ウマ娘に転生したようです。-前世の記憶は役に立たないけど、私が可愛いので大丈夫です。-   作:のののち

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とあるウマ娘の話

「よし、今日も最高。」

 

鏡の前で指で口角を持ち上げて笑顔を作る。

数年前に前世のものらしき記憶を思い出してからの日課だ。

 

転生というやつなのだろうか、前世では人間の男性だった。記憶の中では割りと一般的な生活をしていたと思う。

 

まぁ、重要なのはそこじゃない。

 

記憶を思い出した影響か、今世の『私』と前世の『俺』の自我が混ざってしまったのだ。

 

最初は本当に酷かった。名前を呼ばれてもそれを自分だと認識できない。知ってる人も知ってる出来事も混ざってしまってどちらでのことか区別がつかない。

 

それらを解決するための一歩として始めたのがこの日課だ。

 

最初は鏡の前でひたすら今世の名前を唱え続けた。それはもう自分の名前と容姿に違和感がなくなるまで時間がある限り。

 

そうして漸く違和感がなくなった頃には、『私』と『俺』の記憶は溶け合ったか、折り合いがついたか、混乱することもほぼなくなっていた。

たまーにデジャヴったり、人としての意識が混ざった影響かちょーっと全力で走れないくらいだ。

 

と、まぁ、日常生活に問題はなくなってからも、一応続けていた日課。

それを行なっていたある日にふと思ったのだ。

 

あれ、私めっちゃ可愛くね?

 

と。

 

今も前世もどちらの記憶を探しても私以上に可愛い女性など数えるほどもいなかった。

 

生きるために必要だった日課によって芽生えてしまったのは、果てしないまでの自己愛だった。

 

 

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日課である今日も私が最高に可愛いことの確認を終えた私は学校へ行き、だらだらと授業を受けつつ放課後まで過ごした。

 

「ネオっちー!今日もかわウィーねー!一緒にカラオケ、どうだい?」

 

「えー、今日も?昨日散々歌ったじゃーん。まだ地味に喉痛いんだけどー。」

 

「頼むよー、可愛いネオっちがおればそれだけでウチは嬉しい!」

 

「ふ、ふーん?」

 

「可愛いネオっちと遊ぶことがウチの明日への活力なんや!お願い!」

 

「ふふんっ。そこまで言うならしょーがないですね。可愛い私は寛大にして寛容、ご一緒して差し上げますわ!はっはっはっ!」

 

「やったー!!」

 

正直、私は私の容姿を褒められるのが大好きだ。

 

なので、こんなやりとりが毎日行われていて、友達も適当に言ってるだけでも可愛いと言われればそれだけで大満足。尻尾も無意識のうちに振ってしまう。

 

友達もそれが分かっているのか、毎日茶番をやってくれる。

遊びに誘うたびにこんなことするのも面倒だろうに遊びに行ける日はわざわざ誘ってくれる、本当に優しい。大好きだ……!

 

たぶん、私のことを知っている人はみんな「ネオは可愛いと褒めれば何でもやってくれるちょろい奴」と思っている。何でもはやらないけど大体合ってる。悔しかないけど。

 

 

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そうこうしていつものカラオケ店に向かっている途中の大通り。

 

大型ヴィジョンにトゥインクル・シリーズのCMが流れている。

 

私が競争バの道へ進んでいたとしたら、同世代になるだろうウマ娘たちのクラシックレース開幕の告知だった。

 

思わず立ち止まってしまう。

 

私が進めなかった、進まなかった道。

もし進んでいたら……。

 

「ネオちゃん……?」

 

一番付き合いの長い友達、澪が心配そうにこちらを見ていた。

ああ、いけない。たらればなんて言っててもしょうがないんだ。

 

「ネオっちもさー、ウマ娘やけど、なんで競争バならんかったん?」

 

今年になってから一緒に過ごすことの多くなったいつも声をかけてくれる子、菖が聞いてくる。

けっこう踏み込んで来るなぁ……。

なんだか澪の視線に含まれる心配度が増した気がする。

大丈夫だ、こういう質問も慣れたから。

 

「ふっふっふっ……、それはね……。」

 

「うん?」

 

「私が私の可愛さに気付いてしまったからだよ!!つまり、世界最高に可愛い私は走りよりも可愛さを追求することにしたのさ!!」

 

芝居掛かったように、わざと大袈裟に本音と嘘を混ぜて言う。

 

「あー、なるほどなぁ。」

 

「ほへ?」「え?」

 

まさか、ツッコミもなしに納得されるとは思わなかった。

 

「もし、『今まで見た中で一番可愛いのは?』って聞かれたら迷わずネオっちの名前出すくらいネオっちは可愛いし、そない可愛かったらそーゆー道もあるよなぁ、思って。」

 

「そ、そう?えへへ……。」

 

なんか普段周りから茶化すような褒め方が多いせいか、こういうストレートな褒めは照れてしまう。

普段の褒められた時の反応との違いに澪は胡乱げな、菖から不思議そうな視線が送られる。

 

「おーい!空室ないらしいから別んとこ行くよー!」

 

話に夢中で他のみんなと離れてしまっていたらしい。声をかけられて私たちは急いで合流した。

 

 

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今日に限ってなぜあんなにも混んでいたのか、あれから2店ほど経由してついに入店できた私たちは、その鬱憤を晴らすように一心不乱に歌い続けた。

結果、昨日で懲りたと思っていたのにも関わらず、帰る頃にはしっかり喉が痛くなっていた。

 

家に帰った私はすぐにトレーニングウェアに着替えまた家を出る。

 

ウマ娘としての本能か、ただ日常を過ごすだけでは物足りなく感じてしまうため、2時間ほどトレーニングすることも習慣となっていた。

 

意味もないのに、競争バだったらと考えた効率的なメニューを作り、こなしていく。

 

今日のメニューを全て消化し、程良く感じる疲れを噛み締めながら、なんとなく河原に寝転んでみる。

 

(クラシックかぁ……。競争バになれても出れてたのかな。結局、本格化らしき変化も感じなかったし、才能がなかったんだろうなぁ。)

 

今日、街中で見たCMを思い出す。

同世代の少女たちが集って真剣勝負を行うクラシックレース。

それを見ているだけというのは想像していた以上に悔しかった。

悔しいと感じる『私』がいた。

 

「あーあ、」

 

ーーーーーー私もそっちに行きたかったな。

 

そう言いかけたところに、

 

「お疲れさん。」

 

と声をかけられる。

 

突然のことで驚いた私はあからさまに警戒の姿勢をとって声のした方へと振り返る。

 

そこには菖がいた。

制服姿のままで、しゃがみ込んだ状態でこちらにスポーツドリンクを差し出している。

私が、

 

(見え……見え……、……見えたッ!!てか、自意識は女だけど、男には興味ないし、こういうのは普通に嬉しいな。)

 

なんてバカげたことをしていると

 

「もー、驚かせたんは謝るから、そなに警戒せんといてやー。ほれー、これあげるから。」

 

と困ったように笑いながら、菖は私の隣に腰を下ろし、持っていたスポドリを渡して来る。

 

受け取った私はどうしようかと迷ったが、菖に「はよ飲み、ほれほれ〜」と急かされたので、とりあえず一口だけ飲んでおく。

 

それを見た菖は、何故か満足そうにしている。

 

「それで、なんでここに?」

 

あちらから話し出すかとも思ったが、喋り出す気配が感じられなかったので、もう私から聞くことにした。

 

「いやなぁ、ウチ年明けてからここに越してきたんやけどさぁ。ダイエットがてら、たまにここらで走るんよ。そしたら、エラい辛そうなトレーニングしとるウマ娘がおるやんか。」

 

そう言えば菖は編入してきたのだったか、馴染み過ぎてて忘れていた。そして、そのウマ娘は私のことなんだろう。

 

「頑張っとるし、応援したりたいなぁ思って。そんで探しても出とるレースもどこの所属かも見つからんし、困っとったんよ。そしたら、おるやないか、同じ学校に。」

 

まぁ、ほとんどのウマ娘は地方か中央かの違いはあれども、まずトレセン学園に入学するだろう。

私はどちらにも入学しなかったが。

 

「もうあん時はビックリしたわ〜。トレセンにおらん子やと諦めたところに、まさか同じ学校とは思わんやんか。しかも、同じ学年。これはもう絶対仲良うなるしかないと思ったわ。そんでまぁ、ウチとしては仲良うなれたと思うねんけどな。その……。」

 

菖は少し言い辛そうにしている。

何か言った方が良いのか、言わない方が良いのか、分からない。結果的には迷っている間に菖は再度話し始める。

 

「今日な、カラオケに行く途中にクラシックレースのCMやってたやろ?あれ見とるネオっち見てウチ、つい『競争バならんかったん?』なんてポロっと聞いてもうて。帰ってから思い返して、なんて酷い質問してしもうたんや!って思ってな。いつもここでトレーニングしてるんは知ってたから、謝りたい思って来たんや。」

 

「つまり、このスポドリは。」

 

「許してもうらための賄賂や!」

 

事情を説明している時は少し気恥ずかしそうにしていたのに、堂々と胸を張る菖。事情説明で恥ずかしがるよりも賄賂で許して貰おうとする心意気を恥じろ!と心の中で突っ込む。

 

「せやから、ごめんな。あない答え難い質問いきなりしてもうて。」

 

「いいよ。不思議に思ってもしょうがないだろうし、あの答えも半分以上は本音だからさ。むしろ、気を遣わせちゃったみたいでこっちこそごめんね?」

 

気にするな、とは言えないけど、気を遣われ過ぎると申し訳なくなるのは日本人的思考なのだろうか。逆に謝ってしまう。

 

「いや、悪いんはウチやから謝らんといて。生きてりゃ誰しも聞かれたくないことの一つや二つ、いや三つ四つはあるもんやからな!」

 

「あははっ、えー、そんなあるかなぁ。」

 

戯けて言う菖に私は笑ってしまう。

そういえば、事情を話していた時に嬉しいことを言ってくれていたのを思い出す。

せっかく明かしてくれた本音なのだ、今の二人きりのうちにこちらも返しておきたいと思った。

 

私は手招きして菖にもう少し近寄るように促す。

菖は不思議そうにしながらも、それに従って近寄ってくれる。

 

まだ近寄るのかと菖がこちらを伺っても止めなかったので、最終的にはほぼ密着と言えるほどに近付いていた。

 

菖は照れているのか少し顔が赤い。

なんだか今にも逃げ出しそうな様子に見えたので、私は菖を持ち上げて自分の脚の間に収め、そのまま後ろから抱き締めることで固定する。

トレーニングの成果か、菖が軽いのか苦もなく捕まえられた。

 

菖からヒョエッと悲鳴が聞こえた気がしなくもないが、そのまま喋り出す。

 

「私、菖が仲良くなりたい、仲良くなれてるって思ってくれてたって知れて嬉しかったよ。まだそんなに時間は経ってないけど、馴染み過ぎってくらい仲良くなれたし、菖もそう思ってくれてたのが本当に嬉しい。いつも私を誘う時に可愛いって言ってくれるのも嬉しい。褒め方も地味にパターン変えてくれてて嬉しい。今日ことくらいで嫌いになんてならないよ。私、菖のこと大好きだから。」

 

うーん、結構恥ずかしいなこれ。

一度話し始めると言わなくても良いかなと思ってたことまで、口に出てしまった。

 

あれ、菖から全然反応ないな……。

 

と菖の様子を伺うと口から「ふへ……ふへへ……」と漏らしながら、意識を飛ばした菖の姿がそこにあった。

 

「ちょっ……、菖!?菖ー!?!?」

 

どこまで聞いてたのか気になるところではあるが、それ以上に友達の気絶という初の事態への困惑で非常に焦ってしまう。

 

とりあえず、119番に電話をして経緯を説明すると、電話口の女性は

 

『スーーーーーッ、てぇてぇはここにあったのか…………。あっ、と、そうですね。もう10分ほど様子を見ていただいて、それでも意識が戻らないようであればまたご連絡お願いできますか?頭を高めにすると良いので、膝枕をしてあげるのが良いと思います。頭の位置上げるためにも、ね。では、失礼致します。』

 

と言っていた。電話が切れる頃には気持ちも落ち着いていたので、言われた通りに菖の頭を膝に乗せ、膝枕をしてあげる。

 

なんだかむず痒いが、私の行動が原因でもあるので、我慢する。

しばらくそうしていると数分とはいえ、手持ち無沙汰になってしまう。

 

とはいえ、ウマホをいじる気にもなれなかったので、なんとなく菖の頭を撫でることにした。

 

耳が横にあるからか、ウマ娘よりも撫でやすい。菖が特別なのか、撫で心地も良い。

 

どうせなら起きるまで続けようと思って、そのまま撫で続けていると、次第に菖が目は瞑っているが、顔を赤くしてむず痒そうな顔をしている。

 

(もしかして起きてる?)

 

そう思った私は、なぜか起きようとしない菖にイタズラしたい気持ちが湧いてくる。

 

私は菖へと顔を近づけると囁くように呼びかける。

 

すると、菖はピィッと鳴きながら目を見開いた。

 

その反応が可笑しくて、私は笑いながら「起きた?」と問い掛ける。

 

しかし、菖は答えることなく起き上がろうとする。もちろん、私はまだ顔を近づけたままだ。

 

勢い良く起き上がろうとする菖、咄嗟に避けようとするも虚しく、『ゴッ!!』という鈍い音が辺りに響く。

 

距離が近かったことで勢いがつく前だったとはいえ、おでこ同士の衝突は十分痛い。

二人とも痛みにおでこを抑えている。

 

何が面白いかは分からないけど、互いに痛がってる姿が笑えてしまうのか、二人して笑い出す。

 

一頻り笑った後、そろそろ帰ろうかと立ち上がり、気絶したり、でこを打ったりと散々な菖が倒れるといけないので、支えてあげようと思い、手を差し出す。

 

菖は予想してなかったからか、少し恥ずかしそうにしながらも、意図が分かったからか手を取ってくれる。

 

いや、立ってすぐ離そうとしたから分かってなかったかもしれない。

 

手を離そうとする菖を抑えて、手を繋いだまま菖の家まで帰る。

 

菖は終始恥ずかしそうにしていたが、家に着く前くらいには慣れてくれたのか、普段通りに話してくれるようになっていた。

 

そうして、家に着き、菖の母親へと菖が気絶してしまったこと、すぐに意識は戻ったがその後に頭を打ってしまったことを説明し、一応明日病院に行った方が良いかもしれないことを伝えておく。

 

菖の母親は、あらあら〜、といったような顔をしながら話を聞いていて、菖はその視線を受けてばつが悪そうにしていた。

 

最後には、いくらかお菓子を持たされて「今度は遊びに来てなー?」と菖の母親は家の中に入っていった。

 

なんというか、食えない雰囲気の人だったな……。と思っていると、

 

「ほんなら、また明日な?」

 

菖が寂しそうな顔をして言う。

 

なんだか、今日最後に見る顔がそんな顔だと思うと心がざわつく感じがした。

 

「うん、また明日、学校でね。あと、さ。さっき、菖のお母さんに言われたからじゃないけど、次は菖の家に遊びに来てもいいかな?」

 

そう聞くと、菖の顔はパァっと明るくなり、無邪気な笑顔を見せてくれる。

 

「うん、うん!ウチも来て欲しい!いつ、いつにする?」

 

「そうだなぁ、他のスケジュールを確認したいし、帰ったら連絡するよ。」

 

「わかった!待ってる!」

 

凄く嬉しそうにはしゃぐ菖を見ていると、抱き締めたくなってくる。

 

大丈夫かな、やめとく?

 

と少し考えたが、なんだか我慢したくない気持ちが強かったので、問答無用で抱き締めることにした。

 

唐突に抱き締められた菖は、また変な鳴き声を出したものの、なんとか意識を保とうとしている気配を感じる。

 

そうして少しの間、菖の感触やら匂いやらを堪能したのち、菖を解放する。

 

「じゃあ、帰ったら連絡するからね。ないと思うけど、寝ちゃったら嫌だよ?バイバーイ!」

 

と解放した勢いのまま、別れを告げる。

 

菖はと言うと、照れたような嬉しいような顔をして必死に頷きながら手を振ってくる。

「バイバーイ」とも言ってくれるが、声が裏返っていた。

 

互いの姿が見えなくなるまで、後ろを振り返りながら手を振り合う。

振り返ると常に菖は手を振っていたので、もしかしたら、私が前を向いている間もずっと手を振っていたのかもしれない。

 

そう考えると、非常に菖のことが可愛らしく思えた。いや、河原で会って話し始めてからずっと菖は可愛かった。

 

自分以外の人を可愛いと思うなんて珍しいこともあるものだと思ったが。

 

もしかしたら、自分と違う種類の可愛い人は多くいて、それを私が知らないだけなのでは?と考える。

 

そうだとすると、可愛さを追求すると言っておいて、なんたる怠慢だろうか。

自分が頂点だからと胡座をかいているようではまだまだだ、と気を改める。

 

差し当たっては、今一番身近で新しい可愛い人である菖をもっと観察しよう。きっと、まだまだ可愛い姿を見せてくれることだろう。

 

そうやって、今日のことを思い返していると、また街中で見たクラシックレースのCMを思い出す。

確かに、悔しい思いを持つ『私』はいる。

 

でも、そう思う以上に今こうしていて良かったと思う私も確かにいるのだ。

何故かは上手く説明できないが、そう思えるようになった。

 

そして、競争バにならない選択肢を選んだことを必要以上に後悔する私はもういなかった。

 

そんなことよりも、菖の家にはいつ遊びに行けるか、できるだけ早い方が良いなぁ、なんて考えながら、家路につくのだった。

 




お読みいただきありがとうございました。
どうか先に始めた連載の方もよろしくお願いします。
というか、先に始めた方も碌に書き進められてないのに何故新しいのを書いてしまったのかコレガワカラナイ
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