「お姉ちゃんとお月見をするのって子どもの頃以来だよね」
「そうね。またこうやって大好きしぃちゃんとお月見ができるなんて、とても嬉しいわ」
そういうと、お姉ちゃんはいつものようにべったりとひっついてきた。いつもなら引き剥がそうとするところではあるけど、今日だけは静かに受け入れる。お姉ちゃんが私に甘えるのは、私を甘やかそうとしてのことだから。私がお姉ちゃんに支えられていたように、お姉ちゃんの支えになれていたことを知ったから。
さっきまであれほど賑やかだった縁側も、モアモアジャンプのみんなが帰って、気が付けば静かな夜に二人きり。たくさんあったお盆の上のお団子も、人形のような可愛らしい二羽の姉妹うさぎだけが残っていた。ただ姉妹で支えあうようにお互いにもたれかかる。
夜空のうさぎは餅をついていた。
そんな穏やか時間がいくらか過ぎ去るなか、志歩はふと疑問に思った。
「そういえばなんだけどさ、十五夜の月を見たうさぎが月に向かって跳ねる童謡があるでしょ」
「なに見て跳ねるってお歌でしょう?」
「あのうさぎって、結局どうして跳ねていたんだろう。遠い月の輝きに魅せられたのかな?それとも他に理由があったのかな?」
直接本人に聞けたらいいだけどね。志歩はそう冗談めかして言った。言ったあと、自嘲的に笑った。いまの発言はなんだかメルヘンチックであまりにも普段の自分らしくない。月明かりと夜の空気にあてられて、なんだか調子が狂っているのかもしれない。
「なら、そのうさぎに聞いてみればいいじゃない」
だから、宇宙旅行にパスポートは必要だったかしら。なんて真面目な顔を言っている姉もきっとそのせいで調子を狂わせて変な冗談を言っているだけに違いない。
「はい、しぃちゃんのパスポートはこれね」
そう、きっと冗談。
「せーの、モアモア~、ジャンプ!」
「え、なに、ここはどこ……」
気づけば、知らない場所に来ていた。周囲を見渡せば、あたり一面にはなにもない白い大地が広がっている。
「どこって、月よ。ほら、私たちにとっておなじみの地球も見えるでしょう」
そう言われて指し示された方向を向くと、上空には巨大な青い星が浮かんでいた。それは確かに地球儀でみる地球そのものだった。確かに地球だが、『おなじみ』のなんて言葉では片づけられないほどの大きさだった。そのあまりの巨大さに困惑を通り越して圧倒された。よく天文学者が、宇宙の壮大さに比べたら自分なんてちっぽけになるなんていう言葉をよく使う。まさにそれだ。だから、いま足元から聞こえてくる声についても、諦めることにした。
「あっ、志歩!」「志歩ちゃんだ~」「志歩ちゃん、こんにちは」「……お団子、食べる?」
可愛らしい四羽のうさぎたちがやってきていることに。
そういえば、お姉ちゃんは直接うさぎに聞いてみようって言われたんだっけ。なぜうさぎは月に向かって跳ねたのか。その理由を聞きにきたんだ。
「どうして君たちは月に向かって跳ねたの?」
すると、うさぎたちのなかでも、とびきり元気な子が教えてくれた。
「あのねあのね!あの子がね!月が綺麗だ~って教えてくれてね!それでね!わたしたちも行きたい~!ってなったんだ!!」
なるほど。つまり、あのすこし遠くにいる子が最初に月に行きたいと言ったわけか。
つまり、この子たちは月に魅せられたんだ。魅せられて、月に行きたいと跳ね続け、念願叶って月へと辿り着いたんだ。
けれども、黒色の毛の子と茶色の毛の子はなぜだか違う気がした。違うと思ったのは直感だ。でも、たぶん違う。そう思った。
「きみたちも月に憧れて?」
「うん。私もあの子から月の綺麗さを教えてもらって、それで行ってみたいなって思ったんだ。その想いがあったから、ここまできたんだ。でもね、一番の理由は違うの」
「違う?」
「一緒に居たかったから。月に行っちゃう大切な友達と」
きみたちも一緒なんだね。私たちと。
「なんだか会いたくなってきちゃったな」
ーー私の大切な友達に。
「はっ!……夢か」
気がつけば、私は地球へと戻っていた。
となりをみれば、お姉ちゃんがスヤスヤと寝息をたてている。
東の空がぼんやりと白く染まってきていた。
「さて、朝練いきますか」
私はいつもより早くuntitledを起動した。
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