俺の名前は
俺は小さい時から武術をしていた、始まりのきっかけとしては微々たる物で、家のしきたりが厳しく勉学においても何をするにおいても上でなくてはならない。
俺はそのしきたりから逃げ出すように、それらの行動を成功させる重圧によって積み重なる苛立ちを別のものへと昇華する為に武術を始めた、それはもう来る日も、来る日も…。
雨が降りしきる日も、雪が降り積もる日も、雷が遠くまで音を轟かせる日も、太陽が照りつける灼熱の日も、台風の日も、四歳の時から延々と続けていた。
現在、二十二歳になるまでの間、只ひたすらに『気』を練って放ち、己の周りが『気』で陥没した時に俺は鍛錬の充実を感じた。
しかし逢間の家はそれを許す事はなかった、武力に換算しては余りにも異質なほどの強さ、心に空洞が出来たかのようにその強さを練磨する事に没頭する息子。
このような存在を家に置くのは危険極まりない事であり名家の血に支障をきたしてしまう、そう考えた親は俺を十二の時に逢間の家から追い出した。
それから俺は放浪をしながら自分が鍛錬をしてどの地点へいるのかを知るために他人への組み手に赴いた。
空手を、柔道を、剣道を、テコンドーを、ボクシングを、サンボを、カポエイラを、骨法を、自分が知りえる限りの拳法や武術を己が持つ拳法でねじ伏せてきた。
中にはプロや有名な奴もいたが一撃で結果が出てしまい、戦いが終わるといつも相手が地面に横たわっていた。
今まで培ってきた鍛錬の行動を実戦に使った、すると対戦相手の意識がなくなりそのまま眠るように倒れこむ、対戦した中には希望のホープがいてそれを軒並み倒してしまう為、俺は瞬く間に周りの道場やジムから『問題児』と呼ばれるようになった。
そして生きていくお金を稼ぐ方法として行っていたのはもう一つ、武術だけでは昇華しきれない欲求を発散させる為にしていた『将棋』である、ちなみに時間の比率は武術の方が大きかった。
なぜなら頭のトレーニングによって疲労した頭は、少し休憩する為に次に体を動かせと指令を出す、糖分を取るという効果的な方法をまだその時は知らなかった為、頭の回復の間大きく鍛錬に時間を費やしていたからである。
そしてある所へ行き一局分のお金を出して『真剣』を挑み増やしていく、それを続ける事で俺は日々生きていくお金を稼いでいた、そして俺はそれを生業にすべく十三の時に『奨励会』の門を叩きプロを目指したのである、今は武術の方がメインの話題をしているのだから、結果は別に良いだろう。
そして現在俺は一ヶ月前に倒した不良達が言っていたある言葉を聞き北海道へと向かっていた、もとより方向音痴な俺は警察の人に道を聞いてから確実に北海道へと行く為に空港へと向かっていった。
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「さて、ここが不良達が言っていた男がいる学校か」
随分と大きい所だ、不良達が守っているだろうから警備が厳しそうな気がするが別に構わないだろう。
普通に真正面から侵入すればいい、邪魔をするなら一撃で沈めてやる。
「おい、お前」
「なんだ、礼儀がなってない奴だな」
いきなり顔を近づけて睨みながら喋ってくる不良に嫌悪感を示しながら批判の言葉を言う、目上と分からなくても『お前』は無いだろう。
「お前は一体此処に何の用だ?」
「此処にとても強い人間がいると聞いてな」
「ほう、お前が金次郎さんに挑戦するって言うのか?」
「名前は金次郎って言うのか、だとしたらどうする気なのかな、挑戦する為に東京くんだりしてここまできたんだぞ」
「金次郎さんにお前を会わせてもつまらないだろうからな、俺が…」
「とりあえず一言いうと……ごちゃごちゃ言わずにさっさと通せ」
礼儀がなっていなかった警備の不良は軽い腹への一撃で気絶をした、別にそこまで深刻なダメージが残るように打ってはいないから問題ないだろう。
しかし一難去ってまた一難、侵入してどこにいるかと探し始めたら不良が四人ほど降りてきやがった、速く倒さないと騒動になって多くの援軍が押し寄せるかもな。
「おい、挑戦でもしに来たのか」
「そのつもりだが……何処に居るんだ?」
階段から降りてきた奴らが聞いてくるが、訪問する人間が他人だった場合は普通は挑戦に来るぐらいしか用が無いだろうに、それなのに聞くなんてこいつらはそれ以外にどういう理由で来ると思っているんだ?
「悪いけど、俺たちに勝てなけりゃ金次郎さんには会わせられねぇな!!」
「そこらに居る二束三文の不良が束になったからと言って俺に勝てるとでも思ってんのかよ……あんたら相当おめでたい頭してるんだなあ!!」
偉そうな事を言ってくる不良達に大声で言ってやりながら構えて迎撃する。
「オラッ!!」
「ハッ!!!」
「甘いわ!!!」
雑な蹴りを放ってきたのを見てそのまま腹に一発、それを見て拳を突き出してくるが頭を下げて避けた、そして喉へ肘をめり込ませて更に一人。
「さて……次はお前らだが用意は良いか?」
そのまま終始一撃で昏倒していく不良たち、お前ら幾らなんでも脆すぎるだろうが……。
そして……
「とりあえずは片っ端から行けば良いだろ」
そう言ってドアの前へと立って勢いよく引いてみる。
ガラッ
「何だ、外れか……」
そしてドアを開けて無人だというのが分かったので別の場所を探す、それにしてもここは窓が割れているのがところどころ有ったり本当に学校なのだろうか?
「おいおい、金次郎って人は居ないのか?」
「こら、お前何金ちゃんの事呼び捨てにしてんだ」
そう言われて振り向く、すると後ろに居たのはおおよそではあるが二メートルをはるかに超える男だった。
「上の名前が分からないし、顔を見た事も無い奴にさん付けする必要がないだろう?」
「……お前は処刑だ、金ちゃんを侮辱した罰として……」
「んっ、こいつ……さっきとは少し雰囲気が変わったか?」
「
ゴォッ!!
風を切る音とともにとてつもなく長い腕の一撃が飛んできた、攻撃してきた際の構えはどこかで見た事はあるのだが……とにかく俺はその攻撃をまともに食らう気は無いので一歩後ろに下がる……しかしその後ろに下がった時に間髪いれずに腕よりも長い足が伸びてきた。
「くそっ!!」
俺は悪態をつきガードする、まさかここまでのリーチがあるとは……素直に驚嘆するしかない、懐に入るのも一苦労、そして骨太に見える外見からのタフさ、はっきり言って何かしらの格闘技をやっていれば良い所までは至れるだろう。
「どうだ、俺の足は長いだろ?」
「ああ、全く持ってその通りだ、余りにも長いから驚いたよ」
「そうか、唐突だが一つだけ話をしてやる、俺の夢はな……」
「いきなり始められても困るんだけどな、俺は夢を聞く趣味は無いんでね……」
まぁ、乗り気ではないにしろ懐に入り込むための作戦を練る為にもせっかくのチャンスだから利用させてもらうのも悪くは無い。
「金ちゃんと並び立つ強さになって……」
「ほうほう」
適当な相槌を打ちながら考え抜く、腕や足が伸びきった所を狙っていくか?、コイツの腕と足のリーチは長いがブラジリアンキックなどといった技術的な要素はなく、攻撃は直線的だから十分その方法を考える余地はある。
「金ちゃんの子供を産む事なんだ」
「いっ!?」
衝撃の一言によりせっかく考えていた方法も頭からすっぽりと抜けた、そして少し固まっていた俺に対して容赦なく攻撃を繰り出そうとする、無論まだしゃべりは続いていた。
「俺の敵は金ちゃんに近づく半径十メートル以内の女だ、それを人知れずやってきた。其のおかげで……」
「来るっ!!」
「腕も!!」
大きく振り子のように揺れて襲ってくる長い腕を避ける、しかし最初の時から何かしらの事をやっていると思っていたが、どうやらこいつは長拳使い、そして感情によって大きく力が変わる男だ、全く持って厄介なタイプの人間である。
「足も、こんなに長くなっちまったぁ!!」
足の一撃を再び避けるが作戦が一度飛んだ以上、ここからはアドリブになる。
「劇も筋書きが無い方が楽しめるし問題は無いな、いや……一つだけあるか」
「そしていつか俺は……」
言葉を喋りながら苛烈さを増す連撃、というか夢のお話ってまだ終わってなかったのか。
「金ちゃんとドロドロになるまで愛し合って金ちゃんの子供を産む!!」
「このゲイが……ぶっ潰してやるよ!!」
俺は最後の言葉に呆れてため息を吐く、伸びてきた足を避けて戻すその瞬間を待っていた、そのまま懐へと踏み込む。
「残念だったな……磔の方法はまだある!!」
「いや……遅かったよ、『
足を避けて懐に入っただけでは優位ではないというような事を言われたが、人間が戦う以上は間合いがある、この男とは違い俺はとても短い、ただ一度でも入り技が炸裂すると……その一撃で男は気絶してそのまま崩れ落ちていった。
八極拳の一撃は鍛錬により洗練されていけば最終地点は『二の撃ち要らず』と化す、文字通り二撃目を必要としない一撃必殺の拳へと変わるのだ。
「さて、倒したのはいいが、とりあえず金次郎とやらを探さないと……」
「あれは……」
ハチマキを巻いた男が少しづつ近づいてくる、そして気絶したとても大きな男を見つけると背中に抱えている俺を見ながら一足飛びの速さで俺に近づいてきた。
「長戸!、大丈夫か?」
「き……金ちゃん」
「おいおい、気絶からもう復帰しやがるとは……まぁ良い、こいつの知り合いか、あんた?」
「そうだが……長戸をやったのはお前か」
「そうだ、金ちゃんって事はお前が『クマ殺し』だろう、俺はあんたに挑戦しに来たんだがその過程でコイツと戦う事になったんだ」
「そうか、悪いが待っててくれ、こいつを治療のために運んでくる」
その言葉を聞き俺は金次郎とやらを待つことにした。
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保健室で長戸を下ろした金次郎は事情を聞く。
「長戸、すまなかったな、俺が速く異変に気づいていればよかったんだが」
「金ちゃんは悪くない、あいつに負けないでくれよ、金ちゃん」
「任せろ、とりあえず保健室で休んでおいてくれ」
「わかったよ……金ちゃん、頑張ってきてくれ」
「あぁ、お前の敵は取ってきてやるからな」
そういって金次郎は保健室から出ていった。
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「待たせたな」
「かまわない、一応聞くが……『熊殺し』をしたのはお前か?」
「そうだ、俺の拳による一撃で熊は死んだ」
「なら俺の目的は出来たな、お前を倒す事だ」
「お前の目的は知らんが、お前は俺の仲間達を傷つけた……」
息を大きく吸い込み金次郎は俺に接近する。
「何だ?」
「相手になってやるゼェエエエ!!!!」
「くっ……耳がいてぇじゃねえか」
「悪いが性分でな、さっさと始めようぜ」
「いや……少し待て、お前はまずその下駄とか重いものを外す所から始めろ」
「あぁ、そうか。 済まなかったな」
そう言って鉄下駄とリストバンドを外す……なるほど、俺が言わなければこんなものつけたままやっていたってわけか。
金次郎は腕をだらりと下げ、足は肩幅に広げる、そこから低く腕を大きく振りかぶるように上げて、片足を前に出して今にも飛びかかろうとするような構え、特徴的といえば特徴的だ。
こちらもいつもどおりの構えで対抗する、右手を軽く握り腰に添えて、左手を前に突き出す、左足を前、右足を後ろにしてこれで俺の構えが終わり。
どちらが先に動くかなのだがこちらとしては先を制する、待ち続けるのは好きではないしな。
「いくぞ、『
完全に決まった一撃、勝負はあっけなく終わったかと思えたが……
「面白ぇ!!」
「何!?」
完全に棒立ちのまま受けきっていた、なんて野郎だ、まさか『気合』で俺の一撃を軽減したのか!?、もし仮にそうだとした一体らどれほどの『気合』だろうか。
成る程な、コイツは確かに大将の器だ、こりゃあ遠路はるばる北海道にまで赴いた甲斐があるってもんだ。
「『面白い』のは同意する、だが…次の瞬間には笑みを浮かべたその面を消してやるぜ!!」
「上等だ、来いよ!!」
振りかぶって放つ一撃、俺はそれを硬気功で弾き、再び懐に入って腹にめがけて攻撃をした。
「『猛虎』!!」
「うぐっ、おえっ、おおおおおおおおおお!!」
モロに腹へと技を喰らっているというのに、その威力と『通った』感覚から見て吐きそうになっているというのに、平然と拳を俺に食らわせて立ち向かってくる、『気合』だけじゃない筈だ。
こいつは一体何なんだ!?、何故こうも耐え抜ける!!
「おおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ぐぁっ!!」
八極拳が撃てないまま拳の一撃を食らっただと!?、足が竦んでいるわけでもないのに何故だ!?
「おおおおおおおおおおおおおおお!!」
「おおっ!!!!」
意地で耐え抜いているのは分かっている、こいつのパンチははっきり言って異常だ。
ひたすらに筋肉を鍛えたそれでもなくて俺のように気の鍛錬でもなくただの当てるだけの一点突破、そしてこの男の愚直さが意図せず無意識のうちに俺の八極拳を封じている。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ただ、分析をしたのは良いがこいつは不味い、技をうたないと……うぉおおおお!!」
「ハハハッ、ハハッ」
今のはなんだったのだろうか、自分の中で何か目覚めたのを感じた、窮地を『必死さ』でくいとめる事ができた、しかし先ほどと同じように金次郎はそのまま向かってきた。
この突破方法は一撃必殺を信条とする八極拳士である者には衝撃的だろう、そして俺もその例に漏れず驚きを隠せずにはいられなかった。
タネは
その理不尽なまでの根性と気合に俺は今までの己の『一撃必殺』の戦い方を一時的とはいえ捨てさせられた、これから先このようなタフな人間が出てくるかもしれないと、内心笑みを浮かべたいほど嬉しいがそんな事は今のところはどうでもいい。
絶え間なく連続して打撃を撃ち込む、二撃、三撃、四撃と打ち込み、遂に耐久に限界がきたのか金次郎は気絶した。
「一応勝てた事は勝てたが、本人は負けてるか分からないだろう。 まさか俺が引っ張られるとはな…
「金ちゃん……嘘だろ、金ちゃん!!」
俺は勝ったというのもあって座り込み安堵する、すると保健室に連れていた筈の男が金次郎に駆け寄る。
「ぐっ、長戸……すまん」
そしてその長戸とやらの呼びかけに気絶していた金次郎が起きた、驚きのため息をつく。
「お前ら二人してタフだな……」
「これで俺の敗北は二回目か、残念だ」
起き上がれないのだろう、顔をこちらに向けて悔しそうに呟いていた。
「俺の力が引き出されるとは、まさかこんなにも速く強い奴に出合えるとは思わなかった、有難う」
「金ちゃんが強いのは当然だ、それはそうとお前は何でここに来たんだ?」
長戸の質問へ腕を組んで俺は月並みな理由で答えるのだった。
「強い奴に会いにいく、つまり武者修行みたいなもんだ」
「そうか……お前、どうせなら俺たちの『黒正義誠意連合』に入らないか?」
「別にやることないし良いぜ、宜しくな」
これが後に親友となる北枝金次郎と長戸との出会いであった。
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勝負が終わって数日後のこと、俺たちは喫茶店で話す事になった。
「で、そのエアマスターとか言う奴に負けたと?」
「そうだ、女であそこまで強いのは初めてだった」
「長戸はその時どうしていたんだ?」
「坂本とか言う奴に蹴り飛ばされていた」
「でもすぐに復帰したんじゃないのか?」
「まぁな、俺から見てもこいつはタフだよ」
「金ちゃん、何か頼んでも良いか?」
「あぁ、構わないぜ」
「店員さん、呼ぶぞ」
「あ、頼む」
そういって呼び出しボタンを押す、店員さんに注文をしていくが……
「俺はダージリンで良いや、金ちゃんは?」
長戸に呼び捨ては辞めろといわれたので同じ様に金ちゃんと呼ぶことになった
「俺はあんみつ、長戸は?」
「チョコレートパフェで良いや」
そして注文が通る、それにしても長戸のガタイでチョコパフェって……スプーンが爪楊枝みたいじゃないか。
「まぁ……食ったし帰るか」
「そうだな、金ちゃん」
「予定はねぇしな」
そして普段、黒正義誠意連合が集まる場所へと戻る、すると仲間になった男たちが金次郎へ近寄り大きな声で話し始めた。
「金ちゃんにお知らせだよ!!」
「何だ?」
「エアマスターと戦えるようにしてくれる人がいるんだって!!」
「何!?、本当か!!」
金次郎が驚いた顔で立ち上がる、まさか意図せずにこんな美味しい話が飛び込んでくるとはな。
「長戸を蹴り飛ばした奴については何か話してくれていたか?」
「いいえ、それについては何にも言ってませんでした」
一応強さとしては金次郎を倒したのでそれなりに敬語を使ってくれる。
「場所はどこだ?」
「東京の○○って言う喫茶店です」
「じゃあ行くぞ、長戸も長枝もついて来い」
そして俺達は北海道からその目的地へと向かっていく、その事を端的に話すのならば朝から待っていた金次郎と俺達はその男に出会った。
『深道』という男は金次郎が深道ランキングに欲しいといった、俺についてはそこまで目を走らせていなかったから興味が無いのだろう、もしくは今の所は必要じゃないのかもな。
長戸が深道の『欲しい』という言葉の意味を勘違いして戦いが勃発、深道の奴は長戸の猛攻を
これは俺が深道ランキングに入る少し前の話である。
次回からは深道ランキングが始まります。
なにかしら指摘する点がありましたらどうかお願いします。