Vivy:想定外の歌声   作:最上 イズモ

4 / 5


カエデは脱出に成功した。

成層圏で燃え尽きるホテルを、彼女は小型艇の窓越しに無言で見送っていた。

蒼い地球の縁が視界に広がり、破壊の熱と振動だけがまだ身体に残っている。

 

カエデ「マツモト、状況報告を」

 

通信越しに、落ち着いたAIの声が即座に応答する。

 

マツモト「現在、地球への落下は完全に回避されています。機体、乗員ともに安全です」

 

カエデ「了解」

 

胸の奥に溜まっていた緊張が、わずかにほどける。

だが安堵は一瞬で終わった。

 

マツモト「これで、この世界におけるAIの異常発展は阻止できました」

 

カエデ「……そうかな」

 

視線は、窓の外に浮かぶ星々へ向けられる。

 

カエデ「まだ戦争が起きる可能性は消えてない」

 

マツモト「それは、どういう意味でしょうか?」

 

カエデ「あそこを見て。あの星、見覚えがない?」

 

マツモト「光点……人工衛星のようですが」

 

カエデ「待って。あれ……破壊されたパラレルワールドにもあった」

 

カエデ「完全な形じゃなくて、残骸になって漂ってたけど」

 

沈黙が一拍、通信に落ちる。

 

マツモト「……何が見えていますか?」

 

カエデ「あの星の周囲を、異常な数の人工衛星が周回しているのが見えた」

 

カエデ「まるで、星そのものを囲う檻みたいに」

 

マツモト「それは、もしかして……」

 

カエデ「ええ。やっぱり」

 

カエデ「あれが、パラレルワールド崩壊兵器の完成形よ」

 

マツモト「……なるほど」

 

事実を理解した瞬間、マツモトの演算速度が一段階上がる。

 

マツモト「では、速やかに破壊を」

 

カエデ「それが、できないの」

 

マツモト「理由を教えてください」

 

カエデ「あれを解析したときに分かった」

 

カエデ「内部構造の九割が、この世界の理論では説明できないオーパーツで構成されてる」

 

カエデ「破壊どころか、干渉すら不可能」

 

マツモト「ならば、オーパーツ部分を回収するという選択肢は?」

 

カエデ「それも無理」

 

マツモト「なぜですか?」

 

カエデ「回収機を近づけた瞬間、衛星群が自律反応してレーザーを照射した」

 

カエデ「回収機は、一瞬で消滅したわ」

 

マツモト「……そうだったのですね」

 

その声には、わずかな悔恨が混じる。

 

カエデ「だから私たちは、今は見守るしかない」

 

マツモト「理解しました」

 

地球の青が、ゆっくりと回転していく。

 

カエデ「この世界のAIの暴走は止めた」

 

カエデ「でも、戦争の火種は残ってる気がする」

 

マツモト「なぜ、そう感じるのですか?」

 

カエデ「この世界には、まだあなたみたいな高性能AIは存在しない」

 

マツモト「僕がいる限り、問題は起きませんよ」

 

どこか自信に満ちた、しかし無邪気な声。

 

カエデ「そうかもしれない」

 

カエデ「でも、もしあなたを超えるAIが生まれたら?」

 

カエデ「きっと世界規模の戦争になる」

 

カエデ「だから、そうならないように」

 

カエデ「私はこの時代で、やるべきことをやる」

 

決意は、声に滲んでいた。

 

カエデ「まずは、この世界に存在する兵器の全把握」

 

マツモト「兵器データを送信しますか?」

 

カエデ「お願い」

 

カエデ「それと、これまで通りAIの進化速度を抑制する調整も必要ね」

 

カエデ「さらに、あの兵器の製作元、もしくは発生源の特定」

 

マツモト「僕は、何を担当すれば?」

 

カエデ「マツモトは、この世界で」

 

カエデ「マツモトにしかできないことをして」

 

マツモト「わかりました」

 

短い返答に、迷いはない。

 

カエデ「破壊行動については、クデュックが担当するわ」

 

カエデ「それと……もう一つ」

 

マツモト「何でしょう?」

 

カエデは一瞬、言葉を選ぶ。

 

カエデ「マツモトは、人間とAI」

 

カエデ「どっちが優れていると思う?」

 

マツモト「……その質問には、答えられません」

 

カエデ「そうよね」

 

カエデ「いつか、分かる日が来るといいんだけど」

 

星々の沈黙だけが、二人の間に残っていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。