蜘蛛糸の果て   作:青牛

1 / 4
蜘蛛の子散らされ

 どこか不穏な空気を感じさせる曇り空の下、あるスタジアムで行われていたサッカー大会に参加した小学生たちが駆け回り、競い合っていた。

 しかしながら、その勝敗はもう決まってしまったようなものだった。

 

「愛媛少年サッカー大会決勝戦! 残り時間も僅かとなりましたが、試合は誰もが予想し得なかった一方的な展開となっております!」

 

 実況の声がスタジアムに響く。

 3ー0という試合のスコアは彼の言葉のように、ここまで演じられていた戦いの趨勢を如実に物語っていた。

 もはや残り少ない試合時間に焦りながら、ボールを持った少年たちがこの試合中何度目かになる攻撃に出た。

 

「絶対に一点取るぞ!」

 

 そう叫んだのはエースストライカーを務める9番のFW。

 大会屈指の得点力で仲間たちをこの決勝戦まで導いてきた立役者の一人。

 既に結果は決まってしまったようなものだが、だからといって勝負を諦めるわけにはいかないと彼は叫んだ。

 

「必ずあいつにボールを届けろ! あいつなら絶対決める!」

 

 彼への信頼を示しながらチームメイトに声をかけるのはキャプテンを務める10番のMF。

 的確なサポートでエースストライカーや他のチームメイトたちに地力以上の力を引き出させてきた司令塔だった。

 

「ああ、任せろ!」

 

 その声に応えたのは、キャプテンと並ぶもう一人のMFの8番。

 チーム内でも特にサッカーに熱心な選手の一人で、卓越した技術ももちろんだが、如何なる状況でも冷静沈着な立ち振舞いから精神的主柱として仲間たちに頼りにされている。

 

「どっけぇ!」

 

「チッ」

 

 彼は高い総合力を遺憾なく発揮して、相手の攻撃の司令塔だった女子のMFを抜き去って、FWにボールを託した。

 9番は雄叫びを上げながら、相手のゴールを目指し全速力でピッチを駆け抜ける。

 

「うおぉぉぉ!! すいせい――」

 

「決めろぉ!」

 

「――シュートォ!!」

 

 9番は浮き上がらせたボールを思い切り蹴り、放った。

 ボールは、チームの希望を象徴するように、まさに彗星のような輝く尾を引きながらゴールへ向かって飛んでいく。

 そしてゴール前に控えるキーパーは、シュートを前にしてびくびくとしていて、お世辞にもそれを防ぐ力を持っているようには見えなかった。

 

(行ける……!)

 

 チームの誰もが、負けながらも一矢報いることはできたと信じて疑わなかった。

 

 

 

 

 

 

「はい、おわり」

 

 ボールが、蜘蛛の巣状の網に絡め取られる瞬間までは。

 粘着室な糸で編まれた網はボールを包んだまま何度か振り回された後、地面に叩きつけられて消えていった。

 後に残ったのは、とっくに勢いなど殺されて地面にめり込んだボールの姿。

 

「……そんな……」

 

 誰かが呻き声を上げた。

 その所業を成し遂げた少年DFを相手に、彼らはこの試合中、パスカットをされ、シュートを止められ、何度ボールを奪われてきたかわからない。

 審判が笛を吹き鳴らし、決着を告げた。

 

『試合終了ーー! 誰がこんな展開を予想したでしょうか! これまで得点王は確実と言われたストライカーが完璧に封じられ、無得点で試合を終えることになるなど!』

 

 実況の声と共に会場の人々が視線と声援を向けたのは、この試合の勝利の立役者となった一人の少年。

 紫色を基調とし、黄緑色の混じる短髪を風で微かに揺らしてフィールドに佇む彼は、会場の興味が自分から離れた頃合いを見計らい、へたり込んで呆然としていたストライカーに手を差し伸べた。

 

「立てる?」

 

「お、おう……」

 

 サッカーをして、常日頃日を浴びながら外を駆け回っているとは思えない白い肌。

 光の反射からか、蜘蛛の巣をイメージさせる模様がうっすらと見えるアメジスト色の瞳。

 ともすれば美少女かと思うような整った顔に見つめられ、9番は人知れず、悔しさも忘れてどぎまぎとしてしまう。

 当の羽取は、それに気づいていないようでなんでもないようにそのまま引っ張り起こしたが。

 

「いい勝負だったねぇ! 君のオフェンス、いつ抜かれちゃうのかって試合中気が気じゃなかったよ」

 

「ああ……ああ……」

 

 (まばゆ)い笑顔でそう語りかけられ、すっかり真っ赤になってしまった9番には受け答えなどとてもできなかった。

 その後も二言三言話しかけられたが、しどろもどろでまともな会話にならない。

 

「いつまでくっちゃべってんの。さっさと帰るわよ」

 

「あ~~~」

 

 やがてやって来たチームメイトの少女に少年が引き摺られて連れ戻されたのが、彼らの別れとなった。

 嵐というには柔らかな春風のような少年に、負けへの悔しさや、少々理不尽だが子どもらしい怒りはどこかへさっぱりと吹き飛ばされてしまった。

 負けたというのに、どこか清々しい気分を感じながら、9番の少年は帰路に着くことになる。

 

 

 

 一方、引き摺られながらチームメイトの元に連れ戻されている少年は、口を尖らせてぼそりと一言呟いた。

 

 

 

「ちょっとは悔しそうにしろよ、つまんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝負というのは、勝者に何か得るものがあって初めて成立するものだと思う。

 勝利に成果があるからこそ、人は戦いを望む。

 

 分かりやすいもので言えば金。何らかの財産。名誉。

 恋愛の絡むお話なら、愛する人の身が賭けられたりもするかもしれない。

 あるいは、強者と競い合い打ち勝つことによる達成感・満足感を求める、勝負そのものが目的の者も居るだろう。

 

 これらは究極的には人それぞれだ。

 ボクの場合は、強いていうならば三つ目に近いだろう。

 とはいえ、それは強い奴と切磋琢磨したいとかそんな高尚な信条ではないし、むしろ低俗な部類に入るのだけども。

 

 なにせ、ボクは他人の屈辱に染まった顔を眺めるのが好きなのだ。

 彼らの勝利まで後一歩というギリギリの戦いを制して、悔しさやら自責やらの()()ぜになった歪んだ表情を見るのが好きだ。屈辱感・敗北感、諸々の忸泥たる思いを抱えながらぎこちない笑顔を向けてくれると最高だ。

 徹底的に邪魔してきたボクに行き場のない激情をぶつけようとして、良心のブレーキがかかりくしゃくしゃになって押し黙る顔が好きだ。もちろんブレーキが効かずに罵倒してくれてもいい。負け犬の遠吠えは生きる上でかけがえのない栄養素だ。

 要するに、勝てば全てが得られると言っても過言ではない。

 

 ……とまあ、つくづくスポーツマンシップとは程遠い不純な信条の下にサッカーをやっていたボクなのだが、何が言いたいのかと言うとだ。

 

「――キミらみたいな、負けて当たり前な雑魚の相手するの、大嫌いなんだよねぇ」

 

 サッカーボールを抱えながら積み上がった不良の山に腰掛け、彼らによく聞こえるように語りかけた。

 

「うう……」

 

「痛ぇよぉ……!」

 

 だが、悲しいことにボクの言葉への返答はなく、彼らは誰に向けるでもないうめき声を漏らすだけだった。

 ジャッジスルー食らったくらいで情けない様見せるなよ……あの帝国学園発祥の歴とした必殺技だぞ。そんなに身も心もひ弱でよくサッカーやってるな。

 

 それはさておき。

 先に言った通り、ボクはこういう三下の歪んだ顔なんて見ていても楽しくない。

 相手の実力もわからずに挑みかかり、無残に返り討ちにされて自信を粉々にされた輩の顔は、それはそれで(おもむき)があるとは思うが、ここ一週間で同様のパターンが続き過ぎて流石に見飽きてしまった。

 そろそろ蹂躙の爽快感より、絡まれる面倒臭さの方に天秤が傾く頃合いだ。

 

「――まっ! ボクは今日、たまたま出会ったキミ達に誘われて、一緒に()()()サッカーした“だけ”だから。誤解されないように、以後は人への口の利き方に気をつけなきゃダメだよ。いいね?」

 

「は、はい……」

 

「返事は?」

 

「あ゙い!!」

 

 本当にわかってるのか疑わしくなるようなか細い返事だったので、背中を軽く踏みつけて圧をかけると、若干汚い声だがちゃんと聞こえる返事が届いてきた。

 ボクは優しいのでさっさと開放してあげたいが、この辺の上下関係は体に叩き込んでおかないと馬鹿はすぐ同じことやるからね。仕方ないね。

 

「じゃっ、約束! もう“二度と見ず知らずの人に喧嘩を売らないこと”。わかった?」

 

「わかりました……!」

 

 差し出した小指に、不良の一人は恐る恐るといった様子で自身のそれを絡めてくる。

 ボクは満面の笑みを浮かべてそれに応えた。

 

「ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本飲ーます♪ 指切ったんくろうりいっ!!?」

 

 そして、約束の定番の口上を言い終わろうとしたその時、飛んできたサッカーボールがボクの側頭部にヒットした。

 かなりの勢いがあったボールは頭を思い切り揺さぶり、体がその場にひっくり返る。とても痛い。

 だがボクは知っている。こんなボールを人に向かって容赦なく蹴ることができるのは、一人しか居ない。

 跳ね返ったボールを踏んで押さえた彼女は、髪で隠れている方とは反対の眼から生ゴミを見るような視線を放っていた。

 

 うん。今気づいたが、待ち合わせてた時間をもう二十分も過ぎてる。

 そりゃ怒るわ。

 

「――でもさぁ。ボールでヘッドショットはいくらなんでも、ひどいよ忍ちゃん! お袋にもぶたれたことないのに!」

 

「うっさい。あんたがそんなカスどもとだらだら遊んでんのが悪いんでしょ」

 

 一応行った抗議をとりつく島もなくはね除けたのは小鳥遊(たかなし)(しのぶ)ちゃん。

 ジュニアチームで出会ってからずっと一緒にサッカーをやっている、幼馴染みみたいな子だ。

 

 ボクのような悪趣味な嗜好も持たない彼女にしてみれば、そりゃあこういう連中に付き合うのは本当に時間の無駄でしかない。

 

 これがゲームなら雑魚相手でも最低限の経験値ぐらいは貰えるものだろうが、現実ではそんなもんはない。

 極まった雑魚は、蹂躙してもスカッと爽やか!な爽快感と自己肯定感が多少得られるくらいで、(のち)にためになる経験が手に入ることなんて特にないのだ。

 

 とか考えてる内に、忍ちゃんがそっぽ向いて歩きだしてしまった。

 いかん、拗ねられた。もともと気難しい子だったけど、中学に上がってからキレやすくなっちゃったんだよなぁ……。

 このままお怒り状態の忍ちゃんと、待っている筈の残り二人でサッカーをしたら、ジャッジスルー飛び交い、顔面シュート上等の世紀末サッカーになるのは確実。

 

「ごめんて。ついついはしゃいじゃったんだよ。許して? ねー! 忍ちゃ~~ん!?」

 

 死体(死んでない)の山を駆け下りながら、忍ちゃんの背を追いかけて声をかける。

 彼女は反応すらしてくれないが。うーん冷たい。

 別に世紀末サッカーは嫌いじゃないし、巻き添えになるであろう野郎二人はどうでもいいが、折角忍ちゃんと一緒にサッカーできるのに、彼女が不愉快なのはよろしくない。

 なんとかご機嫌をとらねば……!

 

「そうだ! 最近駅前にできた新しいクレープ屋さん、帰りにあそこ寄ろう! 忍ちゃんの好きなやつ何でも買っちゃうよボク!」

 

 ぴたり。ボクの言葉を聞いた途端、忍ちゃんが急停止した。

 振り返ってこちらを睨みつけてくるが、その瞳には隠しきれない期待が浮かんでいる。

 チョロい。

 ククク…小学校以来の付き合いなんだ。君の好みくらい把握済みよ……!

 

「…………新作三つ。それで今回は許して上げる。次こんなことあったら承知しないからね」

 

「オッケー! じゃあそういうことで」

 

 予想外の三つ要求で財布に思わぬ危機が訪れたが、忍ちゃんがご機嫌直してくれたのでヨシッ!

 今の財布の中身がどの程度だったか確認しながら彼女と歩いていると、ボクらの集合場所である、河川敷のサッカーグラウンドに到着した。

 退屈そうにボールをいじりながら駄弁っている二人の姿が見える。

 

「おーい、たけしー! 比得さーん!」

 

「……ようやくかよ」

 

「随分遅かったんじゃな~い?」

 

 待たされたことへの不満を言葉少なに表明するでかいのは郷院猛。たけしだ。

 もう一人のピエロメイクは比得呂介。比得さんである。

 忍ちゃんとボクが同中なのに対して、二人はそれぞれ学校が違うけど、気が向いた時に声を掛け合って集まり、この河川敷でサッカーをする友人たちだ。

 

「ごめんごめん、なんかまた絡まれちゃってさぁ。なんか最近治安悪くない?」

 

「治安悪いとか絡女チャンが言う?」

 

「お前も中身はあの連中と大差ねえだろ」

 

「なんてこと言うんだ二人とも!」

 

 こいつら……大差がない!? あんな野蛮な猿もどきたちとボクが、大差ないだとぉ!?

 何回か一緒に絡まれてあの連中のことは知ってる筈なのに、心配するどころか同類扱いとはけしからん。

 カラメちゃん(くんでもよし)カワイイしか言えなくしてやろうか。

 

「腐れ具合はアンタの方がヤバイでしょ。馬鹿言ってないでさっさ始めるわよ」

 

「忍ちゃん!?」

 

 口論をしながら、ボールを静かに足下に寄せてこいつらの急所に狙いを定めていたら、隣の忍ちゃんが一番鋭い言葉のナイフを突き刺してきた。何も言い返せない。

 

「じゃ、早速やろっか? とりあえず2対2でもする?」

 

「……そうだね。じゃあまずはボクと忍ちゃん。たけしと比得さんでペアね」

 

「いいんじゃない? ところで、いつも思ってるんだけどなんでオレだけ名字にさん付け――」

 

「食らえジャッジスルー!!」

 

 言い返せなかったので、ジャッジスルーをかましてこのむしゃくしゃを晴らした。

 当然あっちもやり返してきたし、なぜか忍ちゃんもたまにこっちに打ってくるので結局2対2とは名ばかりの、相手の急所をボールで狙う世紀末サッカーとなった。

 

 

 

 

 

「ふー、疲れた。きゅうけーい!」

 

 休みなし、ぶっ続けの一時間の格闘の末、ボクの宣言に口が挟まれることはなかった。

 皆、ぜえぜえという苦しそうな息を返事の代わりに何度も吐き出している。

 仰向けに倒れ込んだ忍ちゃんは、地平線に半分くらい沈んでいる太陽の光に赤く照らされてとても綺麗だ。

 

「はい、忍ちゃんどうぞ~」

 

「ん……」

 

 そして、用意しておいたドリンクを彼女に渡す。

 忍ちゃんはノールックの慣れた手つきで水筒を掴み、上体を起こしてゆっくり飲み始めた。

 それを見て、残る二人も身を起こしてこちらを見つめてくる。

 なんだ。そんなに見つめても、ボクと忍ちゃんの分しか用意してきてないぞ。

 数秒視線を交わらせて、こっちの意図を察したらしい二人がゆっくりと起き上がり、近くにある自販機を目指して歩いていった。

 お前ら、舌打ちしたの聞こえてるぞ。まだ懲りんか。

 

 

 

 ……まあそれはさておきだ。

 一区切り着いたところで、皆に話しておきたいことがある。

 

「ところで話は変わるんだけど。最近さあ、ああいう不良連中やたら増えてきてない? ひどいんだよあいつら。今日だって、ここに来る途中リフティングしながら歩いてただけのボクに突っかかってきてさぁ……問答無用でサッカーバトルに付き合わされたんだよ」

 

「それで遅れたのか……いや、お前ならあの連中瞬殺して来れただろ」

 

「絡んでくる一つ一つは結構別の一団だったりするんだけど、似たような顔に何度も何度も絡まれたらいい加減しつこくて、気晴らしでもしなくちゃやってらんないよ。あーあ、たけしにはわかんないよねー。キミみたいな厳ついのに好き好んで喧嘩売る奴そうそう居ないでしょ。反面、ボクは可愛いから……」

 

「自分で言ってて空しくないのそれ?」

 

「ちっちゃい頃から可愛い可愛いって言われて育ったからねぇ、忍ちゃんの次くらいの自信はあるよ。三人とも褒めてくれないけど」

 

「あー、そういえば。あの制服見たことあったわ」

 

「どしたの比得さん、汗でメイク崩れた?」

 

「崩れるかぁっ! ――じゃなくて、絡女チャンの言う不良のことさ。最近町を彷徨き始めた奴ら、皆同じ制服っしょ?」

 

「そういえばそうかもね。でも、この辺りの制服じゃないよ?」

 

「いやー、オレ覚えてるのよ。こっちに来る前、関東に居たから。多分あいつら……“暴走学園”だわ」

 

「ダサッ」

 

 比得さんの告げた不良たちの正体の、あんまりに単純すぎるネーミングに忍ちゃんが躊躇なく突っ込んだ。

 その名前はボクも聞いたことがある。暴走学園は関東地方に位置する、全国で見ても割と有名な学校だ。広まっているのは、悪名だけど。

 なにせ、あそこは関係者全てが不良だというとんでもない中学校なのである。

 校風は名前の通りで、とても手がつけられないそうだ。

 生徒たちのサボりや喧嘩は当たり前。生徒会長は全校の大乱闘の末に決められるなんて話もある。

 彼らを指導すべき教師たちも大半は凶悪な元ヤンだったり、暴力団の関係者だったりでまともな働きなど期待できる筈もない。

 体罰は当たり前。誰もいない荒れ果てた教室で堂々と酒を飲むのが彼らの日常らしい。

 なんでそんな学校が廃校になっていないのか、どころかフットボールフロンティアに出場できているのか、日本七不思議の一つに数えられているとかいないとか。

 暴走学園は中学サッカー協会とパイプを持っているという噂がまことしやかに囁かれているが……真実は明らかになっていない。

 

 とにかく、連中はとんでもない極悪集団という訳である。

 絡んできた一派の制服の改造が豪快過ぎて頭の中にあった情報と一致しなかったが、以前関東住みだったという比得さんが言うならば確かだろう。

 ただ、そうなると新たな疑問が生まれる。

 

「で、なんでその関東のバカ学校がこんなとこまで来んのよ?」

 

 忍ちゃんの言う通り、いくらなんでもおかし過ぎる。問題ばかり起こすことで界隈では有名な暴走学園だが、列島を横断してまでわざわざ暴れにやってくるなんてまず考えられない。

 ああいう手合いはよく考えずに、とりあえず手近なものに殴りかかるレベルの知性しかないだろう。

 

「修学旅行っていうには、変な時期だしねぇ。ただでさえ、例の宇宙人騒ぎで日本中ピリピリしてるのに」

 

「今のところは、通りすがりの人に因縁つけたり、サッカーバトル仕掛けてきたりって程度だけど、このままパッと帰ることなんてあると思う?」

 

「ねえな」

 

 忍ちゃんの問いに、たけしが端的に答える。彼女も本気で疑問に思っていたわけでもなく、単なる確認に近い。

 時間が、この騒ぎの終息をもたらすことはないだろうというのがボクたちの共通認識だった。

 

「そういえば、暴走学園は他校のサッカー部員にサッカーバトルを吹っ掛けて主力を潰してから、試合を仕掛けるって聞いたことあるよオレ。そんで補欠ばっかりのサッカー部を倒して、その勝利を楯に部室や校舎を落書きしたりなんだりして荒らしていくんだってさ」

 

「俺たち別に“サッカー部”じゃねえけどな」

 

「たけし、話の腰折らない。で……つまり?」

 

要するにあいつら、この辺のどこかの学校にカチコミ仕掛けてくるつもりなのかもね!」

 

 もちろん、ここら一帯全部標的かもしんないけど。

 そう付け加えられた比得さんの結論に、忍ちゃんもたけしも神妙な顔になった。

 もちろんボクも、穏やかじゃ居られない。

 学校を好き勝手荒らされちゃたまったもんじゃないんだから当然だ。

 

「それなら丁度いいじゃない。あいつら、余所から来た癖にでかい面してていい加減目障りだし、纏めて潰して町から蹴り出すわよ」

 

「忍ちゃん怖~。まぁ同感だし、連中を潰すことはそんなに難しくないと思うけど……問題はいつ・どこに来るか、なんだよねぇ」

 

 忍ちゃんの提案に比得さんが賛成しながら、ある問題点を挙げる。

 暴走学園は、悪名こそあれど、純粋なサッカーの実力に関してはある程度のプレイヤーなら難なくぶちのめせるレベルの奴しか居ないと確信できる。

 面倒なのは、奴らの予定などわからず、カチコミしてくるかもしれない学校も複数あることだ。

 

「比得さん。暴走学園のカチコミって、何処かはともかくいつ頃に始まるのかわかる?」

 

「ん? 主力狩りに大体一週間前後くらいかけるから……本番は今から二日後くらいじゃない?」

 

「ふーん……」

 

 比得さんの教えてくれた暴走学園の襲撃の傾向で、ボクには確信ができた。

 

「じゃあ二日後くらいにうちの閑陀田(かんだた)中にあいつらが来ると思うから、たけしと比得さんはその日学校サボってこっち来てくれる?」

 

「「はぁ?」」

 

 当然ながら三人とも、お前は何を言っているんだと言わんばかりの視線をこっちに向けてきた。

 しかし、これは当てずっぽうの勘じゃない。一応ボクにも根拠はある。

 

 

 

 今ボクの脳裏にあったのは、最近妙な勧誘をしてきたモヒカン野郎の姿だった。

 

 

 




羽取絡女
主人公。愛媛県の閑陀田中二年生。
可愛いサッカー美少年。名前に“女”とあるが男である。
勝負して負かした相手の悔しがる様子を眺めるのが大好き。
その性根を前面に出すと周りがうるさくて面倒なので、表面上はスポーツマンシップを気にしたり、人が良さそうに振る舞っている。
人にジャッジスルーを放つことには何の躊躇いもない。
幼馴染みの忍にベタぼれ。

小鳥遊忍
少々気の強いサッカー少女。小学校時代は絡女と一緒のジュニアサッカーチームで、愛媛最強コンビとして有名だった。
小学校二年生くらいからの結構長い付き合いだが、絡女がたまにうざい。

比得呂介
今は別の中学だが、ジュニア時代の絡女たちのチームメイト。
比得さん。

郷院猛
比得と同じく、ジュニア時代の絡女たちのチームメイト。
違う中学ながら絡女たちとは今でもよく集まってサッカーをしている。
たけし。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。