Kung-Fu / Box   作:勿忘草

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最初は鉄健視点です、紛らわしくてすいません。


『深道ランキング 前哨戦 逢間長枝VS坂本ジュリエッタ』

あの騒動から二ヵ月半。

 

俺の電話に着信が入る、着信の主は『深道』と出ていた、どうやら前回言っていた『深道ランキング』の準備が出来たようだ。

 

「わざわざすまないな、楊鉄健」

 

「全く……随分と待たされた気分だよ」

 

「悪い悪い、六位と十位がようやく開いたんだ」

 

「それで俺はどちらの席が渡される?」

「十位だ、六位には当てが有ってな、ちゃんと呼んである」

「いつ来る予定なんだ?」

「もう少ししたら来るな、新しい八位と一緒に」

 

新しい八位という言葉に衝撃を受けた、ケアリーさんを倒せる奴が居ると言う事だが一体どのような奴だろうか?

 

「深道センセー、連れてきたわ」

「ああ、有難う、屋敷《やしき》」

 

入ってきたのは細い男性と一ヶ月半前に見た小さな男の人、確か名前は長枝さんだったかな?

 

「わざわざ呼んでくれて有難うよ、長戸の仇でも打たせてくれるのか?」

 

長枝さんが深道さんと向かい合わせに座って睨みつけている、何かしら因縁でも有るのか?

 

「ハハハッ、随分と恨まれたみたいだな」

「おいおい、笑ってごまかせると思うなよ」

 

笑って殺気を受け流しているが……この人胆力凄すぎるだろ、俺でもじわりと汗を握らされたぞ。

 

「あの程度で汗を開かれても困るぞ、屋敷と……鉄健だったかな?」

「えっ、俺はあの時名前を言ってないはずじゃ?」

「深道が教えてくれていたんでな、まあ、あの時会ったやつだと言うのは知らなかったが」

 

もとい長枝さんはテーブルに手を着きながら笑みを浮かべて喋っている、さっきとは違って殺気も無く、緊迫感がなくなっていた。

 

「まあ、順位を与えてもいいかというのを試す試合だけどな、当然負けた場合はリザーブからスタートさ」

 

「対戦相手としては……楊鉄健は屋敷(しゅん)、まあ、目の前にいるコイツだ」

「宜しくお願いします、屋敷さん」

 

そう言って俺は手を差し出して握手を求める。

 

「こちらこそ、宜しく頼むで、兄ちゃん」

 

そう言って手を差し出していた俺の手を快く握る、ふむ……手の皮が厚くないところを見ると拳をメインとした戦い方をしていないと言う事、合気道、柔道、足系の格闘技が候補として挙がる、奇特なタイプじゃなければ万々歳だ。

 

「そして逢間長枝は、坂本(さかもと)ジュリエッタだ」

「ぶっ!!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、屋敷さんがいきなり噴出す、一体どうしたんだ?

 

「深道、あいつはアカン、あいつはアカン……シゲオでええやろ、思い出したら三日前の怖さがぶり返してきたわ」

「悪いがシゲオでは止められはしない、確実に六位の椅子をとるだろう」

 

長枝さんは平然と手を組んで待っている、そして一息ついたかのような顔をして話を始めた。

 

「悪いが誰が相手でもやらせてもらう、その深道が言う坂本ジュリエッタであろうが、屋敷の言うシゲオであろうがな」

「そうか、坂本ジュリエッタの方が強いと聞けばどちらが良い?」

 

その言葉を聞いて満面の笑みを浮かべる、そして深道さんの質問には間髪もいれず答えていた。

 

「無論、坂本ジュリエッタの方を選ばせて貰う」

 

その答えを聞いて深道さんも満足したのか、頷いてノートパソコンのキーボードを叩く、そして……

 

「二人とも参加ということでいいんだな」

 

そう言われて俺は頷く、ここまで聞かされて拒否するのは少しばかり気が引ける。

 

「そうか、そうならば戦いの場所は順次伝える、これで今日の所は解散だ」

 

それから一週間後、鉄健と長枝は深道に教えられた場所へと向かっていた。

 

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場所は変わって喫茶店、深道とその弟である深道(ふかみち)信彦(のぶひこ)がノートパソコンのウィンドウを見てこの勝負を配信しようとしていた。

 

「さて……と、もう良い時間だし始めるか」

 

そう言って深道がパソコンのキーボードを叩く。

 

「今回お届けするのはランキング七位:坂本ジュリエッタVS逢間長枝」

「兄貴、本当にいけるのか?」

「大丈夫だ、そしてもう一つはランキング八位:VS楊鉄健」

「そう言うんなら俺は黙って見とくか……」

「さぁ、始めてくれ」

 

その言葉で戦いの火蓋は落とされた。

 

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戦いの場所は長枝へと移る。

 

「あいつが深道の言っていた奴、そして長戸を蹴り飛ばした奴か……」

 

向こう側にたたずんでいる背の高い男は両手をポケットに入れて何かを口ずさんでいる、どうやら相手もこちら側に気づいたようだ、こちらも即座に構える。

 

「飛べ」

 

そんな言葉がまだ蹴りが届く範囲でもないのに聞こえた、しかしその直後見たのは信じられない光景だった。

 

「何っ!?」

 

気が付いたらとてつもない衝撃を伴い蹴り飛ばされていた、一体どんなカラクリだ!?

一応当たる瞬間に腕で受け止めて、後ろに下がったがそれでも軽く五メートルは飛ばされたぞ。

 

「飛ばないのか……生意気だな、お前」

「間合いは関係ないのか、こいつの蹴りは……厄介だぜ」

 

腕をブラブラさせて驚いていた心を整える、次はさっきより間合いが近いから余計に気を引き締めなくてはいけない。

 

「今度こそ……飛べ」

「こいつの蹴りは受け止めれば良いが、何か嫌な予感がする……」

 

そういって吹き飛ばされても大丈夫なように、クッションになりそうな木を探す為に見渡したら女性がベンチに座っていた、高校生のようだが威圧感がそこいらの奴とは文字通り桁違いだった、金ちゃんから伝えられていた特徴が当てはまっている。

 

「あいつがエアマスターか……因縁の相手が二人揃ってとは、運がいいのか悪いのか?」

 

エアマスターと思わしき女を見る、しかし次の瞬間、俺は嫌な風を感じ振り向く、すると蹴りが飛んできていたのだ。

 

「なっ!?」

 

顔を掠める蹴り、避けたのはいいけれど頬が僅かに切れていた、さっきより明らかに速度が上がったがこりゃあヤバイな。

 

「お前がマキを見るな……マキは、マキは俺のものだ……」

 

そんな声が聞こえてきた、よく見ると涎を垂らしている、もはや俺など眼中に無いのだろう。

 

「見るとかそういうのじゃない、まだまだ勝負は続くぞ、涎を拭いたほうがいいぜ」

「生意気な奴だ、俺の蹴りを受け止めるだけで、並ではないのは分かるが余り図に乗るなよ」

 

まだ始まったばかりだが戦いの熱は早くも最高潮へと達している、かたや異常な蹴りを持つ者、そしてかたやその蹴りを受け止めた者。

画面の向こうの視聴者達もこの戦いの末を見届けようとしていた。

 

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場所は喫茶店へと戻る。

 

「良い始まり方だが…しかしここで最悪の事態が起こり始めたな」

「どういう事だ、兄貴?」

「坂本ジュリエッタにとってこれ以上無いステージが出来上がったという訳だ」

「何だって言うんだよ」

「エアマスターが見ているのさ……ここからが正念場だぞ、どうする?、逢間長枝」

「あいつは後で屋敷から聞いたが『気』を使うファイターだぜ、逢間長枝が同じタイプでもない限り勝つ事は出来ねぇよ、兄貴」

「逢間長枝は同じベクトルのファイターだ、そういった面での不都合は生まれないさ、しかしもし坂本ジュリエッタのからくりが解いて、なおかつそれを破る方法がなければジリ貧だ、どうするかな、逢間長枝」

 

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.

.

 

戦いの舞台は長枝の方へと移っていく、上の空の坂本ジュリエッタは少しずつゆっくりと言葉を発していた。

 

「気をつけるんだな……お前」

「幾らなんでもそれは今涎出して言う台詞じゃあないだろうが」

「あそこにマキが居るのは分かっているよな?」

「エアマスターだろ、分かっているさ」

「残念な事だが俺はマキが見ていたらさっきまでの倍の力が出る」

「倍の力だと、ふざけるんじゃあねぇ」

 

荒唐無稽な事を言ってきたので否定の言葉をはき捨てるように言う、怒りとかのアドレナリンとか脳内麻薬、また気合や叫びによる戦闘能力の向上は目の当たりにしているから理解できるが、さすがに二倍にまで上がるというのは想像できない。

 

「事実だ、マキに良い所見せたいからな……とりあえず今度こそ飛べ」

「じゃあ見せてもらうか、仮に倍になっていたとしたら只でさえヤバイあの蹴りをどう捌くかが鍵だな……どうする」

 

構えて思案する、しかしそんな悠長にあの男が待つわけも無いだろう、ここは少し誘いをかけるか。

 

「おい、倍かどうかは分からんが来いよ……」

「あぁ……飛べ」

 

ブン!!

 

そして再びあのとんでもない蹴りを放つ、しかしこちらとしては手をポケットに入れている時点で、防御面が甘いと感じている、そこへ一撃を入れるためにまずはこれを回避する。

 

回避する方向としての選択肢で当然後ろは駄目だ、受け止めてアレなら掠っていたらそれだけで致命傷になる、左右ももし上げた足を振ってきたらそこまで良い選択とはいえないだろう、それなら一種の博打ではあるが威力が乗り切る前に突っ込む。

 

「うぉおおおお!!」

 

ギリギリを避ける、それだけなのにこんなに熱くなるのはきっと金ちゃんの影響なんだろう。

 

「なっ……」

「喰らいやがれ!!、『猛虎』」

 

腹に一気に打ち込む、しかしこの感覚は金ちゃんとは違いとんでもないものだった。

 

「そんなに動いてないだと……」

「くっ……」

 

二メートルほど後ずさってからよろめいた、こいつは……

 

「成る程、そういう訳か、お前のからくりを見破ったぜ……お前も同じ『気』の使い手だったのか」

 

俺は驚きながらも笑みを浮かべて坂本ジュリエッタのからくりを見破った。

 

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.

 

喫茶店では長枝が坂本ジュリエッタのからくりを見抜いたのを聞いて驚いていた、と言っても驚いていたのは深道信彦だけだが。

 

「兄貴、長枝の奴平然と見破ったぜ……」

「まあ、これ位は一応解いて貰わないとな、正直解明できないとは思ってなかったんでな」

「しかし兄貴としては山場はココからなんだろ?」

「その通りだ、見抜いた所で坂本ジュリエッタの防御を破らない限り勝てはしない」

「そうか、それはそうとして鉄健の方はどうなっている?」

「いい勝負だな、想定内だからそれほど驚く事でもない」

 

.

.

.

 

再び場所は変わって長枝とジュリエッタの戦いへと移る。

 

「そういえばあの変な喋り方をする奴も言ってたな……」

硬気功(こうきこう)を練ってるんじゃなく莫大な量の集気(しゅうき)が練られていて、無意識に体中に行き渡らせている、そして使う時は瞬発的だから同種かある一定以上の強者でもないと見抜けない……十分化け物の域だな」

「説明は良いからもう飛べ……目障りだ」

「避けてやるよ、今からその集気の壁を破る一撃を放つ、そしてお前に勝つ」

「小癪な事を言うな……」

 

大きく息を吸い込み硬気功を練る、一撃当てる為にはあいつの一撃をやり過ごさなくてはならない、さらにあいつの集気の壁を破るにはこちらも莫大な『気』の一撃を放たなくては話にならない、ミスをしてしまえばこちらが蹴り飛ばされて負けるだろう、全くいきなりこんな化け物と当たれるなんて最高ってもんだ!!

 

「……」

「カッ!!」

 

とんでもない速さで放たれた蹴りを再びギリギリで避ける、これで懐に入り込んだ……って何だこの足は?

 

「飛べ……」

「ぐあああっ!!」

 

なっ……体を反転させたのか!?、あのどうしようもないタイミングで!!、こいつはやっぱり化け物だな。

 

蹴りが炸裂する、硬気功を練っていたためそれほど飛びこそはしないが、とてつもない衝撃が体を襲う、痛みのせいで呼吸が途切れて満足に気を集中させる事は出来なかったか……

 

「でも、勝てるならな……この程度の痛みはくれてやるよ!!」

 

俺は呼吸を整えて立ち上がる、地味に初めてのダウンだがこいつにはどうでも良いことだろう、俺はもう一度体の中にある気を使い硬気功を練り防御を固める。

今の所やる事は己が集めた最高の気を、現在の状態で叩き込める最高の技を坂本ジュリエッタの心臓に放つ。

ただ、一種の禁じ手ではある、鍛えてもない場所へ全力で叩き込んだら気によっては気絶で済まずにそのまま心臓へ異常をきたして最悪死ぬ場合があるだろう。

 

「さて……喰らいやがれ!!」

 

ただ、死ぬ場合はあくまで最悪の時であって必ずそうなるわけでもない、そしてこいつを倒すにはそういった方法しか俺には選択肢が無かった、せっかく掴んだこの間合いを無駄にしたくも無いからな。

 

「なっ……お前」

 

零距離で放ったその掌は着弾する、十分に『気』が通った感覚もある、あとは倒れるかどうかだ。

 

「効いたか……効いたかぁ!!」

 

俺は声の限りに叫ぶ、鍛えられない心臓へと一撃を喰らった坂本ジュリエッタを見て、決して倒れそうに無いこの男に向かって、己の一撃は効いたのか問いかけた。

 

「ガッ……」

 

呼吸を吐き出すようにして少し体が揺らぐ、足で踏ん張ろうとしているが滑るように地面を掴めないまま、少しずつ前のめりになっていく、その目は俺を見るのではなく、エアマスターを捕らえてそして離れなかった。

 

そして意識を僅かに手放していくように瞼が閉じていく、するとエアマスターが坂本ジュリエッタの方へと駆け寄ってきた。

 

一言、二言声をかけて去っていこうとする、その後姿を俺は呼び止めた。

 

「おいおい、そのまま帰る気かよ」

「どういう意味だい?」

「此処に居るんだ、どうせなら俺とやってみないかい、エアマスター」

 

俺は構えて戦う意思を見せる、しかしエアマスターはそんな俺の言葉を耳に入れずに去っていった、どうやら眼中にも無いみたいだな、少し鼻で笑っていたみたいだし。

 

とりあえず、勝った事は勝ったんだし……って何だよ、この足を掴む腕は?

 

「おい、お前……」

 

坂本ジュリエッタが気絶から醒めていた、お前はどれだけタフなんだよ。

 

「気絶した以上は負けなんだろうが、とにかく起き上がるから少し手伝え」

 

そう言ってきたから腕を引いて起こす、しかし足がガクガクしてしまっていてまともに立ててはいない、集気を治癒にあてても消せるのは痛みであって足がガクガクしてるのは治せないからな。

そして結局なぜか俺が坂本ジュリエッタをおんぶする流れになってしまった、まあ立てないし、肩を支えようにも高さが違うからこれが最善なんだが。

 

「全く……何で俺がこんな事を」

「ごちゃごちゃと文句を言わずに運んでいけ」

 

「お前な、普通は俺とお前が逆だろうが」

「お前が俺をこんな状態にしたのが悪いんだろう」

 

「それもそうだな」

「お前は俺に勝ったのに嬉しくないのか?」

「嬉しいとか思った事は無い、俺はただ自分がどれ程かを知りたいだけだからな」

「そうか……お前も自分に押せないスイッチが有るのか?」

 

その質問には何故かシンパシーを感じずには居れなかった、俺はできるだけ沢山の理解者や友人を作ったりする為努力していた。

 

しかしそんな上手くいくわけもなくどう頑張ってもどこかにあるスイッチを押してしまうとそいつらは全員ぼろぼろの状態になっていた。

 

その為俺の理解者や友人は……まあ、世渡りをする分には困らない人数なだけましだろう。

 

「黙った所を見るとお前もあるようだな、満足した事がない人間か……おい、お前」

「どうした?」

「酒でも飲みに行くか?」

「やめとく、飲みたいという気がないからな」

「じゃあ、飯はどうだ?」

「そんなの良いって、何でいきなり気を使っているんだよ?」

 

さっきのような棘というか危ない感じが無くなっていたから聞いてみる、すると平然とちゃんとした答えが返ってきた。

 

「同じ人間を見てしまったからだな、辛い事があったのは想像に難くないから余計にな」

「そういうもんかよ」

「悪いが下ろしてくれ、もう十分だ」

 

そう言って俺の背中から下りる、足のガクガクが無いから問題は無いだろう。

 

「お前も俺と同じ様にマキの様な奴を見付けられるといいな……」

 

そう呟いて坂本ジュリエッタは歩いて繁華街の中へと消えて行った。




次回は鉄健戦です。
なにかしら指摘する点がありましたらどうかお願いします。
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