他の人に構っている暇なんて存在しないというのを思い知らせてやろう。
「スゥウウウウウウウ……」
「やっちまえー!!」
その人が大きく呼吸を吸うと不良たちが群がるようにその人へと向かっていく、しかし次の瞬間俺の目に入ったのは驚愕の光景だった。
「フン!!!!」
『うわぁああああああああ!!!?』
足の踏み込みと気合だけで十人以上を吹き飛ばす、一体どれだけの鎌度があればこんな風になるというんだ!?
「一体今のは?」
「ただの震脚をやっただけさ、全く……お前ら弱いんだな」
一瞥して再び構える、そして俺の方を見て言葉を発した、笑顔をしたら牙みたいな歯が見えていた、絶対笑顔も怖がられてる人なんだろうな。
「急いでるならさっさといきな、こいつらが抵抗するなら足止めしておいてやるからよ」
「あっ、ありがとうございます、できれば名前聞かせてもらえませんか?」
「長枝、
「分かりました、では言葉に甘えて行かせて貰います」
長枝さんがそう言って俺は行く、そして数十分後、不良達が一際群がってる場所を見つけた。
一体何が起こっているというのだろうか?
「すまないが通してくれよ」
俺は気になって不良たちの間に割り込んでいく、すると中心でマスクマン達が倒れていてハチマキをつけた学生が立っていた、きっとアレが一番偉いやつなんだろう。
「悪いが……次の相手させてもらおうかね」
俺はそう言ってハチマキをつけた人の前へ躍り出る、こちらとしてはせっかくのチャンスなんだから強い奴とやりあいたい、それにここまでよその人間にやられて黙ってられるほど甘い気は無いんでな。
「誰だ、お前は?」
「この騒動に巻き込まれたもんだ、そちらがしでかした事なんだからけじめとしてやってもらうぜ」
理由を言って構える、相手もこちらの考えを理解したのか、お互いが同時に拳を出していた。
「オラ!!」
「シッ!!」
クロスカウンターのようにお互いの頬へと拳が叩きこまれる、速度での優勢はここまで近い距離でお互いが同時に放てば拳の速度というよりはリーチの差が明暗を分ける。
「面白ぇ!!」
「同意見だ、あんたもなかなかやるじゃねえか」
相手は口を切ったのか口元を拭って大声で叫ぶ、耳に響くがとても気合のある人だと感心する。
「まだまだ行くぜ!!」
「上等!!」
再び構えて同じタイミングで動き出す、大きく張り上げて気合を全面に押し出すようにお互いが叫んだ。
『おおおおおおお!!』
顔に拳が当たるが俺のも当たる、こちらとしては先に当てているので引くに引けない。
「もう一丁!!!」
「おぉおおおおお!!!」
「オラァ!!!」
「おおおおお!!!!」
クロス・カウンターで両方の顔が弾けと舞踊に動く、すると相手から声が聞こえてきた。
「お前が相手ならばルチャマスターとやらの心意気は悪いが戻させてもらう」
「なっ……今まで片手だった!?」
クロス・カウンターの衝撃に加えて更に逆の拳が顔面にめり込んでいく、顔面に手痛い一撃を喰らい顎が揺れて崩れ落ちる、体がろくに動かずに平衡感覚を失って地面に倒れこんだのだった。
「てめえは強かった、ただ俺の方が根性があった、面白かったぜ」
そう相手が言うと歓声が沸き起こる、しかしその歓声は次の瞬間驚きの声でかき消される事になる、何が有ったのか見てみると不良が群れを作っている所へ綺麗に相川さんが降り立ってきた、良いとこをとられてしまったな。
「アレがエアマスターか……」
「もしかして、目当てだったのか?」
「そうだ、お前との決着が着いていてよかった」
「わかった、じゃあ俺は帰るよ、どうにか足が使えなくても誰かの足につかまれば立てるしな、そういえばあんたの名前聞き忘れていたな、名前はなんて言うんだ?」
「
「楊鉄健だ、よろしくな」
とりあえずいつかは闘えるだろうしな、あまり気にする事ではないだろう、俺は不良達の輪からなんとか抜けて家路へとついた。
次回は鉄健ではなくもう一人のオリキャラが主役の話です。
オリキャラはあの大勢を吹き飛ばした男です。
なにかしら指摘する点がありましたらどうかお願いします。