俺は構えて足に力を入れて踏み込む、すると奇妙な動きが時田から見られた。
「はっ!!」
「くっ!!」
ゆらゆらしたモーションから直後に速い攻撃が飛び出す、避ける事はたやすいが出所が掴みづらい、顔に掠りそうだったのを避けて再び踏み込む距離へと動く。
「どうしたんですか?、攻撃もしないで」
「俺が目指すのは常に相手の正面……だ」
「一体それは何のつもりですか?」
正面を目指し一撃を喰らっても前に進む、のらりくらりした動きを止める方法は考えていない、食らわせれば一瞬でも止まる、その一瞬でケリをつければ良い。
「喰らえ、『
「残念ですがその攻撃は通りませんよ」
「くっ!?」
時田はのらりくらりからのギアチェンジで惑わせる。
ただ速いだけの攻撃だと思っていたがどうやら勘違いらしく、先に放ったはずのこちらの技が着弾せずに拳が当たっていた。
「
「聞いた事も無い奇怪な武術だな、全弾カウンターできるというのか?」
名前から推測できた俺は冷静を装うが、内心では初めて見聞きする武術に驚きを隠せなかった。
「来てくださいよ、まだ当たってませんよ」
「カウンター主体だから『待つ』というのか、まだカウンター以外にも攻撃手段があるだろうに」
「そりゃあ有りますよ、でも待つ事でこちらの体力は温存できますからね」
「そうかよ、随分と慎重な奴だな」
当たらなかったのはそれだけお前の武術が素晴らしいって事だ、ただ待つばかりだったら俺はダメージを消すまで休むだけだぞ。
「それに見え見えの攻撃が相手だったら見てからカウンターできますからね」
「随分と舐めてくれやがって……一撃を受けやがれ!!」
そう言って再び強く踏み込む、しかし踏み込みを見ても一撃を出す事はしない、完全に俺の攻撃と同時に合わせる気か、面白い、だったらこの一撃を……
「さあ、喰らいやがれ!!」
「ハッ!!」
こちらが思い切りの一撃をする、しかし足の運びを僅かに違わせる。
それを悟られぬように慎重に繰り出す、時田の腕が動くと同時に逆の腕と踏み込みの足の運び方を次に繋がるように調整する。
「くそっ!!」
「残念でしたね……」
「それは……お前の方だがな、時田ぁ!!」
「くっ、これは!?」
一瞬気を抜いたがそれは間違いだぞ、『初撃こそ肝要』の八極拳だが当たらなければ、繰り出しただけならば、それは初撃に有らず。
まあ、かなりの屁理屈なんだがな。
上手くしのいだようだがそれでも結構きただろう、時田?
「チッ、掠っただけか」
「『
掠っただけという俺の言葉を聞き一気に時田は後退する、その判断は間違ってはいない、なんせこのままいては追撃の危険性があるからだ。
「次は直撃させるぞ、時田」
「どうにか距離をとる事ができた、掠っても腕が少し上がりにくくなったんだ、モロに食らったら……」
時田は最悪の事を考えたのだろうか、ぞっとした顔を浮かべている、まあ、拠り所でも有った武術の攻撃を釣って、その刹那に喰らわされるなんて信じられない事が起これば無理もないだろう。
この男は決して弱くはない、仮にこちらが閃いていなければ一方的にカウンターを取られて痛い目を見ていただろう。
「この距離なら……」
時田は腕をしならせて顔を狙う、しかし待っていたのは予想外の事だった。
「腕をしならせて一体何を企んでいるんだ、時田?」
パンッ!!
そんな事を首を傾げて思案していたら、いきなり時田の拳が顔に当たる……なんだ、これは軽いぞ、接近してきた所を合わせたカウンターに頼る算段で、今の間は威力は度外視して牽制を考えているのか?
「なんだよ、コリャ……」
そういって俺は時田へと向かっていた、その間にも幾度と顔へと拳が当たる、数にして二十発かそれ以上、しかしこんな一撃じゃあ倒れはしない。
ザッ…ザッ……ザッ………
前へと延々と向かっていき辿り着いた時、眼前で俺は怒りの形相のまま言ってやった。
「こんな軽い一撃ばっかりやって、お前は俺をナメてんのか……」
「なっ!?」
「とんだ小細工しやがって、やっとお前を捕まえたぞ」
「くっ!!」
危険を感じ取ったのか、嵐のような散打での撃退を狙って拳を延々と繰り出す、しかし距離が近すぎる為に威力があまり乗らない。
「あいつら……ジョンス・リーやジュリエッタみたいに完全に弾いたり、痛みをシャットアウトして無効化できないが、この距離だったならば嵐のような散打を耐えてやるぜ!!」
「くっ、倒れない!!」
幾度と無く体に当たるが威力が乗らないせいか、少しずつじりじりと俺は時田との距離を縮めていった。
「中心だ、これで三回目だな」
「でも、またカウンターの餌食ですよ……」
「それはどうかな、流石に零距離は無理だろう?」
「なっ!?」
カウンターとは言えど密着した手から放たれる一撃は対処できない、距離をとっても踏み込みで追いつかれてしまう為事実上詰みに等しいのだ。
「あんまりやりたくないんだよな、これ……なんせ場所次第じゃ『死ぬ』かもしれないからよ」
「後ろに……下がっ…」
「遅いぜ、『
「うぐっ!!」
謎の男、時田新之助はこの一撃で目を反転させて白目をむいて意識を手放したのだった。
坂本ジュリエッタでさえこの一撃は対処できなかったからな、しかし今回は心臓ではなく、腹だから命に別条はないだろう。
.
.
.
「……」
「流石に中心に辿り着く為とはいえどアレは無茶だったな、ちょっと腫れちまっている」
俺は少し腫れた顔を撫でて言う、相手の攻撃が距離をとる戦法の為に軽くなっていたがもし威力の高い攻撃を続けられていたら結構ダメージは与えられていただろう。
「………」
「立てないようだし気絶しているのか……仕方ないな」
俺はそう言って時田を背負う形で持ち上げた。
「おんぶとかまたかよと言いたいが、こいつは一体どこに行こうとしていたんだ?」
「…………」
「それにしてもなんか凄い拳法だったな」
初めに見た時はまるで相手を探す為に町を徘徊していたようにも思えるからこその疑問である、そして戦った際の拳法の凄さは正直な感想だ、あんなものはお目にかかったこともない。
「うぅん……」
「起きたか…揺られてたから気絶の時間も雀が鳴く程度のもんだな」
背負って歩いているとあっという間に目を覚ました、まあ、揺られているから無理もないんだろうけどな。
「僕は一体…この状況は?」
「背負われてるだけだ、気にしなくてもいい」
「もしかしてどこかに連れて行く気ですか?」
時田の質問はごもっともだが別にどこかに連行していくつもりはないぜ、あんな場所に寝そべらせるのは良くないから俺なりの気遣いだよ。
「いーや、ベンチに寝かしとけば良いとおもってな」
「そうですか、すみません、邪推してしまって」
ベンチに座らせる為に背中から下ろしてやる、別に邪推された所でなんとも思わないしな、正直俺だっていきなり背負われてしまったら邪推してしまうだろう。
「そんな些細な事は気にしなくてもいいさ、それにしても凄い拳法だったな、アレは」
「『同撃酔拳』はマキさんを……」
「エアマスターへの秘策か……羨ましいね、そんなものを開発するほど戦ってくれる奴がいて」
秘策を編み出したり、見てるだけで倍の力出してくれる奴がいたり引く手
「そんな優しいものじゃありませんよ……」
「とりあえずベンチに着いたしなんかあるみたいだが、話したくは無いようだから別に強引に事情は聞かないぜ」
「すいませんね、気遣っていただいて……わざわざ有難うございました」
少し暗い顔をして否定してくる時田に対して俺は嫌なら言うなと言っておきベンチから立ち上がる、すると感謝の言葉を言ってくる時田、俺はその言葉を背中で受け止め、手を振りながらカプセルホテルへと向かって行くのだった。
次回は鉄健の話です。
なにかしら指摘の点がありましたらお願いします。