Kung-Fu / Box   作:勿忘草

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今回は鉄健の勝負です。


『捕食者と本性』

屋敷さんとの戦いから数日後、時間は長枝と時田との戦いに決着がつく数時間前である。

俺は深道さんから喫茶店に呼ばれていた、理由は今回のランキング戦についてだ。

 

「少し大きくなったか、楊鉄健?」

「ええ、ようやく自分の体を作り上げましたよ、体重の増加も停滞したのできっとこれがベストウェイトです」

「そうか、前回の屋敷の時はまだ出来上がっていなかったのにすまないな、普通ならベストコンディションで挑ませるべきなのにそれを怠っていた」

 

そう言っているが少し笑みを浮かべている、勝負にそういう理由は持ち出したらご法度だし肉体の管理ができていなかったと言われればぐうの音も出ない。

 

「で、今回の相手は何位ですか?」

「深道ランキング三位だ、場所はそちらに選ぶ権利があるがどうする?」

 

深道さんがそう言うがこれはストリートファイトだからな……得意な場所なんてリングぐらいしか思い浮かばないし、ここは……

 

「場所についてはなんとも言えません、仮に希望を言わなかったら何処ですか?」

「言わなかった場合は前回と同じ場所だな」

 

前回と同じ場所って事は公園か、まあ、場所としては問題ないしそれで良いだろう。

夜の七時ぐらいに始まるみたいだが、一体対戦相手はどんな人だろうか?

 

.

.

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夜の六時半に俺は対戦の場所へと来ていた。

シャドーで体を温めるのを目的として、俺は速くに来ていたのだ、それから二十分もした頃……前方から百八十センチほどの人が歩いてきた、風貌はメッシュで髪を固めていて肘と膝にはレガースをしている。

 

「さて……と深道の奴も何でこんな奴を当てたのかね」

「貴方が俺の対戦相手ですか?」

「あぁ……俺がそうだけど?」

 

どうやら間違ってはいないようだがなんだかけだるそうな顔をしているな、まあ、三位が十位とやるのは不本意だろうけど……。

 

「質問に質問って…なんだか話が噛み合いそうに無いですね……」

「話は噛めねーよ、何言ってんだ、お前?」

「はぁ……」

 

なんだか上手く会話が成り立たない、とりあえずは気を取り直してみるか。

 

「とりあえず、俺が三位の小西(こにし)良徳(よしのり)だ」

「俺の名前は楊「いや、言わなくていい」」

 

名乗ってきたのだからこちらも返そうとしたら遮られる、幾らなんでもそいつはないだろうに。

 

「ちゃんと名前ぐらいは把握している、楊鉄健だろ?」

「そうですけど、俺も此処にいる以上は目的が分かってますよね?」

「分かってるさ、やるんだろ、来いよ」

 

そう言うと小西さんは体勢を低くして構える、考えられるのはレスリングだが……どのプレイスタイルなのだろうか、気になるが今は目の前に集中だ。

 

「いきます、小西さん!!」

「おう、せめて少しぐらいは楽しませろよ!!」

 

距離にしてボクシングでもミドルレンジより少し遠いほど、体重が乗って威力は上がるが速度はショートレンジよりは遅くなる間合いで俺は呼吸を整える。

 

「シッ!!」

 

小手調べでもなく最初から気合の入ったジャブを放つ、距離はそれほど近くはないが速度はなかなか乗っている、それなのに俺は出した直後に冷や汗が滲んでいた。

 

「甘いな、その程度なら取れるんだよ!!」

「嘘だろ、クソッタレ!!」

 

嫌な予感は当たり、こちらのジャブが当る前に腕を取る動きが見えたので悪態をついて回避をする、しかし何だろうかこの手をかいくぐっている俺が見えている、一体何が起こっているんだろう。

 

「オラッ!!」

 

今度は少しだけ近づいて速い一撃を放つ、しかしその一撃にも敏感な反応を示して手を伸ばす、再び腕を取る動作が見えて、そして先ほどと同じ様にかいくぐる幻影も見えていた。

 

「今度は貰うぜ、この腕!!」

「そうは問屋がおろさないんだよ!!」

 

ギリギリの所で再び腕を引いてかわす、当てる事がこんなにも難しいだなんて……これが三本の指に入る人の強さだというのか。

そして今ふと思ったがかいくぐっているのはベストな選択をしているという事なのではないだろうか?、試してみる価値はありそうだな。

 

「掴まれないために健気に逃げているがそれじゃあ俺を倒せないのは分かってるはずだ」

「まだだ……まだ『隠し玉』は出しちゃあいけない」

 

俺は指摘されている言葉に同意をしながらも距離を離れる、『隠し玉』をやるにも速い段階だろう、そしてなおかつ俺の攻撃を掴ませてはならない、『隠し玉』の意味がなくなってしまうからな。

 

「更に言うならばお前は不幸な事に完璧に強くなった俺と戦う、少し前だったらこれほどの絶望感はなかっただろうがな」

「グッ……息が詰まるほどのプレッシャーだな」

 

こっちの考えに入り込むように話し始めた完璧だという言葉の口上が終わると同時に押しつぶすのではなく剃刀(かみそり)の様なプレッシャーが皮膚を切るように容赦なく降りかかる、これほどやばいと感じたのは初めてだ、やはりこの人は普通じゃあない。

 

「俺に即バキバキにされずに済む方法でも今から頑張って考えるんだな」

「じゃあ、考えながら行きますかねぇ!!」

 

せいぜいできる限りの虚勢を張る、精神面で負けてずるずるとあちらのペースに引きずりこまれたらお終いだ。

 

「シッ!!」

「それなりに速いがまだまだ甘いぜ、オラ!!」

 

掴まれそうになった腕をすばやく引く、しかしその一瞬の間に手首を締め上げていたのか痛みが走った。

 

「グアッ!!」

「折れなかったが少しだけ捻った、筋が違えて痛いだろ?」

「ううぅ……」

 

うめき声を上げてしまうがどうして腕の痛みが先行する、こちらの思考を奪っていく。

 

「さて、逃げても俺の関節技は確実にお前へダメージを蓄積するぞ」

「折られてはいない、でも……さっき見えたものが本当に最高の俺ならば掴まれるより早く懐に入り込んでいるんだ」

 

距離をとって落ち着く、冷静にさえなればもう少し楽だろう、別に俺の隠し玉は早い出入りではない、最高の俺になるために動いて目に物を見せてやる。

 

「シッ!!」

「遅い遅い!!」

 

蛇のように絡み付いて俺の関節を取ろうとする、それより速く前に行き絡み付くよりも早く懐へと忍び込む、肩の筋を僅かに違えさせられた、距離を詰め寄ったという事は最高の自分へと近づけた結果だ。

 

「グッ……」

「筋を違えればその分遅くなっていく、足がまだ生きているから逃げているがそろそろ限界が近いな」

 

小西さんは冷静な分析をして次の俺の攻撃へと照準を合わせる、俺はもう一度理想へと近づくために次の拳を出す、しかし次の動きは先ほどと違って一気に力を込めて折りにきていた。

 

「さて、終わりだな……バキバキだ!!」

「フンッ!!!」

 

その折りに来た攻撃を俺は力任せに腕を折られる寸前に体ごと捻って逃げる、ただ腕の痛みは一気に体の奥を突き抜ける、息が一瞬止まりそうになったがどうにか呼吸を整えて小西さんを睨みつけた。

 

「随分な力技で逃げたが……その腕でのパンチはもはや蚊が止まる速度にまで落ちた、随分と粘ったみたいだけどな」

「確かにその通りだ、流石にここまで差があるとは思わなかった」

「強い奴は強いからな、仕方ないもんだ」

 

心理を言ってくる小西さん、確かに元々強い奴は強い、弱い奴は弱い、それを覆すのは努力やそれ以上の才能、この人は紛れもなく強い、俺よりも確実に強い、でも……

 

「逆にここまで見せ付けられたら心が躍るものさ!!」

 

俺はそう言って意気揚々とステップを踏む、高揚感と腕の痛みがごっちゃになって俺の鼓動を速める、この感覚……肩と腕の筋肉が限界近くまで捻られているかもしれないな、折られることに比べたらましだろうが。

 

「このまま、このまま……届け、理想の俺へ、腕をかいくぐる俺に追いつけ!!」

「捕らえ……」

「よしっ!!、ようやく届いた、そしてかいくぐれ、俺!!」

「んっ、からぶったか…って事はまさか!?」

 

ようやくかいくぐって懐へと入る事に成功した、ここから延々と顔を腫らしたりして視界を塞ぐパンチは打てない、でも反則技ならば一回でそれを可能に出来る。

 

「俺のキャッチをかいくぐっただと、テメェ……何をした?」

「それは単純にあんたに引っ張られたからさ、そのおかげでくぐれたんだ、喰らえ!!」

 

俺は頭突きをする、狙うのは小西さんの(まぶた)だ、切れるように強く擦るように放つ。

そう、一発で可能にするのはボクシングの接触行為であるパッティングである、当然故意にしたら反則だ、そして今回のは明らかに故意である、これが試合なら警告ものだがストリートファイトだからな。

 

「さあ……これでどうにかあんたを攻略する細い糸は出来たな」

「パッティングをわざとするとか、てめーはボクサーのルール内でやらないのかよ…」

「ハア、『ボクシング』はやってますがこれは『喧嘩』でしょう、だから使ったんですよ」

「そりゃあそうだ、ボクサーだからボクシングのルールでだけって言う輩よりはお前は強いな」

 

そういうと俺は小西さんから離れる、さてまだまだこれから隠し玉を使わないとな、小西さんは利き腕を壊したと思っているみたいだからパンチを出せない場所へとポジションを取る。

 

「塞がっている目の方向ばかりいきやがって……」

「シッ……!!」

「動いたな……その腕は貰いだ!!」

 

筋を違えた腕をピクリと動かす、その様子を凝視して手をとりに行く小西さん、しかしこれは罠なのだ、今こそ俺の隠し玉を炸裂させる時!!

 

「オラァ!!!」

「なっ……」

 

一気に重心を変えて半身を翻し逆の腕で強烈なパンチを放つ、逆の腕でパンチをしたという時点で気づいてもらえると思うが俺の隠し玉は『両利き』である、これなら片方の腕の筋を捻られても片方の大砲がまだ残っている。

 

「くそっ!!」

 

そのストレートは顔面へとクリーンヒットする、その為小西さんはよたよたと後ずさりする事になった、ようやく一発当てる事が出来た……、隠し玉が見事にはまったおかげだな。

 

「てめえ、それは珍しすぎるだろ……出し惜しみしなければ腕が両方無事だったろうに勿体無いぜ」

 

確かに両利きのボクサーはとても珍しい存在だ、元々両利きだったのだが屋敷さんの時にはまだ解禁しなかった、上位の人に動画で見られて対策を練られたら洒落にならないからな。

 

「出し惜しみせずに使っていたら今の一撃は産まれません、これで十分です」

 

そう言って構えなおす、目と顔をせわしなく動かす所を見ると掴もうとしているのが分かる、この人だったら長引けば片目でも掴みそうだな……初見じゃなければそこまで劇的な意味は持たないって事か。

 

「こっちか!?」

「シッ!!」

「逆かよ!?、威力は低いから別にいいけど地味にきついぜ……」

 

筋を違えたほうは威力は低く、更に遅いせいで普通に遣っただけなら何の意味も持たないだろう、しかし今の小西さんの状況かつスイッチならば中々の有効打へと化ける。

 

「地味だとか掠らせておいてよく言う……」

 

僅かに人差し指が掠ったのだ、学習能力と体の身のこなしで打開してくるとは、流石にそう簡単には勝たせてくれないか。

 

「ハッ!!」

「フェイントでもう一発こっちか、甘いぜ!!」

「そっちがですよ!!」

「なっ!?」

「シッ!!」

 

続けて筋を違えた腕を使う事をにおわせておいて俺は側頭部を蹴りぬく、これは『喧嘩』だからルールなんてあってないようなもんだからね、深道さんも言っていたし。

 

「今度は蹴りまで出すか、何処までボクシングを逸脱する気なんだよ……」

「無論、勝てるまでです、でそっちの目は貰います」

 

驚いている小西さんを横目に俺は平然と答える、蹴りだろうがなんだろうがわざとパッティングした時点でラフファイトをする覚悟は出来ていた、そして遂にパッティングの矛先は逆の目へと向いていた……。

 

「うぅ……見えねぇ」

 

目が血によって塞がっていく、そこで俺は更にアッパーをし、その返しのストレートで瞼を打つ、限界ギリギリまで視界を奪ってやる。

 

「ガハッ!!」

「シッ!!」

「ガッ、今度はラビットパンチか……」

 

不意打ちの後頭部への一撃で更によろめく小西さん、頭がその衝撃で下がるタイミングに合わせて膝を叩き込む、顎が跳ね上がってダウンを取った。

流石に精神的にも肉体的にも少しずつ追い詰められていったのか、冷や汗を僅かにかいているのが見えた。

 

「背中をがら空きにして良い訳ないでしょう?」

 

俺はそう言って肘を思いっきり突き刺すように打ちつける、小西さんが苦悶の顔を浮かべるがすかさずパッティングをして顔に一撃を加える。

 

「テメェ……」

 

怒りをあらわにした顔で俺を探している、目が見えていないくせに的確に俺を狙って手を伸ばす、

避けて一撃を入れていくが気が気ではない、いつ掴まれるのかを考えると鳥肌が止まらない、しかしここで追撃を止めるわけにも行かない、俺は腹にアッパーをぶち込んだ。

 

「もう一発!!」

「オエッ……」

 

少し体をくの字に曲げながら距離をとって呼吸を整える小西さん、そして苛立ちを集約したような低い声を出して俺に喋り始めた。

 

「目が塞がっただけでこの俺が苦戦するとはな……お前には特別にバキバキ免除してやる、そしてこれを使う」

「えっ?」

「オラァ!!」

「わぷっ!?、これは服……一体何処に居るんだ!!」

 

服を脱ぎ、それを投げつける事で視界が奪われた、一体何処にいったんだろうか、腕や足が動き、地面が背中に着いてない所を考えると壊されてもいないしマウントポジションではない。

 

「さて……もうこうなったら俺の勝ちだ、距離感もクソもねえ」

「くっ……後ろか!!」

 

服による目晦ましで一瞬の間に後ろを取られていた、勝利宣言の理由は分かっている、スリーパーホールドのポジションに小西さんがいた。

 

「オラッ!!!、落ちやがれ!!!」

「ギギギ……」

 

そう言ってギリギリと締め付けてくる腕を外す為に腕を持って力を込める、しかし小西さんはそれを交わすように体を動かし少しづつ力を強くしていき頚動脈を的確に抑え始めた。

 

「ウガァアアアアアアア!!!!」

「無理無理……外せるわけねーよ」

 

足をバタバタとさせて腕をかきむしるようにもがき、頭も動かしてどうにか逃れようとするが全然拘束は緩まなかった、やばい……落ちる……視界が暗転し始める、外せね…え…

 

「……」

「さて、絞めおとして勝負が決まった以上はバキバキには出来ねえな……」

 

俺は目を覚ました時……首に絞められた跡と筋を違えた痛みだけが残っていた、それを見下ろすようにしていたのは深道さんだった。

 

「やっぱり負けたか……」

「どういう意味ですか、それ?」

 

深道さんの言葉に苛立ちを感じた、『やっぱり』というのは負ける事が分かっていてこの勝負を組んだということではないか。

 

「正直な所、今回の勝負は予想外が起こればいい程度だったんでな、起こったから万々歳だ」

「そうですか……」

「ハハハッ、そうむくれるなよ、リザーバーになったとは言えど今一番十位に近いリザーバーなんだから」

 

そう言われた所で嬉しくはない、リザーバーになったら戦う相手に不自由しそうだからな、今回の収穫はある程度の高みに引張り上げられてレベルが上がったってことぐらいだろう。

 

「まあ、小西に壊されなかっただけでも良かったじゃないか、次勝負したら今回ほどの成果は出ないだろうけどな」

「そんな事分かってますよ、学習能力が半端じゃあない、だから今回はかなりの引き出しを使ったんです」

 

あの人はクレバーな人だというのは十分分かった事だし、今回でやった事はもう覚えられただろうから次は上手く立ち回らないといけないのが厄介だ、思いつく限りではキドニーブローが残っているぐらいだな、ただ腎臓は最悪人生に支障を及ぼすから使いたくは無いや。

 

「じゃあな、次に挑戦したければ電話で頼む」

 

そう言って深道さんは帰っていった、起き上がるが腕の痛みがはしって上手く起き上がるのに苦労する、戦うのに電話するぐらいならば何かしらの方法があるはずだろう、『ランカーを狩る』とかな。

そうと決めたら俺は標的を探す、上位でそれなりに強い奴……よし、元七位『深道(ふかみち)信彦(のぶひこ)』だ、彼を狩ろう。

俺は強いものを受動的にではなく能動的に探す為、痛い腕を押さえながら繁華街へと向かっていった。




作者はこの戦いはどうにか上手くかけたらなーと思いながら書きました。
指摘する点がありましたらお願いします。
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