だから、真姫はずっと寂しさを知らなかった。真姫にとって両親がすべてだった。たまに祖父も顔を出しては真姫を可愛がってくれた。
しかし、小学校に上がると真姫を取り巻く環境は一気に変わった。これまで、関わって来なかった外の世界。家族以外の人との関係性は真姫とっては未知のものだった。
一見すると、真姫はクラスというコミュニティーに受け入れられているように見えた。低学年の頃はまだ純粋な賞賛だった。しかし、中学年、高学年と進むにつれて真姫は知っていった。
西木野真姫は特別な存在だということに――。
クラスの中に友達だと思っていた子は沢山いた。仲良く会話もした。しかし、よくよく考えてみれば真姫は誰かの家に遊びに行ったことも、友達が遊びに来たこともなかった。
真姫の願いは概ね叶えられた。クラスでトラブルに巻き込まれても、必ず、大人も含め真姫の味方だった。
だから、真姫に敵はいなかった。そして、同時に味方もいなかった。
ずっと、真姫は一人だった。周りの人間が真姫の周りにいるのは、自分自身を守るため。強い者のそばにいれば安全でいられるからにすぎない。
本当の意味で真姫自身の味方など一人としていなかった。
成績上位を取って褒められても。ピアノのコンクールで入賞しても。どれだけみんなに褒められて賞賛を受けたとしても。
真姫にはそれが、とても薄っぺらく聞こえていた。気持ちのない言葉は、雑音と一緒だった。まるでロボットが喋っているかのようだった。
いつしか真姫は雑音を身を守るために内側に籠ることにした。イヤホンを耳にいれて、好きな曲を聴く。そうして、人気のない場所か、自分の席で俯いていれば誰も話しかけて来なかった。
それでも、全ての雑音は消えなかった。自らの内側にある雑音だけは、イヤホンをしても消せなかった。
真姫はずっと一人だった。
今日までは……。
もしかしたら、とは思う。内側にあるノイズはいまだに消えてはいない。
だけど真姫はそれでも、とも思っていた。
他人とのつながりに飢えていた真姫にとって、穂乃果の存在は貴重だった。飢えた獣の目の前に餌をチラつかせて我慢などできようはずもなく、真姫は盲目的にそれを求めていた。
真姫は変わり果てた世界を見つめながら考えた。
バーテックスが出現した以上、勇者として対処しなければならない。見たところ他の勇者が対応に向かった様子もない。
「私は少し周りの様子を見てくるから、穂乃果はここにいなさい」
真姫は努めて平静に穂乃果に告げた。ここに一人にしてしまうのは忍びないが、勇者であることは絶対の機密事項であるし、出来れば穏便な方法で穂乃果と別れられればそれに越したことはない。
「やだよぉ一人にしないでよ、真姫ちゃん」
泣きそうな顔で懇願する穂乃果を見て、真姫はそっと穂乃果の方へと歩み寄った。
一人ぼっち寂しさを真姫は痛いほど知っている。気は進まなかったが、眠っていた方がきっと辛くはないだろう。
真姫はそのまま穂乃果をそっと抱きしめると耳元で「ごめんなさい」囁いて、意識を奪おうと拳に力を込めた。
その瞬間、真姫は窓の外に青く輝く勇者の姿が見えて、ほっと拳に込めた力を抜いた。
ルールに従えば、あの勇者が対応している間は真姫は手を出すことができない。真姫らすれば、全くもって必要のないルールだが、今だけはありがたいと思えた。
「ま、真姫ちゃん……けっこう……ダイ、タンだね?」
「あっ……」
抱きしめたままだったことを思い出して、真姫は顔を真っ赤に染め上げた。